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2016年11月7日月曜日

コンサート 「J.S. Bach」 サント・シャペル 2016 ★★★



朝から歩き通してホテルに戻って携帯の歩数計を調べると、驚きの2万5千歩。そりゃくたくたになる訳だと思いながらも、ネットにアクセスし調べるのは、今朝訪れたサント・シャペル(Sainte-Chapelle) 内部に行われるコンサートのチケット。事前予約締め切りギリギリに購入を終了し、寝過ごさないようにと意識を保ちながら少し身体を横たえる。

切れそうになる意識を何とか保ち、すっかり暗く冷え込んだ空気の中、今朝と同じサン・ジャックの塔の目の前のカフェにて今度はエネルギーをつけるために肉を注文して赤ワインで流しこむ。「19;30開演なので19時に来てください」という案内を真面目に受け止めてしまい、言われるとおりの時間に入り口に行くと、もちろん門は閉じられ、案内はフランス語のみ。さすがに不安になり、出口に待ち受ける重装備の兵士に聞いてみると、「その内門が開くから入り口で待っていろ」と。

客らしき人が来ては同じようなリアクションを取るだけで、悪戯に時間は過ぎても一向に門は開かず。スケジュールとは守るためのものではなく、あくまでも目安なのだろうと自分に言い聞かせながら、凍えるような寒空のした待つこと20分。やっと門が開き、20人ほどに増えていた客とともに中に。朝来ているばかりなので勝手知ったもので螺旋階段を上り外から差し込む光がなく、黒い壁として空間を囲う夜のステンドグラスの姿を眺めながら、よりステージに近い高いチケットの席と、より安いチケットの後ろの席に分けられ、さっさと後ろの席の最前列を確保して、外よりはましだがほぼ外という寒さの中開演を待つことに。

拍子抜けするほどほぼ時間通りに、バイオリンを片手にアーティストが登場し、当然のごとくフランス語のみで説明を少々し、早速演奏へ。暗く空に消えるいるような背の高い教会堂の空間に、バイオリンから奏でられた音楽が一つづつ上昇していくのが見えるような何とも不思議な演奏。1時間ほどの演奏であったが、13世紀この教会ができてから800年近い月日が流れているが、恐らく様々な時代においてもこうしてここで音楽を共有した人々は、同じような空間体験をしたのだろうと想像を膨らませていると、寒さを感じることなくあっという間に時間が過ぎてしまった。

当然のことながらアンコールも無いあっさりした終了であったが、先ほどよりも一段と寒さの増した夜のシテ島で、せっかくだからとライトアップされたノートルダム大聖堂を見上げて足早にホテルへと帰ることにする。


パリ1区












2013年10月18日金曜日

コンサート 「チョン・キョンファ(Kyung Wha Chung) バイオリン(violin) 」 NCPA 2013 ★★★★

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プログラム
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 「春」 Op. 24
グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調 Op. 45

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第27番 ト長調 K. 379
セザール・フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
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幾つになっても、ある分野に関して圧倒的な知識を持っていて、しかもそれを楽しんで生きている人から影響を受けるのはとても楽しいものである。そういうメンターを持つ人生は豊かだと思わずにいられない。

北京に住むようになってから知り合ったご夫婦のサンタクロースの様な容姿をしたスコットランド人の旦那さんはオペラや音楽といった方面への造詣がとてつもなく深く、残念ながら音楽を嗜むという高尚な家庭で育ってこなかった自分にとっては、聞いていてゾクゾクするなど心地のよさは理解できるが、音の細さや正確さなどといった鑑賞の仕方はいまだ良く分からないが、それでも「芸術の秋だ」と言わんばかりに、足しげく中心地のオペラハウス(NCPA 国家大剧院)まで通っては今シーズンのプログラムをチェックし、お勧めの演目を教えてくれる。

そんな訳で秋の夜長を少しでも楽しむために、彼らのお勧めからとまた以前から見てみたかった演目などいくつかをピックアップし、先日の日曜日にオペラハウス(NCPA 国家大剧院)まで電動車を飛ばしてチケットが残っているかと願いながら購入できた今日のコンサート。

本来は昨日もPinchas Zukermanというバイオリニストのコンサートを聴きにくるはずだったが、急にオフィスでクライアントさんを踏まえてディナーに行くことになり、そちらに顔を出すためにチケットを無駄にしてしまっていたが、「今日こそは・・・」と19時あたりにオフィスを抜け出そうと画策してはいたものの、金曜日ということもあり、毎月一度行われているオフィスでのハッピー・アワー。オフィスを去るメンバーへのフェアウェルと新しくオフィスにやってきたメンバーの紹介を兼ねた簡単なパーティーが突然行われることになり、「早く始まれ・・・」と心の底から願いながらも、インターン含め各スタッフがここでどんな時間を過ごしたかというスピーチに懐かしい時間を思い出しながら時間を見たら既に19:30・・・

スピーチも終えて、各人が好き好きにビールを飲みながらスナックを摘んでいる間を「オペラに視察だ!」とかけ抜けて、何とか間に合えと電動スクーターを飛ばす。

オペラハウス(NCPA 国家大剧院)について、地下の自転車置き場にスクーターを置いて中に入るが、残念ながら最初の曲が始まってしまっていてインターミッションまで入れられないという係りの女の子の言葉に従い、ホワイエに設置されているモニターで中の様子を伺うと、なかなか熱の入ったベートーヴェンを演奏しているようである。

さて、本日のコンサートだが、チョン・キョンファ(Kyung Wha Chung 鄭京和) という韓国人の女性ヴァイオリニストのコンサート。後ほど、スコットランド人のメンターから教えてもらった内容によると、何でも指の怪我によっての5年近いブランクを経て昨年から再度表舞台に帰ってきた有名ヴァイオリニストだという。ハッピーアワーの時にも韓国人のスタッフに彼女を知ってるか?と聞いたところ、「もちろん知っている。しかし10年前が彼女のピークだった」などと教えてくれた。

そう考えると、日本人ヴァイオリニストの名前を言われ、彼女のキャリアがどうなっているかなんてとっさに答えられるかと思うとなんとも自らの音楽的教養の低さにげんなりするが、今出来るのは一刻も早く中に入り、迫力のありそうな演奏を生で体験すること。

一時間弱でインターミッションとなり、一番安かった3階席の自らの席を確認し、コートを置いて友人夫妻に電話して階下で合流する。「建築家として生きていたら19:30に軽く軽食を済ませてプログラムを見ながら演奏を待ちわびる、なんていう日常はいつまでたっても成し遂げられないだろう」ととりあえず遅刻が個人ではなく職業に起因することを伝え、前半の感想を聞いてみると、「とにかくベートーヴェンが素晴らしかった。始めは拍手を止めない観客に対して機嫌が悪かったようだが、徐々に演奏も乗ってきたらしい」と教えてくれる。

後半もぜひ素晴らしい演奏を続けて欲しいと願いながら、後ほど再度ここでの合流を誓って自分の席へとかけ戻る。オーケストラと違って、ステージにピアノとその横に寄り添うように一人立つヴァイオリニスト。何百人もの観客の期待と視線を一手に受け止め、そして自らの身体を使って発せられる高貴な音色で彼らを唸らせる。

正直、こういうコンサートで何がいいのかはまだよく分からないが、それでもフランクはとても力強く、グイグイと会場を巻き込むかのようなダイナミックな演奏に久々にゾクゾクする感じを味わえた。その後、寄せては返す波の様に何度も出ては戻るアンコールの拍手と演奏。見た感じ機嫌も随分よくなってきたようで、笑顔で「では、シューベルトを」といいながら、日本人の自分にもCMで馴染みのある曲を披露しとても楽しめた。

そんなこんなを繰り返し、「これが本当の最後よ」と最後の1曲が終わった時にはすっかり会場は彼女の虜となっているのが感じられた。大きな大きな拍手の嵐の中に消えていく二人の音楽家。これはいいものを見せてもらったとなんとも言えない幸福感に包まれる。

荷物をまとめ、合流するために階下に下りていくと前方に見知った顔が。プラハ・フィルハーモニーの時にも一緒になった有名中国人建築家の知り合いであるURBANUSのワン・フイ(Wang Hui)。今回はお母さんと来ていたらしく、お母さんにも挨拶をさせてもらっていると、「VIPカードを持っているから安くチケットを買えるので、行きたい演目があったら教えてよ!」と声をかけてくれる。

「この時間にお母さんを連れてコンサートに来れる建築家も居るんだな・・・」

と少々感心しながら、それでもそのレベルになるには相当時間がかかりそうだと改めて思い直して二人に「良いコンサートでよかったですね」と挨拶をして別れ、知り合いの夫婦と合流する。

各々興奮気味に感想を言い合いながら、持って来てくれたプログラムを一緒に見ながら、次はどれに足を運ぶかと相談しようとするが、流石に11時近くなってしまっているので、改めて週末にディナーでもしながら相談しようということで別れ、頭の中で何度も音楽を復唱しながら靄がかかってきた天安門の前を電動スクーターで飛ばして家に向かうことにする。