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2012年11月8日木曜日

柳川 ★


大宰府を離れ、日が暮れる前になんとか辿り着こうと高速から外れている立地を恨みながらも田舎の一本道をひた走り、ところどころに見えてきた水郷の姿にエリアに入ったことを感じる。

恩田陸ファンならば、「月の裏側」で描かれるなんともミステリアスでありながら、何かが起こりそうな何とも言えない独特の雰囲気を持った街の風景を頭にインプットしているはず。

事前にチェックしておいた航空写真でも、明らかに普通の都市とは違った構成に心を躍らせて、これは何か見たことの無い風景が待っているはずだと心を躍らせアクセルを踏みしめる。

街の一割が掘割と言われる水路で覆われ、その水路をゆたりゆたりといく船の上では船頭が竹竿を巧妙に操る川下り。水面に反射した光が照らし出すのはまめこ壁のテクスチャーと、ベニスや蘇州とは違った日本の水の都としての風景への妄想が止まらない。そして町中に漂う名物「うなぎ」の匂い・・・

そんな訳で完全に妄想が現実を追い越してしまい、辿り着いたのは現代日本を体現するような観光資源を持ちながらもある時期に成熟を止めてしまったような地方都市の代表の様な姿。首都圏の校外に広がるのっぺりした平坦さとは違って、その先に海原の広がりを感じさせる独特の平坦さがその寂れをより広げるかのように。

徐々に暮れる夕日が照らす川の水を眺めながら、それでもかつて日常であったはずの保存された街並みを歩いていると、下校途中の小学生や中学生がおしゃべりしながら、川辺を歩いていく姿を目で追うと、道を曲がった先に見えてくるのは日本でどこでも見るコンビニのある風景。

ここにしかない風景にどこにでもある風景が挿入されて、美しい街並みは観光客を呼ぶための舞台として「保存」され、生きることを止めてしまった日本の街並み。便利になることを経験してしまった人類に、後戻りすることは強制できないが、この静かに流れる水のある平坦な風景に見合う現代の風景が本当は作れるはずだと思いながら、ディズニーランドとして北原白秋がいたころの街並みに戻すのではなく、人口が減っていくからこそできる、この街の本当の意味での現代の街並みがいつか現れることに期待する。