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2013年5月22日水曜日

「レッドゾーン 上・下」 真山仁 2011 ★★★


相変わらずの壮大なる世界観。一体どこまで考えて、一冊の本を書き出しているのか?と思わずにいられない。

クリアしてもまだ続くかつてのRPGゲームの世界の様に、一つの物語の裏では、また別の壮大な物語が進行しており、それらが複雑な糸のように絡み合う。しかし決して破綻はしないその構築された世界の精密さ。

まったく違う地点から開始する、様々な人物の話としての伏線。

他の小説でも登場する魅力的な人物を脇役として登場させる手法は相変わらず見事だが、これもせっかく丹精こめて練り上げた人物像を一つの話だけでなく、大きな世界で存分に活躍させたいという親心か。

アジア屈指の買収者として名が知られるようになった鷲津政彦。かつての盟友、アランの謎の死。その場で目撃されたアジア系の女の姿。

トヨタをモデルとしていると見られる世界的自動車メーカー。気骨のある経営陣と、どうしようもない創業者一族の副社長。そこに現れる中国人の買収者。その裏で意図を引くのは一体だれか。中国の国家ファンドと香港系財閥の若き指導者。そこに現れるアメリカ系投資ファンドの総帥。

この作者の小説を読んでいると、今の自分がどれだけ矮小かを感じざるを得ない。華やかで、膨大な額の金を動かし使う男達。その中で一流のものに触れて、知識と経験を根拠に更なる高みを目指していく世界。

数年アメリカにいたからといっても、どれだけ地元に密着する生活をしていたといっても、こんな風に各地方の方言を交えて流暢に英語を使い分け、中国語を解してビジネスを展開していくのは、やはり小説の世界だとは分かっていても、そんな超人のような才能を持った人もこの世の中にいるんだろうなと想像する。そして自分との距離に思いを馳せる。

金融の世界が、「金が全てだ」という価値観だけではないという人間が多くいるんだというメッセージは強く伝わってくるが、また一冊と読めば読むほど、住まう世界で見える風景の違いがこうまでもとはと思わずにいられなくなるのもまた事実。

国境が溶けてしまった国際金融の世界。これからもっとこのような物語が生まれてくるのだろうと期待せずにいられない。