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2013年12月19日木曜日

処理速度

建築家の仕事と言われてもさまざまな事がある。設計事務所というのは一つの会社組織である以上、会社が持ち合わせる「営業」「人事」「総務」「経理」などの各業務内容に加えて、もちろん一番重要な「設計」という業務もこなしていかないといけない。

その「設計」業務も、あげれば切りが無いほど多岐に渡った内容が含まれる。新しいプロジェクトの敷地の中に条件を考慮してどのような建築を作り出すかのコンセプト段階から、現場でコンクリートの打設が10センチずれてしまったので、構造体を覆う断熱材を入れるスペースを確保できずにコールド・ブリッジになる部分の処理をどうするか?という現場処理まで、本当に幅広い知識と経験が必要となる職能である。

一つの建築の一つの平面図を決定するのにも、構造、面積、機能、規制、眺め。多様な要因を同時にバランスしながら、ベストの解答を見つけていかなければならない。このような作業に関しては、もちろん何人ものチームが何日もかけてやっても、ある一人が一時間でやったほうが良い結果がでるということもあったりする。それはエンジニア的な経験と知識と共に、建築家としての美的センスを同時に要する非常にバランスを要する作業であるからである。

しかし、建築事務所の日々の業務の中の大半は、上記のような作業とは別に、それでも「処理速度」が必要となる仕事が占めることとなる。

毎日必ず何かのプロジェクトのある部分に関して問題が起こる。施工図を担当するLDIから「空調の関係から、構造の荷重の問題で、地下の駐車場のレイアウトから、外装材の施工性から・・・」などと様々な理由と合わせて、「この部分はできないから設計を変えてくれ。この部分はどう処理すればいい?」と何十という問題点が送られてくる。それらは「今日中に返答をもらわないとこちらが処理しきれない」というリミットと共に。

これらの問題を如何に事務所が望むデザインを確保しながらも、条件と折り合いをつけながらどうやって解決していいか?その「処理」をするのに多くの時間が費やされる。

その問題ががどんな要因が絡み合って発生しているのか?
コスト、施行、設備、構造。何を考慮し可能性を探らなければいけないのか?
条件を把握し、可能性を洗い出し、それらの上にデザインを考慮してスケッチをしていく。
それらを与えられた時間の中で、どう仕事を進めるのか?
チームの中の誰に伝えて、どう処理するかを伝えて、いつチェックが必要かを考える。
どの部分が、外部のどのコンサルタントや協力会社とのコミュニケーションが必要になるのか?
最終的にどのような資料を誰にいつまでに渡さないといけないのか。

毎日発生し、毎日過ぎ去っていくこれらの業務は、ほぼ処理すべき仕事である。
アーティスティックな側面では決して無く建築事務所の中のエンジニア的な仕事。
そしてこの業務が建築事務所を支えるとても大切な業務でもある。
それだけに日々の多くの時間がこれらの仕事に割かれることになる。

決して指の間からこぼれ落とすことができない業務であるからこそ、どれだけ効率的に、どうやってこなしていくかを真剣に考える。与えられた時間は変わらず、その間にもたらされる問題は加速度的に増加する中で、諦めることができないのなら、唯一できるのは自らの処理速度を高めること。

毎日朝にやるべき仕事内容と、その考慮すべき項目を書き出し、カレンダーの中でスケジュール化。それぞれのプロジェクトのそれぞれの問題部分をスケッチして、何度も何度も描き直し、描いてみてはじめてて見えてくる別の問題を考慮して、再度スケッチを描いていく。

それを元に、プロジェクト・アーキテクトと話し合い、修正を加えてパートナーと確認。それをもってチームに割り振る。プロジェクトの数とその規模を考えると、毎日やるべき作業はものすごい量となる。

自分の手からこぼれ落ちてもオフィスの中のどこかの網に引っかかるようなシステムを作ることはもちろん平行して行っていくが、何よりも自らの職業的能力を高め、処理速度を加速度的に向上させていくことでしか、満足する建築への近道は無いのだと改めて認識する2013年の暮れ。

2013年1月9日水曜日

HR

構造改革にともなって、できる限り組織の効率化を考えることになる。

人事・経理・営業・PR・設計・総務等々、設計事務所が会社という不特定多数の人が集まり、業務をこなしていく場である以上、組織を円滑に運営していくべき必要な環境を整えたほうが、より毎日の仕事がスムースに進むというのはしごく常識的なことであり、数人という個人事業主的な形態から10人を超え、30人を超えていくに連れ、「自分達で全部やる」ということが通用しなく、「組織」としての在り方に変容していかなければならない時がやってくる。

という訳で、我々MADも現在に至るまでに何度も事務所内の構造改革を行ったのだが、今年もまたそれが必要な時期だろうということで、会社を成り立たせるそれぞれの分野において現状分析と仕分け、そしてどうすればより良くできるかを検討する。

設計事務所を成り立たせる設計業務。
その活動を外の社会に向けて発信するPR業務。
自分達の作品がどのような場所に行けばより良いマッチアップが可能になるか、世界の様々な場所で行われるコンペ情報を精査したり、どのようなメディア戦略をもってオフィスの作品を発表していくか、そんなことを行うPRとは別の営業業務。
パソコンが必須となった現代の設計業務なだけに、複雑化するデジタル環境のアップデートや、テラをあっというまに超えていくまで増えていくデータの管理などを行うIT業務。
日常経理や、年間の経費の管理を行う経理業務。
クライアントとの窓口になったり、日常的な業務の雑多なことがらをカバーしたり、外国人スタッフのビザの発給手続き、保険のやり取りなどの総務業務。
そして組織の心臓部とも言える人事業務、つまりHR(Human resource)。

流動する世界を反映するように、現在までに在籍したスタッフとインターンの総数は既に数百を超える。人がいて初めて成り立つのが会社組織なわけで、彼らの存在がなによりもの宝であり、展覧会や出版物などでプロジェクトを発表するときには、必ず担当チームに属した彼らの名前は記してあげたいというのがオフィスの誠意でもある。

しかし、「建築家」という全うな社会からはやや距離を置き、会社という「しっかり」した組織に属することなく、漂うように生きてきた建築家にそれだけで一つの専門領域とも言える人事の仕事の経験がある訳も無く、誰もが独立という時点から自分なり、自分たちなりの会社組織の在り方、そしてHRの在り方を模索していくこととなる。

引き継ぐべきこともなければ、模倣する対象もなく、教えを乞う上司もいないところから出発するので、ひたすら原理原則へと回帰し、自分でどういうことが必要か、何が出来たら会社として良いのか、現状の分析から改善点などを考えることとなる。

考えうる様々なシナリオを考えては、どのようなシステムが適しているかを検証する。何年後でもそのシステムが成立するために、よりシンプルで、よりフレキシブルで、より原則的であるように。何年の何月の時点で、あるプロジェクトに関わっていたある国のスタッフを知るためには、一元的なタグシステムでは成り立たず、ある種のパラメトリック・デザインの要素が必要になる。

そんなことを繰り返し、書き出した20にものぼる検討事項やシナリオと、その対策を踏まえるて導く第一の結論から、手持ちのソフトやウェブベースのシステムでは対応できないとなり、ならばと市場に出回るHRソフトを検索する。基本言語が英語と中国語ということもあり、日本市場のものでは需要にマッチせず、英語ベースのソフト検索をして、最終的にはスタッフとプロジェクトの管理にも使えるHRソフトの購入とその業務だけを専門的に行うスタッフの確保の二つが急務だという結論に達する。

その結論を他のパートナーに伝達し、オフィスのマネージャー・スタッフに伝えて手配をお願いする。そこに費やされた半日以上の時間と労力。

「建築家の仕事って一体何をしているの?」

とよく聞かれることがあるが、これもまた「建築家の仕事」の一つなんだと自分を納得し、またトレーシング・ペーパーに向かうことにする。