2017年10月26日木曜日

救世軍本部_ル・コルビュジェ(Le Corbusier)_1933


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所在地  パリ
設計   ル・コルビュジェ(Le Corbusier)
竣工   1933 
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日本ではアイリーン・グレイの映画のお陰で、また注目が集まっているようなル・コルビュジェ(Le Corbusier)。その設計による救世軍本部がすぐ近くだから、せっかくだからと立ち寄っていくことにする。

1887年スイス生まれのル・コルビュジェ(Le Corbusier) は言わずとしれたモダニズムの大家。その作品年表を見てみると

1908  ジャンヌレ邸 (ラ・ショー=ド=フォン,スイス)
1923  レマン湖の小さな家(母の家) (コルソーヴェヴィ,スイス)
1924  アトリエ・オザンファン (パリ,フランス)
1924  ラ・ロシュ=ジャンヌレ邸 (パリ,フランス)
1925  ヴォワザン計画 (パリ,フランス) 計画案
1927  クック邸 (ブローニュ,フランス)
1927  スタイン邸 (ギャルシュ,フランス)
1931  ソヴィエトパレス (モスクワ,ロシア) 計画案
1931  サヴォア邸 (ポワッシー,フランス)
1933  パリ救世軍本部 (パリ,フランス)
1947  国際連合本部ビル (ニューヨーク,アメリカ) 計画案
1949  クルチェット邸 (ラプラタ,アルゼンチン)
1951  サラバイ邸 (アーメダバード,インド)
1952  マルセイユのユニテ・ダビタシオン (マルセイユ,フランス)
1952  カプ・マルタンの休暇小屋 (カプ・マルタン,フランス)
1955  ロンシャンの礼拝堂 (ロンシャン,フランス)
1955  高等裁判所 (チャンディガール,インド)
1956  繊維業会館 (アーメダバード,インド)
1956  ショーダン邸 (アーメダバード,インド)
1958  合同庁舎 (チャンディガール,インド)
1958  美術館 (チャンディガール,インド
1959  ラ・トゥーレット修道院 (リヨン,フランス)
1959  国立西洋美術館 (東京都台東区,日本)
1962  議事堂 (チャンディガール,インド)
1963  カーペンター視覚芸術センター (ケンブリッジ,アメリカ)
1967  ル・コルビュジェ・センター (チューリッヒ,スイス)

昨年のこの時期に足を運んだ同じくパリにあるスイス学生会館とほぼ同時期に設計されている初期から中期にかけての作品である。1933年ということだからコルビュジェ46歳の時の作品で、それまでの個人の施主相手の内容から、より公共性の高い、社会に向けた作品へと移行していく時期の重要な作品である。

また1931年のサヴォア邸で大々的に提唱された近代建築五原則が余すとこなく実現された建物としても知られているが、「救世軍本部」という名前からは一体どんな建物なのか分かりにくいが、そもそも「救世軍」というのが、キリスト教(プロテスタント)の教派団体であり、元々はイギリスにて貧しい労働者階級に布教を行う為に設立された組織であり、この建物はその「救世軍」からの依頼で、建物の機能としては、社会的弱者の人々が宿泊し、職業訓練などを受けて社会復帰を図る場所として依頼されたという。

1933年に完成した建物は、もともと中央空調など当時としてはかなり最先端の設備を前提として設計され、窓の無い全面ガラス張りの軽やかなファサードが特徴的であったが、さまざまな問題で中央空調が実現できず、窓も開けられないために内部は暑くて非常に住環境としては厳しいということもあり、戦後に再度コルビュジェの設計によってその問題を解消すべく外装を再設計し、開閉できる窓を設置し、各階ごとに色分けされたカラフルなファサードへと生まれ変わったようである。

そういう訳でまるで学生の宿舎のようなあるモジュールが連続する心地よいリズムを持ったファサードが数年後マルセイユで完成するユニテ・ダビタシオンの誕生を感じさせてくれる。

見学希望を伝えにロビーに向かうが、「ムッシュ、ムッシュ、見学はダメだよ」とあっさり断られ、エントランス周辺に漂うグリッドの一部に異物を挿入するコルビュジェの設計言語を感じながら建物を後にする。










フランス国立図書館(Paris National Library)_ドミニク・ペロー(Dominique Perrault)_1994 ★★★★


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所在地  パリ
設計   ドミニク・ペロー(Dominique Perrault)
竣工   1994
機能   図書館
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霧が立ち込める中、駅から少し北に戻り向かったのは、当時のミッテラン大統領の号令で行われた国際コンペ。レム・コールハースの野心的なヴォイドをテーマにした案で広く知られているコンペであるが、それを勝ち取ったのがフランス出身の建築家ドミニク・ペロー(Dominique Perrault)。1953年生まれであるからコンペ当時はまだ36歳と非常に若い時期に、これほど大きな国際プロジェクトを勝ち取ったことになる。

都市に現れた巨大な透明の本棚が互いに向き合うようにしてスクっと立ち上がり、それ以外なにも存在しないかのような、ミニマルなディテール。4本の塔は全て書庫にあてられ、それ以外の機能は低層部に収められ、そこに光を取り入れるために中心には地下数階まで巨大な中庭が設けられ、4棟のL字の建物に囲まれた中心部に、上部の枝を見せる巨大な木々に覆われた中庭をプラットフォームの上から眺めるその風景は、まるでこの世のものとは思えないほど超現実的な風景と体験である。

学生時代にどうしてもそれを一度見てみたく、はるばる足を運んだのを今でもよく覚えているが、その時以来の訪問。ドミニク・ペローは今年の夏に行っていたパリのモンパルナス・タワーのコンペで対戦相手であったこともあり、最近の作品などもよくチェックしていたが、やはりこのフランス国立図書館は今でも色褪せない傑作建築であるのを十分に再確認して、霧が一層濃く感じられるセーヌ川沿いへと足を向けることにする。


















パリ(Paris)


そういえば、昨年のこの時期にも訪れたパリ。その時に新しく始まるコンペの為に、パリを理解するために、螺旋状に分布する各区を意識してとことん歩き回ったのは、霧の様な小雨の降りしきる冷たい秋だったが、残念ながらそのコンペは勝つことができず、悔しさをかみ締めて夏を過ごして迎えた次の秋。今度はまた新しいコンペの打ち合わせの為に急遽訪れることになったパリ。

夕方に飛行機を決め、荷物をまとめに家に戻り、そのまま空港に向かって深夜過ぎの飛行機に搭乗。相変わらず可愛らしいエアーフランスの機内放送をばっちり動画に収め、パリに着くのは早朝6時。昨年と同じシチュエーションだと思いながら、パリ高速鉄道(RER)のチケットを買いこんで、まだまだ暗闇の中をパリ中心に向かう電車に揺られる。

オリンピックも決まったパリでは、その報を待っていた訳ではないが、21世紀のコスモポリタンへと変貌すべく、様々な開発が市のあちこちで行われている。世界中から様々な建築家が招聘されては、新しい都市の風景を作るべく、様々なコンペに参加しているニュースを耳にし、街を歩けば、「こんなところでも・・・」と思うほどに建設現場に出くわすことになる。

今回のコンペは開発が遅れていたパリの東側。セーヌ川に沿ってルーブルやノートルダムのある中心地から東に向かって進んでいくと、現代の記念碑とばかりにスクッと立ち並ぶ巨大な透明の本棚のようなドミニク・ペローの国立図書館が見えてくるが、その先がコンペの敷地という訳で、パリに観光に来る人であれば、よっぽどのことが無ければ足を運ばない地域である。

地下鉄の最寄り駅についてもまだ外は暗闇で、とりあえずホテルにチェックインし、軽く朝食を済ませ、午後の打ち合わせに間に合うようにと一人敷地周辺を歩きに地下鉄を乗り継ぐ。

敷地最寄り駅は、国立図書館駅ということもあり、学生時代に訪れた以来足を運んでいないので、折角だからと図書館の素晴らしいファサードを観に行き、そこから霧に霞むセーヌ川沿いを歩きながら、カサカサと風に揺られる足元の落ち葉に秋を感じながら、コンクリート生成工場などが立ち並び、すぐ横を大きなトラックが走り抜ける敷地周辺をじっくり歩き回る。

すぐ近くの大学エリアでは、ここでも大規模の開発が行われており、巨大な工事現場の中から、派手なファサードを競いあうようないくつもの建物が姿を見せつつあるのを横目に見ながら、資本に翻弄される都市と建築にはどのような未来があるのか少々げんなりしながら、せっかくだからと大学エリアの中にある、コルビュジェの救世軍本部まで足を運び、ホテルに戻り身支度を済ませ、共にチームを組むことになっているクリスチャン・ポルザンパルク(Christian Portzamparc )の事務所へと事前打ち合わせに向かうことにする。

午後の3時過ぎに、チームをまとめるディベロッパーのオフィスにて、共に設計を進める4事務所のメンバーと、投資を行う会社などの担当者も集まり、コンペのキックオフ・ミーティングが始まり、様々な意見が交わされ、18時過ぎに今後の動き方が話し合われて解散。

酷い渋滞ではあったが折角だからと事務所のメンバーとオペラエリアへと戻り、夏に満席で入ることができなかった、パリに住む日本人の友人に教えてもらった日本料理のお店で、お惣菜をつまみに日本酒をいただき、疲れも手伝ってあっという間に酔いがまわり、そろそろ時間がと20時過ぎに空港に向かい、次こそはせめて一日は滞在できるようにと心に決めて、23時過ぎに再度北京に向けて飛行機に乗り込む。




パリ高速鉄道(RER)





「江戸東京の聖地を歩く」 岡本亮輔 2017 ★★


東京生まれの宗教学者による東京論。1979年生まれというから、ほぼ同年代でということになるので楽しみにしてパリ行きの機内で読みきるが、帰りの機内でバックの中に本が無いのに気がつき、おろおろと探してみるが結局見つからず。お気に入りのブックカバーとともに、パリのどこかに忘れてきたのだろうと諦める。  

東京からパリへ、オリンピックと同じように聖地の魂も置いてきたことと自らを納得させることにするが、やはりこういう東京論は「アースダイバー」の様に、建築畑の人間でもヒリヒリするような緊張感を感じる内容を求めてしまうが、この本やどちらかというとより一般向けの東京論というところだろうか。



「ザ・サークル」 ジェームズ・ポンソルト 2017 ★

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スタッフ 監督: ジェームズ・ポンソルト 
原題: The Circle 
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スタッフ メイ・ホランド : エマ・ワトソン 
イーモン・ベイリー : トム・ハンクス 
タイ・ラフィート: ジョン・ボヤーガ 
マーサー:  エラー・コルトレーン 
アニー・アラートン:  カレン・ギラン   
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フェイスブック、ツイッター、インスタグラム・・・

次から次へと生み出される様々なSNS。テクノロジーは我々の生活の効率を高める手助けになるはずが、いつの間にか「SNS疲れ」が叫ばれる程に逆にそのテクノロジーに追われるかのように時間を過ごすようになった現代社会。SNSと上手く距離をとりながら、仕事やプライベートを充実させるために使える人はいいが、そうでなければ自分の誰かを比べストレスを感じ、ネットの先の不特定多数に認められるために自分を演じ、いつの間にかSNSに怯えながらも、それでもやめることができず時間を過ごす人は一体どれほどいるのだろうか。

誰もが発信者になり、誰ともコミュニケーションが取れる燦燦と光が差すような時代の、強い光だからこそ生まれる濃い影。テレビ東京の経済番組では勇ましいナレーションと共に紹介される現在の様子かと思ってしまうほど、手を伸ばせばすぐそこにある遠くない未来を描いたかの様な作品。

カジュアルで効率的で、開かれた社会と世界と人々の為になるイノベーションを追い求める若いテック企業。世界中の誰でも想像できるような企業のことを描いているのかと勘違いしてしまいそうなほど、この映画で描かれる企業の働き方、組織のあり方はインターネットによって生み出された様々なネット巨人の姿が頭に浮かぶ。

プライベートとネットの境目が無くなり、同じサービスでオンタイムで繋がった会員のカメラが全世界を覆う監視社会になり、警察がその行方をつかむことのできなかった犯罪者をほんの数十秒で追い詰めるのは、どこかのテレビ番組か、それともある種の宗教儀式かと思わされる。

この映画が公開されるころには、テック業界では遥か先に進んでいて、ここで描かれる問題はとっくに昔に解決済み課題となるくらいのスピード感で世界は進んでいくのだろうが、かつて毎年でる新しい家電やパソコンに終われたように、今は毎月現れる新しいSNSやアプリに追われるのでは、数年後は数週間で生活が変わるのかとぐったりする気持ちになりながら、自分の中でぶれないものをしっかりもって生きるのが唯一の舵取りなのかと自らの日常を振り返ることにする。