小津安二郎の「東京物語」(1953)へのオマージュとして、設定のほとんどは踏襲し、舞台を震災後の現代に置き換えて撮影されたこの山田洋次による「東京家族」。
ネットでもさんざん叩かれているようであるが、確かに何の為にリメイクしたのか良く分からない。田舎の離島に住まう老夫婦が成人して田舎を離れ東京で生活を送る3人の子供達に会いに来るが、既に家庭を持ち、東京での生活も長くなった長男と長女は、東京に住まうものとしての価値観で少々の煩わしさを感じながら両親に良かれと思う事をしてもてなす。
開業医を営む長男は、両親を東京観光に連れて行こうとする早朝に緊急の患者が入る為に出かけられなくなり、案内をキャンセルしなければいけない。美容院を営む長女は狭い家に両親を泊めて息苦しい思いをするくらいなら、少々高くても高級ホテルに泊まってもらって、美味しいご飯でも食べてもらおうと両親に勧める。昔からの旧友は息子が出生し大きな家に住んでいるといっていたが、それが見栄であり実は全然うだつの上がらない息子を情けなく思いながら、逆に田舎から出てきた男に「お前はいいな。息子が立派になって」と愚痴を言う。
ホテルの高級な料理が田舎から出てきた両親にとっては東京で望んで来た物ではなく、子供達が自分達との間に感情のズレを感じる両親だが、どうしてもそのズレは埋まる事が無い。そこに訪れる母親の急死。家族にとっての一大事においても、長女と長男にとってはあくまでも東京での自分の生活が基本にあり、そこから年老いた父親をどう助けるかの視点のみ。
それに対して父親と馬の合わなかった次男が彼女を連れて帰省をし、父親の身の回りのことを手伝うのだが、そこで少しだけ父親が子供に対する気持ちを語る。
つまりは、現代社会における家族がいかにバラバラになり、それぞれの生活、それぞれの住まう場所が基本として物事を捉え、家族を思う気持ちはあってもそれはあくまでも一方的な捉え方であり、それが如何に相手側にとっては痛みを伴うかを描こうとしているのだろうと想像する。
形を変えても、恐らく日本中のどこの家庭でもあるようなこと。成長する子供をいつまでも子供として、親の考え方から捉える両親。自分も家庭を持ち立派に都会で生活を持つものとして親を分かってあげようとする子供達。そして東京と地方という距離の問題。
はたから見れば十分に幸せな家族のはずが、それぞれのメンバーは不幸だと思わないにしても、恐らく外から見えてるような感情を持ってはいない。大家族が減り、忙しない日常を生きる現代人。同じ場所で同じ時間を過ごさない限り必ず起こるギャップ。家族よりも、日常を共有するもの同士の価値観が影響しあうのが人間である限り、家族といえばとも感情のすれ違いは当然ながら起こってくる。
その微妙なすれ違いを表現するためには、崩壊しきっている家族でも、逆に近すぎる家族でもダメで、仲はいいのだが、それでも各人が望むような完璧な関係にはなっていないそこそこの家庭が舞台である必要があったという訳だろう。
自分が望むと望まないに関わらず、両親と過ごせる時間には限りがある訳で、できることは少しでも共に時間を過ごし、それを自らが楽しむ事でしかないのだろうと思わずにいられない。
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スタッフ
監督 山田洋次
脚本 山田洋次
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キャスト
橋爪功 平山周吉
吉行和子 平山とみこ
西村雅彦 平山幸一
夏川結衣 平山文子
中嶋朋子 金井滋子
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作品データ
製作年 2012年
製作国 日本
配給 松竹
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