2014年2月2日日曜日

温泉津温泉(ゆのつ) ★★★★★



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世界遺産
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温泉津温泉(ゆのつ)。温泉に津と書いて、「ゆのつ」。
絶対に知らなければ読めない読み方である。

日本百名湯に選ばれる温泉であるが、なんと言ってもよいのは温泉街であるということ。良質の温泉に人が集まり、そこに街道が通り繁栄し、そのまま廃れることなく現代まで街並みを残し、現在も形骸化した観光地ではなく、しっかりとした地元の生活が感じられる温泉街。

この後車を運転し、更に目的を廻る必要もなく、街中まで食事にでて、車で返ってこないといけないからお酒を飲めないという心配をすることなく、温泉街の中を歩き回って昼から表情を変えた夜の温泉街を十分に楽しむだけというなんとも贅沢な宿泊地である。

そんな温泉街に泊まるなら、食事つきの宿泊にするのではなく、浴衣に着替え、宿の人から様々な情報を手に入れ、下駄をつっかけ外湯に浸かりに行き、地元の人から情報を聞いては何処か美味しいお店で酒をいただきながら、地元の美味しい料理をいただく。それが一番であろう。

その食事時に隣に居合わせた地元の人と「どこからですか?」なんて話が弾めば最高である。そうして旅の出会いを満喫し、ほろ酔いで宿にもどって内湯に入り、畳の上の布団でぐっすり眠って翌朝は早朝から内湯の朝風呂で身体と脳を温める。

これが宿で食事を取り、風呂に入り、酒を飲んでご飯を食べてしまったら、温泉街に一銭もお金が回らない。なおかつ温泉街の街としての雰囲気を味わうことなく終わってしまう。それでは意味が無い。街を楽しむために、歩き、人に出会う。それが温泉街の正しい楽しみ方であろう。

そんな風に素泊まりする自分を正当化し、運転と小走りでの参拝の繰り返しで緊張した身体と頭を弛緩させ、「千と千尋」の世界の様に、一晩温泉街の魅惑の世界にどっぷりと浸かる事を夢想し到着する温泉津温泉(ゆのつ)。

石見銀山でも書いたように、ここは石見銀山で取り出された銀を大森町から街道を通ってこの温泉津港に運ばれて、そこから博多に船により輸送された事から発展し、石見銀山周辺地域として揃って世界遺産に登録されたため、温泉街全体が世界遺産という珍しい温泉街である。

石見銀山の閉鎖に伴い廃れた事に伴うのか、過度に観光地化されておらず、あくまでも鄙びた地元の生活を漂わせる中心どおり。左右に古い日本家屋の旅館が並び、中心には温泉の源泉を提供する2軒の湯元。その「元湯泉薬湯」と「薬師湯」の湯元が共同浴場となり、地元の人と観光客の身体を癒してくれる。

レトロな西洋建築で如何にも「千と千尋」感を出してくれるのは「薬師湯」。こちらは女性を始め多くの観光客を惹き付けているようである。それにたいして「薬師湯」は、どちらかというと地元の人が利用する浴場で、その開湯は1300年前と言われ、伝説では大狸が入浴しているところを発見したものとされるらしい。

ちなみに入浴料は

元湯泉薬湯 大人300円
薬師湯   大人350円

となぜか50円の差。これは入りにいった「元湯泉薬湯」の番台に座っていたおばちゃんに聞いたところ、「薬師湯はシャワーがついていて若い人には身体を洗いやすいから」とのこと。

そんな訳でなんとも雰囲気のある宿泊宿にチェックインし、案内されるのは素泊まりなんで一番奥の部屋。しょうがないと荷物を広げてカメラのデータをパソコンに写し、カメラの電池と携帯の充電を始めながら明日の立ち寄り地の復習をし、一息ついたところで浴衣に着替え、宿の主人に色々と情報を聞いて夕闇に沈み始めた温泉街の中心通りを一通り散策しに下駄を履いて出かける事にする。

中心通りを一通り散策したら、今度は聞いておいたお勧めの食事どころを一つ一つ回ってみる。そんなに何軒もある訳ではないので、それぞれの店先でメニューを眺め、まだ日が暮れない温泉街をあっちこっち足を運んでみる。浜辺では地元の子供が遊んでいる
何とものどかな風景を目にすると、普段生きている忙しない日常と同じ世界の姿なのかと思わずにいられない。

お勧めだと言われた食事処に入ってみて、メニューを見せてもらうが、なかなか良さそうであるので、「また後ほど来ます」と言い残して再度宿に戻って風呂セットを持って内湯に向かう事にする。

カランコロンと石畳の道に良く響く音をさせながら、軽く坂になっている道を上がっていくと、左右に街と共に生きるような神社のこじんまりとした境内。小さな商店などを冷やかしながら10分ほど歩くと右に西洋建築の「薬師湯」、その先の左手に「元湯」が見えてくる。どちらに入ろうかと迷っているが、例の50円の差が気になって「元湯」のおばちゃんに話を聞き、できることならローカルの経験をとこちらに決める。

そうすると、おばちゃんが、色々と入り方を教えてくれる。なんでも、「真ん中にざばっと入ってすぐに上がって、それを5回繰り返して。詳しいことは中にいるおじさんが教えてくれるよ。」と。「はぁ?」と分かったような分からないような返事をし、300円を支払い中へ。

中に入ると、如何にも年季の入った温泉地らしいお風呂。珍しいのはその周りに裸のおじさん達が床に座って話をしている。そうかと思えば、風呂から桶で湯をすくい、ざばーっと身体にかけている。一人のおじさんは、その姿勢で石鹸で泡立てたタオルで顔を洗っている。つまり洗い場が無いわけである。

「これは少し観察だな・・・」と、猿の群れに紛れてしまったかのように周りを刺激しないようにとこっそり同じように床に座ってみる。暫く監察していると、三つに分かれた湯船は左から水、温かい湯、熱い湯という構成のようで、韓流ドラマの話で盛り上がっているおじさんが、数分建つとふと真ん中の温かい湯船に浸かってすぐに上がってきている。

「なるほど、これがおばちゃんが言っていたことか」と理解し、かけ湯をして自分も真ん中に入ってみる。しかしこの温度がかなり高い。数分耐えられずに上がる事にする。するとおじさんが、「熱いだろ」とうれしそう。

なんでも湯治場のスタイルで、さっと浸かってあがっては、暫くしてまたさっと入るのを繰り替えるのが身体にいいということらしい。こういう湯治の温泉は、2-3週間滞在して集中的にお湯に入り体質を変えるというらしい。

如何にも地元の漁師という40代とおぼしきおじさんも入ってきて「今日は何の魚が獲れた」だとか話をし始めるのを聞いて、港町の日常に舞い込んだ気分になり、せっかくだからと「熱い湯」に挑戦してみるが、とんでもなく熱すぎて、一瞬で低温火傷のようになりギブアップ。それを見ていたおじさんが、「チャレンジャーだな」とまた嬉しそう。

そんなこんなで何度か浸かり、すっかり身体を温めて外に出ると、番台のおばちゃんが嬉しそうに、「どうだった?良かったでしょ?」と聞いてくるので、「熱い湯」に入って酷い目にあったことを伝えると、「だから真ん中だっていったでしょ」とまた嬉しそう。

徐々に「千と千尋」の世界に紛れ込んだ気分に浸りながら今度は坂道をカランコロンと下りて行く。慣れない下駄で少々足が痛くなりながら、我慢するかと宿を通り越し、先ほど覗いた食事どころに向かう事にする。一度温泉に浸かり、これでもう今日は運転もしないので、後はお酒を飲んで美味しいものを食べてと、何とも幸福な時間である。

カウンターの席につき、つまみとビールを注文し、如何にも地元の良いお店という感じの店の雰囲気を楽しみながら食事をいただく。カウンターの逆サイドでは、60歳前後と見られるご夫婦が。如何にも豪快で、地元のどこかの企業の社長風情の旦那さんはお店の常連らしく、なんでも今日は30年目の結婚記念日と言う事で、女将さんにもビールを振舞いながら楽しそう。

そんなセッティングなのでなんとなしに話をするようになり、日本酒をご馳走になり、説教されたり褒められたりと、なんだか良くわからないが楽しく一緒に酒を飲む事になる。なんでか分からないが締めに干瓢巻きを注文し、「これは手で契って食べるのが一番美味しいんだ」と一本いただくことに。

「なんだ奥さんはおいてきたのか?」と尋ねられるので、「仲はいいですよ」ということで、なぜか妻に電話する事に。もちろん突然の酔っ払いからの電話で事情が分からない妻に、簡単に状況を説明し電話を変わる。「なんだか楽しそうね」と電話口の妻。

お酒を飲まされたすっかり酔っ払い始めている女将さんから聞いた情報によると、地元の板金会社の社長さんというその旦那さんは上機嫌の様子で、「君は我が家に泊まればいい」と二人しか乗れない車で来ているという奥さんに、「俺は歩いて帰るから彼を送っていってやれ」と一人フラフラしながら歩いて帰っていってしまう。

ポカンとしてみていると、それを追う様に軽トラで追っかけていく奥さん。「そりゃ二人しか乗れないな・・・」と思いながら、久々に大量に飲んだ為にこちらもフラフラしながらお会計をしてもらい、ほとんど記憶をなくしながら、カランコロンさせながら夜の温泉街を一人歩いて宿まで戻る。

温泉街。千と千尋ではないが、夢の世界に迷い込んだようなとても素敵な時間である。














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