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2013年12月15日日曜日

「すべては音楽から生まれる」 茂木健一郎 2007 ★★

どうもクラシックというのは文化的にかなり高い位置にあり、小さなころから十分に「学んで」きた人達だけが理解でき、それが出来ない文化的に劣っている人たちは徐々にジャズ、ロック、ポップなどのジャンルの音楽へと分散していく。というような何とも言えない図式があるように感じている。

そもそもクラシックというのは数百年前に作曲された崇高な曲があり、それをあるオーケストラを率いる偉大なる指揮者によって演奏されたり、高名な演奏家による演奏があったりして、作曲家、指揮者、演奏家。「いったいどれを軸に聴いていいのか?」がなかなか分からず、聴いてみようかと少し足を踏み入れては全体像が見えないままに聴かなくなってしまうということの繰り返しでこの歳まできてしまった。

それがメンターとの出会いによって、流されるように生の音楽を体験するようになり、再度興味に火が着きはじめた2013の秋。折角だからと手にしてみようとした幾つかの音楽関係の本の一冊。稀代の脳科学者が一体どう音楽と付き合ってきたのかを知る一冊。

読んでみると著者は上記の定義に沿うと、完全にあっち側の人間のようで、高校時代から学祭でオペラを自分達で上演するようななんとも文化的に圧倒的な時間を過ごしてきたようで、体内に積み上げられた音楽の蓄積の厚さはものすごいようであるが、ところどころ今の自分にも響くような文が散りばめられている。
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「ウィーン・フィル シューベルトの交響曲《未完成》を聴き、「心が震えた」などと言ってしまうと、凡庸かもしれない」

「「旋律」と「戦慄」が同じ音であるのは偶然だろうか」


「絶対的な座標軸ーたとえば「喜びや美の基準」といったものさしーが自分の中にあれば、日々の難事や苦しみは、ずいぶんとやわらぐものである。あくまでも自分のものさしだ、という点に強みがある浮世の表面的なこととは関係が無い。自己の体験から生まれた独自の軸なので、揺らぐことなく自分を内側から支えてくれる」


「一瞬一瞬に生身の体で感動する事によって、人は、自己の価値基準を生み出し、現実を現実として自分のものにできる。それが「生きる」ということ」

「本当の感動を知っている人は、強い。生きていくうえで、迷わない、揺るがない、折れない、くじけない」


「新しい自分に出会いたくて、コンサート会場へ足を運ぶ。今までの自分の人生がどれくらい豊かであったかを確かめる」


「息をつめて待つ。その緊張感。能動的、主体的な感動は、自分自身の経験として残り、育まれ、確固としたものとなるのだ」


「釈迦の思想「無記」。わからないものは、わからない。わからないのなら、断定的なことを語らない」


「小林秀雄「モオツァルト」。ジェームズ・タレル 《南寺》。聴こうとすることを妨げる情報が多すぎるのだ」


「リヒャルト・シュトラウスの曲は絢爛豪華で壮大。シューベルトの歌曲 独特の温かさ。バッハの《コーヒー・カンタータ》 日々は意外と平凡で退屈だ。だが、それこそが生きるということだ。」


「議論の目的が、「証明」に帰結してしまい、そこには「感覚」の入り込む余地がなくなってしまうからである」
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長く続くものにはやはり何かしらの理由があるはずであり、クラシックもまたしかり。せっかく少しずつ身体に取り込み始めた音楽なので、楽しみながら自分なりにつかみどころの無い世界を少しずつ広げていく為に体系立ててクラシックの世界の地図を作っていこうと心に決める。

起床と共に「トリスタンとイゾルデ」で一日を始めるという著者。そこまでたどり着くには相当な時間と濃密な時間が必要なのだろうが、教養の為に知らなければいけない音楽ではなく、人生を豊かにしてくれる楽しむべきものとして日常の中に少しだけ散りばめさせていこうと「展覧会の絵」を洗面所で聞きながら朝を始めることにする。



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【目次】
第1章 音楽は微笑む
/私の中に楽器があるーシューベルト/交響曲第八番「未完成」
/人生の絶対的な座標軸
/経験は成長する
/臨界を越える音楽ーウェーバー/歌劇<魔弾の射手>
/クオリアという鍵
/音楽のクオリア
/たった一度の出会いを求めて
/音楽の女神は微笑む
/人はなにを語り得るのか

第2章 音楽との出会い
/あの静かな没我の様子ーR.シュトラウス
/歌劇「エレクトラ」
/「知りたい」という気持ち
/耳をすます
/美しきクラシックの効用
/「モーツァルト効果」
/「ラ・フォル・ジュルネ」との出会い - ベートーヴェン/交響曲第六番<田園>
/眠らないニューロンは奏で続ける
/音楽はすべての芸術をつかさどる

第3章 音楽と創造力
/まるで一つの啓示のように
/モーツァルトとザルツブルク
/作曲家の素顔 - モーツァルト/管弦四重奏曲第19番<不協和音>
/暗黒の先にある光
/天才と呼ばれた作曲家の苦闘
/盲点としてのシューベルト
/等身大のまなざし
/背中合わせの愛と悲しみ
/生と死に向き合うーシューベルト/歌曲<魔王>
/人々の生活に根付いた「森」 - シューベルト/歌曲<旅人の夜の歌>
/創造性と劣等感 - シューベルト /歌曲集<冬の旅>

第4章 音楽のように生きる
/日々と音楽ーワーグナー
/楽劇「トリスタンとイゾルデ」
/知らない自分との対面
/脳の中のシンフォニー
/人生に秘められたリズム
/嘲笑的な願望の水先案内人
/指揮者の謎
/祈りとしての音楽
/言葉と音楽
/<生>を全うする手段
/遺された「未完成」
/音楽の抱擁

第5章 特別対談 「音楽の力」-ルネ・マルタン×茂木健一郎
/ルネ・マルタン印象記ー茂木健一郎
/本物の「美」と出会える場「ラ・フォル・ジュルネ」
/クラシックをもっとポピュラーに届けたい
/ライブ演奏が持つ魅力と楽しみ
/スタッフ全員が一つの哲学を持つ
/音楽そのものが原動力となる
/最も美しい言語としての音楽
/すばらしい音楽家達との出会い
/アーティストの発言に耳を傾ける
/大衆的な音楽、民族の伝統的な音楽
/シューベルトのコンサートを再現したい
/「音楽的な道のり」を用意する
/一生残り続ける思い出を創り上げる
/すべては奇跡のために
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ルネ・マルタン インタビュー
/音楽の感動を家族で共有して欲しい
/脳の中のシンフォニーと共鳴させる
/15歳の時の自分と同じように
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茂木健一郎推薦 CD・DVDガイド

バッハ:平均律クラヴィーア組曲
グレン・グールド(ピアノ)/1962-1971年[ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル SICC-643-5,649-51]

バッハ:(ゴールドベルク変奏曲)
グレン・グールド(ピアノ)/1955年[ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル SICC-639]

バッハ:(マタイ受難曲)
カール・リヒター(指揮)、ミュンヘン・バッハ管弦楽団、エルンスト・ヘフリガー(テノール)他/1958年[ユニバーサル・ミュージック・クラシック UCCA-9028-30]

バッハ:(コーヒー・カンタータ)
クリストファー・ホグウッド(指揮)、エンシェント室内管弦楽団、エマ・カークビー(ソプラノ)他/1986年[ボリドール POCL-4780]

ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》、第6番《田園》
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/1982年[ユニバーサル・ミュージック・クラシック UCCG-3552]

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番《月光》、第23番《熱情》
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)/1970年、72年[ユニバーサル PHCP-21023]

ヘンデル・オラトリオ《メサイア》 輪DVD(日本語字幕付き)
クリストファー・ホグウッド(指揮)、エンシェント室内管弦楽団、エマ・カークビー(ソプラノ)他/1982年

ハイドン・オラトリオ《天地創造》
クリストファー・ホグウッド(指揮)、エンシェント室内管弦楽団、エマ・カークビー(ソプラノ)他/1990年[ボリドール POCL-1096/7]

モーツァルト:減額四重層曲第19番ハ長調K.465《不協和音》
ハーゲン弦楽四重層団/1998年[ユニバーサル・ミュージック・クラシック UCCG-70093]

モーツァルト:フルートとハーブのための協奏曲ハ長調K.299
ユーディ・メニューイン(指揮)、イギリス室内管弦楽団、吉野直子(ハーブ)、サミュエル・コールズ(フルート)/1990年[EMIミュージック、ジャパン TOCE-8757]

プッチーニ:歌劇《トゥーランドット》 DVD
ジェイムズ・レヴィイン(指揮)、メトロポリタン歌劇場管弦楽団他/1987年[ユニバーサル・ミュージック・クラシック UCBG-9012]

シューベルト:交響曲第8番《未完成》
ジョゼッペ・シノーポリ(指揮)、ドレスデン国立管弦楽団/1992年[ユニバーサル・ミュージック・クラシック UCCG-7007]

シューベルト:アルベジオーネ・ソナタ
ヨーヨー・マ(チェロ)、エマニュエル・アックス(ピアノ)/1995年[ソニーレコード SRCR-1615]

シューベルト:歌曲(魔王)(「ザ・ベスト・オブ・シューベルト」)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)、ジェラルド・ムーア(ピアノ)/1955-65[EMIミュージック・ジャパン TOCE-59222]

R.シュトラウス:歌劇(エレクトラ) DVD
クラウディオ・アバド(指揮)、ハリー・クブファー(演出)、ウィーン国立歌劇場管弦楽団他/1989年[ジェネオン・エンタテインメント GNBC-2002]

R.シュトラウス:楽劇《ばらの騎士》 DVD
カルロス・クライバー(指揮)、バイエルン国立管弦楽団、ギネス・ジョーンズ(ソプラノ)他/1979年[ユニバーサル・ミュージック・クラシック UCBG-1141/2]

ヴェルディ:歌劇《アイーダ》
ゲオルグ・ショルティ(指揮)、ローマ歌劇場管弦楽団/1961年[ポリドール pOCL-3923/4]

ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》
カール・ベーム(指揮)、パイロイト祝祭劇場管弦楽団、ビルギット・ニルソン(ソプラノ)、1966年[ポリドール POCG-3848-50]

ワーグナー:楽劇《ニーベルングの指輪》
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/1967-71年[ポリドール POCG-90131-44]

ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》
カルロス・クライバー(指揮)、ドレスデン国立管弦楽団/1973年[ポリグラム POCG3825/6]
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2013年1月7日月曜日

How was music?

オフィスについて、コーヒーでも入れようと給湯室に向かっていると、あるスタッフが声をかけてくる。

「How was Music?」

軽く陥るパニック。

「どうして、昨日早く抜け出して向かった先がオペラ・ハウスで、コンサートを聴いてきたと知っているんだ???」

「後ろめたさからか、抜け出る前にあるスタッフにこれからコンサートだと言ったのが伝わったのか???」

「どうして???」

などと「ダウト」はひたすら頭の中で広がりながら、「いやー、良かったよ。いい音響だったしね。」なんていいながら、「ところで、何で知ってるの?」と切り出すと、

「実は自分たち(コロンビアからの男性スタッフと、オランダからの女性スタッフの二名)も、昨晩コンサートを聴きに行っていたんだ。」と言う。

「誰か知ってる顔はいないかな?と思ってみていたら、洋介の奥さんの顔が見れたので、横を見たら知ってる顔だってね」と。

なるほど、と何故だかほっとし、その代わりに同じ時間を過ごしたもの同士であーだこーだとオーケストラについての感想など、スタッフとしてではなく同じもの好きな人間としての「会話」をし、年間スケジュールのサイトなどを教えてもらう。

土日も関係なく、ほとんどオフィスに出っ放しだと思っていたその二人が、このようにひょんな形で自分の時間を楽しんで、それが少しだけオーバーラップしていた事実を知って、これこそ文化都市の魅力なんだと深く納得しながらコーヒーをすする。

2013年1月6日日曜日

プラハ・フィルハーモニー ★★★


中学時代は自分があまりに音痴過ぎるたので、冬の音楽発表会では指揮者の位置が定位置だったと思い出す、新年初めてのコンサート。

未だに論争の続く、「不可聴音域」の問題。レコードなどのアナログ盤からCDというデジタル音源へと移行する際に、人には聴くことができないと言われている50Hz以下と、20000Hz以上の音をカットした問題。

自分なんかにはその違いは良く分からないが、音楽好き友人によればやはりCD音源はLP類には叶わなく、「音の奥行きが違う」らしい。

アナログレコードの音を

これもよく言われているが、最近ではその「聴けない」といわれてきた高音域の音楽を聴くと、人間の脳はアルファ波を出すという。そう、あの気持ちの良い状態に出るという波長である。

そんなことは理解しながらも、それでもやはり「便利」だということで、日常ではデジタル音源に浸る現代人。そんな常に緊張を強いられる身体に、低音から高温まで「不可聴音域」も含めてすべての音域を浴びせつける「生」の音楽。オーケストラ。

それを国家の威信を懸けて作り上げた、21世紀の大国:中国の首都に位置する国家オペラハウスという、音の建築でじっくり堪能する年初め。

妻の語学学校の友人で、考古学者だというスコットランド人の旦那さんと、医者をされている日本人の奥さんの夫婦に誘われて、プラハ・フィルハーモニーの新年一発目のコンサートを聴きにオペラハウス(NCPA 国家大剧院)に足を運ぶ。

中国では年末年始が休みになるが、その分のしわ寄せが次の週末に来るので、4日から8連勤となり日曜日も通常営業なのでなかなか抜け出すのに時間がかかるが、思い切って待ち合わせ時間に合わせて地下鉄に乗りながら、一体どういう人がこういう時間に余裕を持って仕事を切り上げられるのだろうか・・・と、建築家という職業の宿命に想いを馳せる。

最寄り駅の地下鉄構内でばったり妻と鉢合わせ、簡単な腹ごしらえをしてホールに向かうと、またまたバッタリと友人夫婦に鉢合わせる。年末にも音楽を聴きに来たという音楽好き夫婦だけあって、今日のオーケストラへの期待も上々な様で、とても楽しそうな雰囲気。

180元と一番値打ちな席だけあって、オーケストラの後ろという席からは、各演奏者が楽譜を捲る様子なども見れてなかなか面白い。現在、ハルビンでオペラハウスを設計している手前、数ヶ月前にこのホールの設計と音響を参考にしに足を運んだので、その効果を実際にオーケストラで体験する良い機会でもある。

19:30に時間通りに開演したプラハ・オーケストラはOndrej Vrabecという若きチェコ人指揮者に率いられ、ちょっとでっぷりした彼の表現力豊かで、動きの大きな指揮に導かれ、とてもダイナミックな演奏を奏で、期待していた以上の良さであった。そのおかげで、久々の刺激に脳も驚いたのか、すっかりアルファ波が出てしまい途中はすっかりウトウトしてしまう。

幕間にホワイエで友人と談笑をしていると、見知った顔だと見つけるのはURBANUSのワン・フイ(Wang Hui)。こちら中国を代表する有名建築家なのだが、パートナーのマーとも昔から知り合いということもあり、ザハ事務所で北京に送られた9年前からの知り合いで、いろんな建築関係のイベントでもちょくちょく会う関係。

相当なクラシック好きなようで、「これはいい仲間を見つけた!」と言わんばかりに、

「あれ、音楽好きなの?
こちらは奥さん?
こちらは友達?
そうそう、ここに来るなら年間のVIPカード買った方がお得だよ。
2月にシカゴ・オーケストラ来るよ!高いけど絶対いいよ。
4月にはムティが・・・・」

と、とても嬉しい情報を次から次へと話してくれるので、トイレに行く間もなく休憩時間の終了。

アンコールも盛り上がり、終了したのは10時というたっぷりの内容。席の場所でちょっと心配したが、音響的にも素晴らしく、演奏もパフォーマンスも素晴らしく、とても満足の行く内容だったということは、すっかり軽くなった身体の方がよく示してくれているようである。

4人で記念撮影をし、次はどれにしようか?などといいながら、地下鉄に乗り込む「初聴き」。

「数年後には、MADが設計したオペラハウスで一緒にオーケストラを聴きましょう」と約束し、やはり「手」の痕跡に勝るものは無いんだと想いながら家路に就く。

国立オペラハウスの年間カレンダー