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2017年10月20日金曜日

オペラ 「エフゲニー・オネーギン (Eugene Onegin)」 Wuzhen Operahouse 2017 ★


烏鎮演劇祭(乌镇戏剧节,Wuzhen Theatre Festival)の目玉公演として、主催者側から「ぜひ観ていってください」とチケットを用意してもらったため、夜のオペラハウスへ足を運ぶことに。

「どこかで聞いたことのある題目だな・・・」と思っていたが、やはりかつて北京で観たことがあるロシアオペラ。ロシアの作家、アレクサンドル・プーシキン(Alexander Pushkin)の原作で、プロダクションはモスクワに拠点を置くヴァフタンゴフ劇場(The Vakhtangov Theatre)。演出を手がけたのはリトアニア出身の演出家リマス・ トゥミナス(Rimas Tuminas)。

19;30の開演に合わせて、ほぼ満席となって観客のそのほとんどは20代前半だろうと思われる若者ばかり。この烏鎮でロシアオペラにこれだけの若者が観に来るとは・・・と少々驚きつつも、3時間半に渡る長編オペラのために、アルファ波に誘われるようにしてチャイコフスキーの音楽に身をあずける事にする。












2015年12月13日日曜日

ハルビン・オペラハウス「GA Document 134」掲載


我々MAD Architectsが設計を手がけました、中国・ハルビン市のハルビン・オペラハウス(Harbin Operahouse)が現在発売中の「GA DOCUMENT 134」に掲載されております。


MADアーキテクツ
ハルビン・オペラハウス
中国,ハルビン

GA編集者の二川さんとの対談形式で、私がプロジェクトの概要を説明するという内容になっています。5年以上に渡る大規模のプロジェクトで、オペラハウスという非常に特殊で複雑な機能に対して、新しい都市の風景としてどのようにアプローチできるか、様々なことに挑戦しながら完成を迎えたプロジェクトです。ぜひ書店に足を運ばれる際には手にとって見ていただければ幸いです。

2015年1月24日土曜日

オペラ 「アイーダ」 NCPA 2014 ★★★★★

久々に足を運ぶオペラハウス。今日は朝からオフィスに出て作業を進め、夕方から一緒にオペラを観に行くメンターご夫妻の家で早めの夕食をご馳走になり、彼らの中国語の先生と4人で車でオペラハウスへと向かう。

「アイーダ」はオペラ初心者の自分でも知っているくらいメジャーなオペラの演目。ジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Verdi)による作曲で、1871年に初演された140年以上もの歴史をもつオペラである。

メンターによれば、人間の根源的な悩みを描いているから非常に分かりやすいし、また入り込みやすい演目だという。その話の通り、古代エジプト時代のエジプトとエチオピアの争いの間で、恋に落ちながらも祖国を思う男女の姿を描きだす。

いつもどおり第1幕は努力の甲斐なく、あっさりとアルファ波にやられて完全に眠りに落ちながら薄めで舞台を追う形となり、幕間の15分の休憩でなんとか眠気を吹き飛ばし、そこからが勝負とばかりに集中する。

何でもこのオペラのために、ズービン・メータ(Zubin Mehta)というインド出身の世界的な指揮者を招待し、イタリアからセットと衣装のスペシャリストを呼び寄せ、膨大な費用を投入して容易されたこの北京での「アイーダ」。壮大な物語と音楽と反響しあうように、素晴らしいオペラ体験となったのは間違いない。恐らく自分の今まで観たオペラの中で、一番の舞台であったと言えるであろう。

エジプトに奴隷として拘束されているエチオピアの王女であるアイーダ(Aida)役には、現在世界でアイーダを演じされえたら3本の指に入るといわれている、フイ・ハ(Hui He、和慧)。その恋人である若きエジプトの将軍であるラダメス(Radames)にはスペイン人のJorge de Leon。アイーダの恋敵でありエジプトの王女であるアムネリス(Amneris)にはロシア人のMarina Prudenskaya。

壮大なコーラスで歌われる有名なの「凱旋行進曲」など、ところどころに「あ、この曲、アイーダの曲だったんだ」と思われる曲も盛りだくさんで、今後チャンピオンズリーグを観るときにはアイーダを思い出さずにいられないと思いながら観劇を楽しむ。


ズービン・メータ(Zubin Mehta)
フイ・ハ(Hui He、和慧)
Jorge de Leon
Marina Prudenskaya
ヴェルディ

2014年5月24日土曜日

オペラ 「イル・トロヴァトーレ Il Trovatore」 NCPA 2014 ★★★★


最近二回続けて購入しておいたオペラが、仕事が終わらず観にいけなかったために、何としても今回は・・・と気合を入れて会場に向かったオペラ。

恐らく今まで見た中で一番良かったオペラとなったかもしれない。恐らく多くの舞台を見ているメンター夫妻にとっては、あまりよくないプロダクションだというのかも知れないが、まだまだ素人の域を出ない自分にとっては、舞台と衣装と役者の歌声によって何度も身体がゾクゾクする瞬間を感じることが出来た。

今回は前回ほど仕事が立て込んでいなかったこともあり、開幕前にオフィス近くの中華料理屋で好物の辣子鸡とビールをいただいていたので、第一幕は完全に睡魔に負けてしまう。3階席の最後部で、少しでも身体を平行に出来るようにと足を投げ出しながら、楽な体勢を探しながら横目で舞台を追う。

恐らく少なく無い人がオペラの発するアルファ波によって眠気に抵抗することが出来ないのだろうと想像するので、幾つかのシートをもうフラットに出来るような仕様にすればいいのに、という訳の分からない思いを巡らしながら普段の生活では感じることの出来ないリラックスを身体中で感じながら一幕を終える。

なんといっても主演の男の役者が素晴らしい。恐らく声量でいったら、他の役者のほうが素晴らしかったり、テクニック的にはうぐれていたりするのだろうが、この主役の歌声はなんとも心に響く。そして会場も盛り上がる。

ヒロインもそのビブラートや声量は、主演に勝るとも劣らぬ技量なのだろうということは、自分でもなんとなく分かるが、それはあくまでも技術の一部。技に思えてしまう。如何にも「どう、私凄いでしょ?」と言わんばかりに聞こえてくるが、どうも響いてこない。これだけの役者がそれぞれの見せ場を繰り広げるが、それでも会場が「ブラボー!」と送る役者は決まっている。それが舞台芸術の面白さなんだろうと思わずにいられない。

幕間の20分の間に、目覚めの為にとレモンのアイスを食べてみると、急に腹痛を感じ、トイレに駆け込むことになる。しかしトイレの中では中国人が電話をしていて、一向に出てくる様子はない。腹を立てながら、しょうがないので一つ下の解へと向かう。損なこんなをしていたら、後半が始まってしまい、暗闇の中を足元を気にしながら席へと戻る。

その後半が特に良かったかと思われる。ストーリー時代は何度も複雑なので追いきれなかったが、舞台セットも美しく、衣装も綺麗である。恐らく過剰な演出だったところもあるのだろうが、それも含め気持ちを向上させてくれる都市の文化だと思わせてくれるに十分である。日常では感じられない高揚感。フワフワした気持ちを感じて家路に着く。それが巨大都市のみが持つことを塗るされる文化施設の魅力。

「イル・トロヴァトーレ(Il Trovatore )」はヴェルディがが作曲したオペラであり、ヴェルディがの中期の傑作の一つとして数えられている。日本語訳は「吟遊詩人」。幼い頃にゲームのファイナルファンタジーでこの言葉に出会った頃は、一体何が凄いのか良く分からない職業だと思っていたが、こうして舞台で見るとこのオペラに相応しい魅惑的な職業名だと思ってしまう。

こうして今夜も少しだけフワフワした高揚感を感じ、来た時よりも少しだけ身体を軽く感じながら家路につくことにする。




Lu Jia
ヴェルディ

2014年5月8日木曜日

オペラの負担


今日もまた、仕事が長引き買っていたオペラのチケットを無駄にすることになった。誘ってくれていたメンター夫妻は、「もう始まってますよー」「もう終わっちゃいますよー」と実況中継してくれるが、残念ながら仕事は終わらない。

今日行く予定のオペラはNCPAでの「Shanghai Opera House Attila」。ちなみに先々週の4月27日にもチケットを買っていたが行けなかったのが、NCPAでの「Verdi´s Opera Nabucco」

この春はヴェルディ特集ということで、かなり楽しみにチケットをメンターに薦められるままに買っていたのだが、ここ最近2連続で無駄にしている。

しかし、こうしてチケットを無駄にしても、それでもチケットを購入することで、都市の中にオペラハウスを維持する負担を少しだけでも負担しているのだと思えることで、なんとか気持ちを盛り立てる。

多くの都市論でも語られるように、膨大な維持・運営費のかかる巨大な文化施設はその費用をチケット代として分担負担することができる多くの市民の存在が必須となり、これだけ良質なプログラムを「あーだこーだ」いいながらたまにでも鑑賞できるのは、それは文化施設を持つことができる規模の都市に住んでいる恩恵である。

そんな風に考えながら、徐々に行けなかった悔しさを自分の中で消化して次のコンサートこそはいければと淡い期待を膨らませる。

2014年3月26日水曜日

ハルビン・オペラハウス MAD Architects 2014



仕事のことを書くにはどうも近視眼的になってしまうので、できることなら避けたいのと思っているが、流石に少しは仕事の内容を紹介しておくことも、何かの役に立つのではと思わない訳でのないので紹介しておく。

現在共同主宰するMAD Architectsが設計を手掛けるプロジェクトの中で、最も重要な位置を占めるプロジェクトの一つにあたるのが、2014年、今年の末に竣工を予定している、中国北部黒竜江省の省都・ハルビン市の北部に建設中の、ハルビン・オペラハウス(Harbin Opera House)。

2010年の年初から始めたからすでにまる4年が経ち、5年という時間を持って竣工を迎える何とも息の長いプロジェクト。

オペラハウスという都市にとっても文化を支える大きな意味のある建築物なので、美術館や図書館の様に、どこの地方都市にも一つある、というようなタイポロジーではなく、その維持と運営を賄うだけの公演を行い、それに見合ったチケット代を支払って鑑賞しにくる観客がいなければ、オペラハウスは維持できない。

その為に、必然的にかなり大都市のみに持つことが許される建築タイポロジーである。オペラハウスと言われイメージされる世界の都市でも、シドニー、ウィーン、ニューヨーク、パリ、ロンドン、サンクトペテルブルクなど、やはり名だたる大都市が上がってくる。

日本に目を向けると、オペラの上演を可能とするサイド・ステージとバック・ステージを持つものとすると、

新国立劇場(東京都渋谷区) 1997年 設計;柳澤孝彦
よこすか芸術劇場(神奈川県横須賀市) 1994年 設計;丹下健三
アクトシティ浜松(静岡県浜松市) 1995年 設計;日本設計
まつもと市民芸術館(長野県松本市) 2004年 設計;伊東豊雄
富山市芸術文化ホール(富山県富山市) 1996年 設計;久米設計
愛知県芸術劇場(愛知県名古屋市) 1992年 設計;A&T建築研究所
滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール(滋賀県大津市) 1998年 設計;佐藤総合計画
兵庫県立芸術文化センター(兵庫県西宮市) 2005年 設計;日建設計

となるらしい。東京、名古屋、神戸は、上記のオペラハウスという文化施設を都市として維持するためには、チケット代として維持費を分担し負担する文化度の高い多くの市民が必要である、という流れで納得できる。

そう考えると、横須賀、浜松、松本、富山、大津などではどれくらいの人口で、どれくらいの人が足しげくオペラハウスに通うのかと気になったので各都市の人口を調べてみる。

横須賀市 408,934人
浜松市 791,513人
松本市 242,834人
富山市 419,240人
大津市 341,713人

浜松の人口がこれだけ多いは意外だったが、オペラハウスを持つ都市の基準人口がどれくらいなのか気になる数字であり、これらの市でオペラハウスの施設がどのように現在使われているのか気になるものである。

また松本と兵庫以外は、すべてが90年代というバブル時代に計画が進められた公共施設なので、その当時の想定と随分ずれてきている現在の差異がどのようにこれらの施設に影響を与えているのかも興味深いところである。

とにかく、市区人口は587万人、都市圏人口は1000万人を超す大都市と呼んでよいハルビン市にできるこのハルビン・オペラハウス。コンペから参加し、そのコンペを勝ち抜き、様々な困難を経験して現在最後の外装材の仕上げと、内装工事が進んでおり、規模が規模だけに、多くの部分を実際にモックアップと呼ばれる、1対1で実際の寸法で建物の一部を作ってみて納まりや素材、照明などを確認していく作業に追われている。

建設中なのでできるだけ情報を外に出さないように心掛けているが、やっとプレス・リリースできるようなところまで来たので、一部の現場写真も建築系ニュースサイトにアップされた。

Harbin Cultural Center / MAD Architects

シドニーの様に、街の誇りとして語り継がれ、世界から人を引き付けるようなオペラハウスになるかどうかは、この半年にかかっていると思っている。音響という身体に直接的に働きかける特殊な建築タイポロジーなだけに、実際に触ってみて、近寄ってみてはじめて分かる空間性。それを実現できるように、今まで費やしてきた時間とエネルギーを無駄にすることなく、手の痕跡が多く感じられるような内部空間を作り出せるように、あと半年を過ごすことにする。





2014年3月1日土曜日

コンサート 「Daniel Harding & Yuja Wang and London Symphony Orchestra Concert」 NCPA 2013 ★★★★

今夜のコンサートはいつもと少し違う。というのはいつもの様にメンターのお勧めでチケットを購入したわけでなく、オフィスのスタッフであるイタリア人の勧めで調べたコンサート。

自分がちょくちょくオペラハウスに足を運び、音楽を聴きに行っているのを知っている彼が突然デスクにやってきて、「今度くる中国人のピアニストは、今まで自分が聞いたラフマニノフの演奏で一番良かった」と教えてくれる。「かなりチケットは高いけどもし都合が合えばぜひ見に行ってみては?」と勧めてくれる。

父親が大学教授で、妹が音楽をやっているという相当に文化レベルの高そうな家庭で育ったイタリア北部出身の彼。そんな風に勧められると、この気持ちを無駄にすることはなかなかできない。そして調べるとなるほど680元のチケットしか残っていない。日本円で1万円を超えてくる・・・。妻にも聞くと興味があるというのでそうなると二人で2万円超えかと暫く悩むが、この機会を逃したら一生効くことなく終わるだろうと、「これも出会いだ」と決心しチケット購入。

そんなきっかけで行くことになったコンサート。こんな風に自分が何を好きか知っている人が周りにいて、しかもそれを共有でき、なおかつ自分の素晴らしいと思うものを進めてくれる。極めて個人的体験である音楽を薦めて貰える、そんな贅沢なことは無いかと思う。そして非常にありがたい。いつか自分も「あのピアニストは素晴らしいからぜひ足を運んだほうがいい」と言える様なレベルまで早く達したいものである。

そんな訳で今回のコンサートは「女王陛下のオーケストラ」と呼ばれ、エリザベス2世が名誉総裁(パトロン)に就いているというロンドン交響楽団( London Symphony Orchestra)。かつて住んでいたロンドンを拠点にするオーケストラだが、当時には音楽を聴きに出かける習慣が無かったことが悔やまれる。今ではあの、「バービカンセンター」を拠点にしているという。

そんなオーケストラを率いる指揮者は、若いイケメンのイギリス人、ダニエル・ハーディング(Daniel Harding)。1975年生まれと言うことだから、40歳手前という若さ。ネットで調べると、2012年4月から、軽井沢大賀ホール初代芸術監督の就任となっている。これは軽井沢に足を運ぶ良い言い訳が一つ増えたことになる。

そして今回のゲストは北京出身のこれまた若手ピアニスト、ユジャ・ワン(Yuja Wang、王羽佳)。イタリア人のスタッフが言っていたのは、この女性ピアニストの演奏が素晴らしいということ。相当なエリート音楽家庭で育ち、若い頃からカナダに渡り、今はNYを拠点に世界中で活躍しているようであるが、そんな彼女の凱旋公演となる訳である。

ネットでも色々紹介されているように、その若さが溢れんばかりにかなりのボディコンというか、ミニスカートで登場することでも知られているらしい。もちろん今回も真っ赤なタイトなドレスで登場してきた。そしてもう一つ特徴的なのが、演奏後の挨拶で胸に手を当て会場を見渡し足を交差させて、一気に頭を深く下げるお辞儀の仕方。頭が「ガクン」と音を立てるくらいの勢いである。横を見ると、やはり妻も「・・・」という表情でこちらを見ている。

そしてプログラムはゲストのユジャ・ワンを迎えた前半に、まずはロシアの作曲家であるセルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov)作の「ピアノ協奏曲第3番ニ短調作品30(Piano Concerto No. 3)(1909年)」。ピアニストであったラフマニノフ作ということもあり、相当に高度な演奏技術を要求されるピアノ協奏曲だという。技術的・音楽的要求に於いてピアノ協奏曲の中で最難関の一つとも言われており、若いピアニストが挑戦するにはもってこいの曲である。

そんな高度で高速な演奏を要求するだけあり、演奏の途中でユジャ・ワンの指がまるで何本にも増えたような錯覚を覚える場面が何度かあった。それくらいやはり凄い迫力の演奏である。

そして次は同じくロシア出身のイーゴリ・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)作曲の
「ペトルーシュカ』 (Petrushka)」。ストラヴィンスキーの三大バレエ音楽の一つの作品である。

内容はロシア版のピノキオで、正真正銘の人間ではないにもかかわらず真の情熱を感じ、そのために人間に憧れている感情を表現する。ペトルーシュカは時おり引き攣ったようにぎこちなく動き、人形の体の中に閉じ込められた苦しみの感情を伝える曲だという。これにはオリジナルの1911年版と改訂された1947年版があり、今回はその1947年版。

ゲストが退場し、幕間を挟んだ後半はまたまたロシア出身のセルゲイ・プロコフィエフ(Sergei Prokofiev)作曲による、「ピアノ協奏曲第2番(Piano Concerto No. 2)」。

そして最後はオーストリア出身でウィーンで活躍したグスタフ・マーラー(Gustav Mahler)作曲の「交響曲第1番(Symphony No. 1)」。マーラーの交響曲のなかでは、演奏時間が比較的短いこと、声楽を伴わないこと、曲想が若々しく親しみやすいことなどから、演奏機会や録音がもっとも多いという。

そして何より驚いたのが、アンコールに演奏されたのがまた「スターウォーズ」のテーマ曲。「先週と一緒じゃないか・・・」と思いながらもオーケストラの面々は、「それ、盛り上がるだろ?」とかなりのドヤ顔。

「先週のオーケストラもやってましたよ・・・って」誰かオペラハウスの関係者が教えてあげればいいのに、と思うが、そもそもこの様なアンコールに何を演奏するかは、オーケストラ側からハコ側には伝えないのだろうから、そりゃ分かりっこないかと納得する。しかしこれはかなり珍しいことなのか、それともクラシック業界でスターウォーズが流行ってるのか?

ロシアにスターウォーズ。コンサートの中に散りばめられたキーワードたち。これはなにやら意味深なことだと思いながら素晴らしいコンサートを後にする。

ダニエル・ハーディング(Daniel Harding)
ユジャ・ワン(Yuja Wang、王羽佳)
セルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov)

イーゴリ・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)
セルゲイ・プロコフィエフ(Sergei Prokofiev)
グスタフ・マーラー(Gustav Mahler)



2014年2月23日日曜日

コンサート 「Gürzenich Orchestra Cologne Concert」 NCPA 2013 ★★

久しぶりのコンサート。妻と一緒に早めの夕食を済ませ、スクーターでオペラハウスへ。いつも通りメンター夫妻と合流し、互いの席を確認する。

今回のオーケストラはドイツのケルンを拠点とするギュルツェニヒ管弦楽団(Gürzenich Orchestra Köln)。そしてそれを率いるのは指揮者のマークス・ステンツ (Markus Stenz)。

そして今回のゲストは、ドイツのクラリネット奏者であるザビーネ・マイヤー(Sabine Meyer)。1959年生まれというから現在55歳。とてもそうは見えない若々しさ。音楽家には我々と違った時間が流れているのだろうと想像する。

プログラムはザビーネ・マイヤーをゲストとして招いた前半にアマデウス・モーツァルト( Amadeus Mozart)作曲の『クラリネット協奏曲イ長調K.622』(Clarinet Concerto in A major, K. 622)。

Clarinet Concerto in A major, K. 622 Wolfgang Amadeus Mozart
  1. Allegro  
  2. Adagio  
  3. Rondo: Allegro  
   Clarinet: Sabine Mayer  

1791年に作曲されたクラリネットと管弦楽のための協奏曲であり、モーツァルトの中でもかなりの人気曲ということである。ちなみにモーツァルトが作曲した唯一のクラリネットの為の協奏曲ということで、ゲストのクラリネット奏者に合わせての選曲ということだろう。

幕間を入れて後半は、リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss)作曲の『アルプス交響曲』(An Alpine Symphony)。モーツァルトを崇敬していたというシュトラウスなので、モーツァルトからシュトラウスという音楽的繋がりも楽しめる構成になっている。

An Alpine Symphony(アルプス交響曲), Op. 64 
  1.  Nacht (Night)  
  2.  Sonnenaufgang (Sunrise)  
  3.  Der Anstieg (The Ascent)  
  4.  Eintritt in den Wald (Entry into the Wood)  
  5.  Wanderung neben dem Bache (Wandering by the Stream)  
  6.  Am Wasserfall (At the Waterfall)  
  7.  Erscheinung (Apparition)  
  8.  Auf blumigen Wiesen (On Flowering Meadows)  
  9.  Auf der Alm (On the Alpine Pasture)  
  10. Durch Dickicht und Gestrupp auf Irrwegen  
        (Straying through Thicket and Undergrowth)  
  11. Auf dem Gletscher (On the Glacier)  
  12. Gefahrvolle Augenblicke (Dangerous Moments)  
  13. Auf dem Gipfel (On the Summit)  
  14. Vision (Vision)  
  15. Nebel steigen auf (Mists rise)  
  16. Die Sonne verdustert sich allmahlich  
        (The Sun gradually darkens)  
  17. Elegie(Elegy)  
  18. Stille vor der Sturm (Calm before the Storm)  
  19. Gewitter und Sturm, Abstieg  
        (Thunder and Storm, Descent)  
  20. Sonnenuntergang (Sunset)  
  21. Ausklang (Final Sounds)  
  22. Nacht (Night)

いつもの通り演奏開始と共にどっぷりとアルファ波に引き込まれ、横から冷たい視線を投げてくる妻の視線を感じながらも睡魔と柔らかなる格闘をしながら演奏に身を任せる。二階のサイド席なので、オーケストラを上から見下ろす形になり、チェロ奏者の中になんだか日本人っぽい男性がいるのを見つける。

後々調べると、中国人のチェリストだということが分かる。その演奏している姿を見ながら、恐らく小さい頃から国ではもの凄い才能を認められ、音楽の本場のヨーロッパに渡り、そこでも認められながら、どこかで自らの居場所を探していったのだろうと想像する。恐らく国に帰るか、それともそこで生活を続けるのか、様々な葛藤を抱えながらも今を過ごしているのだろうと勝手な想像が現実と眠りの狭間で持ち上がってくる。

演奏終了後のカーテンコールがとにかく長いのにやや疲れ気味になりながら、やっと始まったアンコールは「スターウォーズ」のテーマ曲。これには観客も大盛り上がり。やはり耳慣れた音楽を大迫力のオーケストラで演奏してもらえると、オーケストラの音の奥行がよく伝わってきて楽しめる。それにしてももう少しカーテンコールをギュッと圧縮してもらえればコンサートの余韻を楽しめるその後の夜の時間が持てるのにな・・・と思わずにいられない。

もしくはオペラハウス内か、もしくは付近に夜遅くまで営業するバーなどを併設すべきだろう。早く寝ないといけない子供はともかく、コンサートで高揚した気持ちを落ち着けるまもなく、とにかく皆出口に向かいすぐに家路につくのも、なんだか味気ない。せめて一杯引っ掛けて、「あれは良かった、これはどうだ」なんていってから帰りたいものである。

そんな訳で、メンター夫妻と相談し、市内中心の胡同エリアにできた美味しいビールを出すバーに行って軽く飲んで帰ることにする。彼らは地下鉄と乗り換えて、我々はスクーターで先乗りして喉を潤す事にする。



マークス・ステンツ (Markus Stenz)
ザビーネ・マイヤー(Sabine Meyer)
アマデウス・モーツァルト( Amadeus Mozart)
リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss)


2014年2月16日日曜日

施工に土日はない

日曜日だというのに、ハルビンからクライアント団を始めとし、内装、外装、カーテン・ウォールの施行会社、それぞれのコンサルタントなどが大量に事務所に押し寄せ、進んでいるオペラハウスの施行の問題点について打合せをする。

今年中に終わらせなければならないオペラハウスという巨大な現場が動いている様子は、あたかも強大な生物が日々蠢いているようなものである。様々な関係する人間が、その内部に入り込み、それぞれの役割を果たすべく作業をし、様々な決定を下していかなければいけない。

少しでも遅らせる事は現場に入っている何百という作業員の一日の仕事が遅れることを意味する。そんな現場に土日は無い。なんとか現場を止めない様に、遅らせないようにと日曜日でもなんだろうと打合せを進めていくわけである。

このプロジェクトに関係するメンバーはもちろん資料を用意し、朝から出てくる訳であるが、幾つものプロジェクトを同時に見なければいけない側としては、このような状況がx10で押し寄せてくる。当然、まともな週末など期待できるわけも無い。

せめて竣工後、こけら落とし公演で自分達が魂を込めて設計したオペラハウスの中で、今度何十年とその地の文化の発信源となる建築で、心地よい音楽を聴きながらアルファ波の中に落ちていく瞬間を期待する事にする

数多の項目

数週間先に迫った来たモスクワの都市計画のコンペの締め切り。
現場が進み今年中には竣工を目指すハルビンのオペラハウス。
シンガポールよりのマレーシアの海上に浮かぶ新しい都市計画のプレゼン。
日本で設計をした住宅のその後の寒気への対応。
北京の798アート地区に計画されている美術館の提案。
朝阳公園脇に計画中のオフィスビルのファサード・コンサルタントのワークショップ。
アモイで進むアパレル会社の本社ビルの内装デザイン。
泉州のコンベンション・センターのプレゼン。
黄山で第一期が既に建設中の住宅プロジェクトの第二期の設計。
南京で進むオフィス地区の設計。

進行中のプロジェクトはそれぞれのプロジェクトに5-7人のチームを組むことになる。プロジェクト・アーキテクトを中心に、数人のフルタイムのメンバーと、それをサポートするインターンの学生達。

それぞれのプロジェクトには、クライアントがいて、LDIと呼ばれる地元の設計会社がいて、様々な分野のコンサルタントがいて、それぞれがそれぞれの役割をもって全力でプロジェクトに関わっている。

毎日多くのやり取りが行われ、でてくるのもののほとんどは「あれはできない、これは無理」という難題ばかり。それをどうにか頭をひねり、知識と経験を駆使して、なんとか良いアイデアで実現できるようにと考える。そしてそれを人に伝える。

そんな構築的と言うよりは、どちらかというとマイナスをなんとか少なくする為に時間を過ごす毎日である。

各プロジェクトですら一日に行わなければいけないこと、進めなければいけない項目は数多になる。それが10を超えて、その全てを見てやり取りをしていかなければいけなくなると、それはある種曲芸の様なものである。

ウツウツとするような時間も与えられず、ひたすらに短時間に如何に効率よく処理をして、指示をしていけるかだけ。現状に文句を言う暇があれば、少しでも自分の能力を高め、そのスピードを増して、経験値を上げて見えることを増やしていくしかない。

恐らくどこかで臨界点は来るのだろうと思うが、それまではできるだけ職業的能力の向上を自分に課して、何処までいけるか試してみるかと自分を納得させてまた机に向かうことにする。

2014年2月3日月曜日

島根県芸術文化センター 内藤廣 2005 ★★★★


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所在地  島根県益田市有明町
設計   内藤廣
竣工   2005
機能   美術館・劇場
構造   鉄筋コンクリート造・一部PC造+鉄骨造
敷地面積 36,564㎡
建築面積 14,068㎡
延床面積 17,800㎡
別称   グラントワ Grant Toit
舞台音響 唐澤誠建築音響設計事務所
サイン  矢萩喜從郎
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BCS賞受賞
2010年 公共建築賞受賞
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既に関東では雪が降り出し、記録的といわれた大雪で都市機能が麻痺した雪模様もこちら山陰地方にも影響を及ぼしだし、随分と下がってきた気温の為に周囲には霧雨のような細かい水滴が漂うような天候になってきた。

今回の旅行が横に長くなってしまった大きな原因の一つがこの現代建築。最近日本で巡礼に出かけると、必ずところどころで出くわすことになるこの建築家の作品。今回はこの建物を見たいが為にわざわざ島根の西の果てまでやってくる事を決め、それに付随して雪舟庭園などがこの地にあることを発見することになる。

その建築家とは、今「日本の建築家」と言えば必ずその名が挙がると思われる「内藤廣
隈研吾SANAAに比べて海外での活動はそれほど頻繁ではないので、海外での知名度は日本のそれに比べたらそれほどではないと思うが、今の日本の建築界に大きな影響力を持ち、昨年の新国立競技場問題でも主役の一人として立ち回った人である。

その絶好調はGA年末特集でも2013年を総括し、「こぶしが利いてる」や「隈の時代」などと、独自の表現方法で好き放題言い放っていた、気さくで文化的な総合知の建築家を印象付ける良識の建築家であろう。

その来歴をみてみると、早稲田大学大学院にて吉阪隆正に師事をし、スペインに渡りフェルナンド・イゲーラスの元で働き、帰国後は今後は菊竹清訓の元でキャリアを積みその後独立。独立後は下記代表作を定期的に造り続けている。

1992年 海の博物館(三重県)(42歳)
1997年 安曇野ちひろ美術館(長野県)(47歳)
1999年 十日町情報館(新潟県)(49歳)
1999年 牧野富太郎記念館(高知県)
2002年 フォレスト益子(栃木県)(52歳)
2002年 ちひろ美術館・東京(東京都)
2005年 島根県芸術文化センター(島根県)(55歳)
2006年 二期倶楽部 七石舞台【かがみ】
2006年 とらや御殿場店(静岡県)(56歳)
2008年 日向市駅と駅前広場(宮崎県)(58歳)
2009年 高知駅(高知県)(59歳)
2011年 旭川駅(北海道)

そう見ると、この島根には東から内藤廣の師匠に当たる二人、菊竹清訓と吉阪隆正の作品が立ち並び、島根の現代建築の系譜の東から西への軸の最期の地に、その師匠の教えを受けて自らの建築を作り上げてきた内藤廣が代表作となるこの島根県芸術文化センター(グラントワ)を設計することになるとは、流石は一流の系譜だと思わずにいられない。

それと同時に、その作品を見ているとふと思う。

伊勢神宮 三重県 海の博物館 40代
出雲大社 島根県 グラントワ 50代

日本でこれほど幸せな建築家がいるであろうかと思ってしまう。この国に流れる神域の空間の近くで現代の公共の場となる建築を作る機会を得ること。出張にかこつけて好きなだけ聖域巡りが出来ることも当然だが、それだけ上質な空間を日常の中に持っている人々が足を運ぶような建築をつくり、ある意味日本の神域空間に堂々と挑戦できること。伊勢と出雲。二つの場所で壮絶な闘いを繰り広げたボクサーの様な感じか。

そんな建築家の作品リストを眺めながら、「次は高知で牧野富太郎記念館か高知駅だろうな・・・」と思いながら到着して駐車場から歩いて建築にアプローチしていくと見えてくるのが、太陽光に反射した外壁に使用された赤茶色の瓦の数々。

この建物を語る上で何よりもまずあがってくるのがこの瓦。この益田に限らず、山陰地方を車で回っているとところどころで特徴的な街の風景を目にすることが出来る。それが日本家屋の屋根に被せられた特徴的な赤茶色をした石州瓦(せきしゅうがわら)。

「形態デザイン講義」 などの著書でも語られているように、石見地方の特産であるこの石州瓦は、その焼成温度が1200℃以上と高いため凍害に強く、日本海側の豪雪地帯や北海道などの寒冷地方で広く使われている瓦であり、三州瓦、淡路瓦と共に日本三大瓦の一つとなっている瓦である。もちろん、その名前の石州(せきしゅう)とはこの地方の石見国の別称である。

建築を外的要因から守る最たるものである瓦。100年単位でこの街の文化を支えていく施設であるならば、その耐久性も相当に長いスパンを考慮するべきだということで、この地方の街並みを形成してきたシンボルでもある屋根瓦を壁面に使用して耐久性を獲得しようというアイデアを採用したこの建築。

屋根瓦12万枚、壁瓦16万枚で、壁面にこの瓦を使った建物は初めてだという。ここまでに訪れてきた集落などでものすごい普通だけど、ちょっと違う風景を作り出してきた建築要素こそが瓦。屋根を覆う一つ一つのモデュール。真っ黒な瓦を持った豪勢な日本家屋に対し、その横に赤茶色の屋根を持った光を反射する屋根達。それがまるで勢力を争っているかのように、黒と赤茶のオセロを展開する山陰地方の風景。

それがこの益田の地で、一気に赤茶の優勢が決定されたかのように、目の前に垂直に広がる赤茶の壁面。その一つ一つのモデュールが、なまめかしい曲面を持ち、光の波動性を証明するかのように太陽に光をキラキラを反射して出迎えてくれる。

自然素材である為に大地との相性は抜群で、この場に何百年も居たのではないかと思えるような佇まいを見せてくれる。そんなことを思いながらエントランスにアプローチしていくと、恐らく地域の高校生と思われる集団が何やらイベントがあるらしく、その流れに紛れながら建物に入っていくことにする。

ここまで訪れた現代建築は、これという強い空間が見受けられるものが少なく、なんともつまらないものが多かったが、この建築はその点楽しめる空間が非常に多い。建物の中に様々な場所がある。その中心となるのが目の前に広がる中庭。

その前には外部と中庭を、そして各プログラムを繋ぐ回廊。ギャラリー・スペースである。天井高さに対して、中庭に向けての視線をコントロールすべく低く抑えられた庇の高さ。そのお陰で中庭を眺めると、水盤を囲む四方のボリュームの足元に、細い長い陰の黒い空間が横たわる。まるで建物が浮かんでいるかのような深い陰を作り出す。

建物にアプローチしてまずその出迎え。心の中では確かに感じられる高揚感。悪くない。その中庭の中心に添えられるのは、水深の極めて浅い水盤。池というより、数ミリの水の膜。水という求心性を持つ要素を中心に据えることで、この場所が様々な人々へ働きかける効果を十分に理解した建築家の手法である。

それを証明するかのように、先程の高校生の一部の男子グループが、ふざけあいながら水盤に近づき、一人の子がはしゃぎながら走りながら、止まるのだがその勢いのまま水盤の中に滑っていくという遊びをしている。なんともいい風景である。水と雪に縁深いこの地に、また一つ違う水との関係性を作り出したのは流石であろう。 

そんな中庭から目をそらし、エントランスを回廊スペースから見てみると、なんだか曇りガラスかと思ってよくみると、どうも結露が外部に面したガラスの内側に起こり、相当な水分を発生させると共に、かなり視界を遮っている様子である。

回廊空間ということで、長く人が滞在しないからの理由でペアガラスなどを使用しなかったのか、それとも空調システムに問題があるのかは分かりかねたが、「あれ?」と思うくらいだったので、それほど環境というのは扱いづらい要素なんだろうと改めて理解する。

そしてもう一つ気になったのは、回廊の床材。花梨(カリン)を採用したと書かれているが、振り出した雨の為もあり、かなりツルツル滑って足元が滑る。その原因でもありそうなのが表面のコーティングだが、これもかなり厚めに施されている為か、反射が激しく照明が映りこんでしまってなかなか目に優しくない設計となっている。

そんな訳で高校生の様に「ツーーー」と滑っていける訳もなく、少々おっかなびっくりで回廊を進み、複合されている二つの文化施設のうちの一つ目、「島根県立石見美術館」に辿りつく。訪れる前にはどういう運営の仕方か分からなかったが、二つの施設が入っている複合施設として島根県芸術文化センターであり、それぞれに休館日や開館時間が決まっているということだというのを理解する。

観覧料は企画展で一般1,000円、コレクション展で1,150円だというので、「流石に二つは高い」なということで、観覧貧乏になってしまうので企画展だけにして、中を見学する。


今まで知らなかった作家の作品を目にすることもまた、こうして建築を廻る楽しみの一つであると改めて実感しながら、やや足早に展覧会を見て回る。美術館を出てみると、その前にはミュージアム・ショップだと思われるが、どこかの教会の様なアーチに覆われたとても心地の良い背の高い空間に出てくることになる。上空から降り注ぐ光のした、受験勉強か、一人で机に向かう高校生の姿がなんとも神々しく見えてしまう。

更に回廊を廻っていくと、今後はもう一つの文化施設である「島根県立いわみ芸術劇場」が見えてくる。今までの品の良い表情とは打って変わって、目の前に立ち上がるのはホールを包み込む折板で打たれたコンクリートの巨大な塊感。先程見てきた吉阪隆正のゴツゴツした大地のような表現を思い出させるのに十分な迫力のあるコンクリートの表現。ホールと言う角度を持った内部空間に対し、そのホワイエとなる後ろにまとわりつく空間にどう内部を表現させるかはどんな劇場建築でもテーマとなるであろうが、暗いホワイエにうっすらと浮かび上がるコンクリートの塊。そしてそれを取り囲むように上昇する階段とそれをナビゲートするかのように上空に浮かぶ美しい照明器具。

「これはいい」と思いながら、いかにもこれから何かの発表会をします的な雰囲気で、周囲にその発表パネルを張り出している高校生とその教師達。一回りした後に、思い切って「これは一般の人でも聞けるんですか?」と教師に聞いてみると、「どうぞどうぞ」とあっさり中に入れることに。やはり人がいいのは島根の特徴なのか?

「これはラッキー」と中に入り、何かの研究発表会が始まる様子の会場で、現在オペラハウスの現場が動いているだけに、シートの素材や空調方式、暗い中での誘導照明、壁の手すりや落下防止の手すり、反射と吸収の音の問題など、気になっていることをどう処理しているのか、かなり実体験を持って観察する。情報では、約1.8秒(500Hz/空席時)の残響時間が確保されているとなっているが、舞台で準備している学生達の声が聞こえてくるのから、流石に音響環境は良さそうだと理解する。

それにしても、やはり隅々まで綺麗に設計され、施工されて、監理された建物だと感心する。このクオリティを中国で成し遂げるには、一体どれだけの困難をクリアしないといけないかと思いを馳せながら、島根と言う現代日本の周縁に当たる場所でも、これだけのクオリティの建築が作り出せるという事実に少なくない感動を覚えることになる。

ここまで何度も見かけてきた街の規模に対してあまりにも不相応な規模を持ち、それでいながら人々が集い、地域の文化拠点として様々な活動を誘起する可能性に満ちた様々な空間がある建築は見かけられなかったが、訪れる前まではこの建築も、「この益田という都市に対してあまりにも大きな服を着すぎたのでは・・・」と思っていたが、この建築に集まる様々な人々の姿、発表の為に日常の中から少し足を出した高校生達、その引率の教師達、中庭のベンチで読書をする老人、美術館の前で勉強に励む学生、などなど。

一つの都市の様に、異なる層の人間が、異なる目的を持ちつつもこの場所に集い、そして自分とは違った目的でこの場所に集まり使っている別の人たちを視線に捕らえながら佇むことができる、そんな都市の喜びと、文化施設としての心地よさを兼ね備えた素晴らしい建築であろう。

こうして多様な人間を惹きつける事の出来る場所や風景を作り出すのは、どんな派手な建築をつくることよりも、どんな複雑な形態を作り出すよりも、遥かに高度な技であろう。その境地に達する為にキャリアの中で真摯にプロジェクトに向き合い、真摯に建築に向き合ってきた建築家のみが、その言葉に説得力を持ち、クライアントに機能設計の段階で信じる建築の姿を語ることが出来るのだろう。

こうして改めて振り返りながら、再度この建築の良さを実感し、「★」を一つ増やすことにしながらも、自分達の手がけているオペラハウスもこうして、多くの異なる人が日常の中で足を運ぶ場所となるようにと気持ちを引き締めて次なる場所、津和野に向かうことになる。