2016年2月3日水曜日

「辺境生物はすごい! 人生で大切なことは、すべて彼らから教わった」 長沼毅 2015 ★★


長沼毅

「生物と無生物のあいだ」の大ヒット以降、こうした物理化学の世界の非常に専門性の高い学問の話から、どうにかして一般社会にも通じる美しい物語を引き出そうとする出版社の意図を感じずにいられず、それは普段あまり一般の人の目に留まりにくい様々な分野の研究を広く世に広める役割はあるとは分かりながらも、その分野を淡々と紹介するのを超えて、なんとか一般化しようとする意図が透けてみえてしまうようである。

もちろん研究者というのは、ある分野の研究を生業としており、誰もが「生物と無生物のあいだ」の福岡伸一の様に作家顔負けの文才があるとは限らず、また専門分野のある事象をまったく異なるスケールや角度からみることによって、社会や一般生活に適応できるある種の生物界の真理を描き出す、そんな業を磨くために日々の時間を過ごしている訳でもなく、職業人としての能力の高さが、それを物語として本にまとめ、世間に伝える能力と比例するのではないと、誰でも本を出すような時代に我々は改めて気がつかないといけないのだろう。

本来なら普段知ることのない、また知り合うことのない特殊な分野の研究者の研究内容や、その世界の不思議を、懇切丁寧に小学生でも分かるような言葉で説明するような本が、一番真摯にその世界を世に伝えることになるのだろうが、編集者の意図が介在するのか、どうもそこから啓蒙的な内容や、一般社会に適応しうる事柄へとリンクさせようとするくだりがどうしても気になってしまう。そんな印象が否めない。そんな風に思わせてしまうほど、「生物と無生物のあいだ」がもたらした衝撃は強かったのだろうと改めて思うことになる。

「辺境」という生命の限界である場所に生きる生物を見ることで、逆に生命の強さや神秘を知り、そこから生物や地球の根源的な意味を探ろうとする著者の研究と、始めの方の章に書かれる内容は非常に興味深い。「餌の少ない環境では、ライフサイクルの遅い生き物のほうが生き残りやすい」や、「クジラから大腸菌まで、どんな大きさの生物でも、その身体を構成する細胞のサイズがほぼ同じ」という内容は、生命の神秘の根源につながりそうなヒントを十分に孕んでいるように聞こえてくる。

「環境に合わせるのではなく、環境に合った形質を持って生まれた者が生き残る 生物の進化」という現代の進化論である「ネオ・ダーウィニズム」。それは環境を受け入れ、いかに環境に適応していくのか。それが生命としての生存に深く関わる問題だとする。どんな場所にいようとも、自分の心持によってはそこが「辺境」の意味を持ってくることもある。安穏として時間を過ごさず、生命の存在する意義と自らを包括する環境を意識しながら、日々を生きることが大切ということだろう。

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