2007年1月20日土曜日

残り香


今日久々に帰燕した。しばらくぶりに戻る大陸の我が家。生活の匂いの消えたスペースに戻るのは一体どんな気分なのか少々期待していたが、予測以上の残り香に苦笑いと懐かしさの入り混じる帰宅になる。

自分の中ではすっかり引越しをしたつもりでドアを開けると、明らかに誰か生活してるだろうと思われる雰囲気。静物画のように、主を失った空間は時の流れを止めドアの開くのを待つものなんだと実感。なにより洗濯物がそのまま干してあったのにはさすがにシュールだった。なんかちょっと頼もしくもある残り香に包まれる。

一つの都市を離れると、その都市のリズムが身体から偏差していくのを実感する機会はなかなかない。それはふとした瞬間により戻される振り子のように今まで見えなかったモノを見させてくれる。

衝撃だったのが都市の暗さ。もともと北京は暗い都市というわけではないが、人口一千万を超える現代のメトロポリスとしてはダントツの暗さではないだろうか。そして恐らく世界でももっとも明るく白い都市、東京と比べたらその差は歴然である。暗順応するまでは恐る恐る足を運ばなければなにかに躓きそうな暗さである。

網膜上の視細胞の働きによって描き出される、一つの都市のリズム。明日の夜には暗順応し終え、認識することすらできない変拍子。そして明日の朝からまた別の一小節が流れ出す。

2007年1月12日金曜日

呑むまいぞ


日本に帰ってきてからというもの、少なくない友人は僕のことをかるいニートだと勘違いしているようだ。自宅の改装も道楽でやってる明るいニート。遠からず近からずというとこだろうか。

最近ほんとに幸せだと思うのは、東京に帰ってきてもまったくの違和感のない呑み友達といえる友人がいること。ロンドン時代の友人をベースにした仲間達で、年齢も歳もバラバラなのだが、なぜかいつもの場所に行くと、いつもの面子がいつもの酒を呑んでいる。忘年会も新年会もいい歳したおっさんだらけ。チョイ悪でもなんでもない、自分の好きなことをして生きてるおっさんばかり。そんな彼らは仕事がつまらないとか、つらいとか口にしない。だから気持ちいい。というか、ちゃんと仕事してるのか心配になる。明るいニートは友達思いでもある。

おっさんに紹介するのは、必然におっさんになるのだから、芋づるおっさん形式で、また一人とちょっと気持ちのいいおっさん集団が増えるわけである。「いや、彼はいい」と、紹介した友人を褒められると、なぜか心の中でガッツポーズ。そして焼酎おかわり。

そんなおっさんに捧げるために、オフィスの入り口にバーを設置しようと本気で考えてる明るい道楽ニートな今日この頃。

2007年1月7日日曜日

赤松+白


今回日本に帰ってきたのは、主宰するMADの東京オフィスの設立のためである。

世間の予算削減の波に乗ろうと、ここは自作でフローリングを張り替えようと一大決心。どこにでもあるようなフローリング・カーペットを一人ぺらぺらと剥がし、軽トラを借りて友人が働く材木店にずかずかと乗り込んで、廃材処分決定済みの材から良さそうな赤松をゲット。

その友人と彼の先輩の熟練大工さんの手を借りて、4Mの材から搬入しやすく1Mまで切り出していく。途中、そりの酷い材ははじいていくのだが、4Mの材が160本あるわけだから、単純計算640回切らなきゃいけないわけになる。総量1トン近くなるわけだが、いらないという床専用の塗料と一緒に軽トラにトコトコ積み込んで、オフィスに搬入。この作業だけで、普段の一週間分の筋トレに値するのではと思うくらいの肉体労働。

搬入さえ終わってしまえば、あとは自分ががんばるだけと高をくくっていたのだが、その横で「ここからが大変なんだよな」とポツリ友人。

廃材だけあって、加工も何も施してない無垢材なわけで、後ほどばんばん沿って歩けなくなるのを防ぐため4面の面取り作業開始。これが大晦日せまる26日。単純に640本の材の4面をとるわけだから、2560回のカンナがけとなるわけで、さすがにこれだけやってると次第に要領も良くなり、段取りもよくなってくるのだが、いかんせん時間と体力は異常に消耗していく。そんなこんなであっさり年明け。あけましておめでとう、赤松。

面取りを終えた材を、とっとこ床に仮置きして半端材を切り出していく。デジタルな時代にてびきノコ。週十回嫌になり布団にもぐりこんでは、「いやいや、俺以外誰がやる?」と思い直して、ギーコギコ。

一面とりあえず仮置きができるとそれなりに見えてくるから少々の満足感にそそられて、そのまま貼りつけ作業へと移行する。最近よく足を運ぶ六本木ドンキホーテで両面テープを買占め、一部分ずつ平行移動しては両面テープを張って、接着剤を塗りつけ、一枚一枚丁寧に貼り付けていく。

この作業、一番苦しかったのが両面テープを剥がすところ。「きーーーーーーー」っとなって、素手で作業していたら、終わったころには接着剤で手が真っ黒に。しかも特殊剤なので、シンナーで洗っても取れない。35平米ほどの貼り付け面積なのだが、地味な移動距離となるとかるく数キロになっているのではないだろうか。日本帰国以後ほぼ毎日行き続けたジムで背筋メニューを入れといて良かったと、本気で思う。

なんとか張り終え、暴れだした部分を欲しかったボッシュの電気ドリルでビス打ち。近隣に迷惑のかからない程度のソフトなビス打ち。

ここまでくれば峠は越えたかと思ったのだが、いやまだまだ。またまたドンキにいって、ツナギを買い込み、行きつけの金物屋でペンキを大量に買い込む。そして床も壁も天井もすべてペンキ塗り。体力も限界に近づいてきているので、なんらかの理由をつけて建築関係の友人を呼び込む。しかし彼らもうっすらその意図に気付くもんだから、なんだかんだで夕方くらいに登場。完全に戦力外通告。

そんなこんなで、アクティブな引きこもりと化したこの年末年始。その成果に少なくない満足感を得ながら寝るこのごろ。やはり大工はすごいと再確認。