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2021年11月17日水曜日

Casa Prieto Lopez プリエト・ロペス邸 _Luis Barragan ルイス・バラガン_1950 ★★★

 


Luis Barragan  ルイス・バラガン


2016年の春 「Progressive Architecture Mexico City; Node Forum」というシンポジウムに参加するために、メキシコ・シティを訪れた。イベントの主催者が、シンポジウム初日の夜に、打ち上げの場所として連れて行ってくれたのが、知り合いが住んでいるというバラガン設計のこのプリエト・ロペス邸(Casa Prieto Lopez)。

なんでも、バラガンが設計したこの住宅は長いこと長いこと誰も住んでない状態が続き、増改築がされたり、様々なところが痛んでいたりとしていたが、タコスのレストランで大成功をしたという今のオーナーが買い取り、時間をかけて元の設計に近い状態に修復して済んでいるという。

メキシコ・シティ郊外のひっそりとした高級住宅街。 塀をくぐると広くとられたエントランスパティオが出迎える。玄関とは反対側のガレージに連れていかれると、オーナーが趣味だという自転車が所狭しと飾られている。なんでも、彼が小さなころに乗ってきた自転車すべてがここにあるのだという。
 
玄関をくぐると、エントランスホールには先ほどのパティオから光が入り、1mほどの段差を上がる小さな階段を登ると広い空間にリビングスペースとダイニングテーブルが広がっている。その窓から外を見ると、下のフロアの外に、この住宅の中心となる室外プールが妖しい色を放ちながら光っている。
 
この建物は火山活動でできた段差のある敷地に建っており、その段差を利用してエントランス側は一層となっているが、段差にそって階段を降りるとそこから庭に出ることができるようになっている。

先ほどのエントランスホールに戻り、下の階に下りると、そこにもリビングスペースが広がっており、大きなガラスの引き戸によって一体化した外部のテラスへと出ると、多くの人がプールの周りで思い思いにドリンクを楽しんでいる。
 
もう一度先ほどのエントランスレベルに戻り、今度はダイニング側から外に出ると、芝生の庭が広がっており、その先には離れの様な建物が庭の角に建てられており、ここで映画を観たりする空間となっているようで、一つの住宅のあちこちで、様々な人が 思い思いに時間を過ごしている。

恐らく今まで訪れた住宅の中で最も広い住宅であろうこのプリエト・ロペス邸。外部からは決して分からない控えめな姿であるが、エントランスパティオから大きな面に開けられた小さな扉のエントランスを抜けるホールにおいて、この住宅の立体的構成を示唆する手法など、多様な空間が一つの建築の中に散りばめられているのは、やはりバラガンの設計ならではであろう。
 
未来的な雰囲気を放つ水面と、荒々しい大地の力を伝える火山岩。そしてピンク色の壁面。そして美術館ではなく、しっかりと家として生活がそこにあるという心地よさ。住宅を考える中で豊かさを教えてくれる傑作であろう。
















2021年9月8日水曜日

Casa Luis Barragan ルイス・バラガン邸_Luis Barragan ルイス・バラガン_1948 ★★★★

 


Luis Barragan ルイス・バラガン

住宅、住宅、住宅と記憶の引き出しを探っていると、蘇ってくるのは一場面の心地よさや、そこに初めて身体を滑り込ました時の印象、そしてそこで過ごされた時間の長さを感じさせるような使い込まれた家具達の佇まい。そんな風に頭に浮かんでくるいくつかの場面がどの住宅だったかなと指をひっかけるようにしてたどっていく作業はなかなか心を軽やかにしてくれる。
 
そんな訳で次に指が引っかかったのはメキシコの強い日差しを受けるバラガン邸。入り口を入ってすぐの階段室は何のための空間かと言い表すことができないような曖昧さを持ちながらも、なんとも言えない心地よさを感じさせる。

そしてメインの空間に入る前にぐっと天井高を抑えられた空間を抜けることで、縦にも横にも空間の強弱がつけられて、そしてバッと開けた空間に大きく設けられた十字のサッシをもつ大開口からの自然光へと注意が向けられる。

入り口からここまでの空間構成で十分に感動的なのだが、面白いのは庭に向けられたリビングルームの空間と道路側に設けられた書斎側は吹き抜けで一体となっているのだが、空間の真ん中に立つ人の背の高さくらいの壁にて視線は遮られつつも、気配は感じられる柔らかなつながりを持つ。

そして道路側の書斎では壁の上側に設けられた窓により、外からの視線は遮りつつ日の光を取り入れ、庭に向けたリビングでは床から天井までの大開口で庭との一体感を作り出す巧みな断面構成。そして壁から持ち出しの細い階段が二階の書斎と繋いでくれて、住宅の中に動線の輪を作り出す。

隣接する部分は主にオフィスとして使用されていたために、メインの住居側は決して広くはないのだが、それでもすべての空間がそれぞれに異なっていて、住宅の中をめぐると様々な空間に出会うことできる。これはジェフリー・バワのナンバー11でも同様に、家の中に様々な場所が存在し、廊下が移動のための空間としてではなく、それ自体も空間として魅力的な場となっている。それが一日を過ごし、生活と仕事を行う場として建築家が長い年月かけて辿り着く答えなのかと納得する。

一通り平面を描いて、今度は写真と照らし合わせながら、各空間の壁につけられた色を塗っていく。バラガンが使ったのはメキシコの自然に関する8色(ピンク ・赤錆 ・黄土 ・赤  ・黄色 ・青 ・白 ・薄紫)と言われるが、建築自体に塗装された壁面と、それに呼応するように、カーペットや絵画などで配置された色を見ていくと、徐々にバラガンが求めていた建築の形が見えてくる。

空間の凹凸と、そこに様々な角度から取り込まれる光とそれが作り出す影、そして色。家具や階段に使用される木の素材感と色と、そして室外には木々の鮮やかな緑と池に流れる水の音。そんな鮮やかな色の世界を追っていくと、その背景はやはり強いメキシコの日差しと、乾燥した大地の姿が感じられ、これはメキシコの建築なのだなと納得する。





2013年6月11日火曜日

谷村美術館 玉翠園 村野藤吾 1983 ★★★


不条理を成立させるためには、規律としての直線が必要だと改めて教えてくれるような建築。

今回の旅のメインの目的地の一つであり、2011年までの2年間閉まってしまっていた美術館だが、市民の要望を聞き入れた市の助成によって、昨年より再度第3セクターとして再会したという村野藤吾設計の美術館。

彫刻家・澤田政廣のパトロンであり作品の収集家でもあった、糸魚川市を拠点に活動する建設会社・谷村建設社長の谷村繁雄が、その収集作品を展示するための美術館計画。それを澤田政廣が芸術院会員仲間として知り合った建築家村野藤吾に依頼をする。

設計当時、村野藤吾は92歳。翌年93歳でこの世を去るのだが、美術館に置いてあるスケッチや現場写真では、白髪の村野藤吾が精力的に模型を覗き込み、光の入り方をチェックする姿が残されている。人生の灯火が消える最後の最後まで一建築家として存在しようとしたその魂を感じる。

シルクロードの砂漠の遺跡を想定し、館内は石窟風にされているというが、外部も内部も端部が落とされ、直線的な陰と光の面を表現せず、全体に曖昧な光が回り、建築の全体像をぼやかす。床と壁の境目も曲面でつながれて、当たり前の様に同じ素材で覆われる。床・壁・天井という近代建築が分断した建築の要素化に対しての異議申し立ての様にも見える、根源的な空間への挑戦。

幾何学と不条理の幸せなる共存を見せられると、曲線の正しい使い方を改めて教えられる。我々がモノを見ることができるのは、そのものが光を受けて反射するからであるという原理原則から、如何にその光の反射をコントロールできるか、如何に柔らかく光を回り込ませられるか。その為に表面の処理はあくまでも荒く仕上げられ必要がある。場所が違い、太陽光の質が違った場でも同じようにルイス・バラガンが住宅の壁に用いた仕上げの様に。

その洞窟的な空間性の為に、ガウディがよく引き出されるようであるが、やはり幾何学の中に挿入された不整形が生み出す不思議な空間の魅力を目の前にすると、やはり出てくるのはまたしてもコルビュジェ。何処まで行ってもまた向き合うことになるこの名前に、やはり彼が辿りついた地平は遥か先立ったと思わずにいられない。

この美術館に併設される玉翠園は、オーナーである谷村繁雄氏が作った観賞式庭園。「サツキが一番綺麗な季節ですので、ぜひゆっくり見ていってください」と丁寧な係員さんが説明してくれて、入り口に飾られる大きな石をどうやって切り出してきたか、鮮やかな色の赤い葉をつけるのは紅葉の一種である「野村紅葉」で赤も微妙に変化するとか、いろはもみじやなんやらともみじの品種は200以上にもなるなどと、懇切丁寧に教えてくれる。

図面や、各展示室への光の入り方のスタディ模型、工事現場の写真まで見せていただけ、小さいながらも関係者の情熱が感じられるとても良い一作。