2012年6月26日火曜日

「燃える氷 上・下」 高任和夫 2003 ★★


フランク・シェッツィングのベストセラー「深海のYrr」が刊行されたのが2004年なのを考えると、石油の可採埋蔵量の計算よりピークオイルがくると叫ばれだして、そろそろ人類も化石燃料から脱却し脱炭素時代に入るべきだと議論され始めたころに、全世界中の作家も時を同じくし、地熱や風量、水素エネルギーなどの可能性を探索しつつ、少なくない数の人が注目したのがメタルハイドレードだというころだろう。

終わりがあまりに呆気ないは否めないが、2011年のあの地震はひょっとして・・・とも思わせるような内容が2003年に書かれていたことには少々驚いて、作者は一体どのようにあの地震を見ていたのだろうと思わされる。

最近ひょんなことからよく足を運ぶようになった、根津界隈から始まる物語。その響きどおりに言問通り沿いの人情溢れる小さなお店たち。「この界隈ですべてが賄える。なじみ客となると居心地もいい。」というのも納得。

ギリシャ神話の地球神・ガイアの怒りに触れてしまった人類に対する警鐘をとういことで、新雑誌「ガイア 」を刊行される。

雑誌が売れるためには、スキャンダル、セックス、スポーツ、戦争の4Sが必要だというが、なぜ日本人はスキャンダルを異常に好むのかというと、恐らくそれは妬み深い日本人の性質にも原因があるんだろう。

「40になると抜け殻。自分の意見を持たない腑抜けばかりだ」という言葉にこれからの30代をどれだけ必死に生きないといけないかを考えさせられる。

ナイジェリア・ラゴスで天然ガス採掘の為に海上プラットフォームのプロジェクト・マネジメントを行う葛西雄造。

 「日本人が夢を求めなくなってから、どれほどの時間が流れただろうか?」

そこでオランダ人から耳にする言葉「メタルハイドレート」

二酸化炭素の排出量が少ないc1h4で表される天然ガス。海底堆積物の中の有機物で、生物の遺骸を微生物が分解しメタン生成する。水と結合し固体結晶となったのがメタンハイドレート。氷の様に姿で海中深くに潜んでいる。散文的な表現をすると燃える氷。脱炭素社会にとっては救世主のような存在。ガスを採取するのと、パイプラインなどのインフラ整備などの問題点はあるけれども、それでも昨今注目される新エネルギーの筆頭であることは間違いない。

神と龍」ではないが、世界が競って手に入れようとする未来社会の利権にもなりうるエネルギー源。

しかし最も恐れられるのが、ガスキックというガス漏れ。それが引き落とす海底地滑り。今回の地震でも広く知られるようになったように、北米、ユーラシア、フィリピンの三つのプレートのせめぎ合う日本大陸。そのプレートのせめぎ合うその上に位置するのが日本の象徴である富士山 。

災害小説の第一人者が挑む新たなるタイプの災害。新エネルギーがガイアの一部であり、それが引き起こす富士山の爆発と、同時発生する巨大地震。今ではどこのメディアでも叫ばれるその危険性だが、新しいエネルギーへの技術革新がその引き金にするのは流石と思わせる一冊。

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第1章 蠢動 しゅんどう
第2章 創刊
第3章 拉致
第4章 帰国
第5章 官僚
第6章 怪光
第7章 絶滅


第8章 再会
第9章 予兆
第10章 警告
第11章 鳴動
第12章 避難
第13章 噴火
第14章 希望
解説 
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2012年6月20日水曜日

「マグマ」 真山仁 2006 ★★★★


「5年以内を目処に日本の原子力発電所を閉鎖して欲しい」

とても2006年に刊行された小説とは思えない言葉で始まる、再生エネルギーを柱にした国際エネルギー利権の裏側を描いた内容。恐らく同様の議論が2012年の福島での原子力事故の後にも同様に行われ、それでも魑魅魍魎たちが暗躍して、結局は小説のように前に動くこともなく既得権益所得者が納得する形になっていくのだろうと想像する。

「原発無しでも夏を乗り越えられる」

これも最近テレビで聞く言葉であるが、こういう台詞を読めば読むほど、著者の先見性と取材力に驚かされる。

ゴールドバーグ・キャピタルという投資会社の美人社員・野上妙子。彼女が不可解な上層部の指示により、九州・大分でほそぼそと展開する地熱開発の会社に送られ、その再生の責任者として着任する。

地熱発電所は日本では九州3、東北1の比率で展開されており、地熱の水蒸気によってタービンを回し電気を得るという、いたって単純な仕組みであり、それは地中1000メートル下がると3度温度が上がり、2500メートルまで達せれば75度にもなるということで、火山帯に位置する日本には非常に適した自然エネルギーである。

資源は無い。原子力は今回の事故で未来は暗い。日本全国どこでも温泉があり、その下には無限ともいえるような地熱発電の可能性が埋まっている。と条件が揃っていれば、どう考えても国を挙げて開発に力を入れて国策にしていかないといけないかと思うのだが、そうは簡単ではないらしい。

熱水溜りがあるのは国立公園か、昔ながらの温泉街近くということで、発電所の調査から建設までにも手間がかかるのもあるが、なんといってもその発電単価というコストパフォーマンスの悪さ。これは後発の技術であることと、神の炎と呼ばれる原子力に比べられてしまうのが可愛そうだが、一番安い原発が5,9円なのに対して、地熱は16円。資本主義社会で成立するためには、発電におけるビジネス効率も度外視できないということか。

「僕は技術者なんだと思います。論文を書くより、苦心惨憺して創り上げたものを実用化させたい。個人よりチームで目標を成し遂げたい。それが僕の喜びなんです。」

恐らく日本の発電の現場にいる人間の多くはこの言葉に代表されるように、真面目で優秀で、目の前のミッションに対して一生懸命向き合っているのだろう。問題は大局的な視点を持ち、この国の未来を見据えて判断を下す人間がいるかどうか。

「魚は食いたい、足は濡らしたくないの猫そっくり、「やってのけるぞ」の口の下から「やっぱりダメだ」の腰くだけ、そうして一生をダラダラ過ごすの?」とマクベスのセリフの引用で、困難へ向き合う主人公。

兎にも角にもマグマの国の日本人。国を捨てることが出来ないならば、それといかに共存していくのかを考えるのがこの地に生きる人の知恵。今回の事故を踏まえて、足元に埋もれている真っ赤に煮えたぎる無限の可能性を秘めたエネルギーに、今後の数年日本中の注目が集まることを期待せずにいられない。

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目次
プロローグ
第1章 逆境
第2章 大地の息吹
第3章 湖面の月
第4章 乱反射
第5章 突風
第6章 陥穽(かんせい)
第7章 乾坤一擲
第8章 逆襲
エピローグ
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2012年6月17日日曜日

Dusk

月曜から北部のハルビンに数日出張だからという訳ではないが、久々にゆっくりできそうな週末。妻にお気に入りの茶館に連れて行って帰り、空を見上げると綺麗な夕暮れが広がっている。

それを見た妻が発したのは、「トワイライト」

共同主宰する建築事務所には所属所員の半数ほどが外国人、つまりは中国人以外であるが、日本人は自分のみであるから、必然に事務所で日本語を使うのは自分で思考する時のみとなる。

送られて来るメールも、送らなきゃいけないメールも、その全てが英語か中国語のどちらかということになるので、あるチームのスタッフに伝えたいことがある時は、少なくともその前に何を伝えるか整理して、チームメンバーによってどちらかの言語かに変換して伝えることになる。中国語に関しては、問題ない範囲では自ら行うが、クライアントとの微妙なやり取りはバイリンガルの所員に手伝ってもらって内容を二言語の境界を移動することになる。

帰国子女的に幼少期に英語をすんなりと頭の中に入れたわけではないので、どうしても辞書やらなんやらを使いながら、ガチガチと思考回路に引っかかりながらという感じだが言葉をやり取りしていく訳で、学ぶべきは中国語だけでなく、英語ももちろん日々学ぶこととなる。

そんな中で出会う言葉にはたまにハッとさせられることがある。

建築の最終形をコンピューターによって再現するCGを設計段階で何度も作ることになるのだが、それの設定時刻ももちろん設計事務所が決定する。その過程でアメリカ人のスタッフが発した言葉。

「ダスク」

ダスト・・・?と思いながら聞いてみると、夕暮れ時の意味で、トワイライトよりもやや夜に近いということで、暗さが濃い時間帯という。これは日本語には無い言葉だな・・・と思いながら、その言葉の響きが気に入ってしばらく、ダスク、ダスクと一人でつぶやいていた。

そんなことを思い出し、「トワイライト」とつぶやく妻に、

「ギリギリ、ダスクだね」と自慢げに言い返す土曜日の黄昏時。

2012年6月13日水曜日

「CTBUH 2012 Best Tall Building Award for the Americas Region」受賞のお報せ



超高層ビルの設計をあらゆる角度からサポートする、世界で最も包括的な最先端の組織であるCTBUH(世界高層ビル協会)によって主催される「CTBUH Award」では、毎年建設された超高層ビルを世界の各地域ごとに分けて賞を与えるものですが、その賞の本年度北米部門の賞を、共同主宰するMAD Architectsが設計をしましたアブソリュート・タワーが受賞することになりました。

「CTBUH Award」

この賞は世界を4つの地域に分類し賞を与え、秋には各受賞作品の中で今年の最優秀賞を決めるという流れになっておりますので、世界一の称号を手にし秋に再度良いご報告ができればと思っております。

このプロジェクトを通し世界の建築シーンに一石を投じることができたことに感謝しつつ、これを一つの通過点として日々の仕事を通してさらにさらに前方に向かって進んでいければと思っておりますので、今後とも今まで同様の暖かいご支援をいただければ大変嬉しく思います。

早野洋介/MAD












2012年6月10日日曜日

一期一会


時差の大きいヨーロッパで始まったユーロ2012のせいで、やや寝不足気味の日曜の朝。

ただし今週はめずらしく出社しなくていいのでゆっくりと朝ごはんでも・・・

と思っているところにオフィスのスタッフから連絡。なんでも、オペラハウスのプロジェクトの為に、クライアントとコンサルタントと一緒になって、北京周辺の建材屋の視察をして回るのだが、今日はアルミのカーテンウォールと、プレキャスト・コンクリート版を見るので、急だけど工場まで来てくれないかと。

そういうことは、なんで前もって言って来ないか・・・と思いながら、場所はどこ?と聞き返す自分は偉いなと思いながら、身支度を整える。

「悪いけど、今日もまた出なくちゃいけなくなっちゃってごめんね。」

と妻に謝り、送られてきた工場のアドレスが丰台区なだけに、ATMでお金を下ろしてタクシーに。

車中から再度電話して、運転手に直接伝えてもらうことにするが、なんとなく場所は分かるという。およそ30分の距離だという。

車を走らせていても、ピロピロ携帯がなり続け、一つ目の工場視察を終えてしまったので、合流する場所を変更するという連絡の為に、再度運転手に電話を渡す。

久々に気持ちのいい天気なので、窓を開けて小説でも読みながら・・・と思っていたらまた携帯が鳴り出して、今度はより分かりやすいマクドナルドの前で待っているから早く着てくれというので、再度携帯を運転手に。

運転中だから電話に出れないし、分かったから電話してこないで。という運転手。

その割りに自分の携帯にかかって来る電話は普通に出てるのは突っ込まなかったが、こちらが読んでいる本をみて、「日本人か?」と会話が始まる。

話好きの中国人なだけに、タクシーで話が盛り上がることはよくあるが、

「世界で一番仕事がよくできるのは、日本人だ。正確さや効率はすばらしい。その次はドイツ人で、中国人は三番目だと思う。アメリカ人は人のやったものをもっていくだけだから、一番ダメだ。」

なんて、なかなか気の利いたことをいうなぁと聞いていると、

「これだけ大きな北京で、一日に何人がタクシーに乗るか知らないが、こうしてあなたと話していることは凄いことなんだと。到着して降りてしまったら、きっと二度と会うことはないだろう。時間があれば、お昼をおごってあげたいくらいだ。」

とくるので、なんて感受性の高い運ちゃんだと思いながら、いつでも読める小説よりも、今日一日しか味わえない束の間の一期一会の方がよっぽど重みがあるなと本を閉じ、「家は八達嶺の近く」なんていうので、「こっからだと二時間近くかかるじゃない」、なんていいながら、次の休みに妻を誘って八達嶺あたりの長城のハイキングもいいもんだなと思いを馳せる。

「眠れぬ夜の殺人」 岡嶋二人 ★


バスに乗っていたら欧米風の男性に「日本人ですか?」と流暢に話しかけられる。

その彼はスペイン人で7年間日本に住んでいたといい、かなり流暢な日本語を話し、読んでいた小説の表紙の文字を見て話しかけてきたという。日本の後に今度は中国に来て、今は中国語を学びながら仕事を探しているという。

元々、測量技師で地下鉄や建築の現場での測量を仕事としていて、今度は太陽光エネルギーの会社の面接を受けに行くという。

その内容を中国語で話すとなると、かなりしんどいことになるな・・・と思いながら、彼の日本語能力に感心しながら、話は今夜のユーロカップ、スペイン対イタリアへ。

今、スペインがサッカーで負けたら、我々には何も残っていない。

なかなか風刺の効いたコメントを言うなと思いながら、そろそろ降りなきゃいけないのでまた今度、と挨拶しながらバスを降り、せめてもう少し洒落たタイトルの小説を読んでいればとやや悔やむ。

日本から届いた大量の本からまずはリラックスにと選んだのは好きな岡嶋二人だが、気が利いていないのはタイトルだけでなくトリックもいまいちな様で、今夜のスペイン選までには終えてしまおうと二宮尊徳状態で歩く日曜の夕暮れ時。



2012年6月5日火曜日

安全ベルトなしのジェットコースター

少しでも気を抜いて安全バーを握る手が緩まれば、
アッという間に遠くまで吹き飛ばされる。

毎日、そんな風に時間が過ぎていく。

こちらに戻って早二ヶ月が経ち、進行中のいくつものプロジェクトの中には、既に開始から数年経つものもあれば、始まったばかりのホヤホヤのものもあり、それぞれに把握する内容は異なるが、どのプロジェクトもチームメンバーがいて、ここにいたるまでの様々な紆余曲折があって、クライアント、構造、設備、環境、ランドスケープ、ファサード、プロジェクト・マネージメント等々様々な外部の関係者とのやり取りがあり、一日に発送信されるメールは数知れない。

進行しているオペラハウスのプロジェクトでは、外装カーテンウォールの入札用の資料を作成し、モックアップの納まりを確認していると、劇場だけでなく公共部分の音響効果の確認の資料が届いてどこを修正しなければいけないという意見書が届き、修正をしたらしたらで今度は内装設計の会社にその情報を流していく。

その連絡をしたら、内装は内装で入札用の図面を仕上げるために、そちらに送った図面のチェックを早くしてくれと言われ、印刷してみるとA2サイズで700枚。週末ではあるけれどもオランダ人のプロジェクト・アーキテクトを捕まえて、二人で分担してひたすらコメントを書き込む。

コメントだけで伝わるはずが無いのが建築なので、その日の夜にはそのメモを送っておいて、翌日に打ち合わせを開いて図面上でどこが違っているのか指摘する。オペラハウスという特殊な建築だけあって、内装会社のチームも軽く10人を超えるサイズで、それぞれが各部分や各階を担当しており、一人一人は自分の担当を確認するが、こちらは全部やりとりをする。しかも中国語で・・・となるから外国人のプロジェクト・アーキテクトの分も翻訳しながら説明をするので、全部を終えたら軽く3時間は過ぎており、頭も身体もクタクタで、建築設計は身体的な作業だと再確認する。

そんなこんなで時間を割かれていたら、別途進行しているアパレル会社の本社ビルのプロジェクトの、外装材における風加重を確認するために風洞実験を行うから、風洞実験会社へ送るカーテン・ウォールに関する必要な情報をコンサルタントからいつもらえるのか?と執拗な催促がプロジェクト・マネージメント会社から届いており、香港に拠点を置くコンサルタントにお願いだから早く資料を作成してくれ、と催促メールを送り届け、電話をかける。

一息ついたところで、日本で進むプロジェクトの資料を引っ張り出して、一人敷地を想像しどんな空間にできるかとスケッチを進め、日本のスタッフと連絡を取りながら資料を作成していく。

そんなことをしていると、打ち合わせだと呼ばれていけば、今度は別に進んでいる文化センターのプロジェクトで、同様に入札用に作成していた資料だが、資金不足のために作成依頼するモックアップの範囲を少なくするという連絡が入り、かつは中国の大手設計院で働いており、今はこのプロジェクトのマネージャーをしてくれているスタッフと二人「那,怎么办・・・」と肩を落としながら、修正案を考える。

デスクに戻ろうとすると、アドミニのスタッフから、募集をかけていたポジションへの応募者からの資料が届いているからということで、数人分のCVと資料を印刷してチェックし、実務に強いスタッフ数人に同じように確認するにお願いし、意見を聞いていく。

そんなこんなでデスクに辿り着くと、あっという間にメールの山で、なかなか仕事をしようとしないプロジェクト・マネージメント会社の担当者から、ロジカルな説明も無いまま再度の催促。しかも中国語で。

基本的にメールは中国語か英語なので、中国語の時は間違いがないように、両方堪能なスタッフに確認の翻訳をしてもらう。早く自分でできるようにならないとと、それすらイライラしながらメールの対応をする。

そんなこんなを終えて、今度は新しく東京で開店する友人の店舗設計の図面を確認しながら、予算とデザインがどうにか納まるようにと修正して、またまた日本のスタッフにメールを送る。

各プロジェクトのチームには5-10人ほどのメンバーがいるので、各人がやることを明確に理解して無駄が無い様にスケジュールを考えて、スケッチを描いてどういうデザインかを伝える。それぞれの休暇のスケジュールを把握しながら、プロジェクトのスケジュールに置いてかれないようにするだけで必死で、積極的にプロジェクトの全容をコントロールするまでには程遠い。それにまたイラつく・・・まさに「跟自己过不去」状態・・・

そんなこんなで気がつけば外が暗くなっていて、とてもじゃないが、思ったことを書き綴るなんていう時間は微塵も無い。今日一日、一体何を終えることができたんだ・・・と思わずにいられず、そんな思いが積もりに積もりパートナーに久々に、

「こういう毎日で楽しいか?」

と聞いてみる。

「どこの設計事務所もmessはmessだし、しかも中国の建築業界はまだまだ酷い状況で、さらに我々は難しいことをやろうとしているからmessは当然じゃないか」

と。

「まぁ、そりゃそうだけどさ。」

と思いながら、

「どうせ、10年後にはこういう毎日的なストレスは覚えてないから、まぁいいか」

と言って、また二人でフライド・ポテトを平らげる。

2012年6月4日月曜日

MAD Travel Schoraship



建築家にとって旅をすることはとても大切なことである。

設計する際に頭の中で作りたいと思う空間への想像力の源となるのは、かつて実際自分で見て、触れて、感じたものたちでしかない。

何を豊かな空間だと思うか、写真では良く見えていたけど実際に行ってみるとまったく違った感覚を受けたとか、とにかく自分の中での基準を作るためにはできるだけ多くの良質と呼ばれる建築を体験する必要がある。

そしてもう一つは、自分が生まれ育ったコンテクストから外に出て、自らの国の建築とそして自らのアイデンティティーを外から眺めること。それがその後の建築家として進む道に大きな力を与えてくれる。

だからこそ、建築を学ぶ若い時期にこそ、できるだけ多く外に出て、建築を見る機会を得ることができる人は幸福だと思う。

しかし得てして、若い学生にとっては、海外に渡って憧れていた建築を見るということは、相当大きな負担であることは間違いない。

そんなことを思いながら、2009年より始めた「MAD Travel Schoraship」

中国全土で建築を学ぶ学生に呼びかけ、自分の行きたい都市や建築、その理由と現在各自が行っている勉強の状況やポートフォリト、それらの資料をもってこの奨学金に応募し、毎年5名の学生を選び、彼らが10日間ほど自ら選んだ場所に滞在できるだけの奨学金を交付するというもの。

もちろん、それほどの予算は自ら確保できないので、いろいろとスポンサーに協力をお願いするのだが、それも今年でもう4年目になり、毎年本当にいろんな場所のいろんな学生が毎年応募してきてくれ、そのポートフォリオの内容を見るのも非常に楽しいひと時である。

月末に締め切りを迎えるので、今年はどんな場所にMAD経由の若者が旅立ち、どんな思いをもって戻ってくるのかと思いを馳せながら、いつか同じ事を日本でできればと思う。

2012年6月2日土曜日

目の前を漂う綿

打ち合わせをしているとフワフワ漂う綿が目の前を横切る。

ゆっくり手を広げ、一気につかむ。

そして、いるかな?と思いながらそろりそろりと手を広げていく。
そこには何の痕跡も無い普通の手のひら。
あれ?と思って見てみると、横でフワフワしている綿。

そして気づくのは、ついこの前も同じ状況で、
同じ事をやって、次こそは一気に握るのではなくて、
ゆっくり手を閉じて、綿が手のひらに着地するようにしよう。
と心に決めたのになぜ同じ間違いを・・・ということ。

次こそは・・・と再度思うが、
同じ状況が訪れるチャンスは、
あと人生において一体どのくらいの回数だろうと想像すると、
そんなに多くはないのでは?
と逃した機会の大きさが悔やまれる昼さがり。