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2012年9月25日火曜日

「建築が生まれるとき」 藤本壮介 ★★★


一貫して感じるのは、作者の「疑問する才能」

「○○はこうである。」と自ら立てた仮定に対して、
「ではなぜそうなのか?」とその存在前提に疑問を投げかける。
極めて数学的なその姿勢。

通常の建築家なら原因と理由、機能と形態、技術とコスト、など極めて実用的なところで終わる疑問のループを、作者はどこまでも終えることなくひたすらグルグルし、そういうているうちに回転から上昇の力が加わって、建築の実用から遡りその根源まで達そうとする煌きを放つ。そんな印象。

暫く前の建築言説では、誰も彼しもとりあえず哲学を引用し、フーコーやガタリ、ドゥルーズらの文章から建築的に翻訳できる部分を自分の解釈を被せ、パノプティコンや襞などメタファーも直截も利用しまくり、とにかく自らの建築の理論的バックグランドとして使用する。

そのジェスチャーは教養無き者にはこの建築の良さは分からない、という強固なまでのエゴイスティックな防御壁であり、一般の人との距離をとり、その距離を何故だか高さに変換する思考的錯綜が良く見える。

それが現代においては、新たなパラダイムへのヒントとなるのは哲学から大きく窓を開け、複雑系や物理、数学、科学といった様々な分野へと裾野を広げている。それは建築家の視野が広くなったのか、それとも元々社会を構成する原理原則を含んだ自然科学に学ぶ姿勢をやっと建築世界が手に入れたのか。

そしてもう一つは作者は高度な他分野の知識を学び建築に翻訳する仮定の中で、前世代建築家が好んで用いた一般との距離を取ることをせずに、逆に一般の人たちにより分かりやすい言葉へと翻訳をしていく。そのことの方がより高度でより難しいことを見てきた作者だからこそ、意図的に建築を高みの位置に置く事を避ける道を選んだかの様に。

今までと同じ道を歩んでいては、決して先には進めないけれども、それを示してくれるヒントもまた人類の歩んできた歴史の中に潜んでいるんだと教えんばかり、今まで目にすることのなかったような図書が参照され、恐らくこの本を読んだ建築学生達は図書館に駆けつけその本を手にすることだろうと創造できるが、村上龍が言うように、同じ本を読むのではなく、自分の視点で発見することが必要なんだろうと思わずにいられない。必要なのは自分の思考にオーバーラップしつつドライブしていけるような新しい引用を見つけること。

こういう建築家が同世代にいてくれることを純粋に嬉しく思える一冊。

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2012年9月23日日曜日

「天地明察 上・下」 冲方丁 ★★★



「暦は約束。明日も生きているという約束。明日もこの世はあるという約束。」
あまりにも当たり前すぎて、誰もが疑問に思うことすら忘れてしまう時間の流れ。今日が終われば、当たり前のように明日がやってくる。この世を営む超前提のルール。

「今日何日だっけ?」
何気ない会話だが、よくよく考えるとこの会話がなされるようになるまでには、恐ろしいほどの努力と常人からかけ離れた人類の英知が結晶が重なる膨大な時間が費やされたということを思わされる。

ホームボタンを押せば、デジタルの時間が当たり前のように毎秒を刻む。何もかもが生まれる前からあった当たり前の前提の様に感じるが、その前提を人類が理解できる形に翻訳する為に費やされた果てしない苦労を想像する。

「記憶力が本当に優れている者は、忘れる能力にも優れている。」
何かを生み出す為には、多くのものを吸収すると共に、自分なりの理解に沿いながら頭の中を整理して、新たなる体系を作っていくこと。忘れることは整理すること。

「一生が終わる前に今生きているこの心が死に絶える。」
退屈でない勝負を望んだ男と、その言葉を発することができた時代と努力。

「頼みなしたよ」 「頼まれました」
人生の長さと自分の役割、そして社会の為のなすべき目的をはっきり理解し、しっかりと次世代にバトンを渡すことのできるシニア層。

「なぜ凶作になると飢餓となって人は飢える?」
現象を見るのではなく、根源を探る問い。

「会津に飢人なし」
疑問する才能に溢れ、戦国から泰平へと世が移り変わる上での思想の変転を体現するように自らも役割を変えてった為政者たち。

「勝ってなお負けてなお残心の姿勢を残す」
一体どこまでが自分の果たすべき勝負なのか?そのフレームを見据えた振る舞いこそが一人の男の品位となって現れる。

第31回吉川英治文学新人賞受賞・第7回本屋大賞受賞が頷ける良作。次回の帰国で向かうべき先は会津以外に無いなと心に秘める。

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第31回吉川英治文学新人賞受賞
第7回本屋大賞受賞
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