夏の京都の風物詩と言えば、鴨川沿いに張り出す納涼床(のうりょうゆか)。略されて「床(ゆか)」とも呼ばれるが、多くの旅行客や地元の方が川の流れにそう心地よい風を感じながら、ビールを飲んだりと仲間で夏を楽しむ姿は見ていても心地よいものである。
高温多湿な日本の夏。しかも盆地である京都にとっては、如何に自然の恵みを使って涼を取るか。鞍馬から流れで、市内を縦断する鴨川の流れが起こす空気の対流を生み出すひんやりとした風。自然が作り出す環境装置に敏感に反応し、「川に張り出し、4面が囲われてないテラスで食事をしたら、さぞや気持ちいいだろう」と誰かが言い出したに違いないと想像する。
京都のおもてなしを一番感じる事ができる老舗の旅館。ホテルマンになるんだとロンドンに行き、日本に戻り東京の有名ホテルで働いていたが、やはり日本では京都のおもてなしを知らなければいけないと、京都でも三本に入る有名老舗旅館に飛び込んで何年も働いていた友人がかつて教えてくれたのは、「鴨川の納涼床はやはり観光客向けで、京都の人は夏と言えば、貴船や高雄の小さな川の上に桟敷を引く川床(かわどこ)ですよ」と教えてくれる。
そんなことを聞いてかつて仕事のパートナーを連れて行ったことがあった貴船の川床。なんとも贅沢な一時だったと妻に話すと、「私も行ってみたい」というので、今回の旅の妻からの「マスト・リスト」の二つ目に入っていた貴船の川床での夕食。
鞍馬からすっかり暗くなった山道を走り、対向車に気をつけて到着する貴船。川沿いには20軒ほどの食事どころが並び、それぞれが店の向かいの川の上に桟敷を引いて食事を提供している。
かつて来た事のあるお店に予約を入れていたので、一番奥のほうまで進み狭い駐車場に車を入れる。つるされる赤い提灯がなんとも幽玄な雰囲気を作り出す。市内よりも数度低いと思われ、ひんやりと心地がよく、川の流れで湿気も留まらずになんとも快適。
席に案内されると、すぐ下には手を伸ばせば届きそうな位置に水面が。この貴船川は鴨川の源流でもあり、その清らかな流れに癒され、せせらぎを楽しみながら一皿一皿運ばれてくる京料理を味わう。
その雰囲気と食事にすっかり満足し、これも過ごしにくい夏があるからこういう空間が生まれたのだと、困難が刺激する想像力というものに思いを馳せる。
お会計を終えて店をでて、道を少し下ると貴船神社があるので、「食後の散歩でも行って見る?」とチャレンジするが、あっさりと「もう暗いし、行かなくていいんじゃない。」と断られる。これもまた次回に戻って来る理由になったと自分を慰める。
0 件のコメント:
コメントを投稿