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2021年11月3日水曜日

Studio Dwelling at Rajagiriya ラジャギリヤのスタジオ兼自邸_ Palinda Kannangara パリンダ・カンナンガラ_ 2015 ★★★★★

Palinda Kannangara パリンダ・カンナンガラ

自邸をテーマに巡ってきたが、そんな中でも鮮明に記憶に残っているのが、以前このブログでも紹介した、現代のスリランカ建築界を牽引するパリンダ・カンナンガラ(Palinda Kannangara)の自宅兼スタジオであろう。
 
コロンボから30分ほどの場所で、 新首都のスリ・ジャヤワルダナプラ・コッテに近い郊外に位置し、北側には川沿いの湿地が広がり、夏には蛍も見られるという自然が豊かに残るエリアに、安い時に土地を購入し、お金が入るたびに建設を続けながら、長い年月をかけて少しづつ住みながら完成させたという建築。
 
2019年のスリランカ建築学会の国際会議に、パリンダさんの紹介にて講演をさせてもらうなどの縁もあり、ちょうど滞在中にあたった妻の誕生日をお祝いさせてほしいと、風通しの良い4階のテラスで手料理を笑顔で振舞ってくれる彼の姿は、自然との境目をほとんど感じないおおらかな彼の建築そのものだと感じた。
 
 深夜を回る頃、明日にでも近くにある釈迦が訪れたと言われる仏教寺院のマハー・ラジャ・ヴィハーラを訪れる予定だというと、「それなら今から一緒に行こう」と、深夜の暗い道を愛車で飛ばし、教えられるままに靴を脱ぎ、裸足で境内に到着すると、深夜にも関わらず沐浴をする多くの人々の姿に、日常の中に溶け込むこの国の宗教の息遣いを感じた気がする。
 
「自分が実感を持てる範囲でしか仕事はしない」ということで、スリランカと南部インドでだけ、設計活動を展開するパリンダ氏だが、ジェフリー・バワの作り上げたスリランカ独特の建築の在り方をしっかりと現代において受け継ぎ、そして発展させる素晴らしい建築の数々は、ぜひ日本でもより多くの人の目に届く機会があればと切に願う。



2019年10月13日日曜日

季節の風物詩 一級建築士試験2019 設計製図 「美術館の分館」

今年もそろそろ冬が近づいてきたなと思っていたら、またまた過ぎてしまった一級建築士製図試験。新たね元号で迎える第一回目の製図試験だなと、国はこの新しい時代にどんな建築の在り方、社会の在り方を問うてくるのかと、サイトを巡って調べてみると、今年はなんと「美術館の分館」。

H23 2011「介護老人保健施設」
H24 2012「地域図書館」

H25 2013「大学のセミナーハウス」
H26 2014「温浴施設のある道の駅」
H27 2015「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」
H28 2016「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」
H29 2017「小規模なリゾートホテル」
H30 2018「健康づくりのためのスポーツ施設」

令和元年 2019 「美術館の分館」

ストック型社会に入った日本では、新しい公共施設を建てる時代はとっくに終えて、20-30年たった既存の施設を改修しつつ、社会変化に伴って分館を付随されることで対応していく。なんとも、国交省もよく考えてなと思わずにいられない課題である。

合格者発表を12月に控えているために、 建築技術教育普及センターホームページではまた解答例が掲載されておらず、どこか他で解答例の図面を探そうとするが、無料で公開されているところは見つからず、これも時代だなと思いながら課題文を読み込みながら、普段から美術館の設計に関わることも多いので、解答例がアップされることに再度チェックしなければと思いながら、久しぶりに展覧会にでも足を運ぼうかと想いを巡らせる。

2019年8月24日土曜日

「線は、僕を描く」砥上裕將 ★★

週末に書の稽古に通うようになった為か、新聞の書評で紹介されていた時に同じ墨の文化として気になっていた一冊。

先日札幌に出張に出かけた際に、せっかくだからと北海道大学のキャンパスの雰囲気を見に行こうと夜の散歩に出かけ、正門前でとても良い雰囲気を出していた古本屋に吸い込まれるようにして立ち寄ったら、ちょうど棚にこの本を見つける。きっと多感な年頃の大学生が買って、売りに出したのだろうと想像しながら、何かの縁だと購入してみる。

心に傷を負い自分の世界に閉じこもっていた大学生が、ひょんなきっかけで出会った水墨画を通し、水墨の世界の大家と呼ばれる先生や同年代の絵師など、様々な人との交流を経て、徐々に水墨画の魅力にとりこまれ、そして周りの世界との関りを取り戻していく物語。


墨を磨り、筆を浸して白紙に描く。どれだけイメージをしても、どうしても思うように書くことは叶わず、次の白紙に向かうことになる。何百年前にも同じように、この文字を悔しい思いをしながら書き続けていた人がいたのだろうと、邪な想像を膨らませると、また文字のバランスを崩してしまい、また白紙を重ねることになる。
そんな墨と筆が与えてくれる書の時間は、詰まるところ、自分自身と向き合う時間なのだと徐々に気づき始めた時に出会う、また別の墨の世界の物語。大学前の古本屋に並んでいたのにふさわしく、とても爽やかな読み心地をもたらしてくれたために、読み終えた後の最初の書の稽古にて、先生に紹介すると、ぜひとも読んでみたいとおっしゃっていただいた。

毎週末、学ぶものとして足を運べる場所があるということ。「日日是好日」 のお茶のお稽古の世界の様に、先生がいて、共に学ぶ人がいる。長い道のりの学びではあるけれど、季節の移ろいを感じながら、去年より少しだけ前に進んだ自分を感じられながら進む人生は、やはり日本人に合っているのだろうと思いながら、今週末に書く文字に思いを馳せる。

砥上裕將 

2019年1月1日火曜日

Studio Dwelling at Rajagiriya_パリンダ・カンナンガラ(Palinda Kannangara)_2015 ★ ★ ★ ★ ★


今回、思い切ってスリランカまで足を伸ばそうと思った理由は二つあった。一つはジェフリー・バワ(Geoffrey Bawa)の建築を実際に観て体験すること。そしてもう一つは2018年のRIBAアワードを受賞したスリランカの建築家パリンダ・カンナンガラ(Palinda Kannangara) さんのオフィスを訪れること。

How I Live  Sri Lankan architect Palinda Kannangara

RIBA Award for International Excellence 2018
スリランカの現代建築を調べているうちに、とても質の高い住宅の作品が多くあるのを知ったが、その中でも特に内部と外部がうまい具合に接合し、とても心地よさそうな空間で微笑んでいるパリンダさんの写真が気になり、思い切ってオフィスにコンタクトを取ってみると、快く訪問を受け入れてくれた。

スリランカは正月が4月になり、年末年始といえども通常通りとはいえども、まさか1月1日を指定されるとはなんとも驚いたが、その日のアポイントから逆算し旅程を立てて、スリランカを反時計回りに巡り、大晦日にコロンボに戻ってきた。そして元旦の午前中にバワのNumber 11を訪問し、午後にパリンダさんのオフィスを訪れるという、なんとも建築色の強い一年の始まりとなった。

コロンボから東に向かい、小さい頃その特色のある響きのために何度も友達と言い合ったスリジャヤワルダナプラコッテに入る手前に位置するラジャギリヤ (Rajagiriya)。分かりづらいだろうからと、オフィスの若いスタッフの子とやり取りをして、近くの交差点で合流する。

バラックのような商店が道沿いにならび、緑の生い茂った中にポツポツと住宅が立ち並ぶ風景のなか、少し脇道に入ってしばらく進むと、それらしき建物が右手に見えてくる。非常にシンプルなコンクリートのフレームに日焼レンガを嵌め込んだファサードの下には、ピロティを利用した駐車場が敷地の反対側に広がる湿地帯からの風を運んでくれる。

駐車場脇の扉を抜けると右手にこちらも風の抜ける大きな階段が広がり、上りきると切り取られた湿地の風景が待ち受けてくれる。脇に置かれたベンチに座り、靴を脱いでガラスの扉を抜けると、巨大なアコーディオンタイプのガラスサッシを左手にもった、とても気持ちの良い吹き抜け空間。そこで、髭に覆われた大きな笑顔で迎えてくれるパリンダさん。簡単な挨拶を終えると、すぐにオフィスを案内してくれる。二階はオフィスとして使用していて、数名のスタッフが進行中のプロジェクトの設計を行っているという。3階から上は自宅で、仕事の間は上にいて、時折下に降りてきては打ち合わせや指示をしているという。

3階の寝室も両開きの大きな窓が湿地に向けられ気持ちのよい風が抜けていく。南のレンガのスクリーンの後ろも吹き抜けになっており、ここから風が上に抜けるようになっているようだ。

4階は南北に狭い空間が、3枚引きのガラス戸で翠いっぱいのテラスにつながっており、自然の中のパヴィリオンといった雰囲気。風も虫も流れて、自然に溶け出すようなとても心地よい空間。真ん中に置かれた大きなアイランドキッチンで甘いお菓子とお茶を用意してくれ、あるアーティストの家のために作ったというソファーテーブルの周りに座りながら様々な話を聞かせてくれる。音楽好きだというので、あちこちに組み込まれたスピーカーから流れる音楽もまた、外の自然の中に消えていくような気がする。

裸足のままテラスに降りて、湿地に広がる自然を眺めながら、この国の状況やバワを経て現在のスリランカの建築事情など話をしている中でとても印象的だったのが、「自分は自分の手の届く範囲で仕事がしたい。だからスリランカと南インドでプロジェクトをするだけにしている。その方が自分が幸せに仕事をできるから」というパリンダさんの言葉。

この住宅兼スタジオも、土地を購入してから、資金がなかったのでなかなか建設ができなかったが、お金が入っては進めてと時間をかけながら建てたんだと教えてくれ、裸足であちこちを動き回る姿そのもので、とても地に足の着いた建築家との印象を受ける。

気が付けば数時間が経過しており、元旦の日の快く受け入れて得くれたことに感謝を伝え、妻と二人、とても強い幸福感に包まれながらコロンボへの帰路に就く。建築とはどうあるべきか。自分が信じていることが設計にどう反映されるのか。人生の多くを過ごす場所がどうあるべきか。いろんなことを考える貴重なきっかけになる、そんな重要な訪問であったと、今後の人生で何度も思いなおすことになるだろうと思いながら。














2018年10月14日日曜日

季節の風物詩 一級建築士試験2018 設計製図 「健康づくりのためのスポーツ施設」

あっという間に一年が巡ってきてしまうと実感するのが、この秋の風物詩。
今年は何かというと、 「健康づくりのためのスポーツ施設」。2020東京オリンピックに向けて、国をあげてのスポーツ政策に見事にのった課題である。

H23 2011「介護老人保健施設」
H24 2012「地域図書館」
H25 2013「大学のセミナーハウス」
H26 2014「温浴施設のある道の駅」
H27 2015「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」
H28 2016「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」
H29 2017「小規模なリゾートホテル」
H30 2018「健康づくりのためのスポーツ施設」

戸建てが立ち並ぶ住宅地、その中に廃校をなった小学校。老朽化し、解体された屋外プールの跡地に、全天候型のスポーツ施設を建設し、高齢化が進む地域の健康維持に役立ち、更に地域の世代間交流の拠点として期待される、市長肝いりのプロジェクトという感じで、縮小社会に突入し、超高齢化社会になり、社会保障費の高騰の問題を、なんとか健康寿命を高めることで手助け出来ないかと、官僚の鳴き声が透けてきそうな課題文を読むことになる・・・・

課題文と解答例を見ていると、恐らく過去数年の課題の中でも、設計として一番難しいのでは思わざるを得ない。 天井高の異なり、無柱空間となる 多目的スポーツ室と温水プール室をどこに配置するかで全体の骨格が決まり、それに付随した更衣室やシャワー室への動線。それとともにスポーツ施設ならではの、上下足ラインの切り替え、さらに地域への振動及び騒音対策など、口うるさい近隣住民のクレームが電話が耳の奥で聴こえてきそうな気がしながら、建物周辺に植えられた植栽の意味を理解する・・・

2017年10月8日日曜日

季節の風物詩 一級建築士試験2017 設計製図「小規模なリゾートホテル」


これだけはチェックしようと、カレンダーに予定としていれている季節の風物詩。毎年、国が見据える現在と未来の姿から導かれ、建築家として社会に関わるために、どのような理解が必要だとつきつけられるような製図試験の課題。

H23 2011「介護老人保健施設」
H24 2012「地域図書館」
H25 2013「大学のセミナーハウス」
H26 2014「温浴施設のある道の駅」
H27 2015「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」
H28 2016「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」

高齢化社会、地方創生、生涯教育、地域拠点、コンパクトシティ、子育て支援と国の政策に歩調を合わせるようにして出題されてきたこの数年の設計課題であったが、今年は

H29 2017「小規模なリゾートホテル」

ということで、年間訪日者3000万人を超え、国の収益において大きな割合を占めるようになった「インバウンド」が今年のターゲットということか。

解答例などを見てみると「傾斜地に」という条件と、車寄せなどの全面動線を考慮し、 客室 の配置から全体の計画がざっくり決まってくるという感じのようである。客室14室程度のホテルだと、かなりの高級感を感じそうな気がするが、来年はこの規模に絞り、宿を探して尋ねるのもいいかなと思いながら今年の試験を総括する。

2017年8月8日火曜日

「沖縄の歴史と文化」 外間守善 1986 ★★


プロジェクトがきっかけで、今までまったく縁の無かった場所に関わることができることは建築というものを生業にしているものとしての喜びであると同時に、その土地の歴史や文化、そして現在の人々の生活を少しでも理解することが、少しでも場所に根付く建築を作るための基礎であり、建築家としての責任でもあるだろう。

そういう訳で縁ができそうな沖縄の地。米軍基地や観光地としての側面だけではなく、日本の最南端として独特の文化を培ってきたその歴史を文化を少しでも基礎知識として持っておくために何冊か手にとった中の一冊。

様々な場所の地名として残るグスクの意味や、琉球王国時代と明などの周辺諸国との関係、そして薩摩藩による侵攻と江戸幕府による取り込み政策、戦場となった近代と、戦後における統治時代と本土返還後。

本土における日本史という教育ではまったく捉えきれないその歴史は、やはり馴染みの無い言葉が多く、改めて日本人として知っておくべき事なのだと思わされる。

オモロや御嶽(ウタキ)など、信仰や世界観などもその起源や流れを説明し、如何に日本の中でも独特の文化を形成してきたのか、そして現在にどう残されているのかというのが見て取れると同時に、このような土地に染み付いた文化というのは、融合政策によって簡単に消し去られるものではなく、また多中心に移りつつある現代においてこそ、じっくりと見つけなおし、伝承していくことが大切なのだろうと思わされる。

ぜひともこの知識を元に、次回はより深く、沖縄の辿ってきた時間や歴史を感じられるような場所に足を運び、現地の人の話を聞くことができればと思わずにいられない。

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目次
序章 太平洋文化圏の中の沖縄
沖縄文化のマクロ的視野
従来の沖縄文化系統論

第一章 沖縄歴史のあゆみ
1.先史沖縄
 旧石器時代
 新石器時代(貝塚時代)
 グスク時代(前半)

2.古琉球
 グスク時代(後半)
 第一尚氏時代

3.海外交易の発展
 明
 南方
 日本
 朝鮮
 16c以降の貿易の衰退

4.近世琉球
 ・第二尚氏時代(後期)

5.近代沖縄
 琉球処分(明治12年)
 奈良原県政
 そてつ地獄(大正末~昭和初め)
 沖縄戦

6.戦後沖縄
 米軍統治時代

第二章 沖縄の言語と文化
1.日本語の中の沖縄語
 沖縄語の歴史
 沖縄語の特徴的音韻変化

2.沖縄文学の全体像
 古代文学
 近代文学
 古代文学の分類

3.オモロとウタの世界
 オモロ
 琉歌(ウタ)

4.神観念と世界観
 創世神話
 『おもろさうし』にみる神観念と世界観
   (1)ニライ・カナイ
   (2)アマミヤ・シネリヤ
   (3)オボツ・カグラ
 祭祀と年中行事
   (1)御嶽
   (2)年中行事
 各地の祭り
   (1)シヌグ
   (2)ウンジャミ
   (3)イザイホー
   (4)祖神祭り
   (5)プーリィ(豊年祭)
   (6)アカマタ・クロマタ
 民俗芸能
   (1)ウスデーク
   (2)エイサー
   (3)クイチャー
   (4)巻踊
   (5)アンガマ
   (6)京太郎

5.宮廷芸能
 古典音楽
 古典舞踊
 古典劇(組踊)

6.沖縄の美とかたち
 美学
 美術

第三章 神歌にみる宮古・八重山の歴史
1.宮古島の歴史と英雄たち
 開闢伝説
 先史時代~古代
 宮古の英雄たち
 14c末~15cの宮古と八重山
 王府の宮古支配と人頭税

2.八重山の歴史と英雄たち
 創世の説話~先史時代
 八重山の英雄たち
 八重山統治と人頭税
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外間守善

2016年10月27日木曜日

Lucas Museum Proposals for Los Angeles and San Francisco

長らく進めてきたシカゴでのジョージ・ルーカス美術館の計画が敷地の変更を迫られ、その後様々な友人からも「どうなっているの?」と聞かれてもなかなか応えることができなかったが、その間に進めていた別の都市での計画がやっと日の目を見ることになった。

といっても最終的にどこに立つのかはまだ未定であるが、二つの候補に絞りながら、サンフランシスコとロサンジェルスの敷地にて同時に二つの案の設計を進めている状況である。


当然のように敷地が変われば、様々な条件も変わり、一品モノである建築はほぼ一から設計を練り直さなければいけなくなり、それが二つともなれば、相当なエネルギーと時間を費やしてプロジェクトが進められることになる。

そのために、こうしてデザインの進行状況を世間の人々に見てもらえるということは、ここまでプロジェクトが進行してきたことの大きな通過点であり、と同時に様々な意見を聞くとても良い機会になることと祈りながら、実現までにまだまだ長い道のりを何とか完走するようにと気を引き締めることにする。

2016年10月17日月曜日

パリの顔

パリといえばエッフェル塔。そのエッフェル塔も建設当時は多くの市民から批判の声を浴びた。しかし長い時を経て今ではすっかりパリの顔をなっている。

パリは塔の少ない、平べったい都市である。その為に少し高い場所に上ると北からモンマルトルの丘にそびえるサクレクール聖堂から市の中心部に位置するサン・トゥスタッシュ教会。そして遠くには凱旋門の遥かかなたにラ・デファンスの高層ビル群が見えて、視線を南に振っていくとスクッと立つエッフェル塔。更に視線をすすめると、パリの街並みとは相容れない黒い高層ビルが見えてくる。

これがパリの南、モンパルナス地区の顔となっているモンパルナスタワー(Tour Montparnasse)であり、現在フランスでもっとも背の高い建物(210m)であり、建設された1972年にパリの街並みにふさわしくないと激しい景観論争を巻き起こしたことで有名となった建物であり、この建物以降パリ市内では高層ビルが建てられない条例が制定され、皮肉なことにこのモンパルナスタワーの最上部にある展望デッキからの眺めが、このモンパルナスタワーを視界に捉えることなくパリを一望できるからということで、パリでもっとも美しい夜景スポットとして知られるようになったという曰くつきの建物である。

そんなタワーもすでに40年の試用期間を過ぎ、アスベストの問題や様々な面において現在の社会要請に見合わなくなり、長く取り壊して新しく建てるか、それとも大規模の改修をするかの議論が交わされてきたが、この度その改修の為に大々的な国際コンペが行われることになり、世界中から多くの応募があった中で、MAD Architectsも参加設計事務所の一つとして選ばれた。


パリという都市だけでなく、エッフェル塔がそうであったように、パリに住まう人々にとって大変重要な意味を持つこの建物をどう更新していくかもさることながら、こうして社会劣化を起こした高層ビルがどのようにして新しい活力を取り戻していくことが出来るか。これもこれからの社会全体が向き合う大きな問題になることは間違いないので、このコンペをきっかけにパリの都市を深く理解することと共に、新しい高層ビルの更新のあり方について深く学んでいければと思わずにいられない。

2016年10月9日日曜日

季節の風物詩 一級建築士試験2016 設計製図 「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」

秋が深まるとやってくるこの季節。昨年は高齢者、そして今年は子育て世代。年末のHNKスペシャル並に世相を感じることができる風物詩。

H23 2011「介護老人保健施設」
H24 2012「地域図書館」
H25 2013「大学のセミナーハウス」
H26 2014「温浴施設のある道の駅」
H27 2015「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」
H28 2016「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」

中核都市の市街地で、公立の小学校か公園に隣接する敷地に、子どもの健全な育成にふさわしい子育て支援センター。 保育所、児童館、子育て支援施設を併設するというから、乳幼児のためのほふく室から食事を出すための調理室、天井高を高めにするプレイルームまで考慮して設計をしなければいけないから、かなり難易度の高い課題であるが、これから十数年はこの様な建築が必要になってくることは間違いないであろう。

解答例を見てみると、屋外遊技場との関係で保育室関係は一階で決まりで、天井高の高いプレイルームとそれに併設して屋上庭園の配置からほぼ全体の計画が決まってきそうな感じであろうか。設計していた保育施設併設の語学学校もやっと竣工を迎えた今年を振り返る、タイムリーな課題であった。

2016年2月23日火曜日

「東京2025 ポスト五輪の都市戦略」 市川宏雄 2015 ★★


市川宏雄

建築を学び始めて、数年経つころから、建築という単体を包括する「都市」というものに、誰もが興味を持ち、そのダイナミズムや賑わいがどのようにして作り出されるのか、また活力を失う都市や再興する都市の間に何の違いがあるのか、都市計画として計画する側の人間が、何を学ぶ将来につなげることができるのかなどなど、様々な文献やプロジェクトを通して、「いつかは自分も都市に関わるような仕事を」と願うものである。

それでも実務として関わるプロジェクトはどうしてもそれよりも遥かに小さなスケールで、とても視野を広げて都市を視界に捉えることはできず、単体の建築を設計する実務者としての自分と、ショッピングモールなどに足を運ぶ都市の一ユーザーとしての自分が乖離しながら、徐々に都市への関わりは思考上だけのものとなっていく。

そんな風に葛藤を感じながら時間を過ごす中でも、都市に対する書籍を読みながら、様々な都市に足を運び、身体を通して都市を感じ、そこで生活を営む人々との対話を通して都市の現在形を理解しながら、都市から完全に離れることを拒否し続けると、時に幸運に恵まれて都市の息吹を感じるようなプロジェクトに関わりを持つことになる。

それでも、経済、社会、格差、交通、インフラ、気候、政治などなど様々な要素が複雑に絡み合いながら、そして様々な人々のそれぞれの立場の思惑が作用しながら生み出される都市であるために、どんなにその本質を理解しようとしても、一分野からの視点ではどうしても解明しきれないことに気がつくことになる。そして改めて「都市」というものの実態の無さや、全体像の捉えにくさに打ちのめされて、再度様々な文献に手を伸ばすことになる。

そんなこんなで建築を通して、都市との付かず離れずの関係を保っていると、世界の様々な都市で関わりを持つ建築プロジェクトが、その奥に見え隠れする都市の変容の片鱗を見せていることに気がついてくる。オリンピック招致に失敗したパリ政府がその用地を再開発に利用することになったパリの北部のプロジェクトには、その奥にパリが広域での再開発を進める大きな青図があり、マンハッタンで進めるプロジェクトには、NYのあちこちで進むスキニーと呼ばれる細い超高層ビル群によって新たなるフェーズに入ろうとしているNYの戦略がある。

それらは世界中の中核都市において同時並行で進んでいる変革であり、同時にそれはグローバル化した世界において、世界地図が再編成されていることを意味し、その中で各都市が激しい都市間競争において一歩でも抜きに出るために、行政と民間の垣根なく必死に新しい都市の骨格を作り出そうとしている文明史の新たなる一ページを目撃していることでもある。

都市を見下ろす神の視点
都市の中を歩き回る人の視点

この二つの視点を交互に使い分けながら、実感を持って都市で時間を過ごすと、それぞれの都市の良さが、異なった面で見えてきて、たとえば公共交通の便が圧倒的に良いとか、文化施設が充実しており、かつそのコンテンツも素晴らしいとか、あるいは質の高いレストランが多くある、住んでいる人の民度が高い、家賃と住環境が乖離していないなど、ことなる評価点でことなった都市ランキングを感じながら生きていくことになる。

自分勝手にそれぞれの都市の良いところを合わせて自分の住まう場所とすることができたらどんなに良いかと思うが、そんなことは許されない。また一つの都市だけに住み続けるのならこの比較は生まれてこないだろうが、現代のように循環して生きなければいけない状況の中、自分の意思に反してもある都市にすまなければならない状況に追い込まれ、そうなるとなおさら、今まで住んだり訪れたりした都市への各項目の評価をつけつつ、都市生活としてのランキングが自らの中にできあがり、そのランキングの中で今自分が住んでいる都市がどの位置にあるかが更なる葛藤を生み出すことになる。

そういう視点で考えると、やはり東京はどのポイントにおいても非常に高いレベルを保つ都市だと思わずにいられない。交通の便利さ、治安の良さ、知的好奇心を満足させる様々なソフトの充実度、住まう人々の民度の高さ、得られるサービスの質の高さ、多様性を持った娯楽や文化施設、質の高い食の文化、等々。おそらく日本人として生まれ、日本の環境化で育った人にとっては、これ以上心地よい都市は無いのではないかと思う場所である。

ただし世界の状況がこれほど変化している時代において、心地よさだけでは太刀打ちできず、どうしても世界の都市間競争の中で競争力を高めて、その地位を高めていかなければいけない。その為に、良いところを評価し、他の都市を見比べて、さらに発展の余地があるところ、もしくは劣っているところを強化していく。これは国家的な戦略が必要となり、これを間違えると下手をすれば数十年に渡って国が傾く、そんなことにもなりかねない。

その為には、ある専門分野を超えて、神と人の視点を兼ね備え、具体性をもって3-5年後の近未来から、30-50年後の中期的、そして100年を超える長期的な異なる時間軸をもったビジョンを描くことのできる知識と想像力を兼ね備え、そして過去から正しい評価を選び出し、そして将来に向けて適切な人材と資金の投資を行うことのできる本当に優秀な人が必要である。おそらくそのような人は国を見渡しでもそれほどいる訳ではなく、ほんの数人でも存在していれば十分であり、重要なのはその人の力をしっかりと発掘し、そして思い切った改革を行う権力を与えて信じること。それが本当に豊かなこの国と都市の未来を作ることにつながるのだと思わずにいられない。

ロゴやスタジアムのオリンピック問題でもめた2015年は、既得権益を保持し、利権に群がる旧態依然としたこの国の形を世界にさらすことになったのを見ていると、未来よりも現在の、そして公よりも私の利益が優先されているこの国には、どのような未来が待っているのかと暗くならずにいられない。

そんなことを思いながら手にした一冊。第4章の「海外ライバル都市の動向」に関しては、独立させて一冊の本とし、もう少し詳しく海外の都市が何を見て、どう変容しているのかを、その背景もともに多くの日本人に知ってもらい、変わらなければいけないという危機感を普及させてほしいものである。

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■目次  
プロローグ 2025年の東京—海外出張するビジネスパーソンからみた東京の風景
・東京駅ー新橋
・浜松町ー品川
・品川ー羽田空港

第1章 東京をとりまく環境の変化
/成長戦略としての「国家戦略特区」
・東京都の「アジアヘッドクォーター特区」が目指す者
・「国家戦略特区」の試みとは
・国際競争力強化の鍵を握るのは当初の5地区
・国際競争力強靭化の実現可能性

/日本再興戦略としての「地方創生」
・「地方創生」とは何か
・「国土の均衡ある発展」の時代は終わった
・地方法人特別税の恒久化は東京の活力を削ぐか
・「東京への一極集中」は自然の流れ
・「地方創生」のキーワードは「コンパクト化」
・「限界集落」は「国土保全」の問題として考える

/日本の将来を展望する
・日本の危機は2030年からの15年間
・国の活力を「西日本国土軸」で考える
・リニア中央新幹線が創出する巨大都市圏
・大阪への延伸は実現するか
・国交省が目指す「スーパー・メガリージョン」とは

第2章 東京の都市力を分析する
/東京の都市総合力における強みと弱み
・「世界の都市総合力ランキング(GPCI)」とは何か
・東京の「都市総合力」は世界4位
・六つの分野から東京の都市力を概観する
・東京の「強み」と「弱み」

/集積の進む東京都心
・世界8と市の「都心」の力を比較する
・都心の総合力比較
・経済と食で強みを見せる東京都心
・東京都心にもどめられる「国際ネットワーク」と「文化・観光施設」
・東京都心の集積は他都市を圧倒する

/世界に比類なき「東京都市圏」の力
・都市の力を「都市圏」で捉える
・「機能」と「ダイナミズム」で都市圏を評価
・高い人口集積を誇る東京都試験
・東京の都市運営ノウハウは世界最高レベル
・「機能」「ダイナミズム」ともに東京都試験は世界トップ

/国際競争力をもった東京の実現
・問題の認識
・東京の力を強靭化する必要性
・都市圏の縮小と都心回帰
・都心をいかに魅力的に更新していくか

第3章 大きく動き出す東京都心
/2020年東京五輪とその経済波及効果
・五輪開催都市は都市力をアップさせる
・2020年東京五輪の経済波及効果を試算する
・1964年東京五輪が生んだビジネスとは
・2020年東京五輪が生むビジネスチャンス

/東京五輪後に東京は失速するのか
・途上国の五輪直後に見られる経済の低迷
・長期的にみれば、五輪は経済にプラスに働く
・2012年五輪後に沈まなかったロンドン
・五輪後の東京が沈まないための二つのポイント

/東京の都市構造の組み換え
・東京都心の人口は住宅供給に左右される
・移動する東京都心

/世界と戦える都市へ
・生まれ変わる5つのエリア<大手町・丸の内・有楽町/日本橋・八重洲・京橋/虎ノ門・六本木/渋谷・品川>
・まだインフラ整備の余地はある
・環状2号線(新虎通り)が「オリンピック通りに」
・羽田空港を真の国際空港に

第4章 海外ライバル都市の動向
/世界を牽引する東京のライバル都市たち
①ロンドン
・ロンドン・プラン 次の25年のための空間開発戦略
・オリンピック・パーク 東ロンドンの成長を担うレガシー・パーク
・ロイヤル・ドックス ロンドン東部テムズ川沿いの大規模開発ゾーン
・キングス・クロス 歴史的コンテクストを活かした再開発
・ナイン・エルムズ ロンドン中心部の新たな国際業務・文化地区
・クロスレール ヨーロッパ最大規模の都市鉄道建設プロジェクト

②ニューヨーク
・総合計画 PlanNYCとOne New York
・ハドソン・ヤーズ 米国史上最大の民間不動産開発
・更に高く伸びるマンハッタン
・ハンターズ・ポイント・サウスとドミノ・プロジェクト
・ルーズベルト・アイランドにおけるコーネル大学大学院新キャンパス
・コロンビア大学のキャンパス拡張
・セカンド・アベニュー地下鉄

③パリ
・グラン・パリとは
・パリが抱える二つの課題
・グラン・パリ交通計画 パリ都市圏を結ぶ新たな環状鉄道
・地域開発契約(CDT) パリ郊外における特色ある開発特区
・パリ市周辺におけるプロジェクト
・パリ市内 市内総面積の1割で新たなプロジェクトが進行
・2030年のイル・ド・フランス

/東京を猛追するアジアのライバル都市たち
①シンガポール
・チャンギ国際空港
・シンガポール地下鉄(MRT)・ダウンタウン線
・マリーナ・ベイ・エリア

②ソウル
・三つの都心
・江南エリアの国際交流複合拠点
・金浦国際空港周辺の麻谷地区都市開発事業

③香港
・「アジアにおける世界都市」
・西九龍文化地区
・西九龍終着駅
・香港珠海澳門大橋
・啓徳における開発(KTD)

④上海
・虹橋国際空港周辺開発
・上海ディズニーランド
・上海浦東国際空港の拡張工事

おわりに

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2016年2月17日水曜日

地域を消化していくこと

グーグルマップを頼りに、古刹や名所、繁華街や建築物などを中心に、日本の各地方を巡る。そこで見たり、聞いたり、食べたり、知ったりすることを元に、再度ネットで調べたり、本を読んだりする。

見たいものしか見ないようになったこのネットの時代に、見えなかったものを見ようとする一つの手段であるのが、こうして身体を行くはずの無かった場所に置いてみること。そうすることで、その場所にしか流れていない時間の在り方や、風景、人々の生活が少しだけ垣間見えてくる。

その土地に生まれ、その地域で育っていれば、当たり前のこととして身体の中に入っていくであろう様々な習慣。中心の神社で行われる夏祭りの賑わい。夕日に照らされる川の表情。新しくできた美術館への人の流れ。伝統産業が集まる表通り。地元の誇りである歴史上の人物。どこの高校が優秀であり、どこか街の繁華街か。そして美味しいと有名なお店など。

そんな誰もが持っている、その地域への理解。言葉にできないなんとなく地域の中で共有され、その共有されたイメージが全体としてその地域を作り出しているもの。

日常を長い時間かけて過ごすことで、徐々に身体化するその地域性を、ほんの数日その場所を通り過ぎるだけで理解しようとするのはもちろん不可能であるが、少しでもそこで生きる人々がどんな風景を原風景としてその場で生きるのか、何をもってこの街の空間として記憶していくのか、そんなことを実感のある理解として消化していくことは、建築や都市といった様々な人々の総体の体験としてのものを相手にする建築家にはとても必要な作業である。

その為にはその土地を訪れるだけではなく、その土地が題材となった小説や映画を読んでみたり、その土地の歴史や今後の計画を少しでも理解していくこと、その積み重ねが、総体として日本という場所を理解する何かしらのきっかけになるのだろうか。

2016年2月8日月曜日

洞察力とフィードバック

建築家という職業は、たとえば素晴らしいホテルや旅館に泊まること、そこで空間を体験すること、どのようなサービスや空間で人は快不快を感じるのかと理解することが、ただの楽しみではなく、日常の業務に直結する経験や知識として蓄積され、それが次の仕事へとフィードバックを与えることができる、非常に稀有な職業だとつくづく思う。

定年退職をして、時間と経済的に余裕があるからと高級ホテルに宿泊する高齢者の過ごし方ではなく、現役の時にこそ、そういう場所に訪れて豊かな空間体験と、高級なサービスや空間とは何かを身をもって理解する。そしてそれを次の糧にしていくのが大切なのだということ。

そんなにいくつも宿泊することはやはり経済的に難しいが、だからこそ前もっとリサーチをし、今年はぜひここに泊まってみたいと目的を持って訪れる。宿泊することは何よりもその宿を理解する上で一番であるが、それが叶わないのであれば、食事やドリンクだけでも、一人のゲストとしてその場所に訪れる、そういうことを比較しながら意識を持って積み重ねていく。

そういうことがいつか素晴らしいホテルを設計する強い土台になるのだろうと思うながら、これはホテルなどの宿泊施設だけでなく、レストランや映画館、図書館や病院、すべての場所が生きた教科書であり、いいところ、悪いところを身をもって体験し、観察し、そして吸収する。そういう態度こそが、職業人として求められるものなのだと、改めて感じる年齢になってきたのだと痛感する。

2016年2月3日水曜日

「新国立競技場、何が問題か: オリンピックの17日間と神宮の杜の100年」 槇文彦 大野秀敏 2014 ★★

2015年、日本を揺るがした二つのオリンピック問題。一つは決定したデザインが盗用の疑いがあるとしてコンペのやり直しされたロゴ問題。

もう一つはコンペに勝ったザハ・ハディドのデザインに対する概算が予算を遥かに超えるものになっているものと、周囲のコンテクストにあった規模とデザインではないという日本人建築家を中心とした市民団体からの反対意見によって、最終的にはデザインの変更と新たなるコンペによって隈研吾の設計案になるというスタジアム問題。

そのスタジアム問題に対して、反対の声を上げた建築家による様々な意見をまとめたものがこの一冊というところである。

建築の世界に身をおいていると、やはり様々なところから多くの情報が耳に入ってくる。恐らく建築の知識を持たず外らか見ていると、非常に複雑に見え、誰かを悪者として晒しあげることで、責任問題を避けながら、一定の誰かに対して有利にことが運ぶようにソフトランディングさせているように映っていたであろう当時の状況。建築業界に身をおいているものであっても、その規模や関係性の複雑性のために、なんでこういうことになっているのか、その本質をつかむのは非常に難しいはずである。

予算を想定し設計を行っていても、やはり建築家というのは実際に現場にて資材を調達し、様々な職種に分かれる職人を手配し、工事を動かす職能ではない訳で、その為に長い年月を見通しての現実に即した概算を把握しながら設計を進めるのはやはり難しい。

今までの経験や、過去の数字を元に、およその数字を頭に想定しながら、「これはできる。これはできない。」と設計内容を調整しつつ、実際に工事を行う工務店や施工会社とやりとりを行いながら設計内容と予算とのバランスをとっていく。

しかし、そのような作業は日々行えるわけではないので、やはりある程度設計内容が固まった段階で、何社かの工務店に図面を渡し、それを元に概算を出してもらい比較検討する「相見積」の必要性が非常に高い。

東北の復興バブル、そして東京オリンピックブームによって、全国に散らばる職人がその単価の高さのために出稼ぎとしてある一定地域に移ってしまい、それぞれの場所で職人を確保するのが難しく、同時に工事価格の上昇、または忙しすぎて工事を請けることができない、見積もりすらも出すことをしないという施工側の優位性が一気に高まった2014年以降。その状況の中で作り手の都合で価格が決定されていくこともあちこちで起こり始め、その中で相見積など参加する甘みもなく手間と時間をかけないという工務店も多く見られたのが実際である。

そんな全国的な状況の中、国家プロジェクトであるオリンピックスタジアム建設。その見積もりは複雑に絡み合い、下請け、二次下請け、三次下請けと階層化していく業者関係の中で、ステップを踏むごとに上乗せされるそれぞれの価格が積み重なり、最終的にはかなりの膨らみを見せるのは当然のことである。

そんな中で報道された、予算とかけ離れた概算の問題。それと時を同じくするようにして起こってきた反対の声。

そんな状況を見つめつつ、徐々に世の中に満ち溢れていく違和感。何故これほどまで問題が大きくなったのか誰も明確にできないままに、誰も全体を制御しきれなくなっていった状況が見え始め、と同時に、その状況があえて放置されたかのように一気に報道されていく様子。

通常の建築であるならば、どうにか別の施工会社、なんらしがらみのないところに最新の設計図を渡し、見積もりを出してもらい、現行の見積もりにどれだけの根拠があるのか、またどの部分に異常にコストがかかってしまっており設計を変更しなければいけないのか、もしくはどの部分が常識的なコストより高く見積もられており、それがどんな理由によるものなのか、そういうことを個別に明確化することのほうが、税金としてのしかかる一般市民に対しては責任を果たすことにつながるし、非常に透明性の低い建築事業のコストに関する認識により明瞭性をもたらすのにと思いながら、どのメディアもそんなことを報じることをしないという状況。

兎にも角にも建築業界に身をおくものとして、この問題の議論がそれぞれの陣営において何を焦点として争われたのか、そしてその奥に見えるものがいったい何なのか。せめて建築畑でない友人に意見を聞かれたときに、事実と意見を明確に伝えられる準備のために読んでおく必要のある一冊であろう。

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1 プロローグ―10・11 神宮の杜で 元倉眞琴

2 新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える 槇文彦

3 ひとつの建築を通して、何が問われているのか―シンポジウム 新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える
/問題の根本はプログラムにある 槇文彦
/明治神宮と外苑はいかにつくられたか 陣内秀信
/環境倫理学から街づくりへ 宮台真司
/歴史との対話から都市を計画する 大野秀敏
/いい街づくりには何が必要か パネルディスカッション
/今後の展開とメディアの役割 質疑応答

4 “市民の目”が景観をつくる―アムステルダムから 吉良森子

5 何が問題か、どうすべきか
/新国立競技場は、神宮外苑とオリンピックの歴史を踏まえるべき 越澤明
/今、私たちの見識と想像力が試されている 松隈洋
/東京のランドスケープ・ダイバーシティをめざせ 進士五十八 
/市民の立場から国立競技場を考える―国立競技場のユーザークライアントとして 森まゆみ
/ロンドンオリンピック施設計画・設計の事例に触れて―問題を機に日本の建築まちづくりの仕組みを変える 長島孝一

これからの100年のためにーあとがきに代えて  大野秀敏
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2016年1月13日水曜日

「GA Japan 138」寄稿

現在発売中の「GA Japan 138」の特集:[今日のデザイン輸出事情 ~Bye Bye Nippon !] のなかで、現在の日本と世界の建築業界についてインタビュー形式で寄稿しております。

GA Japan 138

[今日のデザイン輸出事情 ~Bye Bye Nippon !]
01 早野洋介/MADアーキテクツ
[アジアから文化的境界を変換、そして実現する]

ページ数も十分にいただいて、現在行っているプロジェクトや、外から見る日本の建築業界についての思いなど述べております。もし書店に足を運ばれることがありましたら、ぜひご一読いただければ大変嬉しく思います。

2015年12月29日火曜日

香港国際空港ターミナルビル(HongKong Airport) ノーマン・フォスター(Norman Foster) 1998 ★★★



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所在地  香港
設計   ノーマン・フォスター(Norman Foster)
竣工   1998
機能   空港
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建築に携わる人間であれば、香港に到着した途端に教科書で見ていた建築を体験できるのはなんともいえないお出迎えとなる。設計者はそのキャリア自体が現代建築の教科書のようになっているまさに現代の巨匠ノーマン・フォスター(Norman Foster)。

六本木の森美術館においても「フォスター+パートナーズ展:都市と建築のイノベーション」と題して来年の元旦から展覧会が開催されるほど、建築家でありながらその職能の枠を超えた存在として社会に影響を与える存在となっている建築家である。1935年生まれであるから、2015年現在はすでに80歳。主な作品を見てみると

1978年(43歳) センズベリー視覚芸術センター ノリッチ イギリス
1985年 香港上海銀行・香港本店ビル 香港 中国
1989年 リバーサイド・オフィスとアパートメン ロンドン イギリス
1991年 スタンステッド空港ターミナルビル ロンドン イギリス
1991年 サックラー・ギャラリー ロンドン イギリス
1991年 センチュリータワー 東京都千代田区 日本
1992年 テレコミュニケーションタワー バルセロナ スペイン
1995年 ビルバオ地下鉄 ビルバオ スペイン
1997年 コメルツ銀行タワー フランクフルト ドイツ
1998年 九廣鐵路 (KCR)・紅磡 (ホンハム) 駅舎 香港 中国
1998年 香港国際空港ターミナルビル 香港 中国
1999年 ドイツ連邦議会新議事堂、ライヒスターク ベルリン ドイツ
1999年 カナリー・ワーフ駅 ロンドン イギリス
2000年(65歳) 大英博物館グレート・コート ロンドン イギリス
2000年 ミレニアム・ブリッジ ロンドン イギリス
2001年 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス図書館 ロンドン イギリス
2002年 ロンドン市庁舎 ロンドン イギリス
2003年 トラファルガー広場 ロンドン イギリス
2004年 30セント・メリー・アクス (スイス・リ本社ビル)  ロンドン イギリス
2004年 鎌倉の住宅 神奈川県鎌倉市 日本
2005年 ベルリン自由大学・フィオロジカル図書館 ベルリン ドイツ
2006年 ハースト・タワー ニューヨーク アメリカ
2007年 ウェンブリー・スタジアムの改修 ロンドン イギリス
2007年 スミソニアン博物館コートヤード ワシントン アメリカ
2008年 北京首都国際空港ターミナル3 北京 中国
2010年 ボストン美術館 ボストン アメリカ
2011年 ザ・トロイカ クアラルンプール マレーシア
2011年 ザ・インデックス ドバイ アラブ首長国連邦
2014年 帝国戦争博物館 ロンドン イギリス
2015年 ミラノ万博 アラブ首長国連邦館  ミラノ イタリア
2015年(80歳) アップルストア ウェスト・レイク 杭州市 中国

1985年に完成した「香港上海銀行・香港本店ビル」によって当時の英国出身建築家による建築の流れを総じて呼んだ「ハイテク建築」の旗手として、その後大規模な建築を環境に配慮しながら非常に繊細なディテールを見せる建築を多く手がけることになる。

フォスター・アンド・パートナーズと呼ばれる設計事務所は個人事務所の規模を超え、世界有数の組織設計へと成長し、世界中で最先端の技術と技能を駆使し、さまざまなタイプのプロジェクトを定期的に手がけ続けており、現在ではアメリカでアップル本社ビルを建設中であり、また世界中のアップルショップの設計も手がけており、あの恐ろしく透明で薄く軽やかなショップはこのフォスターの長年の経験が後押しして実現しているものである。

そしてこの香港国際空港ターミナルビル。それに先立ってロンドンのスタンステッド空港ターミナルビルを手がけており、空港というテイポロジー、その機能的要求、そして航空交通が主流になる世界における空港という場所の意味の変換を理解して臨んだであろうこの香港の新しい顔となるターミナル。

背の高い円柱で支えられた軽やかなパネルが一定のリズムを刻みながら、上空からの暖かな太陽の日差しを室内に取り込んでおり、アーチ型立体トラスによる構造のある完成形を見せてくれる。

大量の人が出発と到着という二つの流れの方向性を持ちながら、24時間留まることなく、動き、休み、食事をしながら数時間過ごすことになるメトロポリス的な要素を持った都市としての空港を、非常にたくみにプランニングすることで、ストレスを感じることの少ない空港空間を作り出している。

そんなことを思いながら上を見上げながら、到着駅でも支払えるという非常に旅人に対して配慮の行き届いた空港に直結する高速鉄道にチケットを買うことなく乗り込み、数日間の滞在でどれだけこの街のリズムを感じ取れるか楽しみとする。

2015年12月13日日曜日

ハルビン・オペラハウス「GA Document 134」掲載


我々MAD Architectsが設計を手がけました、中国・ハルビン市のハルビン・オペラハウス(Harbin Operahouse)が現在発売中の「GA DOCUMENT 134」に掲載されております。


MADアーキテクツ
ハルビン・オペラハウス
中国,ハルビン

GA編集者の二川さんとの対談形式で、私がプロジェクトの概要を説明するという内容になっています。5年以上に渡る大規模のプロジェクトで、オペラハウスという非常に特殊で複雑な機能に対して、新しい都市の風景としてどのようにアプローチできるか、様々なことに挑戦しながら完成を迎えたプロジェクトです。ぜひ書店に足を運ばれる際には手にとって見ていただければ幸いです。

2015年10月11日日曜日

H27 2015 一級建築士製図試験 「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」

建築家として日々実務に追われていると、どうしても目の前の仕事だけに視界を覆われてしまい、日常手がけている内容の範囲にだけ頭を奪われ、その他の多くの分野に関して知識や技術を得ることなく過ぎてしまいがちになる。

そんな避けがたき日常にある楔を打つためにも、現在国がどの様な知識を求め、どのような新しい事象が浮かび上がってきているのか、それを知るためにも一年に一度、国家資格である一級建築士製図試験の出題問題と、その要求されている機能の内容、そして模範解答を見てみるのは、非常によい勉強になるものである。

という訳で今年は問題はというと、「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」。超高齢化社会の現代日本において、これ以上は無いんじゃないかと言える現代の社会問題を内在した出題。

設計課題の内容を見てみると、今後はこのような高齢者向けの施設が、建物の中でも住宅と一体化したり、また郊外のひっそりとした場所に隔離されるような存在になるのではなく、街の中で包括していこうという、そんな大きな意図を感じ取ることができるようになっている。

機能室を見ていくと、デイサービスにおける機能訓練質や機械浴室など、家庭の中で介護が必要な家族がいる人には、馴染みとなっているスペースが高齢者な要介護者の動線を考慮して配置されている。この様な施設に対する要求は今後より一層増えていくことが容易に想像がつき、と同時に、これらのことを全く知らずに設計に関わることを避けるためにも、それらの求められる機能と、解答に見られる配置方法を見ながら、今後の日本の風景を想像することにする。

2015年5月10日日曜日

「プロフェッショナルとは何か―若き建築家のために」 香山壽夫 2014 ★★


「建築」を学ぶには様々な方法がある。

実際に建築に足を運び、どの様に空間が構成されているか、自らの身体を使って理解し、細部がどの様に設計されているのかを実物を目の前にして学ぶこと。

実務について、日々行われる様々な検討や施主や各専門職とのやり取りにおいて設計を組み立てていく方法を時間の中で学び、そして自らが描いた図面が現実の世界においてどのように立ち上がるかを現場にて学ぶこと。

専門知識を身に着けるために様々な書籍に目を通し知識を深め、実務能力の向上と共にそれらの知識の見えなかった部分が違った意味で理解できるように本での学び。

そんな「本」の中でも、学問としての建築の素晴らしさを学んだのが、学生時代に何度も何度も読み返し、線を引き、出てくる建築を別の書籍で調べた「建築意匠講義」。今でもたまに見直してみるが、その度に当時の自らの思いを嗅ぐ様な気持ちになれる一冊である。

その著者による最新の一冊。本を通して自らの職に対する「先生」と思える人に出会うことは喜ばしいことで、その人の本を読むことはまるで授業に出席するような気持ちになれるのもまた、息の長い職業に就いている上で、初心を思い出す貴重な時間でもあろう。

読み終えて改めて、改めて自分が選んだ職業に対しての責任を感じながら本を閉じることにする。


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/建築ー私の「プロフェッション」
自分の生涯の仕事、すなわち職業(プロフェッション)と決意し、そういう風に生きていくのが「プロ」です。

/「プロフェッショナル」とはどういうことか
建築設計の専門家としての能力によって、社会に奉仕する
「告白」あるいは「宣言」した人 聖職者
間違って用いられれば、社会を傷つけ壊す力を持つということを自覚する

/選ぶということ
人は選ばねばなりません。心を決めて、可能性の一つを選び、他を捨てねばなりません
何が成功か、何が失敗か、簡単には言えないのが人生なのです。
最終的に、自分の中で、自分に話しかけている、静かな、内なる声に耳を傾け、それによって、最後の決断をしている

/才能とは何か
基本的な手法を身につけずに、自由な表現などあり得ない
プラトン「君が、もし、建築や都市の設計者なろうと思うなら、先ず、第一に幅広い教養を身につけたまえ。なぜならば、様々な芸術家の中でも、建築家は、とりわけ広い知識と能力を必要とするからだ」
世阿弥は、能楽者になる為に大切なことは、ひたむきということだ

/屋根と柱
常に登るように作られている屋根に登ることは空しい。それは結局屋根ではなく床だからだ

/床と段
神道の最も古い形を示す、「磐座(いわくら)」が一段高いところを神の座とした

/大地と基壇
大地は常にうねり、隆起し、あるいは陥没し、変化しようとしている。その動きを抑え、静止さえ、そしてそこに水平面を作り出すことが、建築行為の出発点である。ではその水平面をどのように作り出すか。
方法は二つ 基壇を築くこと。
高床を築くこと
構築の基本
高床は大地から離れて空中に軽やかに浮かんでいる、それを支えている柱は、大地の力を受け止めていつも力いっぱい闘っている
伊勢の柱 コルビュジェのピロティ
基壇の上には、平安がある
基壇の上に立つ列柱には、永遠の安らぎと憩いが

/捧げものとしての芸術
大きな決断は個人を通して出なければできない。間違うかもしれないけど、最後は責任を持って自分で決断する。

/教会空間とは何か
シナゴーグが教会動画生み出される一つの母体であった
初期キリスト教の信者たちが作り出した教会堂建築、ふたつの対照的な平面形式に分類で「集中型」と「長廊型」というこの二つの形式は、人が集まる時に作り出す、二つの空間形式に対応している
前者を「囲み型」、後者を「対面型」
ゴシック様式長廊式の、一直線に信仰する空間の運動性を、一つの極点まで高めた
水平方向と、垂直方向という二つの運動性の、極度に強調された構成が、ゴシックの建築空間の特徴
会衆は祭壇から遠ざけられ
朗読も説明もほとんど聞き取れない
ルネサンスの建築家たちは、集中式の建築に注目し、それを復活させようとした
中心を囲んで集まり活広がる力と、中心に直面してそれを熟視する力をいかに統合する

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■目次
・建築家という「プロフェッショナル」の意味すること
 「プロフェッショナル」とは何か
 いかにして「プロフェッショナル」となるか
 「いつも喜んでいなさい」
・建築家の日常と仕事
 町の家と山の家
 人生のみちしるべ
 「内田ゴシック様式」の展開
・都市に開かれた新しい門と広場
・内田ゴシック建築の上方への展開
・ルイス・カーンの教え
・フランク・ロイド・ライトの内なる対立
・空間と表現
・建築にしかできないこと 聞き手:長島明夫
・建築の経験 建築の持続
 教会堂建築とは何か
 必読指南
・若者への問いかけ、あるいは自身への問い直し
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2015年5月2日土曜日

ひたすら繰返される締切

アメリカで進めている美術館のプロジェクト。大きな建築プロジェクトではプロジェクト・マネージメントが非常に厳しくスケジュールを管理するアメリカ方式にそって、基本設計の締切が近づいている。

その為に毎日毎日、多くの締切がのしかかって来る。建築という仕事の性質柄、図面を描き始めるまでの調整作業は恐ろしいほどの手間と時間を奪っていく。クライアント側の要望、現地組織事務所との調整、ランドスケープとの調整、構造、設備、消防、行政、周辺施設、交通、雨や雪対策、安全、管理、等々。

そしてそれらの調整を踏まえた上で平面図、断面図等々の図面の調整と、3次元模型の修正となり、議論された部分すべてのポイントに対してその意図を反映した図面の変更が行われているかどうかのチェックをすることとなる。

何人もがそれぞれの担当パートの図面を描き、それぞれに相違の無いように綿密な内部でのコミュニケーションを図り、各自が主観的に理解した修正内容を図面という客観的なメディアに反映する作業で発生する認識の齟齬を潰していき、内部にて意思統一のできた図面に仕上げるためにはそれだけでもものすごい時間と労力が必要となる。そしてその為に最も必要なのは繰返すチェック作業。

それを各協力会社に送り、今度は外部との齟齬をなくしていく作業。もちろんその調整作業の中で、前日決めた内容が変更になるなんてことはざらであり、何の惜しげもなく再度の修正が必要となる。先ずは修正をしない限りこの更なる問題点は浮かび上がってこず、その為に無駄をなくすために図面の修正を減らすことはどうしてもできないという訳である。

そんな訳で、CD、SD、DDと呼ばれる各設計ステージ毎にどうしても避けられないこの永遠に続くと思われる修正の繰り返し、チェックの繰り返しの時期が訪れる。体力も疲弊し、精神も磨耗するこの期間。必要なのは一つのミスも見逃さない注意深さ。できるだけ心を落ち着かせ、嵐が去るのを待つように日常を過ごすようにと心がける。