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2016年1月10日日曜日

「四月は君の嘘」 新川直司 2011-2015 ★★★★★


この数年、いろいろなところでその噂を目にすることの多いこの漫画。とにかく評価が高いのと、既に完結していると言うことも手伝って入手して読んでみることに。

なるほど確かに凄い漫画だと納得。今までの漫画のフォーマットを飛び越えて、音楽を使ってすばらしい時間やリズムの感覚をコマ割の間に挿入してくるその方法は、多くの高評価を得ているのも十分にうなづける。

漫画で描かれるすべての要素が濃縮されたそんな物語。ピアノコンクールという多くの人に馴染みの無い世界での熱狂を、リズム、スピード、そしてゾワゾワする感じを駆使して描きながら、その舞台に立っている主人公たちも、普段の生活では普通の中学生であり、その年代の子供たちが感じるどうしようもない恋の気持ちに振り回されながら、一日を棒に振り、誰かと一緒にいても、本当に好きな誰かがはっきりしてしまっている、そんな気持ちにうまく向き合えないままに日々を過ごす。

そんないくつもの物語が非常に良いバランスで複層されており、ショパンからラフマニノフへ、そしてチャイコフスキーへと曲とともにテンポを変化させながらページをめくっていく体験を強いられる。

なんとも独特な音楽を、時間の感覚を伴った漫画体験。人気に推されてズルズルと引きずらず、11巻でスパッと終えたのも、曲の長さには適切な時間があるのだと言わんばかりの心地よさを感じることになる。

2015年10月28日水曜日

「萌の朱雀」 河瀬直美 1997 ★★★

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スタッフ
監督 河瀬直美
脚本 河瀬直美
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キャスト
田原孝三:國村隼
みちる:尾野真千子
幸子:和泉幸子
栄介:柴田浩太郎
泰代:神村泰代
みちる(幼少期):山口沙也加
栄介(幼少期):向平和文
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フランスの映画祭、カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得するなど、海外にてその評価が非常に高い河瀬直美。1969年生まれでまだ若く、かつ女性ということもあり、現在の映画界の中でも非常に特殊なポジションを得ている。

そんな彼女が世間から注目を浴びるきっかけとなったのが、1997年の第50回カンヌ国際映画祭で「カメラ・ドール」とよばれる新人監督賞をこの「萌の朱雀」にて獲得したこと。

その後2007年に「殯の森」にて第60回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞するなど、確実にキャリアを伸ばしている映画監督であるが、やはりフランスの映画界で評価されていることもあり、なかなか日本での興行的にはそれほどヒットという感じではないようであるが、一部の映画ファンからは好評を得ているようである。


1992年 につつまれて 
1993年 白い月 
1994年 かたつもり 
1995年 天、見たけ 
1996年 陽は傾ぶき 
1997年 萌の朱雀 第50回カンヌ国際映画祭 カメラ・ドール(新人監督賞)
1997年 杣人物語 
1999年 万華鏡 
2000年 火垂 
2001年 きゃからばあ 
2002年 追臆のダンス 
2003年 沙羅双樹 
2004年 影-Shadow 
2006年 垂乳女〜TARACHIME〜 
2007年 殯の森 第60回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
2008年 七夜待 
2009年 狛-Koma 
2010年 美しき日本・奈良 (日本アーカイブス) 
2010年 玄牝 -げんぴん- 
2011年 朱花の月  
2012年 塵 
2014年 2つ目の窓 第12回ウラジオストク国際映画祭グランプリ受賞
2015年 あん 第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門オープニング作品


劇中に描かれる監督の出身地でもある奈良の美しい風景。「なんだか少々見覚えがあるな・・・」と思って調べてみると、やはり奈良の西吉野周辺で撮影が行われたという。丹生川上神社中社を訪れた際に通った緑深い山の風景。その所々で現れる小さな集落の美しさ。その記憶をまざまざと蘇らせてくれる映像である。

もう一つ印象的なのは撮影の行われた奈良県吉野郡西吉野村出身で、当時地元中学校で靴箱の掃除をしている際に監督の河瀬直美の目にとまり、急遽主役として映画デビューすることになったみちる役の尾野真千子の美しさ。素朴でいながら、明らかに眼に留まるその素の美しさ。現在までのその後の活躍が裏付けるように、監督の目の付け所の正しさを物語っているようである。

映像として非常に美しく、見慣れたテンポの良い映画ではなく、映画ならでもゆったりとしたリズムを描き出し、物語自体は決して派手なドラマは起こらないが、しっかりとその地に生きる人々にとって一生に一度か二度ある大きな転機に際して、人々がどのように応じ、変化していくかを淡々と描き出す。そんな監督の手法がストレートに表現されている良作である。






2015年4月5日日曜日

「鬼神伝」 川崎博嗣 2011 ★

現代に住まう中学生が、ある日謎の鬼に追われ、そこを救ってくれた僧侶に連れられ時空を超えて1200年前の平安の都である京都にタイム・トラベルし、そこで人と鬼の戦いに巻き込まれる。

というストーリー。

最初の「鬼」の描き方が何かもやもやとして気になったので見てみたが、ことごとくつくりが浅い一作。平安の都の描き方がアニメーションだからこそできる特別な表現になっているかといえばそうでもなく、「鬼」として虐げられる部族と貴族の戦いで何が正義かを悩む主人公の姿も「どこかで見た設定・・・」と思わされるだけ。

なぜこの主人公がわざわざ時空を超えて平安から現代までやってきて呼び寄せられたかの深い設定も感じられず、平安という文献がそれほど残されていないだけにまだ不思議な世界観が通用する距離感とそこにアニメの手法を被せることでの期待感は分からなくも無いが、それがうまく融合されなかったという感じだろうか。

八百万の神々がもっと身近であったはずの日本の日常を、ぜひともアニメの力で説得力を持って描き出す。そんな作品を期待せずにいられない。
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スタッフ
監督 川崎博嗣
著者 高田崇史
脚本 荒川稔久、川崎博嗣
イラスト 村上豊
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キャスト
天童純:小野賢章
水葉:石原さとみ
源雲:中村獅童
源頼光:近藤隆
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2014年2月4日火曜日

「青い鳥」中西健二 2008 ★★★

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スタッフ
監督 中西健二
原作 重松清
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阿部寛 村内先生
本郷奏多 園部真一
太賀
荒井萌
篠原愛美
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作品データ
製作年 2008年
製作国 日本
配給 日活、アニープラネット
上映時間 105分
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ほんの数年前、大津市のいじめ自殺の問題がきっかけとなり日本中があれだけ注目し、加害者の少年達の非道な仕打ちや、教育委員会の対応の悪さ、保身ばかりが目立つ学校の対応など、現在進行形の学校における「いじめ」の問題が再度スポットライトを当てられるようになったのは記憶に新しい。

「少年一人が自ら命を絶った」という事実そっちのけで、誰もが自らの保身の為に責任の擦り付け合い、原因を曖昧化させようとするその姿に世間の誰もが思ったはずである。

本当に必要なのは犯人探しではなく、子供を追い詰めてしまう現行の学校というシステムに対して何かしらの有効な方法を見つけ出すことであるということ。

若者が命を絶たなければいけないほど思いつめ、それを友人も大人も誰もが止めることができず、そして今この時にも、同じように思いつめている若者が日本のどこかにいること。それにも関わらず、ただただ無駄に公共の電波で自分のことだけを考える大人の姿を垂れ流しする。

平成23年の小・中・高校生の自殺者数は353人であり、その内訳は、小学生:13人、中学生:71人、高校生:269人だという。そして学年別で見た時にいじめが一番多く報告されているのは、中学1年生であり、17,063件のいじめが認知されているという。


もちろん、学生が自殺する理由が単純に「いじめ」であるという訳ではないだろうが、逆に言えば、自殺に至らなくとも、「いじめ」によって本当に自殺してしまわないが、してしまおうかと思いつめている少年も多くいるはずで、その数は決して統計には表れない。

ただし、「自殺」という収束点を迎えると、それまで積極的にも消極的にも「いじめ」参加、もしくは関与していた他の生徒にも明らかに、一人の少年に対してどれだけのテンションがかかっていたかを目の前に提示することになる。明らかな「悪」の行為に自らも参加していたか、もしくは都合のよい不参加を装っていたかの違いはあれど、そのテンションのかかった時間を見ていたことに違いは無いと目の前に突きつける。「パン」と音を立ててはじけるビック・バンの様に。

日本の社会の中では恐らく多かれ少なかれ、誰もが学校生活の中で、何かしらの形で「いじめ」に遭遇してきているはずである。残念ながら小さな社会の中で、自らの存在意義を意識する為に誰かを相対的に陥れるのは一番手っ取り早く自らの優越感を成し遂げる手段として有効であるのだろう。

この映画は、重松清による小説の映画化。いじめにより、自殺未遂を起こした少年が引っ越していった後の中学校。学校も生徒も、誰もがひとしきり反省を口にし、終わったこととして蓋をしていたはずのその事件。そこに吃音…つまり、どもり口調の臨時教師がやってくる。彼はそこで行われたいじめを過去のこととすることを許さず、生徒が自らの心でその事実に向き合うことをそのゆっくりとした口調で求めていく。

この物語が描くのは、決して生徒が自殺をして死んでしまった教室ではない。自殺未遂を起こすが命を取りとめ、家族揃って別の街へと引っ越していった後の街と中学校の物語。つまりは、どこかのホームページに掲載されているような統計という数字には決して現われない物語。しかし、大切なのは、この少年を始め、自殺を本当にしなくても、同じくらい苦しみ、悩み、自らの将来をまったく違ったものにしてしまう、いじめを受けている少年や少女が日本中にはきっと星の数ほどいるということ。

そしてそれと同じように、どんな形であれその光景を日常の中で目にし、いつまでたってもその時に罪悪感に苛まれるその他の生徒達がいるということ。いじめに直接的に関わっている生徒だけではなく、その周囲にいるすべての生徒達にとって深い傷となってその後も残っていくことを教育関係者は深く理解する必要がある。

学校においての尊厳が失われ、毎日どこかの報道で「教職関係者による犯罪」が報道され、肥大した個人のエゴを満足させる為に他人を引き落とそうとする学生と、自らの責任を放棄し、刹那的な優越感を得ようとする両親に監視され、余計なことはせずに、マイナスポイントを重ねないように業務を全うすることだけに執心する教師達。

そんな現代だからこそ、けっして流暢に喋ることはできないが、どもりながらも発せられる言葉には、その人の意思と生き方が込められており、だからこそ徐々に皆の心に響いていく教師;青島の語りが印象的に聞こえるのだろう。「まきちゃんぐ」の印象的なテーマソングと共に、是非とも多くの中学生に見て、聞いてもらいたいと思える一作である。

2013年4月30日火曜日

「ほしのこえ」新海誠 2002 ★


新海誠のデビュー作らしい。

森川嘉一郎の「趣都の誕生―萌える都市アキハバラ」で書かれるように、パソコンの普及によって出現したアマチュア・スターの第一人者という位置づけのようである。勉強不足でまったく知らなかったが、同人誌業界では相当な人物のようだと、2000年以降のアニメ動向を追ってみて分かってきた。

そんな作者が監督・製作・脚本すべてをこなし、今まで溜め込んでその世界観を思う存分ぶつけたのがこの作品というところらしい。音楽もその後の作者の作品を引き続きチームを組む天門が担当し、その後の作品が納得というような世界観を作り出す。

それにしても建築批評の世界も、映画を引用する巨匠達から、小津の低い焦点に現れる風景の切り方などと映画関係者ばりの映像知識を必要する時代から、団塊ジュニア世代を育て上げたジブリ作品の世界観を考察する時代を経て、エヴァを経てたどり着くこのような作品に視られる現代の社会性などということまで重箱の隅を突かなくてはいけないのかと思うと、その苦労を想像しながらも、オタクの世界に現れるある種の無意識の現代性などと、インテリの役割として追っかけ続けるのも大変だと思うが、「こういう作品に時代的意味を見出さなくてはいけない」というある種の強迫観念も行きすぎなのではと思わずにいられない。

ガンダムをテレビの再放送で見て幼少期を過ごし、ジブリ作品とともに少年期を過ごし、エヴァを見ながら青春期を過ごしたであろう世代の作者が、妄想を膨らませて作り上げた世界観。どれだけ科学が発達していようが、お構い無しに踏み切りで電車を待つ田舎の風景。その奇異な共存が意外性を伴う不思議な世界観を作り出すというところだろうか。

何万光年も先の宇宙でガンダム張りの戦闘を繰り広げる一方で、コンビにの前でアイスを食べる中学生。

その後の作品でも何度も何度も繰り返されるようなシーン。開くまでも子供の部類に入る中学生の男女の主人公たちが、引かれながら引き離され、それでも過剰なほどに感情を起伏させるような音楽にそって自らの苦悩を言葉にしていく。

「アガルタ」や「タルシアン」といった、「いかにも」的な名称を考えるのが楽しくてしょうがなかった時代。男の子なら一度ははまる冒険やファンタジーがごっちゃになって頭の中で膨らむ妄想の世界。そこに好きな女の子との純愛が絡み、「あぁ!」とか「いけっ!」という感情を表すいかにも「アニメ的」な単純な言葉。

技術の進歩を表すためのそれらしき難しい言葉たちと、地球防衛軍に小さな少女が戦力として参加するという宇宙モノの王道の世界観。良くも悪くも一人の人間がすべてをやりきり、その人間の妄想がすべて形にされた作品。

それにしても、人をとことん感傷的にさせるような台詞と音楽と世界観。「時間や距離を越え、ただ君がいるからこの世界は存在するんだ」的にとにかく感傷的な登場人物達。

このようなアニメを見て思春期を過ごすと、それはそれは影響され、その性格も相当に感傷的になっていくのだろうと想像せずにいられない。そうして形成された過剰に感傷的な性格で、この獰猛な現代社会で生きていくのはかなり厳しいだろうと思わずにいられない。

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スタッフ
監督 新海誠
製作 新海誠
脚本 新海誠
音楽 天門

キャスト
篠原美香
新海誠
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作品データ
製作年 2002年
製作国 日本
配給 MANGAZOO.COM
上映時間 25分
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2013年4月13日土曜日

「雲のむこう、約束の場所」新海誠 2004 ★



「ほしのこえ」の新海誠が挑んだ長編アニメ。

個人製作から大きなチームでの製作に移行し、その規模も世界観も作画の緻密さもより一層向上した様である。

一見なんのこともない青森の風景だが、実は戦後に津軽海峡を南北にして国が分断され、青森から見える北の風景にはすっくりと聳え立つ一本の巨大な「塔」。その直線が自然を背景にした中でどう人工性を描き出すかは言わんまでもないが、また同時に様々な人にとって目的地や思い出など、様々な意味を持つ「塔」の効用を良く描いている。

ローカル線を待つほのぼのとした風景や、木造校舎の中学校などのレトロな雰囲気と、位相変換を行い異宇宙との接合を行うような科学的発展の異種勾配がつくりだす異様な世界観は前作同様で、そこに中学生であった主人公達の揺れ動く感情が重ねられる。

乗り物のデザインや建物のデザインなど、前作よりも独自性が見えてきているように感じられるが、つっこみどころ満載のストーリーはあまり作りこまないという作者の意図も感じられるが、同時にその感傷的でナイーブな世界観もまたより一層加速されているようである。


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スタッフ
監督 新海誠
原作 新海誠
脚本 新海誠
キャラクターデザイン 田澤潮
絵コンテ 新海誠

キャスト
吉岡秀隆 藤沢浩紀
萩原聖人 白川拓也
南里侑香 沢渡佐由理
石塚運昇 岡部
井上和彦 富澤
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作品データ
製作年2004年
製作国日本
配給コミックス・ウェーブ
上映時間91分
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2011年11月21日月曜日

「上と外 上・下」 恩田陸 2003 ★★★★★



「フリーダム」と「リバティ」の違いを学んだ中学生時代に読んでいた漫画の舞台は南米で、インカやマヤといった南米大陸の奥に忘れ去られたかのような古代文明を通して繰り広げられた物語は、若い自分に南米を十分すぎるほど冒険の舞台としての印象を与えた。

大人になってもまだまだ異国としての響きを失わない、遠い国としての南米を舞台として、中学生を主人公としてマヤ文明を描く物語となれば、何故もっと早く読まなかったのかと悔やまれずにはいられない。

「科学の進歩は必ずしも人間を幸福にするわけではない」

自然との共存のイメージとして現代文明に対して対比の位置づけで使われ古されたマヤとはまったく違った切り口で描く下の世界。

「後悔ってのは一番くだらない。人生は無為に過ごすには長すぎ、何かをしようと思えば短すぎ」

地球の裏の南米と、職人が油にまみれる日本の工場を繋げる現代のグローバル世界の描き方。

「いいか、いつも自分の手を動かしておけ。いつも動かしておけば手はお前を裏切らない。楽しようとしたり、誰かに押し付けようと思ったりして動かさなくなったら、その瞬間にお前の手はお前を裏切るようになる。自分の手を動かさなくなった奴に限って偉そうなことを言う。キチンと自分の手を動かして、なおかつそれに見合うだけのことを言っているのは相当立派な人物だと思っていい。」

アマゾンの熱帯雨林にヘリコプターから落っこちて、もの凄いスピード感で展開される新世界。生命に恵みを与える森が、獰猛な姿を見せだす夜に感じる不安を主人公と共有しながらめくるページ。

「料理というのはじっくり作るのも大切だが、時には何よりスピードが優先される時があるんだ。今にも死にそうな人がいて、一刻も早く病院に運ばなければいけない時に救急車を作り始めるバカはいない。リヤカー 担いででも運んでいかないといけない。質は悪くなってもどうしても速さを優先し、期限に間に合わせることが一番大事な時がある。何かをする時、それがどういう仕事か考えるんだ。質が大事か、速さが大事か。今やらなければならないのか、長い時間をかけてやった方がいいのか。それを常に考えていないと時間は無駄にどんどん過ぎて行く。」

こういう話を読んでいると、学校の教室で学ぶことよりも一日の冒険が与えることが如何に多いかを痛感し、冒険を可能にする舞台がどれだけ残されているのかに想いを馳せる。

「面倒がらずに自分の知っていることを説明してくれる」

描かれるとても魅力的な男たち。

「心配も喜びのうち。怒ったり、嫌になったり、そういう相手がいるっていうのも喜びの中に含まれる」

同じくらい魅力的に描かれる女たち。

「不安というのは膨れるのが速い。恐れや恐怖を吸い込み、目の前のものを何も見えなくする。」

そして何よりも中学生という最も多感で、不安定で、そして向う見ずなことが可能であった「あの時」の気持ちを見事に描き、引き込む作者。息子を持つことになったら、ぜひ中学生になるくらいに読ませたいと思える一冊。