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2019年10月13日日曜日

季節の風物詩 一級建築士試験2019 設計製図 「美術館の分館」

今年もそろそろ冬が近づいてきたなと思っていたら、またまた過ぎてしまった一級建築士製図試験。新たね元号で迎える第一回目の製図試験だなと、国はこの新しい時代にどんな建築の在り方、社会の在り方を問うてくるのかと、サイトを巡って調べてみると、今年はなんと「美術館の分館」。

H23 2011「介護老人保健施設」
H24 2012「地域図書館」

H25 2013「大学のセミナーハウス」
H26 2014「温浴施設のある道の駅」
H27 2015「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」
H28 2016「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」
H29 2017「小規模なリゾートホテル」
H30 2018「健康づくりのためのスポーツ施設」

令和元年 2019 「美術館の分館」

ストック型社会に入った日本では、新しい公共施設を建てる時代はとっくに終えて、20-30年たった既存の施設を改修しつつ、社会変化に伴って分館を付随されることで対応していく。なんとも、国交省もよく考えてなと思わずにいられない課題である。

合格者発表を12月に控えているために、 建築技術教育普及センターホームページではまた解答例が掲載されておらず、どこか他で解答例の図面を探そうとするが、無料で公開されているところは見つからず、これも時代だなと思いながら課題文を読み込みながら、普段から美術館の設計に関わることも多いので、解答例がアップされることに再度チェックしなければと思いながら、久しぶりに展覧会にでも足を運ぼうかと想いを巡らせる。

2018年10月14日日曜日

季節の風物詩 一級建築士試験2018 設計製図 「健康づくりのためのスポーツ施設」

あっという間に一年が巡ってきてしまうと実感するのが、この秋の風物詩。
今年は何かというと、 「健康づくりのためのスポーツ施設」。2020東京オリンピックに向けて、国をあげてのスポーツ政策に見事にのった課題である。

H23 2011「介護老人保健施設」
H24 2012「地域図書館」
H25 2013「大学のセミナーハウス」
H26 2014「温浴施設のある道の駅」
H27 2015「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」
H28 2016「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」
H29 2017「小規模なリゾートホテル」
H30 2018「健康づくりのためのスポーツ施設」

戸建てが立ち並ぶ住宅地、その中に廃校をなった小学校。老朽化し、解体された屋外プールの跡地に、全天候型のスポーツ施設を建設し、高齢化が進む地域の健康維持に役立ち、更に地域の世代間交流の拠点として期待される、市長肝いりのプロジェクトという感じで、縮小社会に突入し、超高齢化社会になり、社会保障費の高騰の問題を、なんとか健康寿命を高めることで手助け出来ないかと、官僚の鳴き声が透けてきそうな課題文を読むことになる・・・・

課題文と解答例を見ていると、恐らく過去数年の課題の中でも、設計として一番難しいのでは思わざるを得ない。 天井高の異なり、無柱空間となる 多目的スポーツ室と温水プール室をどこに配置するかで全体の骨格が決まり、それに付随した更衣室やシャワー室への動線。それとともにスポーツ施設ならではの、上下足ラインの切り替え、さらに地域への振動及び騒音対策など、口うるさい近隣住民のクレームが電話が耳の奥で聴こえてきそうな気がしながら、建物周辺に植えられた植栽の意味を理解する・・・

2017年10月8日日曜日

季節の風物詩 一級建築士試験2017 設計製図「小規模なリゾートホテル」


これだけはチェックしようと、カレンダーに予定としていれている季節の風物詩。毎年、国が見据える現在と未来の姿から導かれ、建築家として社会に関わるために、どのような理解が必要だとつきつけられるような製図試験の課題。

H23 2011「介護老人保健施設」
H24 2012「地域図書館」
H25 2013「大学のセミナーハウス」
H26 2014「温浴施設のある道の駅」
H27 2015「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」
H28 2016「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」

高齢化社会、地方創生、生涯教育、地域拠点、コンパクトシティ、子育て支援と国の政策に歩調を合わせるようにして出題されてきたこの数年の設計課題であったが、今年は

H29 2017「小規模なリゾートホテル」

ということで、年間訪日者3000万人を超え、国の収益において大きな割合を占めるようになった「インバウンド」が今年のターゲットということか。

解答例などを見てみると「傾斜地に」という条件と、車寄せなどの全面動線を考慮し、 客室 の配置から全体の計画がざっくり決まってくるという感じのようである。客室14室程度のホテルだと、かなりの高級感を感じそうな気がするが、来年はこの規模に絞り、宿を探して尋ねるのもいいかなと思いながら今年の試験を総括する。

2016年10月9日日曜日

季節の風物詩 一級建築士試験2016 設計製図 「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」

秋が深まるとやってくるこの季節。昨年は高齢者、そして今年は子育て世代。年末のHNKスペシャル並に世相を感じることができる風物詩。

H23 2011「介護老人保健施設」
H24 2012「地域図書館」
H25 2013「大学のセミナーハウス」
H26 2014「温浴施設のある道の駅」
H27 2015「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」
H28 2016「子ども・子育て支援センター(保育所、児童館・子育て支援施設)」

中核都市の市街地で、公立の小学校か公園に隣接する敷地に、子どもの健全な育成にふさわしい子育て支援センター。 保育所、児童館、子育て支援施設を併設するというから、乳幼児のためのほふく室から食事を出すための調理室、天井高を高めにするプレイルームまで考慮して設計をしなければいけないから、かなり難易度の高い課題であるが、これから十数年はこの様な建築が必要になってくることは間違いないであろう。

解答例を見てみると、屋外遊技場との関係で保育室関係は一階で決まりで、天井高の高いプレイルームとそれに併設して屋上庭園の配置からほぼ全体の計画が決まってきそうな感じであろうか。設計していた保育施設併設の語学学校もやっと竣工を迎えた今年を振り返る、タイムリーな課題であった。

2015年10月11日日曜日

H27 2015 一級建築士製図試験 「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」

建築家として日々実務に追われていると、どうしても目の前の仕事だけに視界を覆われてしまい、日常手がけている内容の範囲にだけ頭を奪われ、その他の多くの分野に関して知識や技術を得ることなく過ぎてしまいがちになる。

そんな避けがたき日常にある楔を打つためにも、現在国がどの様な知識を求め、どのような新しい事象が浮かび上がってきているのか、それを知るためにも一年に一度、国家資格である一級建築士製図試験の出題問題と、その要求されている機能の内容、そして模範解答を見てみるのは、非常によい勉強になるものである。

という訳で今年は問題はというと、「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」。超高齢化社会の現代日本において、これ以上は無いんじゃないかと言える現代の社会問題を内在した出題。

設計課題の内容を見てみると、今後はこのような高齢者向けの施設が、建物の中でも住宅と一体化したり、また郊外のひっそりとした場所に隔離されるような存在になるのではなく、街の中で包括していこうという、そんな大きな意図を感じ取ることができるようになっている。

機能室を見ていくと、デイサービスにおける機能訓練質や機械浴室など、家庭の中で介護が必要な家族がいる人には、馴染みとなっているスペースが高齢者な要介護者の動線を考慮して配置されている。この様な施設に対する要求は今後より一層増えていくことが容易に想像がつき、と同時に、これらのことを全く知らずに設計に関わることを避けるためにも、それらの求められる機能と、解答に見られる配置方法を見ながら、今後の日本の風景を想像することにする。

2014年10月12日日曜日

H26 2014 一級建築士製図試験 「温浴施設のある道の駅」

日常の生活の中で気がつかずに当たり前だと受け入れ始めていた風景の変化が、こうして試験の課題問題としてつきつけられると、「社会が変わりつつあるんだな」と改めて思うことになる。

この10年近くで地方都市に出向くと非常に多く目にすることになった新しい建築のタイポロジー。その一つが「道の駅」。そしてもう一つが「スーパー銭湯」。その二つを掛け合わせるようにして作られた今年の設計課題「温浴施設のある道の駅」。

どんな地方都市に行っても、街を出ようとすると幹線道路沿いにポンと出てくる同じような建物。看板をみずともなぜだかそれが道の駅だと分かってしまうほど、ある型ができてしまっている。スーパーもコンビニもあまりない地域においては、逆に道の駅が生活のインフラとして機能し、その為に通常の道の駅から更に発展し、フードコートを併設するなど並みのスーパーよりも充実した内容にまで変容したものも出てきている。

対して「スーパー銭湯」。こちらも訪れた街で少し時間ができたからと訪れてみると、全く知らない街に来たはずなのに、中の風景はほとんど同じ。まるでインフラと化したコンビニに来ているかのような錯覚に陥ることもある。そしてどこの街でもこの「スーパー銭湯」が流行っていないのをみたことがないほど、どこでも都市の娯楽のかなり上位に位置するようになっている。

この様に両者に共通するのは、その登場から数年が経ち、人々がそれに対してどのような反応をし、またどの様に使っていくかのやり取りを重ねながら、徐々に最適な型へと収束していった結果、こうして多くの場所で都市の見えない要求に適合し、ある一定の型として風景の一部になっていったこと。

これはある意味恐ろしいことである。かつては限られた技術や素材、工法がその土地固有の風景をつくりだし、調和の取れた街並みや心を和ませるような景色を作り出していた。しかし、現在はどこにいても瞬時に情報が共有され、人も物も境界の無くなったフラットな世界。その現代においても風景まで昇華する「型」となりうる建築のタイポロジーが生まれているということ。そんなことに思いを馳せずにいられなくなる課題文である。


さて、そんな設計条件を詳しく見ていくことにする。
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この課題は、ある地方都市の湖畔の景勝地に建つ􌓕道の駅」を計画するものである。本施設は、休憩、情報発信等のサービス施設に加えて、地域振興や地域住民の交流の場となるように、地域の特産品の販売を行う物販店舗や飲食ができるフードコートのほか、地域住民も利用できる温浴施設を設けるものとする。また、敷地に隣接する駐車場は、本施設の利用者だけでなく、湖畔を散策する者も利用することができるものとする。
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そして模範解答を見てみると、つまりは温浴で健康を維持し、フードコートで食を満たし、そして道の駅で消費をしていくというまさにワン・ストップ・サービス。コンパクトへという地方都市の流れに乗って・・・という思いもなきにしもあらずなのだろうが、へ敷地図に描かれた広大な駐車場をみると、実家のある地方都市にも広がる同じような光景が脳裏に浮かぶようである。

この点が示唆するのは完全に車社会となり、車無しでは生活が成り立たなくなっている地方の在り方。お風呂から眺める遊歩道の先に広がる湖畔の風景。それがこの施設のあり方をせめて差異化してくれるのだろうかとなんだか寂しい気持ちになりながら、今年の試験の総括を終えることにする。

2013年10月13日日曜日

H25 2013 一級建築士製図試験 「大学のセミナーハウス」


中国の建国記念日を祝う国慶節は毎年10月の頭から始まる。その時期に合わせて日本に戻ってくると季節の風物詩の様に目に飛び込んでくる風景がある。それが、大きな製図板を脇に抱えて緊張した顔つきで街をいく人の姿。

毎年一度行われる一級建築士試験。自身が苦しんで受験し、なんとか合格したのはもう何年も前になるが、毎年この時期になると緊張と不安で一杯一杯になっていたあの頃を思い出す。間違いなく人生で一番勉強し、製図板に向かっていたあの頃を。

建築家という職業は重力を扱う構造や、外部環境を調整する設計の仕方など根本的には変わらない知識の部分に対して移り変わる社会と共に要求される建築の内容も変わり、それに対して常に知識と技能の更新を行っていかないといけない職業である。

一級建築士という資格は、国土交通大臣が認定する国家資格であり、国があなたには社会に対して責任を果たす能力があると認定してもらうものであるから、それを判断する試験も巡り巡って国交省のお役人が作る事になる。そして彼らが毎年出してくるのは、現代を生きる建築家として必要な能力の有無を確認する問題。

そういう訳「試験」という緊張感を伴う場には上らなくとも、やはり国がどういう社会問題を重要視し、建築に関わる問題だと捉えているのか?またそれに対してどのような解法もしくは知識が必要とされているのか?を注視していくことは、建築家の職能としてとても必要な事だと思っている。

そんな訳で近年出題された課題とその模範解答なるものを眺めては、どんなことが今の一級建築士試験で問われているのかを頭に入れるようにする。

H24 一級建築士製図試験 「地域図書館」

H23 一級建築士製図試験 「介護老人保健施設」


そして今年は、「大学のセミナーハウス」。

「介護老人保健施設」、「地域図書館」と言わば「高齢化社会」、「縮小都市の再編成」という現代的な問題が見え隠れする過去二年の出題に比べると、社会的要素が見えにくい気がする今年の課題内容。

それでも何かあるはずだと、昨年同様色々とHPを調べてみては知識を更新していくことにする。

一級とるぞ!.Net

日建学院

課題の意図するところは、有名大学ですら学部によっては定員割れを起こすようになってきた現代。つまりは「少子化時代」。各大学は生き残る為に様々な手を使いながら魅力ある大学、魅力あるカリキュラムの創造を努めている。と同時に、「生涯教育」が叫ばれるようになって久しい現代には、大学が若者だけの場ではなく、多くの世代にとって開かれる場になり始めている時代において、大学経営の助けとなる大学内部の施設としての「セミナーハウス」の在り方を問うという内容のようである。

学生だけでなく社会人も利用することを想定され、ゼミなどで宿泊をしながら研修会を行うなどの様々な使われ方を想定される機能を持つ。その為に、同時に様々な人々が利用できるようにセミナー部と宿泊部の区分をはっきりされることが必要となり、利用者と管理者の動線の区分、衛生状態を守る為の動線計画、そして管理が容易なことなど、様々なことを同時に考慮する必要のある施設となる。

セミナー室は1.5㎡-2㎡/1人を元に面積計算をし、勾配屋根を利用してエントランスに背の高い空間を配置。その勾配屋根部分の構造計算を助ける為にスラブ厚を多めにとってやり、アトリエなどの部屋は室内環境を考慮して空冷ヒートポンプにする。

環境への配慮は自然採光をできるだけ取れるように開口部を広く設け、日射遮蔽と空調エネルギーの削減の為に日射遮蔽ルーバーなどを設置。ガラスはもちろんLow-E複層ガラスで外部負荷を低減させる。

大よそそんなところなのかと想定する。製図板の黒い入れ物を持って予備校に通う必要のなくなった週末に、久々に街に出ると世間はこんなにも週末を満喫し、楽しそうに街に繰り出しているのかと唖然とする半年間という時間を必死にこの試験に向けて費やしてきた多くの若者がいるのだろうと勝手に想像する。

彼らも年末には見事に足の裏の米粒に手が届けばいいなと思いつつ、自らも職能を高める為に、ひたすらに前に向かって進んでいかなければと改めて気持ちを引き締める。

2012年10月14日日曜日

H24 2012 一級建築士製図試験 「地域図書館」


毎年この季節を前にすると、街中で大きな製図版を持ち歩いている人の姿が見かける。恐らく一般の人は何も気にすることが無いのだろうが、経験者達は皆「がんばっているんだな」と、かつての自分の姿をダブらせることだろう。

姉歯事件以降改正された建築基準法や関連法と共に、厳しくなった試験内容に苦しめられた世代にとっては、あの試験前の苦しみの日々は決して忘れることは無く、目の前の大きな黒い製図版バッグは初心を思い出させてくれる秋の風物詩となった映る。

昨年の老人介護施設に続き、今年は市町村レベルで住民に直接サービスする図書館である「地域図書館」という地域の中で重要性を増してきた機能を持つ内容が出題された。

出題内容と模範解答を見て、今年の傾向と最新の技術的傾向を研究しようとネットをいろいろと探してみるが、どこもなかなかケツの穴が小さいというか、何でもかんでも「会員のみに閲覧可能」などと、やたらと商売っ気を出してくるところばかり。

模範解答をいち早く正々堂々と無料で掲載することの方が、本当は一番の宣伝効果になるのでは・・・と思いながらこちらは偉くキップのいい下記のサイトより資料を集める。

一級とるぞ!.Net

日建学院

基本的には2方向道路接地、2方向公園接地の敷地で条件は南メインの西側サブのエントランスで、東の道路に面して通用口。図書館と言う公共性の高いプログラムだけに公園からのアプローチ考慮。

一般開架スペースを含めた図書部門、小ホールを含めた集会部門、カフェを含めた共用部門の3部門のゾーニングをごっちゃにしないようにして、吹き抜けを適切な位置に配置してそれに絡めて空調計画するのと、指定のない小ホールを1,2階どちらに振り分けるかをゾーニングを連動して考えるくらいで、環境に考慮した記述面と、構造に対する理解をしっかり示すことができていれば、これといって難しいような内容ではなかったようである。

世間には決して気づかれることは無いが、今年もまたクリスマス前後に、足の裏の米粒に泣き笑う人たちが様々な思いを胸に来年を迎えると思うと、気持ちを引き締めずにいられない。

2011年10月12日水曜日

H23 一級建築士製図試験 「介護老人保健施設」

専門職に就く人は、日常業務に追われながらも、日々更新されていく技術や法律、社会情勢を片目で追いながら、マーケットの中での自分の位置を確保していかなければいけない。建築家もそんな中の一人であるのだろう。

何十年前に資格を取得して、その当時の技術や知識だけで今も営業を続けていく。そんな状況を避ける為に、各業界で様々な講習会などが開催されるのだろうが、やはり日々の業務の内容やその人の情報へのアンテナの感度によって、耳に届く情報は大きく違ってくるであろう。

新しい工法や技術、建材や法規など追い出したら際限なく、それだけで一日はあっという間に終わってしまい、なんとか定期的に雑誌や同業者、インターネットなどから自ら情報を収集し、時代にひっついていこうと皆必死に日々を過ごすこととなる。

専門職の技能レベルがこのように曖昧になってきている中、ではどのレベルが最低限プロフェッショナルとして超えている必要があるか、というのが国家資格である一級建築士試験とになるだろう。

年々変化する社会情勢と建築業界を反映して、毎年一度行われる試験には、現時点で建築家として必要だと思われる知識と技能を求める試験問題が出される。逆にそれを毎年追っていくことは、現在社会での建築の流れをよく理解する助けとなる。

そんな一級建築士試験の二次試験である製図試験が今年も先週末に行われた。今年の課題内容は「介護老人保健施設」。まさに時代を現すプログラム。

特別養護老人ホームなどの終身的に介助を行う施設と違い、あくまでも自宅での生活の復帰を目指すもので、家庭的な雰囲気を有する施設である必要があるという。

そんな事情を反映して、短中期の滞在の為の療養室と機能訓練室がメインをなり、療養室には近年ユニット型なる10人以下のユニットを中心としたものも多くなってきており、そのタイプによって各室の入所者毎の必要床面積が異なったり、廊下の必要幅が異なったりとするという。更に便所にブザーや、浴室に特別浴槽の設置が必要だったりと、特別な機能を持つ施設ならではの要項などもある。

それら建物の機能に対する知識とは別に、設備機器に関する知識も要求されて、単一ダクト方式や空冷ヒートポンプパッケージ方式だったら、それぞれ熱源機や屋外機設置の為のスペースが適切か、また各居室との組み合わせや全体の省エネ計画から見ての要点なども記述しろと求められる。

更に加え、環境への配慮も求められ屋上緑化による蒸散作用や、外壁面への熱線反射塗料塗布による蓄熱低減。外部サッシにはLow-Ehu複層ガラスを使用し熱線反射と断熱性の向上を目論み、換気設備は全熱交換器を採用し冷暖房負荷を低減する等、結構細かい事まで配慮していく必要があるという。

そんな内容をざっと見ていくと、足の裏の米粒が取れた3年前と比較しても、建物の機能以外の内容はそこまで変化していないかなという印象。

来年は一体何だろうと頭を巡らせながら、また日々の中でのアンテナを伸ばして日常に戻る。

2008年12月19日金曜日

手の届いた、足の裏の米粒

数日前、年配の建築関係者の方がこう言われた。
「私たちの時代は建築士の試験は足の裏の米粒といわれ、取っても食べられないが、取らないと気持ち悪いといっていたのだけどね」。

そして今日。本年度の一級建築士試験の合格発表があり、季節はずれの桜咲く結果となった。もちろん替え玉なしの正面突破。

いつかの会話の中に今日発表だということを覚えていてくれて、受験番号も分からないのに個人情報垂れ流しの建築技術教育普及センターのホームページで丹念に名前を探し、まっさきに電話をかけてくれた高校からの親友よありがとう。

火鍋を囲んで、北京時代さながらに祝いをしてくれた北京仲間たちに多謝。

いやー、なんにもしてないけど、なんだか幸せになりますねー。と自分のことに様に喜んでくれたロンドンの時の友達に、心を温められた。


ものを創る人間にとって、あなたはこれこれこの規模の建物を設計する資格がありますよ、という国家資格なんてものは、それこそ足の裏の米粒のものなのかもしれない。

昨晩あるテレビ番組での特集で、原油なき中東の小国の政策として「世界最高、史上初・・・」と銘打った都市開発を進めてきたドバイが、11月12日のバブル崩壊によって露呈した「建設」と「崩壊」の同時進行する、マネー経済のなれの果ての住民無き未来都市の有り様と、その街角に掲げられていたかつてのクライアントの広告を目にして、造る能力だけが建築家の資質ではなく、何を創りたいと想い、如何に建築が人を包んで空間となり、そして環境の中にどのように生かすか、そういう試験制度では決して図ることのできない眼差し方が、遥かに大切なんだと改めて実感した。

世間に向かって胸を張って建築家ですと言えるようにはなるのだが、自分に向かって自信を持ってそう言える日までの道は長そうだが、数値に置き換えることのできない建築家としてのクオリアと、同じものを見ようとしてくれる目の前のクライアントにむっすぐに向かい合うことが、唯一の近道なんだろう。