ラベル 時間 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 時間 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2016年11月7日月曜日

「インデペンデンス・デイ リサージェンス」 ローランド・エメリッヒ 2016 ★


「インデペンデンス・デイ」と言えば、SF映画の中でもかなり記憶に残る作品であるのは間違いなく、その続編ということで、きっと前回以上の衝撃と、「インターステラー」 のように科学と想像力に裏打ちされた映像を見せてもらえるのかと期待した作品であったが、その期待はあっという間に破壊される一昨である。

前作より20年後に設定された世界において、また宇宙人が地球に現れ攻撃を仕掛けてくるのに対し、再度人類は手をとりあってそれに立ち向かうという、なんら新しさの感じられぬ脚本に、物理的にも、映像的にも、そして物語的にも前作を超える要素はまったく見受けられず、「まさかここまま終わるはずはないだろう・・・」と最後まで期待を失わずに観続けるが、その期待は報われること無く終わる一作である。





2016年3月11日金曜日

「トイレのピエタ」 松永大司 2015 ★


松永大司

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 松永大司
脚本 松永大司
原作 松永大司『トイレのピエタ』
--------------------------------------------------------
キャスト
園田宏(余命宣告される元芸大生): 野田洋次郎
宮田真衣(高校生):杉咲花
横田亨(がん病院でのルームメイト):リリー・フランキー
尾崎さつき(宏の元彼女):市川紗椰
園田智恵(宏の母):大竹しのぶ
園田一男(宏の父):岩松了
橋本敬子(がんで入院する子供の母):宮沢りえ
橋本拓人(敬子の息子):澤田陸
武田晴子:MEGUMI
金沢:佐藤健
--------------------------------------------------------

建築という仕事柄、普段からアートに関する人々と接する機会をいただくことがある。美術館のキュレーターや、アートイベントのダイレクター、それにギャラリストやアーティスト。

改めて思うのが、普段日常で会っている「アートを生業としている人々」は、厳しい競争というフィルターをすでに潜り抜けてきている人であり、その作品やキュレーション能力において、世間からある一定の認知を受け、才能を認められ、絵を描いたり、作品を残すことに時間を割くことを可能とした人であるということ。

その中でもキャリアの段階において、それぞれにまた厳しい競争があり、その中で再度ふるいにかけられ、残った人がより上のステージにて、より大きな自由を得て信じる「アート」を世に送り出すことになる。

アーティストとして特別な才能と技術を身につけるため、芸術大学や独自に学ぶ。しかしその後どうにかして世に出るためには、誰かの目に留まり、評価してもらい、展覧会などの機会を得ていかなければいけない。その為に採用されているのが全国に散らばる様々な分野のアートを手がけるギャラリーシステム。才能があると目をつけたアーティストとギャラリーが何かしらの契約を結び、製作を援助し、方向性を語らいあい、そして展覧会を企画して世の目につくようにし、活躍の場を広げていくことで、アーティストの作品の価値を高めていく。

絵がうまかったり、独特の完成があり作品のクオリティを高めることができることと、それを誰かに知ってもらい、自らの活動を支える収入に変換すること。その二つはまったく異なる能力であり、小さなころからずっと絵を描いてきた人に、ある年齢からいきなり後者の仕事もしろと言っても、なかなかうまくできるものではない。営業や広報、そして人との付き合い。そんな対外的な才能とは違って、深く自らに向き合う能力があってこそできる作品もあるはずである。

しかし、現実は社交的で人付き合いがうまい、人脈が広い、可愛かったり、イケメンであったりと、絵の才能とは違う部分での要素を持っていることが、「誰かに自分の作品を知ってもらう」という点を突破するには大きな力を発揮する。

学生時代は同級生からも一目置かれ才能があるとされた芸大生。卒業後、定職に付くこともなく、アルバイトのビルの窓の清掃を行いながら、徐々に絵を描くことから遠ざかり、もやもやした気持ちを抱えながらも、クラブに通い刹那的に日々を過ごしていく主人公。

そんな主人公が突きつけられたのはいきなりの「がん」と「余命」宣告。そんな折にであった日常に苛立ちながらまっすぐに感情をむき出しにしてくる女子高生。徐々に弱る自らの身体と、「死」を受け入れながら生きていく周りの患者仲間の姿、そしてそんな自分の深刻さを物ともしない様に振舞う女子高生の真衣に振り回されながら、徐々に自分の人生を振り返り、自分の周りにいる人々と再度向き合うことになる宏。

この主人公を若者に人気だというロックバンド・RADWIMPSのボーカルの野田洋次郎が演じたことで、大きな話題を呼んで、かつ様々な映画賞にてもいろいろな賞を受賞しているようであるが、地方から絵を志して東京に出てきて、自ら求める「アート」と作品制作以外のことで評価されるアートの現状とうまく着地点を見つけられぬまま、漂うように今を生きる若者の演技はやはり真に迫ったものがある。

「余命」という自らの命の残り時間を直視したときに、人が何に時間を費やすのか。そこにその人が過ごしてきた一生の本質が見えてくる。そして主人公が選んだのは、出会った人々との記憶をとどめるように、アパートのトイレに「ピエタ」をモチーフとした女子高生の姿を描くこと。

学生のように若すぎず、社会人としての責任を持つほど老い過ぎず、モラトリアムの中で向き合う自らの残された時間。そこにはなかなか惹きつけられるものがあったが、今度アート関係の友達にぜひともどれくらいのリアリティがあるのかと感想を聞いてみたいものである。



2016年3月5日土曜日

「ジャージの二人」 中村義洋 2008 ★★

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 中村義洋
脚本 中村義洋
原作 長嶋有『ジャージの二人』
--------------------------------------------------------
キャスト
息子:堺雅人
父親:鮎川誠(シーナ&ザ・ロケッツ)
息子の妻:水野美紀
花ちゃん:田中あさみ
岡田:ダンカン
遠山さん:大楠道代
--------------------------------------------------------
夫婦の間で問題があり、会社も辞めたばかりの息子が、グラビアカメラマンの父に連れられて、避暑地の軽井沢にある古い山荘で数日過ごす夏休みの様子を描いた物語。どうやらこの山荘は、父親の実家であり、かつ子供が小さいときからこの山荘に夏休みの度に来ていたようで、周囲の住民とも顔なじみの様子である。

富士山も眺めることのでき、キャベツ畑の広がる広大な自然の中、なぜかダンボールの中から取り出されたのは、この地域の様々な小学校のジャージ。この山荘にいる間はジャージで過ごさなければいけない家族のルールがあるのか、二人は何の疑問も無く色鮮やかなジャージで毎日を過ごすことになる。

ロケは嬬恋など北軽井沢周辺で行われたというが、周囲はほとんど緑色という環境の中、二人のジャージの姿がとても印象的な画になっている。父と息子、夏休みでやってきた娘に息子の奥さん。そして近所のおばさんとおじさんと、主要登場人物は非常に少ないにも関わらず、閉塞感も無く、広大な風景そのもの、ゆったりとしたテンポで物語りは進んでいく。

テレビゲームに勤しむ父に、できるだけ映画を観ようとレンタルビデオ店に通う娘。そして小説を書こうとするがなかなか書き進めない息子など、それぞれが自分の時間をすごす対象を持っていながら、互いの距離感は離れすぎないと、なんとも仲の良い家族の関係を描き出す。

携帯の電波が届きにくい場所で、キャベツ畑の一箇所だけ電波が3本も入る穴場があり、そこに行っては手を掲げ、受信するメールの音が流れるというシーンは、ネットワークから外れることができない現代人と、ネットワークから外れることはすなわちドロップアウトすることだという脅迫概念に追われながら生きている我々にとって、なんとも象徴的なシーンである。

主演の一人である父親役の鮎川誠についてはまったく知らなかったが、息子たちと絶妙な距離感をとりながら、子供のようでありながら父親をこなしている役にぴったりなキャスティング。同時に、やはりこういうのほほんとした映画には堺雅人はよく合うなと納得してしまう一作である。








中村義洋

2016年3月1日火曜日

「檸檬のころ」 岩田ユキ 2007 ★★★


岩田ユキ
--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 岩田ユキ
脚本 岩田ユキ
原作 豊島ミホ
--------------------------------------------------------
キャスト
秋元加代子:榮倉奈々
白田恵:谷村美月
佐々木富蔵:柄本佑
辻本一也:林直次郎(平川地一丁目)
西巧:石田法嗣
金子晋平:石井正則(アリtoキリギリス)
金子商店主人:織本順吉
白田の父:大地康雄(特別出演)
大住志摩(白田恵のいとこ):田島ゆみか
吉井薫(サイドギター担当):波瑠
林尚弘(ドラム担当):島田悟志
藤山剛史(ギター担当):島崎徹
--------------------------------------------------------
のどかな風景に囲まれる地方の高校を舞台にした青春映画。好きな女の子と交わす一言でその日のすべてが決まってしまう、そんな淡い高校時代がありありと脳裏に思い返される一作である。

学校で学ぶのは授業だけではなく、人はこうして友人や異性との接し方や距離の取りかたを徐々に経験と時間を積み重ねることによって学んでいくのだと改めて思わされる。自分の思うようにいかないトライ・アンド・エラーの中で、心を引き裂かれるような思いをしながら、少しずつ周囲の人との関係性を築けるようになっていく。

そしてそれは年齢に関係なく、かならず通ってこなければいけない社会との折衝であり、傷つくのを恐れたり、守られすぎたりとして通らずに過ごしてしまえば、その分大人になってツケを払う必要に迫られるということか。

受験と大学のある場所によってその後の人生が大きく変わってしまう高校三年生。毎日一緒だった時間から、いきなり別の日常を過ごすようになる大きな断絶を受け入れることを強いられる。

楽器がうまかったり、明るかったり、かっこよかったりと、非常にシンプルな方法で恋に発展し、その関係の中から、その後より複雑に絡み合う恋愛というものに足を踏み入れていく。

主演の榮倉奈々を筆頭に、なんとも見事なキャスティング。明るく、クラスでも人気者を演じる榮倉奈々は、学校のマドンナという役割ながら、決して見た目が抜きん出てカッコいいとは言えない野球部のエースに恋をするという設定が、やたらとリアリティを増してくれる。

自分の目線からからしか見えてなかった学校という舞台には、それぞれの場所でそれぞれの人が、様々な想いを持ちながら毎日を過ごして、成長していたのだと改めて高校時代の貴重さを思わされるのと同時に、これくらいの地方都市の進学校が一番良いのではと思わずにいられない一作である。


















2016年1月10日日曜日

「四月は君の嘘」 新川直司 2011-2015 ★★★★★


この数年、いろいろなところでその噂を目にすることの多いこの漫画。とにかく評価が高いのと、既に完結していると言うことも手伝って入手して読んでみることに。

なるほど確かに凄い漫画だと納得。今までの漫画のフォーマットを飛び越えて、音楽を使ってすばらしい時間やリズムの感覚をコマ割の間に挿入してくるその方法は、多くの高評価を得ているのも十分にうなづける。

漫画で描かれるすべての要素が濃縮されたそんな物語。ピアノコンクールという多くの人に馴染みの無い世界での熱狂を、リズム、スピード、そしてゾワゾワする感じを駆使して描きながら、その舞台に立っている主人公たちも、普段の生活では普通の中学生であり、その年代の子供たちが感じるどうしようもない恋の気持ちに振り回されながら、一日を棒に振り、誰かと一緒にいても、本当に好きな誰かがはっきりしてしまっている、そんな気持ちにうまく向き合えないままに日々を過ごす。

そんないくつもの物語が非常に良いバランスで複層されており、ショパンからラフマニノフへ、そしてチャイコフスキーへと曲とともにテンポを変化させながらページをめくっていく体験を強いられる。

なんとも独特な音楽を、時間の感覚を伴った漫画体験。人気に推されてズルズルと引きずらず、11巻でスパッと終えたのも、曲の長さには適切な時間があるのだと言わんばかりの心地よさを感じることになる。

2016年1月9日土曜日

「35歳のチェックリスト」 齋藤孝 2014 ★★


この本の存在を知ったときにはすでに35歳を過ぎてしまっていたが、「念のために・・・」と自らの今までの人生の過ごし方とこれからの時間のために「人生の棚卸し」をどうするかの参考書として読んでみる。

好きな友達と遊んで、興味のある異性とデートを重ね、自分の時間とお金を自分の好きなように使える時期から、結婚をし家族ができて自分のためだけではなく、誰かのために、誰かを守るために人生を生きるようになってくる35歳。そんな時間の過ごし方の変化は、そのまま今までの人生の過ごし方を何かしら違いを求めることになる。

「誰と過ごしているのが一番楽しい時間ですか?」と問うのは、今までどおり愚痴を言い合いストレスの発散目的だけの楽しい時間を過ごす生ぬるい友人との時間ではなく、「5年後の自分にわくわくした喜びを与えてくれる」を基準にして、自らの周りで誰がその刺激を与えてくれるのか、その人と時間を過ごすことがどう自分の明日に活力を与えてくれるのかを基準とすることとする。

これは分かっているけどとても難しい。誰もが働き盛りとなる40代に向けて、昨日よりも今日、今日よりも明日の自分が職業人としてどう向上するか考えて日々過ごすのであるが、それと同時に毎日やるべきことはたくさんあり、終われるようにして目の前の業務をこなし、それに付随するさまざまな人間関係、ストレスに追い詰められ、そんな中でどうにか息抜きと気の置けない友人とあーだこーだといいたくなるのもまたこの年代の求めるところ。

「自分の出身大学を話題にすることはありますか?」では、社会にでてすでに15年近く経った今、それでも出身大学の話で自らのプライドを保とうとするのはすでに賞味期限が切れており、それよりも社会に出てから今まで自らの実績は何かをもとに人間関係を構築すべきだと釘を刺す。フロイトを引用し「人間は生まれつき、快を求め、不快を避けようとする快楽原則を本能的欲求として持っています」という高きから低きに流れやすい人の惰性に苦言をさす。

「ツイッターやフェイスブックを頻繁にチェックしていますか?」では、誰でも日常的に友人や人生で一瞬すれ違ったような人の日常を否が応でも見せ付けられるような現代のSNS漬けの社会。その中で、自らのアイデンティティを誰かとの比較、相対的に位置づけるような過ごし方をしていれば、いつまでたっても「つながっていないと不安だ」「自分の存在感を示すために発信せずにはいられない」ということに陥りやすくなると。

「知的好奇心にブレーキをかけない」では、「何かに対して興味、好奇心が持てないと、人は閉じていきます」と著者らしい言葉で読者を煽り「知的好奇心を失った時点から、老け込んでいく。年寄りくさくなります」とばっさりと切って捨てる。「本を買うことに我慢しない」では、「知的好奇心とは、何かを吸収したいと言う意欲を持てているかどうか。知的体力は、若いころの差よりも、むしろ35歳以降をどうすごしていくかでどんどん差が開いていく部分。読書量。それから何かを習う。学ぶこと、自分へ投資し続けることをやめてしまうと、人間、頭打ちになってしまいます」とたたみかける。誰もが分かっていながらも、疲れていたり、子供の相手で忙しかったり、ネットの動画をついつい見てしまったりと、読書というある種の時間と集中力と身体の拘束を必要とする作業よりも、現代社会で他に幾らでも無料で得られる受動的で享楽的な時間の過ごし方についつい流れてしまうことを反省する。

「目から鱗」のことは決して多くはないが、35歳と自分の将来を心配して本気で自分の毎日の過ごし方に対して苦言を呈し、怒ってくれる人がいなくなる年頃にとって、こうして耳が痛いと思う言葉を胸に刻んで先の人生に向けて、今までの、そして現在の自分の日常の過ごし方を振り返る良いきっかけとなる一冊であろう。

----------------------------------------------------------
■目次
はじめに

【第1章】人は35歳で大人になる
1)35歳で何が変わるのか?
2)35歳は「大人」になる最後のチャンス
3)「35歳から」をデザインしよう
コラム あの人の35歳をチェックする 池井戸潤/堀江貴文/タモリ

【第2章】不安を自信に変える作法
1)人生の収穫期への準備をしよう
2)今の会社で「攻め」の姿勢を貫こう
3)30代の仕事力チェック
4)35歳、「できる人」と言われるには
5)できる人ほどポリバレント
コラム あの人の35歳をチェックする ビートたけし/安藤忠雄/奥山清行

【第3章】人生の迷いを吹っ切る技術
1)20代と30代で「幸せ」は激変する!
2)あなたが本当に「急ぐべき」リアルな理由
3)幸せを更新しよう
コラム あの人の35歳をチェックする ヤマザキマリ/菊間千乃

【第4章】35歳からの心技体の整え方
1)ビジネスマンにとって体力とは何か?
2)「疲れさせない」技術
3)ビジネスは「対人体力」で決まる
4)知的好奇心にブレーキをかけない
5)35歳で「真の花」を咲かせよう

おわりに――なぜ35歳なのか。
あとがき
----------------------------------------------------------

2015年12月16日水曜日

「長い散歩」 奥田瑛二 2006 ★★★★

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 奥田瑛二
原案 奥田瑛二
脚本 山室有紀子
--------------------------------------------------------
安田松太郎:緒形拳
横山真由美:高岡早紀
横山幸(サチ):杉浦花菜
ワタル:松田翔太
安田節子:木内みどり
安田亜希子:原田貴和子
水口浩司:大橋智和
アパートの管理人:山田昌
医師:津川雅彦
刑事:奥田瑛二
--------------------------------------------------------
最近はその娘二人の活躍が非常に目立っている監督で俳優の奥田瑛二。決して派手な物語ではないが、主演の緒形拳の演技同様、ゆったりとしているが、じっくり染み込むような味のある時間を描く名作である。

東海地方を舞台とし主に岐阜県の多治見市、郡上市、美濃市、中津川市などでロケが行われたと言う作品は、全編に渡ってとても美しい自然が常に画面の中にあるつくりになっている。

名古屋の高校で校長として勤め上げ、定年退職した主人公の松太郎(緒形拳)は、亡くなった妻の葬式を済ませ、関係性のうまくいっていない娘と喧嘩別れするかのように家をでて、一人小さなアパートでささやかに新しい生活を開始する。

そのアパートで隣の部屋に住むシングルマザーの真由美(高岡早紀)に虐待を受けつづける小さな女の子幸(杉浦花菜)と出会う。居た堪れなくなり、彼女を守るために連れ出し、結果小さな女の子と二人、かつて見た風景を探す旅に出かけることになる。

小さな女の子を誘拐犯として警察から追われながら、今まで省みることの無かった妻や娘と言った家族に対しての懺悔の意味を持った旅であり、どうしても途中で終えることはできない松太郎。そしてその途中、ふらふらと放浪する大学生のワタル(松田翔太)と出会い、海外で生まれ育ち、生と死の考え方がどうも今の日本の社会ではしっくりこず、うまく歩調を合わせて生きられない悩みをもつワタルも加わり、三人は山の奥へと旅を続ける。

虐待によって感情や表現を失っていた幸が、徐々に松太郎に見せる歳相応の振る舞い。最後は笑顔で拳銃の引き金を引くワタル。旅を終え、警察に出頭する際に幸を抱きながら泣き崩れる松太郎の心の中の風景。

とても映画らしい時間の流れる映画であり、キャスティングもロケ地選びも非常に素晴らしい。タイトルの通り、全編に渡って非常に多く「歩く」シーンが描かれる。なんでも「効率」と「スピード」の求められる忙しない現代。その中に目的を持って、方向を失わず、自分のペースを理解して、決してそれを乱さず、一歩一歩進むことは、目的地に少しずつ近づくことであるのだと、改めて認識することになる名作であろう。
奥田瑛二







2015年12月13日日曜日

「フィッシュストーリー」 中村義洋 2009 ★★

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 中村義洋
原作 伊坂幸太郎
脚本 林民夫
--------------------------------------------------------
出版社の社長(1953年):中村有志
ハーフじゃなかった男(1953年):岡田眞善
岡崎の叔母(1953年):浅野麻衣子
繁樹(1975年:「逆鱗」のリーダー兼ベース):伊藤淳史
五郎(1975年:「逆鱗」のヴォーカル):高良健吾
谷(1975年:レコードプロデューサー):眞島秀和
雅史(1982年:気弱な大学生):濱田岳
健太郎(1982年 / 1999年:雅史の友人):山中崇
晴子(1982年:予知をする女子大生):高橋真唯
運命の女性(1982年):大谷英子
スズキ(1999年 / 2009年:シージャック犯):芦川誠
タナカ(1999年 / 2009年:シージャック犯):野仲イサオ
麻美(2009年:シージャックに巻き込まれた女子高生 / 2012年:宇宙飛行士):多部未華子
正義の味方(2009年:コック):森山未來(少年時代:岩井進士郎)
レコード屋店長 / 岡崎の息子(2012年) / 岡崎(1975年):大森南朋(二役)
谷口(1999年 / 2012年):石丸謙二郎
--------------------------------------------------------
しっかりと描かれているそれぞれの物語の年代を頭に入れていかないと、流れを追いかけるのが結構な物語。結局6つの時代の話が一冊の小説「フィッシュストーリー」にて繋がっているという物語。

1953年に海外の小説を翻訳して出版したいという若者と、やっと見つけた翻訳者による訳が飛んでもない出鱈目で回収されることになった小説。

1975年にはなかなか目の出ないバンド「逆鱗」が最後の一曲だけと自分達の好きな音楽で望む録音。そしてその曲が「フィッシュストーリー」。

1982年では田舎に住む大学生が合コンに向かう車の中で、都市伝説としてある曲の間奏部分に女の声が録音されているとカセットテープでかける曲が前出の「フィッシュストーリー」。

1999年では預言者によって「ノストラダムスの大予言」し示された最終日だと煽られた大衆が浜辺に集り最後の日を迎えるが、その翌日も綺麗に太陽が昇ってくる。

2009年には修学旅行中の女子高生が寝過ごすことでフェリーから降りられず、そのまま残された船中でシージャックに合うが、シェフとして同乗していた男が小さなころから父親に「お前は正義の味方になるんだ」と育てられており、悪者をやっつけて助かることに。

そして2012年。巨大な彗星が地球に近づき、街中は閑散としてこの世の終わりを迎えようとしている中、レコード屋に集る男たちは「フィッシュストーリー」の曲に耳を傾ける。テレビで流されるニュースでは、ある日本人女性化学者が解き明かした計算式によって発射されたロケットが見事に彗星に命中して危機を逃れることに。その科学者が2009年にシージャックされた際の女子高生。

という流れを時間を飛びながら描いていくので、背景を知らずに映画で始めてみるにはかなり難易度が高いのでは?と思う一作。最近多くの邦画に出演してすっかりお馴染みの顔となった濱田岳、多部未華子、森山未來、大森南朋らの安定した演技によって、突拍子も無い話であるが破綻せずに見終えることができる。

「アヒルと鴨のコインロッカー」に続いて伊坂幸太郎原作の映画化を手がけた監督の中村義洋。後に「ゴールデンスランバー」も撮影することから、伊坂幸太郎といえば、中村義洋のような感じになったが、恐らく小説を読みながら画が浮かんで気安いのだろうと想像する。

斉藤和義による主題歌「FISH STORY」は劇中バンド「逆鱗」の名によって発売されるが、これもいかにも映画全体に流れる不思議な雰囲気を漂う良い曲になっており、1982年のロケ地となった神奈川の厚木方面に向かう際には、ぜひともこの曲をかけて80年代の雰囲気を味わいたいものである。
中村義洋