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2013年12月29日日曜日

ツーリズム

ロシア語で埋め尽くされたプーケットの街に、「ツーリズム」という名のイナゴに襲われ荒廃した風景を重ねてしまう。

日本でかつて起こったように、巨大な人口を抱える中国とロシアにおいても「中流の夢」として生み出された中産階級と、彼らが実現し始めた「ツーリズムへの欲望」。

恐らく国内のメディアで大々的に煽られて、脳内に刷り込まれている「ちょっと上の休暇の過ごし方」。そこそこの家庭が向かう先としてのタイのリゾート地。その少し上のクラスが向かうタイの孤島や、インドネシアのリゾート。更にグレードが上がるとカリブのリゾートへと。その欲望の受け皿になる為に、開発は止まる事をせず、際限なく地球に手を入れ続ける。

一つの街がその国の母国語以外の多言語に覆われる状態。それはなぜか女性への暴力を思わせる。圧倒的な力を持ち、押し寄せるように強制する。それを拒めば、「多くの外貨」という甘い汁を与えられることなく、他の候補地に流れていく。つまりは生き残る為に拒否できない強要。

それは観光という、他者によって生活が成り立つ都市にとっては受け入れるしかないものであり、英語やロシア語などの街中での比率が上がれば上がるほど、地元言語の世界的優劣を表しているようである。

誰もが無意識に強制参加させられている世界的競争。それによって終わる事のない開発。少しでも他の都市と差異化し、少しでも同じ年の中の競合者と差異化する。普通のホテルには少しでも写真栄えのするプールを設置し、少しでも海への眺望が望めるなら景色を売りにする。差異化の為に、全ては食べつくされ、もっともっとと限界を知らない。

星野リゾートの様に、自ら価値を生み出せる会社にとっては、逆にどこの場所にいってもそのサービスとノウハウで、十分に周囲と差異化をなしえる価値を創り出せる時代でもある。

「中流の夢」が世界中に撒き散らされ、開発の手が世界の隅々まで延びきった後には、今まで雑誌で取り上げられてきた一般的なリゾート地では膨れ上がった欲望は満足しきれなくなり、次に目が向けられるのは今までアクセスが悪い為に手が入ることなく守られてきた北海道や宮古島など毛細血管の先ともいえる場所場所。

そんな場所まで、いつかは中国語やロシア語で覆われる時代が来るのもそう遠くは無いかもしれない。それによってその土地に落とされる外貨。それによって失われる何か。それでは、何処かで「ツーリズム」に対してノーと言うか?まるで「リーガルハイ2」で描かれた一場面の様であるが、これも都市間競争の成れの果ての今の世界の実体。

やらなければ他の都市にとって代わられる。
自分がやらなければ、結局誰かがやる。

この状況は建築もまったく同じ。自分がやらなければ、結局誰かがやってしまう。その資本主義の流れは止められない。なら自分が必死に最善と思えるものをやるしかない。

ツーリズムの片棒を安易に担ぐのではなく、問題を見据え、どこもが「one of them」の世界にならないように、場所のゲニウス・ロキを見据え、何を成すかに意識を払い、日々の設計に向かいなおすしかないんだと改めて理解する。