隔離無しで国際間移動ができるのはまだまだ先になるだろうから、感染がある程度落ち着いている中国国内で、久々に足を延ばして少し前から気になっていた建築を五一の休みを使って観に行くことにした。
その建築というのは、本屋をいかに文化を学ぶ場所としてこの国で広げていくという信念をもって、
南京で始まった先鋒書店という小さな本屋。本当に数坪の店舗から始まり、もともとあった建築や場所の特性に沿った特色ある本屋の在り方を探索しつつ、様々な文化イベントを店内で開催したりと、書店という枠組みを超えて、多くの年代から支持されるようになったという。日本の蔦屋や台湾の誠品書店に見られるような、本を中心にしてファッションや、食、生活用品などジャンルを超えた文化やデザインに出会える場所として書店を再定義していく流れは中国でも数年前から様々な店舗で見られていたが、この先鋒書店
はどうも違うようである。
南京のある店舗はかつて地下駐車場となっていた場所を書店にコンバージョン、かつて科挙の行われた貢院を書店にして、学ぶことの意味を問いかけたりしている一方で、都市以外の場所、特に若者が減っている農村地域において、古い民家をリノベーションし、地域における文化拠点を作り、新しい人の流れと雇用を生み出しているという。
その農村で展開された書店の一つがこの先鋒廈地水田書店(先锋厦地水田书店 / Paddy Field Bookstore)。設計を手掛けたのは北京に事務所を構える、 Trace Architecture Office (TAO) 。主宰するのは 华黎(ファ・リー Huá Lí) という 清華大学出身の建築家。中国で建築に関わっていれば、知らない人はいないのではというくらい、よく知られた建築家である。
华黎(ファ・リー Huá Lí)
沖縄でもその名の庭園があるほど、日本とも縁の深い福建省の省都である福州から車で約3時間かけ、寧徳市屏南県廈地村というというかなり田舎へ。のどかな風景の中、車を止められる場所から水田の脇の道を歩いて目的地の農村へ。傾斜地に密集する農村の一番底部に位置する民家をリノベーションしたようで、細い農道を伝っていくと水田を背景とした書店が迎えてくれる。
ネット上でもすでに人気スポットという意味の打卡地(ダーカーディー /dǎ Kǎ dì)で広く紹介されるなどしているためか、多くの観光客も訪れている様子である。書店の中にも外にも、いかにも地域の小学生という子供たちがスケッチブックをもって風景の絵を描いている脇を通り書店内部へ。
一階部分は中央に位置する二つの階段下部にトイレや倉庫が配置され、周辺に本屋、雑貨などが陳列される。趣の違う二つの階段で上がる二階は書架と閲覧テーブルの並ぶ手前部分と、ガラス張りで外の風景が見える後部のカフェ部分に分かれている。更に3階に上がると、屋根に覆われたテラスに出て、中央の天窓やその周辺の排水溝などのプリミティブなディテールを見ることができる。屋根には中央と四周にスカイライトが設けられている為に、内部では中央の階段の上から日が落ちるとともに、周辺の吹き抜けとなった塗り壁にも光が落ちて、壁の表情がよく見えるようになっている。
外に広がる水田もちょうどよい散策コースになっており、よく見ると水田の中に農民の姿や舩を象った案山子のアート作品が設置されている。ぐるりと巡っていくと、小さな看板に「カフェはあちら」とか、「民宿」といった案内がされており、この書店が拠点となり、観光客の受け入れのための付随的な施設がポツポツと農村の中に派生してきているようである。
書店の前の水田には田植えをする人を象った案山子のアート作品が展示されている
斜面を流れる川沿いに発生した村であるようで、川に沿って上流に行くとあちこちに観光客が。その流れを避けるように、集落の一番上まで向かい、連なる屋根の景色を見てみる。ぐるりと集落をめぐって川沿いを降りてくると、先ほどとは逆方面から書店に出くわすようにできている。冷たいコーヒーを飲みながら、急速に進む都市化にばかり目が行きがちな中国でも、こうしてコンテクストを読み解きながら、丁寧な改修をおこない、そっと建築を挿入することで、地域にとって大きな意味を生み出すプロジェクトもまた存在するということは、もっと海外からも注目されるべきだろうと思いながら帰路につく。
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