2013年2月10日日曜日

森山邸 西沢立衛 2005 ★★★★

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所在地  東京都大田区西蒲田3
設計   西沢立衛
竣工   2005
機能   集合住宅
施工   平成建設
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今回大田区に足を運んだ一番の理由であり、今まで多くの人に薦められながらもなかなか足を運んでこなかったこの作品。住宅の在り方に対して大きな一石を投げかけた過去10年の中でも突出する一作であるのは間違いないだろうが、それが実際に住まう空間としてどう成立しているのか、狭い路地が入り組む、昔ながらの東京の下町の雰囲気を残す蒲田の住宅地に向かう。

電柱と電線によってトレースされたかのような、一方通行がギリギリのかなり狭い前面道路、そこから更に細く伸びる路地、そこに向かって各住宅がブロック塀を立てたり、小さな植栽をおいたりして、これぞ日本の住宅地という風景を作り出す。

そんな一見ごちゃごちゃした風景の中に、スケールは合っているが、すっきりとした印象を与える白いボックスが登場してくる。恐らく有名な建物だとしらなければ、お洒落な家だなと素通りしてしまうくらいに、風景に馴染んでいるこの住宅。それこそが、この住宅地のスケールの骨格を、住宅の中に落とし込んだ建築家の意図であろうと想像する。

施主の住宅と、賃貸部分の集合住宅をこの狭い敷地の中に混合させるという特殊な要求で、言ってしまえば一つの家族の住宅ではない、ということだからこそ可能だったこの配置計画だとは思うが、それにしても誰もが考え付きそうで、それでも誰もがやってこなかったことを成しえた建築家の思考は素晴らしいと感じる。

しかも、それを極めてシンプルな手法で、最大限の効果を得るという、誰もが納得してしまう解法をしめし、極限までシンプルな建築表現に落とし込むために、様々な技術的側面をクリアしていったその技能と知識はまさに見事だと思わずにいられない。

ある商業施設のような天井知らずな予算であったはずもなく、夏季と冬季の寒暖差が激しい日本の気候においては、断熱性能と気密性を高めるのが両季節における快適さを確保するための必要条件だが、その為に壁面面積が多くなればなるほど、必然的に断熱層などにより建設コストが跳ね上がる。それでもこのような分棟配置にするために、面積を無駄にしないのと同時に、通常の箱よりも何倍になるだろう断熱層の面積に対する解答として薄い鉄板構造の壁に大きな開口部というものがどう答えたかは分からないが、かならずそのプロセスの中であった激しい議論や葛藤と、ブレイクスルーする助けになった建築家からのアイデアに思いを馳せる。

様々な箱の高さを変えて、配置を少しずつずらしながら、隙間の空間をネガティブな路地空間としてではなく、住まいの中の「距離」としてポジティブな要素に置き換える。そして開口部を窓という換気、採光、眺めという機能的な要素から昇華させ、「風景」と内部をつなぐデバイスへと変換する。

「集合住宅」に付きまとう「知らない誰かが一枚の壁の向こうで生活している」ということから来る様々なネガティブな現象。「音がうるさい」「足音が気になる」「子供の泣き声が聞こえる」「共有部分に荷物を置く」など、各自が独立したコミュニティではなく、誰もが部分的所有者であるから起こる摩擦とそれを未然に防ぐ数々の制限。

それらの制限が「豊かな生活空間」を分断していることは明白で、如何に共に住まう人が顔の見える共同生活者として「少しずつ開くことで得られる全体の豊かさ」と共有できるか。その可能性を示す作品として大変意義のあるものであると同時に、これはあくまでも「住宅」としてではなく、「集合住宅」の範囲で評価を下されるべきものだろうと確信をして、次なる目的地へと足を運ぶ。













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