2015年3月2日月曜日

「地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減」 増田寛也 2014 ★★★

この一年でもっとも注目を浴びた新書と言っても過言ではない一冊。店頭に山積みされ、視線を引く赤い表紙はいかにもセンセーショナルな「消滅可能性都市」というキーワードともマッチし、「現代日本への警告」というメッセージを十分に伝える形をなっている。

もちろん、内閣に設置された組織で検討された内容を元にしているだけに、各市町村が言いにくいこと、そして政府が自分では言いにくいことをこうして有識者の提言として世間に伝えるという隠れた意図はもちろんあるのだろうが。

その意図とは、「日本はこれからどんどん人口が減っていきます。それはもう止められません。なぜなら今から少子化対策に本腰を入れて効果をあげ始めたとしても、その結果が現れるのは今から30年以上後のことです。だから2008年をピークに始まった人口の減少はこれから加速度的に進みます。しかも団塊世代のリタイアに代表されるようにすでに不健全に偏った年齢分布から、国を支える働く世代は急激に減って、少ない現役世代に対して膨大な年金需給世代の高齢者を抱える国として、さらにその後の少子化対策をしていかなければいけません。

それに加え、以前のように世界で名だたる経済大国としての恩恵が国中に行き渡るということは考えられず、就職機会の少ない地方から本来なら地方を離れる必要のなかった部類の若者が、いやおなしに大都市へと流入し、この若者人口の地方から都市圏への流入が全体的な人口減少にさらに拍車をかけ、急激に人口を失う魅力のない地方都市を激増させ、その地では取り残されたような高齢者と、税収入のない行政でまともなサービスを行えないまま、衰退し消滅していくことがすぐ目の前に来ています。

ただ各市町村は自分たちのことだけしか考えないので、どうにか少しでも生きながらえようと目先の人口増加を目指して小手先のサービスで若者を呼び込もとうし、誰も全体としてどういう現象が起きて、根本的な改善には何が必要なのか、そのビジョンも示そうとしないし、問題点も提言しない。なぜなら行政単位として市町村は自らのマイナスイメージになるような「人口減少に伴う行政サービスの低下」などとは口が裂けても言えないからである。

本来なら国がしっかりと現状を分析し、間違った国家戦略を反省し、複雑に絡み合う現在の世界情勢をしっかりと理解しつつ、将来への予測不可能性へのフレキシビリティを残しつつ、身の丈にあった国の在り方、縮小していくことを受け止めてどう国の形を変えていくのかを、非難を受けようとも、人気が落ちようとも、信念を持ってビジョンを提示に、まやかしの豊かさではなく、地に足の着いた生き方のできる国の在り方をしっかりと発表し、それに伴い、ある市町村は「私の市は残念ながらこれから人口が減り、サービスも十分に行えなくなりますが、それでもここに残って住まう住民には健康的な生活ができ、この地に残る高齢者には満足のできる人生の終わり方を得られるように最善の努力をします」というような首長が出てきても良いはずである。

ただし選挙で票をとるためには、自分の住んでいるところは他に比べて少しでもいい生活ができる。そのためにあんたに票を入れているんだ。というような自分の孫が住まう国の姿よりも、自分が見える今の延長しか見えない近視的な人からの人気を失うのが怖い政治家も政府も決してその様なことは言えず、そのためにこうして外部の声で何とかメッセージを伝えていき、サブリミナルコントロールのように徐々に国民の中に意識を植え付けていく。」

というようななんとも情けない事態が透けて見える気がしてならない・・・

まぁ人が絡み合いながら構成される社会や都市というものは、非常に高度な複雑系の事象であるから、何かの専門家が我が物顔で分析したところで、それは事象の一面しか見ることができず、本質を見るためには、できるだけ総合的な俯瞰的な視線で全体を捉え、それと同時に望まれる未来の姿をはっきりとイメージに、その為に持ちうる最善の知能と資材を投入していくべきであるが、このグローバル化した世界において国を運営していくことの難しさをよく見える問題であるだけに非常に興味深い。

それにしても、カウンター本が出版されるなど何かと賛否両論ある様であるが、その分析は非常に的を得ているし、何より痛みを伴うことを前提として話を進め、プラス具体的な施策も提案されているので、現代の社会問題を総合的に理解するのは適した一冊であることに間違いないであろう。

以下、本文内で幾つかのキーポイントを抜粋しておく。
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国の将来ビジョン
あらゆる政策は将来人口の行く末によって大きく左右される
2008年をピークに人口減少

政治も行政も 縮小していくことを住民に示すのは難しい
誰もそんな将来を望まないから
みながこの問題を口にするのを避けてきた

地方から大都市圏(特に東京圏)への「人口移動」が深く関わっている。日本全体が同比率で人口減少していくのではなく
人口が東京一極に集中する社会を「極点社会」

/3段階の人口減少プロセス
2040年までの「老年人口増加+生産・年少人口減少」
2040年から2060年の「老年人口維持+生産・年少人口減少」
2060年以降「老年人口減少+生産・年少人口減少」

/地域格差を生んだ「人口移動」
大都市や県庁所在地等の中核都市
地域格差
戦後、日本では三度にわたって地方圏から大都市圏に大量に人口が移動した
地方には職がないから」仕方なく」流出を余儀なくされている
地方が「消滅プロセス」に入るつつある

/大都市への若者流出が人口減少に拍車をかけた

/人口移動は収束しない
現在の地方の雇用減少をかろうじて食い止めているのは、医療・介護分野の雇用だからである

/「極点社会」の到来
「地方消滅」はある時点から一気に顕在化、気がついたときにはもう手遅れ
人口の「自然減」だけならば通常緩やかにスピードで進行
若者層の人口流出による「社会減」が加わることで、人口減少が加速度的に進行
極点社会

/人口のブラックホール現象
地方が消滅し、三大都市圏、特に東京圏のみが生き残る「極点社会」に持続可能性はあるのか

/「マクロ政策」や「地方分権論」と超えて
地方が持続可能性を有する社会を実現するためには何が必要だろうか
単純に地方へ権限委譲するだけでは、大都市圏への集中を速めることはあっても、それを押しとどめる効果はない
人口
国土利用
資源配置
グランドデザインをどう描くか
国家戦略

/かつての「国家戦略」の失敗
日本列島改造論
1972年に田中角栄
日本列島改造論
各地域の発展の可能性に応じて地方に工場を配置し、誘導する
工業再配置を支える交通ネットワーク 大学の地方分散 機能移転
総面積で全国の3.6%と占めるに過ぎない東京圏に、全国の4分の1を超える3500万人弱がすみ、上場企業の約3分の2、大学生の4割以上が集中し、一人当たりの住民所得では全国平均の約1・2倍
「日本の地域間格差」

/積極的政策と調整的政策
その間の人口減少は避けられない 増えるまでに30-60年かかる
「時間軸」の視点を組み込む必要
第1は、「人口の維持・反転」
第2は、「人口の再配置」
第3は、「人材の養成・獲得」

/長期ビジョンと総合戦略の制定
20年間程度を視野に入れた「長期ビジョン」
「東京一極集中」に歯止めをかけること

第3章 東京一極集中に歯止めをかける
/「防衛・反転線」の構築
地方から若者が大都市へ流出する「人の流れ」を変えることが必要
地方において人口流出を食い止める「ダム機能」を構築
いったん大都市に出た若者を地方に「呼び戻す、呼び込む」機能の強化
地方の持続可能性は、「若者にとって魅力のある地域かどうか」にかかっている
「若者に魅力のある地方中核都市」を軸とした「新たな集積構造」の構築
地方中核都市に資源や政策を集中的に投入し、地方がそれぞれ踏ん張る拠点を設ける

/周囲の都市、過疎地域への影響
輸出や観光を含む外貨獲得能力向上がカギ
「広域ブロック行政」

/地方中核都市の役割
地方中核都市 地方中核拠点都市
政令指定都市および中核市(人口20万人以上)のうち、昼夜間人口比率が1位以上の都市である。全国で61、平均人口は約45万人

/コンパクトシティ
/若者を呼び込む街にするために
現在、若者が大都市に流入している最大の背景には、若者にとって魅力のある雇用機会が地方に少ないこと

/「スキル人材」の再配置
地域経済を再構築するためには、経営・組織マネジメントを行う人材や市場競争に打ち勝つために必要なスキルをもった人材を地方へ再配置する政策が必要不可欠
「地の偏在」の解消

/地域金融の再構築
地域経済の清涼の担い手である「グローバル・ニッチ・トップ企業」狭い分野で世界的なシェアを獲得している
高齢者の資産が相続によって地域から大都市に移住する子供たちへ流出していく

/若者・結婚子育て年収500万円モデル
なぜ20-30歳代前半の出生率が低いのだろうか
非正規雇用の男性 未婚率が2倍以上高い

/結婚・妊娠・出産の支援
都市部では女性が男性に比べて多く、逆に地方は男性が多くなっており

/女性の活躍推進
日本再興戦略
2020年に25044歳の女性就業率を73%にすること

/「高齢者」の定義の見直しを
意欲と能力のある高齢者が、年齢に関わり無く働くことができる「生涯現役社会」の実現

/海外の「高度人材」の受け入れ

第5章 未来日本の縮図・北海道の地域戦略
/釧路圏ー主力産業の衰退が人口減少に直結
栗ろ紙は主力産業の衰退が人口減少に直結した地方都市のひとつ

/北見圏ー人口流出の加速と周辺人口の枯渇
大学は、若者を町に呼び込む機能を持つが、問題は卒業後の定着率だ

/第1の基本目標ー「地域人口ビジョン」の策定
/第2の基本目標ー「新たな地域集積構造」の構築

/福井県鯖江市(中小製造業)
眼鏡関連の産業

対話篇1 やがて東京も収縮し、日本は破綻する 藻谷浩介×増田寛也
/JR東日本とトヨタだけが知っている
/出生率は上がっても子供の数は増えない
絶対数X出生率
/高齢者がいなくなり行き詰る地方
地方でもっとも大きなキャッシュフローは実は年金
高齢者の年金でもっていたコンビニが潰れ、ガソリンスタンドが潰れる

/東京は「人口のブラックホール」
東京は「人間を消費する街」
/「撤退線」を本気でやるしかない
わざわざ東京に出て行く必要のない若者を地方に踏みとどまらせる

対話篇2 人口急減社会への処方箋を探る 小泉進次郎×須田善明×増田寛也
/縮小に向けた住民合意をどう取り付けるか
/「現代版参勤交代」で国と地方を俯瞰する

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■目次  
序 章 人口急減社会への警鐘
/7割に経る人口
/もはや目を逸らせない
/9つの誤解

第1章 極点社会の到来――消滅可能性都市896の衝撃
/少子化に歯止めはかかっていない
/出生率回復早いほど良い
/3段階の人口減少プロセス
/地域格差を生んだ「人口移動」
/大都市への若者流出が人口減少に拍車をかけた
/地方の「消滅可能性」とは
/人口移動は収束しない
/八九六の消滅可能性都市、そのうち五二三はさらに深刻
/「極点社会」の到来
/人口のブラックホール現象


第2章 求められる国家戦略
/「マクロ政策」や「地方分権論」と超えて
/かつての「国家戦略」の失敗
/積極的政策と調整的政策
/総合戦略本部と地域戦略協議会の設置
/長期ビジョンと総合戦略の制定

第3章 東京一極集中に歯止めをかける
/「防衛・反転線」の構築
/周囲の都市、過疎地域への影響
/地方中核都市の役割
/コンパクトシティ
/若者を呼び込む街にするために
/中高年の地域移住の支援
/地域経済を支える基盤づくり
/「スキル人材」の再配置
/地域金融の再構築
/農林水産業の再生
/五輪を機に東京圏は「国際都市」へ

第4章 国民の「希望」をかなえる――少子化対策
/「希望出生率」は1・8
/人口の超長期推計
/若者・結婚子育て年収500万円モデル
/結婚・妊娠・出産の支援
/子育ての支援
/企業における「働き方」の改革
/長時間労働の是正が急務
/企業への評価
/ワークライフマネジメントの実現を
/女性の活躍推進
/女性東洋の推進
/「高齢者」の定義の見直しを
/新たな費用は高齢者政策の見直しから
/海外の「高度人材」の受け入れ

第5章 未来日本の縮図・北海道の地域戦略
/人口減少社会にほんの縮図
/人口を「全体的」に分布する
/人口を「重層的」に分布する
/市区町村の分析
/地域件の分析ーダム機能の実態
/釧路圏ー主力産業の衰退が人口減少に直結
/旭川圏ー若者の流出と高齢者の流入
/北見圏ー人口流出の加速と周辺人口の枯渇
/帯広圏ー農業を基盤とする安定的な構造
/札幌大都市圏の分析
/第1の基本目標ー「地域人口ビジョン」の策定
/第2の基本目標ー「新たな地域集積構造」の区落ち区
/ニセコ町、中標津町、音更町に見る「地域の力」
/総人口を維持するために

第6章 地域が活きる6モデル
/若年女性人口増加率ベスト20
/産業誘致型
/ベッドタウン型
/学園都市型
/コンパクトシティ型
/公共財主導型
/カギを握る産業開発型
/秋田県大潟村(農業)
/福井県鯖江市(中小製造業)
/北海道ニセコ町(観光)
/岡山県真庭市(林業)

対話篇1 やがて東京も収縮し、日本は破綻する 藻谷浩介×増田寛也
/JR東日本とトヨタだけが知っている
/出生率は上がっても子供の数は増えない
/高齢者がいなくなり行き詰る地方
/東京は「人口のブラックホール」
/「撤退線」を本気でやるしかない
/地方に「去る」若者に見るかすかな希望

対話篇2 人口急減社会への処方箋を探る 小泉進次郎×須田善明×増田寛也
/確度の高い人口予測
/人口減が前提の復興になる
/縮小に向けた住民合意をどう取り付けるか
/「現代版参勤交代」で国と地方を俯瞰する
/「希望出生率」を評価基準に
/東京への流出を止める
/人口「急激」を避けるために

対話篇3 競争力の高い地方はどこが違うのか 樋口美雄×増田寛也
/有効な対策を立てられるのか
/就業率と出生率の関係
/地域の特性と格差
/グローバル経済とローカル経済
/地域特性を生かした6つのモデル

おわりに――日本の選択、私たちの選択

全国市区町村別の将来推計人口
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