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2015年1月1日木曜日

良渚博物館 Liangzhu Culture Museum David Chipperfield 2007 ★



早朝5時に家を出て、なかなか捕まらないタクシーにヤキモキしながらも、元日でありながら、そこまで渋滞していない高速道路に「やはり中国だな」と感じながら到着する空港。早朝の便ということもあり、遅延もなく予定通りのフライトで到着するのは浙江省をカバーする杭州蕭山国際空港(こうしゅうしょうざん、Hángzhōu Xiāoshān)。

「何だか見覚えがある風景だな・・・」 と思っていると、2013年にパートナーとオフィスの数名のスタッフと共に、王澍(ワンシュウ、Wang Shu)の作品を見に訪れたのがこの空港だったんだと理解する。

2000年に開港という比較的新しい空港だけあって、空港内部も比較的に綺麗に設計されている。トイレも日本で見られるような真ん中に車椅子用トイレが設置されたレイアウトのもの。しかし妻を待ちながら、中心軸に立ち観察していると、男子側は問題ないが、女子側の内部が少し外から見えてしまい、しかもその見える先に手洗いの鏡が設置されているので人の様子が観察できてしまういただけない設計となっている。

何故そうなっているかと頭をめぐらせると、男子側には掃除用用具を置くスペースが廊下側に設置されているが、女子側は赤ん坊のオシメ替えスペースが設置されており、恐らくその奥行きの差がこの視線の抜けとなってしまっていると思われる。

これはオフィスでスタッフに見せないとと、あくまでも将来のより良き設計の為だと何枚か写真に取る。そんな折に出てきた妻はいぶかしげな表情を浮かべているので、「ちょっとここに立ってみな・・・」と説明を始める。

「元日早々良きサンプルが採集できた」と上機嫌でタクシーに乗り込む。「ひょっとしたら明日からタクシーをハイヤーし、街中を回ってもらったり、紹興まで行って貰ったほうが効率的なのでは?」ということもあり、運転手相手に交渉を交えて情報収集。

そんなこんなで話をしていると、「現在の中国では都市部と農村部での格差がどれだけ激しいか。教育水準が外国に比べどれだけ劣っているか。不公平な観光がどうやって世代を超えて循環してしまっているか」などなど、かなり社会派な運転者の話をいなしながらホテルへ到着。

昨日の大晦日の夜に既にこちらに来ていたメンター夫妻と連絡を取り合い、とりあえずランチを取りながら状況の確認。残念なことに少々風邪気味であるという旦那さんの具合を悪くしないように、今日は安静するというので、恐らく二人は興味がないだろうと思っていた現代建築ツアーを早速敢行してしまおうと、ホテルにお願いしてタクシーと交渉してもらい向かう先がこの良渚博物館(りょうしょ、Liangzhu Culture Museum)。

何の博物館かといえば、良渚文化(りょうしょぶんか、Liángzhǔ wénhuà)と呼ばれる今から5500年ほど前(紀元前3500年-紀元前2200年)に栄えたとされる長江下流域の新石器文化であり、長江文明の一角をになうものを紹介するものである。

世界の授業では中国といえば、長江文明(ちょうこうぶんめい)と黄河文明(こうがぶんめい)ざっくり分けられてしまうが、もちろん雄大な時間をかけて発展された文明だけに、その内部も様々な文化によって構成されている。

日本では揚子江(ようすこう、Yangtze River)とも呼ばれる長江(ちょうこう、Cháng Jiāng)はチベット高原から中国大陸の真ん中を横断して上海まで達する。逆に黄河(こうが)は長江よりも北側で南北に蛇行しながら大陸を横断し、天津付近で海へと流れ込む。様々な文化がこの二つの河の辺で生まれ、文明として花を咲かせ、歴史に名を残す様々な都市を生んできた。

そんな訳で長い年月をかけて培われてきた長江文明の一角をなす良渚文化の遺跡を元にして作られているのがこの博物館という訳である。その内容まで追っていくと、かなり深いところに入り込んで抜け出てこれなくなってしまうので、この建物だけで留まることにする。

杭州中心地からタクシーに揺られ、朝早かったせいもあり、妻と二人して船を漕ぎながら、長閑な風景を抜けて到着したのが、開発の進む良渚エリア。迷うことなく見つかった博物館は、事前に想像していたものよりもはるかに巨大なスケールのもの。

設計はDavid Chipperfield(デイヴィッド・チッパーフィールド)。自分の母校でもあるロンドンのAA School出身のイギリス人建築家。非常にミニマルなデザインをする建築家で、最近では中国を初めとして世界中でものすごい勢いでプロジェクトを手がけている、今勢いを感じさせる建築家であるが、ロンドンに住んだことのある日本人建築家にとっては、ワガママ(Wagamama)と呼ばれる日本食レストランのSoho店のデザインをした建築家として認識される。

ネット上ではあまり情報がないが、「ひょっとしたら中国という特殊な建築状況の中で、あのミニマルな表現がマッチした素晴らしい空間が作られているのでは・・・」と元日だけに、過剰な期待を持って到着する。

中国ではこのような博物館は基本無料であり、IDなどを提示すれば唯で中に入ることができる。教育目的ということもあるのだろうが、その為に子供連れの家族客が非常に多く、博物館が目的というよりも、ある種の娯楽施設として足を運んでいるかのようである。

建物の規模と、中国人観光客の騒々しさに圧倒され、建物内部は駆け足で巡りながら、外部のランドスケープを巡る。そこにも何故だかテントを張って遊びまわっている中国人家族の姿・・・。恐らくこれも何万平米という規模の展示室要求がされ、欧米や日本で常識とされる美術館などの規模からは何倍ものスケールの要求面積とこの地の文化的コンテクストを考慮してどうにか自らのデザインで纏め上げようとしたのだろうが、やはりこの規模ではなかなか「建築」と「空間」を感じることは難しいのだと改めて感じ、新年一発目の建築が不作だったことに少々肩を落としながらタクシーへと足を向ける。