2015年11月29日日曜日

「蜩ノ記 」 小泉堯史 2014 ★

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 小泉堯史
原作 葉室麟『蜩ノ記』
脚本 小泉堯史・古田求
--------------------------------------------------------
戸田秋谷:役所広司
檀野庄三郎:岡田准一
戸田薫:堀北真希
水上信吾:青木崇高
松吟尼(お由の方):寺島しのぶ
三浦兼通:三船史郎
慶仙:井川比佐志
中根兵右衛門:串田和美
戸田織江:原田美枝子
--------------------------------------------------------
日本アカデミー賞で岡田准一の最優秀助演男優賞など数々の賞を受賞したと様々なメディアで報じていたのをよく覚えている。直木賞受賞作品の「蜩ノ記(ひぐらしのき)」の映画化ということもあり、間違いない作品だろうと見てみることに。

描かれたのは江戸時代。城内にて問題を起こした役所広司演じる戸田秋谷は、10年の歳月後に切腹を言い渡され、その間に藩の歴史である「家譜」を完成させることを命じられる。その目付け役として岡田准一演じる檀野庄三郎が住み込みで見張りをしながら生活を共にするという物語。

江戸の風景を再現するためにロケ地として選ばれたのは、岩手県遠野市など多くの東北の地。ベテラン監督である小泉堯史だけあって、映像もやはりフィルム撮りで行われ、役者たちにも書や舞踊を学ばせ、江戸時代の人々の動きを習得させたと言うこだわり。

命の残り時間が決められているにも関わらず、毎日同じように生活を営む秋谷の姿。そしてそれを見守る家族たち。大地に触れながら、自然の中に溶け込むようにして生きていく人々の生活をゆったりとした時間の流れと共に描き出す。武士と農民、その階級格差を生める祭という共同のハレの場。その場で舞われた踊りなど、日本の中で育まれた様々な生活の知恵や文化が至る所に散りばめられている作品である。

そのゆったりとしたリズムは深い森の中に響く蜩の鳴き声に共鳴する。

そういう意味では放映時間という枠に捉われ、30分や1時間という時間から逆算されるテレビ番組や、そこ派生したテレビの手法を使った映画作品に比べたら、非常に映画というメディアの特性を感じさせてくれる一作であることは間違いない。










小泉堯史

2015年11月28日土曜日

「オデッセイ」 リドリー・スコット 2015 ★★

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 リドリー・スコット
原作 アンディ・ウィアー『火星の人』
脚本 ドリュー・ゴダード
--------------------------------------------------------
マーク・ワトニー飛行士:マット・デイモン
メリッサ・ルイス准将:ジェシカ・チャステイン
アニー・モントローズNASA広報:クリステン・ウィグ - アニー
テディ・サンダース NASA長官:ジェフ・ダニエルズ
クリス・ベック博士 ミッションドクター - セバスチャン・スタン
ヴェンカト・カプール 火星探査統括責任者 - キウェテル・イジョフォー
ショーン・ビーン フライトディレクター:ミッチ・ヘンダーソン 
ケイト・マーラ システムオペレーター 原子炉技術者:ベス・ヨハンセン
キウェテル・イジョフォー 火星探査統括責任者:ヴェンカト・カプール 
--------------------------------------------------------
昨年は随分とSF映画の当たり年であり、今まで見たことの無かった映像、想像もしなかった世界観などに出会うことが出来た一年であったが、「それに比べるとどうやら2015年はSFは不作か?」と思われた中、随分と広告を展開していたのがこの作品。

ここ数年、NASAはじめやたらと押してくる火星もの。そろそろ火星に生物がいる可能性が発表されるのでは?という噂が出るのもしょうがない気がする中でのこの作品。主役はマット・デイモンで監督はリドリー・スコットとなればハズレはないと確信して映画館へ。

火星への有人探査隊のクルーが、火星調査中にアクシデントによって急遽退去することになるのだが、その途中に一人のクルーが風に飛ばされ死んでしまったと判断され、他のクルーは地球に向かって火星を離れるが、そのクルーがなんと生きており、しかも残された物資を使い残り少ない食料が尽きた後の為に、自給自足を始めて生き延びるという話。

火星や宇宙というトンでもない世界で、ふと自分の居る世界とは全くかけ離れた極限状態だと思考停止に陥りそうになるところを、それでも人は食べて排泄して生きていかなければいけないという身体をもった人間を中心にして宇宙を描くことでは、確かに今まで無かったタイプのSFなのかと思いながらみることになる。

どんな状況に陥っても諦めず、希望を失わず、なんとしても生き延びようとする。そんな人の物語を描くために、火星という風景がメインではなく、あくまでも背景に押し留められているところはやはり監督の手腕なのだろうと、そんなことを思いながら映画館を後にする。



















2015年11月27日金曜日

「虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜 」 宇田鋼之介 2012 ★★

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 宇田鋼之介
原作 川口雅幸
脚本 国井桂
--------------------------------------------------------
ユウタ:武井証 / 櫻井孝宏(大人)
さえ子:木村彩由実 / 能登麻美子(大人)
ケンゾー :新田海統 / 中井和哉(大人)
青天狗: 大塚周夫
蛍じい:石田太郎
--------------------------------------------------------
作品の中で、高畑勲 の「かぐや姫の物語」 の映像に似た、アニメーションでしか出来ないような絵が流れるような表現がされているのに気になって調べてみると、やはり作画にはCGは一切使用しなかったという。

CGの技術がここまで高度になり、使用するコンピューターの能力と投入する人員や時間によってそのクオリティが決まってしまうこの時代。その中で同じ土俵に立つことなく、独自の表現を模索する。どの世界でも同じように、様々な葛藤の末に新しい表現や価値が生まれてくるのだと改めて感心する。

それはさておき、ネットで公開された小説が人気となり、アニメ化、映画化となった背景もまた如何にも現代らしい作品である。

突然30年以上も前にタイム・トラベルして現代ではダムの底に沈んだ村でひと夏を過ごす少年の物語。まさに夏休みの大冒険という少年の永遠の憧れのファンタジーもの。長閑な風景の舞台となっているのは、埼玉県秩父市の二瀬ダム(秩父湖)ということらしい。

30年という時間と、美しかった自然を繋ぐ道具として重要な役割を演じるのがタイトルにもなっている「ホタル」。見終わった後に、今でもホタルの見える場所がどこなのかとついつい調べたくなる一作である。









2015年11月21日土曜日

ダンス 「St. Petersburg Eifman Ballet Anna Karenina」 NCPA 2015 ★★

--------------------------------------------------------
A ballet by Boris Eifman
Based on the novel by Leo Tolstoy 
Music: Pyotr Tchaikovsky 
Sets: Zinovy Margolin 
Costumes: Vyacheslav Okunev 
Light: Gleb Filshtinsky 
Premiere: March 31, 2005 
--------------------------------------------------------
ボリス・エイフマン(Boris Eifman)率いるロシアのバレエ団・St. Petersburg Eifman Ballet。演じるのはロシアの文豪トルストイの有名な同名小説を、ロシア・バレエ界の鬼才と呼ばれるボリス・エイフマンがバレエ化した「アンナ・カレーニナ」。

二週続けてロシアのダンスというのもなんだか冬の到来を感じるのに丁度いいかと足を運んだ一作。オーケストラじゃないから大丈夫かと思いきややはり一幕では耐えがたき睡魔に襲われあっさり撃沈。

気を取り直して第二幕から集中して観劇に励むが、「アンナ・カレーニナをちゃんと読んだっけな?」と思いながら、あやふやな記憶を辿りながらなんとか物語についていく。それでも終盤には独特な演出が見られ、「これがエイフマンらしい振り付けなんだろうな」と勝手に理解して今年最後のダンス鑑賞を終えることにする。

Eifman Ballet

「白ゆき姫殺人事件」 中村義洋 2014 ★★

--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 中村義洋
原作 湊かなえ
脚本 林民夫
--------------------------------------------------------
城野美姫(容疑者) - 井上真央
赤星雄治(映像制作会社・映像ディレクター)  - 綾野剛
長谷川(映像制作会社・編集マン) - 染谷将太
狩野里沙子(典子のパートナー) - 蓮佛美沙子
三木典子(被害者) - 菜々緒
篠山聡史(係長) - 金子ノブアキ(RIZEのメンバー)
満島栄美(美姫のパートナー) - 小野恵令奈(元AKB48)
城野光三郎(美姫の父) - ダンカン
城野皐月(美姫の母) - 秋野暢子
前谷みのり(美姫の友人) - 谷村美月
水谷(情報番組司会者) - 生瀬勝久
--------------------------------------------------------
昨年、良くその宣伝や広告を見た覚えのある映画。「告白」、「北のカナリアたち」に続いての湊かなえ作品の映画化。2015年大河ドラマ「花燃ゆ」の主演の井上真央を主役に持ってきて、事件の真相を追う報道番組のディレクターに綾野剛、誰もが認めるいい女役の菜々緒が血みどろで殺される衝撃的な姿と、十分に興味を引く要素は十分。

それに完全にインフラの一部となったSNSを使い、顔の見えない一般の人が自分勝手に意見や推測をTwitterにてつぶやきあきながら物語が進んでいくあたりも、今を感じさせる湊かなえの見事な手腕。

人は自分が見たいように物事を見る

というテーゼがSNSによって集団的に加速され、誰も責任を持たず、誰もが好き勝手に事実を作っていってしまい、それに報道をする側も乗せられてしまい、自分の望む事実を作り上げていってしまう。

そのトリックよりも、SNSの出現によって変わりつつあるメディアの役割や、それによって流されていく人々の心理。そしてネットの向こう側で匿名を逆手にとって好き勝手に振舞ってしまう自分達の姿。その現代性に改めて驚かされると同時に、こういう少し嫌だけど、驚くほどの美人という役がすっかりはまり役になってきた菜々緒にも同じように驚きながら見終えることになる一作。