恐らく人生で使いこなせる語彙の基礎というのは、そのほとんどが子供時代に決定されてしまうのだろうと想像する。大人になり多くの本を読もうとも、基本的に思考の地盤となる語彙はやはり子供時代にその言葉に接していたかどうかにかかってくる。
自分にも子供ができ、ある程度の年齢になった時に、重厚な一冊の辞書を買い与え、その中に詰まっているものの意味を教え、そしてある時期に集中し、あ行だけだけならあ行だけの語彙を追っかけるだけの時間を与えてあげたいと思わせてくれる一冊。
どんな言葉を発するかは、どれだけ知っている言葉があるかによる訳だから、その元となる土壌は広く、そして深いに越した事は無い。そうして人類の歴史の中で養われた言葉達を収穫していく喜び、そしてそういうことを可能にする大量の時間がある時期が如何に貴重なものかということを教え、その楽しさを共有してあげれば、きっと言葉の豊かな人生を送ってくれる事だろうと想像する。
そんなことを思わせてくれる一作。2012年本屋大賞で第1位に輝いた三浦しをんの同名小説の映画化作品。出版社の辞書編集部で「大渡海(だいとかい)」という膨大な辞書の変遷に携わる人々を描いた物語。
消費の波に浮かんでは消えていく悲しき読み物ではなく、それらの言葉の海のうえを漂っていく舟である辞書を、何十年と言う長いスパンをもって作り上げていく人々の、現代社会の中ではスローモーションに見えるような、一年や四半期で追い詰められない時間の捉え方。
ある意味非常に贅沢な時間でもあるし、それほど長い年月をかけて一つの事に取り組むことは、時間に追い立てられる現代の建築業界の真っ只中で日常を生きている身にとってはなんとも羨ましく思わずにいられない。
松田龍平の熱演も手伝って、これから書店で辞書を前にしたら、その後ろで流れが長い時間に思いを馳せる事になり、開いたページで出合う言葉に様々な空想を広げる事になるのだろうと思う。
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スタッフ
監督 石井裕也
プロデューサー 土井智生
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キャスト
松田龍平 馬締光也
宮崎あおい 林香具矢
オダギリジョー 西岡正志
黒木華 岸辺みどり
渡辺美佐子 タケ
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作品データ
製作年 2013年
製作国 日本
配給 松竹、アスミック・エース
上映時間133分
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