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所在地 高知県高知市薊野北町
設計 沢田嘉農+沢田裕江
竣工 1972
機能 集合住宅
規模 地上5階
構造 SRC造
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朝の早い時間に訪れる場所として、寺社や駅舎とともにあげられるのが、人の営みを表現する住宅建築。高知駅の北側の住宅地に建つのが建築を専門とする人以外にもよく知られたこの集合住宅・沢田マンション。
世の中には建築家という建築を設計するために専門的な教育を受け、国家資格という背負って社会に向き合う人たち以外に、自分の感性を信じて、自ら学んで建築物を作り上げてしまう人が歴史の中でごくまれであるが出てくる。
一人の人間の意志と人生を反映するかのように、建物は機能や経済活動、法規などが透けて見えるような明快な構成は見て取れず、あたかも増殖するような巨大な生物のような様相を見せてくれる。
この建物のように全体を統括する一人の建築家という存在がなく、むしろ個人もしくは不特定多数の人間が、その場その場での判断や個人的意思によって作られる建物はかつて香港に存在した「九龍城(くーろんじょう)」や、南米の丘の裾野に広がるファベーラなどと呼ばれるスラム街の様に、ボトムアップによる全体像を持たない常に変容する姿は、いつでもある種の魅惑的な魅力を身にまとう。
この建築もそれに違わず、建設者である沢田嘉農に同調する人々が賃貸として移り住み、ギャラリーやカフェなど、あたかも商店街がこの中に埋め込まれたかのような、なんとも言えない不思議な風景を作り出している。それでいて小さなころに読んだ何かの小説の中の一ページのように、個性的な住民がそれぞれの朝を過ごしに今にも顔を出しそうな、なんともワクワクする様な気持ちにさせられる。
どんなに人と違っても、自分の信じたことをやり通す。結局はそういう人がこうして新しい価値を作り出していくのだと、すでに40年以上経った今もこうしてそこに住まう人の愛情が感じられる建築の姿に思うことになる。
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