昨今、テレビでも取り上げられるキーワードの一つとしてあげられる「空き家」。結局これも大きな、「日本」という国の形が変わろうとしている移行期に膿の様に出てくる様々な現象の一つでしかなく、国や社会という非常に複雑な事象が様々な要因によって絡み合って作り上げられている限り、各専門分野からの視点のみで、一つの現象を分析し、語らっても、その言葉はむなしく宙を舞うだけで、決して物事の本質を突くことは無い。
縮小社会、極点社会、限界集落、地域格差、貧困、非正規労働、少子高齢化、貧困の世代間連鎖、グローバリゼーション、消滅可能性都市、デフレ、利権、規制緩和、機会不平等、日雇い、ネットカフェ難民、
これらのキーワードはすべてが連動し、誰もが何が原因で、どんな結果が起こるのか分かることなく、それでも自分の専門範囲の限りにおいてできるだけ枠組みを整え、できる限りの知恵と知識を振り絞って、現状に対して何か良い作用をどうやって及ぼすことができるのか、それぞれの分野で様々な人が躍起になっているという状況が現在である。
日常の中、誰もがうっすらと感じていた問題意識。元気な親の姿でなかなか現実として見えてこない将来の姿が、実は少し生まれる時間が早かった世代の家庭にはすでに起こっていることだという認識。
その想像力というフィルターを通してみると、自分の生まれ育った街は全く違った様相を見せてくる。それが当たり前のように思い、地方から都市へと進学し、そのまま機会を求めて地方に戻ることなく就職し、そこで同じく地方から出てきた妻と結婚し家庭を持つ。
その中でどれだけの人口が都市間で移動し、決して平衡を取ることの無い一方的な流れになっているかということは、自分をどれだけズームアウトして俯瞰してこの国の形を見れるかに拠って、その風景はある種恐怖を感じることになる。
「建築家」という都市や社会を扱う職業についていると、日常として向き合う事象として毎日向き合うことになる。自分と言う手がかりのある実例を通して社会を見るが、その圧倒的な国の形の変容は、自分が生まれ育ったこの国の在り方さえも変えてしまう流れだとあまりに容易に想像がつく。
交通技術のイノベーションとともに、違った速度を手にしてきた人間。その速度は同時に、今までと違った距離を日常の中に与えてくれる。その距離を半径とした円の中、人はよりよい機会を求め彷徨う狩猟本能を目覚めさす。大企業による転勤と言う人口再配置が意味を成さなくなったグローバル世界には、世界の舞台で競争を勝ち抜くために、拠点都市への資本と人材の集中投下へと繋がることになる。
それが我々が生きる「都市の時代」。
自分の問題として、遠くない将来に空き家となるであろう親が住まう地元の家。
日本人として、様々な地方から大都市へと引かれる人の移動の線。
そんなジリジリと自分に擦り寄ってくる二つのスケールでの社会問題。それを不動産を専門とする作者が、その専門分野から分かりやすくこの「空き家」の現象を分析し、その背後にある大きな問題の一部を垣間見せる。
どう考えても、もう隠し切れないこの国の形の変容。できることなら、次に見えてくるこの国の新しい形が、誰かの利権を守るためでなく、本当に国が住みよい場所として見えてくることを祈るばかり。
下記、本書よりいくつか抜粋する。
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■目次
/はじめに 地方に残された親の不動産
地方に残された親の家が家族の大問題 「貸せない」「売れない」家
第1章 増加し続ける日本の空き家
/空き家1000万戸時代への突入
現在の東京都23区の人口は約907万人
この15年の間に東京23区の人口に匹敵する人々が丸ごとこの国から消滅する
「働き手」が、今後日本からどんどんいなくなってしまう
/首都圏で進む高速高齢化現象
子供たちが卒業、就職で家から離れていく時代 夫婦二人だけ 子供部屋はただの物置へ
第2章 空き家がもたらす社会問題
/なぜ空き家は放置されているのか
空き家数の増大は、不動産価値の変革と密接に結びついている
/ある税理士の述懐
不動産の価値がこれからは上がらない
/厳しい状況に陥る市町村
全体収入の87%を
固定資産税に限って言えば、地方税収入の約4割を占める貴重な財源
/地方都市で進むコンパクトシティ構想
もうほとんど住む人のいなくなった地域ではわずかに残った住民のためだけに一定の行政サービスの水準を保つのはきわめて非効率であり、現実的ではなくなっている
地域への行政サービスを放棄する代わりに、住民を都市部に集め集中的にサービスを行うとしたのがコンパクトシティ
第3章 日本の不動産の構造変革
/都心マンションが売れる裏側で
マンションが大人気
土地代に加えて建設費がとんでもないことになっている
大きなゼネコンはまずマンション建設の仕事は請け負ってはくれません。公共工事の受注だけでおなかがいっぱいなのです。無理栗提案をいただいてもびっくりするくらいの高値の見積もりを平気で出してきます
マンションの建設費は2,3年前と比べて30%程度上昇
/建設費が高騰する理由
建設費は坪当たりおおむね80,3万円くらいのグレードの建物の見積もり
坪当たり130-140万円
「ひと」の問題 現場で作業する職人が極端に不足しています
鉄筋工、型枠工など高度な技能が必要となる部分で、「ひと」が集められない
わずか15年の間に建設業就業者は3分の2
小泉潤一郎内閣 公共事業の削減
地方の多くの若者は現在では親の家に住み、結婚と言う選択肢を選ばなければ何も建設現場でつらい仕事をしなくても、そこそこ食べていける状況にあるからです。いまさらキツイ仕事についてまであくせく働く必要性を感じていない彼らにとって
「えっ、いいっす、おれは関係ないし」
/「ひと」だけではない建設費高騰の要因
資材費 円安
工事用車両=トラックが極端に不足
運転する大型車両免許を持つ人の人口が減少
長距離運転をする運転手は、今や大変な人材難 昔「族」やってました
いまどきの地方の若者 トラック運転手のような体にきつい仕事はまっぴらごめん アルバイトが宅配便の配達 毎日家に帰れる
苦労して報酬をたくさん得ようと言うインセンティブにかける社会になっているのです
日本の構造的な問題
建設費は「高値」を維持していく可能性が大きいと言わざるを得ません
しょせんは「東京五輪」まで
「道具」もなく、「道具」を操る「運転手」もいなくなっているのが今の建設現場
/団塊世代が舞台を降りる時
なんでも群れたがる 山へ海へ高原へ彼らは元気にグループを作りながら活動します
行動派会社でも40代前半のもっとも油が乗った時代にバブルを体験し、会社の黄金期を謳歌して、十分に満足できる退職金をもらい、もう二度と出ないほどの多額の年金をもらう、日本でもっとも裕福な世代ともいえます。膨らんだお財布であちらこちらにお出かけになるのですから、旅行業界にとっては大変な上客
不動産マーケットがこの先大きな変容を遂げていくのは、ひょっとすると東京五輪という宴が終了した直後から
/まったく足りなくなる病院と介護施設
首都圏が世界で最速のスピードで高齢化 医療崩壊
/都心オフィスビルオーナーの悩み
立替計画 採算が合いません 建設費 賃料
経済はどんどんグローバル化の道
東京にオフィスを構える必要性すら感じなくなってきている企業が増えている
東京は評価されていない
第5章 日本の骨組みを変える
空き家問題をもう少し大きなフレームで捉えています
賃借人がつかない、売却しようにも買い手がいない、そんな物件が山のように出てくる
空き家一軒一軒と真正面から向き合いあっても解決への道は遠く、これらの空き家を不動産として今後どのように取り扱っていくのかを、不動産価値の創出と言う観点からとらまえる必要性があります
地域全体、あるいは国家全体として構造を変える、枠組みを変えていく作業が必要
/国土の再編を考える
国土の絵図を変えるのです、
日本人が一番苦手な、政策の大転換、価値観を変える、このことにどうやって挑戦するのかが問われます
既存の権益に対する挑戦
/都市計画の常識を考える
平成の大合併 自治体同士の合併が急増 現在1700程度
市街地化地域を大胆に縮小する。公共施設の配置を見直す。交通体系を再編する。地域として何が必要で何が不要なものか、街の中心をどこに設置し、人々をどのように集めるか
/「廃藩置州」の必要性
企業で言うところの会社が目指すべき戦略の立案は、本社の中枢がおこなわなければどうにもなりません。
/私権への挑戦
/多数決が正しくないと言う発想
生きるか死ぬか、方向をきめることによって運命が定まるような重大な結論を出さなければならない場合、多くの人は自分自身の決定には自信が無く、難しい物事を判断し、決断をしてくれるリーダーを求める傾向にある
多数決をとると言う行為は、一方では、「誰も責任を取らない」という行為にも繋がる
日本社会を構成する国民の多くが高齢者になっている
選挙で落選する政治家が日本国のために大胆な政策を実行できるか
/「ひと」の配置を考える
日本の国内における「ひと」の再配置が必要
地方は高齢者がいなくなるのを逆手にとって、新たに首都圏などであふれた高齢者を招き入れるのがもっとも手っ取り早い人口回復策なのです。高齢者から高齢者へ
おわりに 認知症が進む日本の未来
豊かだからと言って、思考停止して問題をひたすら先送りしているのが今の日本
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■目次
/はじめに 地方に残された親の不動産
第1章 増加し続ける日本の空き家
/空き家1000万戸時代への突入
/人口が急減し、日本から働き手がいなくなる
/個人宅の空き家は激増
/世帯数増加の理由
/首都圏こそが空き家先進地域
/首都圏で進む高速高齢化現象
/東京における空き家の実態
/地方都市の悲鳴、賃貸住宅は空室の嵐
第2章 空き家がもたらす社会問題
/「買い替え」がきかない!郊外住宅の悩み
/空き家所有者の本音
/なぜ空き家は放置されているのか
/住宅放置状態の行き着く先
/2040年には空家率40%時代に?
/不安し続ける固定資産税の意味合い
/更地にして問題は解決するのか
/相続されたくない不動産
/ある税理士の述懐
/空き家と相続税、固定資産税のいびつな関係
/不動産の価値評価とは
/厳しい状況に陥る市町村
/地方都市で進むコンパクトシティ構想
第3章 日本の不動産の構造変革
/都心マンションが売れる裏側で
/建設費が高騰する理由
/「ひと」だけではない建設費高騰の要因
/建設費高騰で不動産マーケットはどうなるか
/進む不動産のコモディティ化
/団塊世代が舞台を降りる時
/まったく足りなくなる病院と介護施設
/立替ができない築古マンション
/都心オフィスビルオーナーの悩み
/進む不動産二極化問題
/「本郷もかねやすまでは江戸のうち」
第4章 空き家問題解決への処方箋
/空き家条例の実態
/無理やりの流動化促進策
/空き家バンクの限界
/市街地再開発手法の応用
/シェアハウスへの転用
/減築という考え方
/介護施設への転用をどうするか
/在宅看護と空き家の融合
/お隣さんとの合体
/3世代コミュニケーションの実現
/地方百貨店の有効活用
第5章 日本の骨組みを変える
/空き家から空き自治体へ、自治体の消滅
/極点社会=東京の行きつく先
/国土の再編を考える
/都市計画の常識を考える
/「廃藩置州」の必要性
/私権への挑戦
/多数決が正しくないと言う発送
/「ひと」の配置を考える
/「知恵」を売る次代へ
/日本の輝き方
おわりに 認知症が進む日本の未来
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