「空港」という都市からあまりに遠くあると不便だが、逆に生活圏内にあるのもまた困るものである。成田空港や沖縄の空港などをみても、その建設にはその地に以前から住んでいた住民との間で何かしらの軋轢を引き起こすものである。
そしてこの高知の空の玄関口となっているこの高知空港の場合は、戦時中に海軍航空隊基地としてこの空港が建設・利用され、太平洋に面している土地柄、何度も空襲に襲われたという暗い過去を持っている。
「特攻」として知られる「神風特別攻撃隊」の舞台がこの地から沖縄へと飛び立った基地でもあるという。できるだけ飛行距離を短くすることで積み込む燃料と機体を軽くすること、内地からの補給経路を短くすること、太平洋に展開する敵機からの攻撃からの距離を稼ぐことなどの様々な距離のパラメーターによって選らばれたであろうこの場所。
自分から届くと言うことは、相手からも届くということであり、その為に頻繁に襲来する敵機の空襲を受けることになるのだが、貴重な戦力である戦闘機をその敵の空襲から隠すこと、守ることを目的として強固なコンクリートの格納庫が必要となった。それらを称して掩体壕(えんたいごう)と呼ぶと言う。
形状的には航空機を入れる空間の為に平べったくなり、中央が少し高くなる。屋根があるタイプはヴォールト状をしており、屋根の無いものはコの字型の上に土を持って作られたと言う。
ウィーンの「レーダー塔 砲撃塔」同様、建物がその本来の機能を失い、時代の変化の中で別の機能を寄与されることなく、あたかも時間を止めたかのようにその場所に留まる現代の遺跡は、その周辺に異様な空気を作り出すものである。
戦争と言う臭いを消臭された現代の日本の風景の中に、まったく「異物」として取り除くこともできずにそこにい続けるこの構築物達。それは戦後70年を迎える今年だからという訳ではないがぜひとも見ておきたいとリストに入れていた場所である。
午前中の建築ツアーが比較的スムースに行ったため、予定に入っていなかった潮江天満宮まで巡るがそれでも飛行機の時間まで相当時間があるために、航空会社に前の便に振り替えを問い合わせると丁寧に「変更は一切受け付けられないチケットとなっております」とのことで、しょうがないから二日間ずっと動きっぱなしの身体を休めようと市内のスーパー銭湯である「高知ぽかぽか温泉」に足を運ぶことにする。
休憩場所でうとうととし、レンタカーの返却時間までの時間を使って空港近くのこの前浜掩体壕群(まえはまえんたいごうぐん)を見に行くことにする。事前にどのサイトを見ても、実際にどこにあるのかがいまいち把握できなかったが、恐らく近くに行けば間違いなく見つかるのだろうとおもっていたが、セットであるはずの前浜トーチカは見つからず、この前浜掩体壕群もなかなか見つからない。
彷徨いながら徐々に海岸沿いの集落である前浜に入り込み、細い路地を抜けながら、すぐ先に見える砂浜の寒々とした風景と、塩害にやられたかのような黒ずんだ石の姿にやはり何か暗い影を感じながら目的地を探す。
そんな中、如何にもこの地域の重要な場所であると思われる神社が顔を見せる。せっかくなので参拝していこうと車を停める。名を伊都多神社(いづたじんじゃ)といい、やはりどう頑張っても漢字からは読み仮名が想像つかない。
海に向かって参道がとられているために、海風がもろに境内に吹き付ける。境内に立ち並ぶ石造が潮風にやられて形を失っているのも何かおどろおどろしい感じを醸し出す。地元のおばさんと思われる方が自転車でやってきて、手を合わせて帰っていく姿を見送り車にてこの地域を抜け出す。
「とうとう前浜掩体壕群を見つけられないか・・・」と諦めかけたが、最後にもう一つだけ道を回っていこうと通りがかったらいきなり田んぼの真ん中に異様な構造体がどぉーんと見えてくる。
明からに周囲の風景と隔絶したその異様さ。空気も時間もその周辺だけゆがんでいるようでいて、それで周囲の自然に飲み込まれてしまったような不思議な風景を作り出す。朽ちることなく、また使われることも無くその場に取り残された姿はある種の美しさを作り出す。
道沿いに車を停車し、歩いて見えている掩体壕にあぜ道を通って近寄る。近くで見ると思ったよりも大きくないのが見て取れる。目の前の風景にはさらに二つの似た構造体が見えている。そばで農作業をするおじさんに聞いてみると、全部で7つあり、あそこの先まで行けばあと二つ見えてくるという。
数が決まっているものが風景の中に散らばっていることほど楽しいものは無く、北京の九壇八廟やモスクワのセブンシスターズの様に、似ているが微妙に違った同じ属性を持った構築物が風景の焦点となることの美しさ。
実際に歩いてみると思ったより距離があるが、角を曲がるたびに「また掩体壕が見えるかも・・・」という期待感を持ちながら周囲を散策する。半径1キロくらいの周辺に計7つの掩体壕を見つけ車に戻ろうとすると、「掩体壕駐車場」という空き地とともに、掩体壕を説明する看板を見つける。ちゃんとこうして外部に発信しているのだと思いながら文を読み車に向かう。
空港までに向かう間に、なんだか不思議な構造物に出くわす。恐らく津波発生時に非難するための建物なのだろうと思いながらも、日常生活の中で意味を成さない構築物が同じように無機質に風景の中に散らばっている姿は、今度は逆になにやら気持ちの悪いものだと思いながら調べてみるとやはり津波避難タワーだという。
朝から晩まで最大化して丸三日間を費やし高知を見てきたが、素晴らしい建築から、高知ならではの風景、そして自然との関係の中で、また歴史の中で生み出された不思議な光景を高知の景色として脳裏に焼きつけ飛行機に乗り込むことにする。
前浜
伊都多神社(いづたじんじゃ)
伊都多神社(いづたじんじゃ)
伊都多神社(いづたじんじゃ)
伊都多神社(いづたじんじゃ)
伊都多神社(いづたじんじゃ)
津波避難タワー
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