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所在地 高知県土佐清水市竜串
設計 林雅子
竣工 1966
機能 ギャラリー
規模 地上1階
構造 RC造
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今回の旅の最大の目的地がこの「海のギャラリー」。かなり建築は見て回っているほうであると思うが、それでも「この建築が見たい」と旅の基点となる建築はかなり減ってきている。
そんな状況の中、それでもこの建築が目的として残っていたのは、四国の最南端でかつ空港からも遠く、高速道路も走っていないとなり、アクセスするには往復8時間近い運転を強いられるとなると、難易度はぐんと上がり、かつその周辺についでに巡れるようなスポットがあまりに少ないため、陸の孤島として存在していたようなもの。
9時の開館に現地にいるように朝食をホテルで取らず、途中の漁港で新鮮な魚を味わおうとホテルで情報を得て、道すがらの窪津漁港で高知といえばのかつおの定食で贅沢な朝食を味わい、建物の建つ竜串へと向かうことにする。
現地に時間通りにつくが、どうもまだ開いていない。玄関には「本日閉館」と看板が掲げられており、少し不安になるが、まだ早いのだろうと周囲の散策に出ることに。どうやらこの先の「竜串海岸」は名勝スポットだと看板が出ているので、先に進んでいくと、隣の公園からゲートボールに興じる多くの高齢者の楽しそうな声が聞こえてくる。
その姿を見ると、こうして地方に住まい、十分な年金などの収入があり、ともに楽しむ趣味を持つ友人がいれば、きっと十分に幸せなのだと思いながら、足を進める。どうやらこの竜串海岸は、打ち寄せる波の影響もあり、随分変わった形に削られた岩たちが立ち並び、なんとも不思議な風景を作り出している。
ひとしきり海岸を歩き戻ってくると、堤防の一部分に津波用に設けられた鉄の重い扉を見つけ、海岸沿いに住まう人々の日常を垣間見た気がする。
建物に戻っていくと無事に開館したようで、中に入っていくと受付に若い女性が立っている。海のギャラリーは別名「土佐清水市立竜串貝類展示館」となり、市の管轄となるのでこの女性は役所の人ということになるのだろうかと勝手な想像を膨らませ入場料を支払う。
朝一で、他に誰もいないのでこの空間を独占しながら決して広くは無いが、内容の濃い空間を一つ一つ見ていくことにする。
まずは設計した建築家。現在では世界で活躍する日本人建築家の代名詞でもあるSANAAの妹島和世など、かなり多くの女性建築家が活躍しているが、それでは必ずそのパイオニア的な存在はいるもので、この建物を設計した林雅子(はやしまさこ)はまさに日本における女性建築家の草分け的存在。1928年生まれで、日本の戦後復興と足並みをそろえるようにして建築家のキャリアを積んだ彼女は、その夫で同じく建築家であり日建設計という日本を代表する組織設計事務所の象徴的な存在であった林昌二とともに、戦後の建築シーンを作り上げてきた。
コンクリート造の可能性を追求しながら、比較的小規模の住宅を主なフィールドとして活躍したために、実際に建築を体験できる作品はなかなか出会えないのであるが、その中この海のギャラリーは彼女の代表作であり、また一般公開されている数少ない現存建築である。
その名前で検索すればすぐに出てくるであろうこの建築の代名詞「折半構造(せつばんこうぞう、folded plate structure)」。折り紙を想像してもらえれば分かりやすいが、折り目も無く一枚の紙として机に立たせようとしてもなかなか難しい。しかしそこに折り目を入れ、角度をつけることによって、徐々に全体として硬さを持ち出し安定する。何度か折ればすでに自立するに耐えられるだけの剛性をもつことになる。
この特徴を利用して、一方向性の面ではなく、一つの面を折り曲げることで他方向性を獲得し、構造として強化させるという考え方である。柱と梁に頼ることの無い構造システムで、空間がすっきりすることと、構造体のダイナミックな表現が空間に現れることから様々な建築にて採用されてきた。
代表的なものとしては、
世田谷区役所 _前川國男
九州工業大学記念講堂_清家 清
市村記念体育館(旧佐賀県体育館)_坂倉準三
など。
その構造体を採用することは、恐らくこの施設が洋画家の黒原和男が収集した様々な貝を展示するという趣旨の建物であり、貝を観察することで、「表面に微妙な凹凸があり、表と裏で二枚に別れている」ことから、この折半構造が選ばれたのだろう。
表と裏で別れているということが、全体としてまっすぐなリニアな建物であり、それが作り出す強烈な右と左という対称性。その左右の構造体がそれぞれに自立し、互いに依存しない。つまり真ん中でばっさりと切れている構造システムとなっている。これは地震の際の挙動によって建物が傷つかない様にとの配慮もあるのだというが、構造と空間が一体となったなんとも美しい建築の在り方。
左右の大地から立ち上がる力強い構造的な壁に強調される直線的空間。そうなると1階と2階のスラブを繋ぐ垂直移動の装置である階段ももちろん直線に配置されるようになるが、これが現存する階段の中でも指折りに美しい階段の一つでもある。一段一段中心の梁から持ち出し、軽さを表現するそのディテールももちろんであるが、先程の左右の壁同様、この階段もまた大地から支えられ、決して2階床には触れることなく自立している。
後ろに回ってそのギリギリの空隙を見たときに一気にこの建築の意図が理解され、空間の見え方が一気に変わってしまう。そんな強烈な体験。素晴らしい。ただただ素晴らしい。そう思いながら階段を一段一段登り、じっくり見ていくと、階段の手すりと2階床の落下防止となっている手すりが見事に見切れていることにまたこの空間が凝縮されたような姿を見る。
その2階床の手すりは階段上部に設けられた展示ケースの一部となり、しかもその展示ケースは展示面がガラス張りとなっており、上部からの自然光を下の階に届ける役割をしている。2階の空間は左右から傾きこれが折半構造なんだと一目で分かる意匠を纏った構造壁が三角形の空間を作り出し、折り曲げることで生まれたニッチ空間がそれぞれに展示空間として利用されている。
空間の垂直性を強調する為に全ての展示や手すりは膝高さに押さえられ、空間の重心が低いことを意識しながらも上部のアクリルから取り込まれた光が左右の壁をなめながら落ちていく姿を確認し、その壁の表面が粗い仕上げて光をしっかりと表現に落としこんでいることに設計の心遣いを感じる。
決して広くは無い建物であるが、空間の隅々で「うーん」と唸るディテールや設計ばかり。建築家として「空間は光と影によって作られ、大きな空間の捉え方と細部のディテールが同じコンセプトの元に設計されている事で空間の精神的な奥行きを作り出す」ということを十分に学ぶことが出来る本当に素晴らしい建築である。
最後に1階に戻りトイレに入ると、決して広くは無く、これといってデザインを施されている訳ではないが、個室ブースのコート掛けにしっかりと「この建物のトイレのコート掛け」である証が施され、最後の最後まで唸りっぱなしで建物をあとにすることになる。
竜串海岸
窪津漁港
窪津漁港
窪津漁港
窪津漁港
窪津漁港
窪津漁港
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