2007年3月30日金曜日

モードの中心


東京でミッド・タウンがオープンした日、もう一つのミッド・タウン・スクェアを見上げる。名古屋の駅前の再開発の目玉、ミッド・タウン・スクエアだが、今回の目的はその横に立ち上がるモード学園名古屋校ビル。

インナー・コアに3棟のウイングがまとわりつくように回転しながら上昇する画期的なデザインが建ち上がってくる様を見ると、最先端の技術を持って作られたミッド・タウン・スクェアもあくまで前世紀的な高層建築のベクトル上にあるものだと再認識させられる。

東工大の教授によって音頭を取られ、鹿島、竹中工務店、日建設計、日本設計という日本の設計業界のトップの構造専門家によってつくられる高層ビル研究会。まさに日本の高層建築構造界の頭脳とよんでもよい方々ばかりによる、この先の高層ビルのあり方を考える会というものである。意匠系の人がいないということで、ひょんなことから参加させていただいている。今回は参加されてる日建設計さんがてがけている、名古屋モード学園の現場見学というわけで、それぞれの参加者が東京・大阪から名古屋に集まった。

ファッション・医療・コンピューターとモード学園系の3校にそれぞれ棟を与え、学生のエネルギーが上昇するようにという意図でデザインされたビルは、インナー・チューブといわれるコアタワーの周りに外周構造体が回転しながら上昇する教室棟が張り付く形をとっていて、外装アルミサッシはすべて形の違うというまさにコンピューター・デザイン・ツールの生んだ次世代高層ビルとなる。

地上20階まで立ち上がった現場では、下層部に外装パネルがつけられ、建物の全貌を少しながら見せ始めている。微妙に角度を変える外装ガラスに反射する春に日差しがキラキラと、新しい歴史の誕生を祝うように光っていたのが印象的。

外周構造部の各部分に制震ダンパーを入れ、さらに外装パネルも10mmの変形に耐えられるように長期荷重を受け、短期荷重はインナー・コアで受けるという構造設計になっており、各部に前例なき建物への挑戦の悪戦苦闘の跡が見え隠れする。「こういう不定形な建物は隅部のディテールにひずみが全部収束するので頭をかかえるんですよ、ヨウスケさん。」と、若輩者の自分に暖かい助言を下さる皆さんにひたすら恐縮。背広の皆さんに囲まれ、一人ジーパンの自分の姿にもまた恐縮。

基本階、地上階、地下階を見学の後、現場事務所に移り細かい質疑応答。専門家らしく細かく厳しい質問が飛ぶ。このような挑戦的大建築を現代日本で成り立たせるための、設計現場の苦闘が感じられ、ふむふむと非常に勉強になった。

その後、仕事で東京に戻られる方をのぞいて、世界の山ちゃんで懇親会。山盛りの手羽先を囲み、話題は能登半島沖地震、近々行われる法改正、そしてタモリ倶楽部と話が弾み、皆さんほんとに建物が好きなんだなとなんだかうれしくなる。

こういう建物が日本に実際建つ現場を目にし、高層建築に携わるものとして大きな勇気と元気をいただいた実りの多かった春の一日。我々のデザインする建物が、日本に建つ日も遠くはないのじゃないかと、一人心に野望と希望を燃やし帰路に着く。











2007年3月29日木曜日

非自己的自己 「ES細胞―万能細胞への夢と禁忌」  大朏博善 文春新書 2000 ★★★★


「とんびがたかを生む」。突然変異体である。
では、鷹は何を産めばよいのか?「たかがたかを生む」のか?いや、産むのではない。鷹からは鷹が作られる。もしくは鷹がブタを産む。しかもただのブタではない。キメラ・ブタである。

と、これがES細胞のとりあえずの目指す先とのこと。ヒトES細胞を持つキメラ・ブタ。そしてヒト臓器を持つキメラ・ブタへ。そこからのヒトへの臓器移植。ヒトの免疫システム内のブタ遺伝子に対する反応遺伝子をノック・アウトしてやり、サイズもほぼ等しい体外体内とも呼べる非自己的自己からの先祖がえりする臓器。

外来遺伝子をもって誕生した動物は「遺伝子を導入された動物」を意味するトランスジェニック動物と呼ばれる。トランスジェニック人間の先は免疫システムを騙す必要のない完全なる自己からの臓器移植。その供給元となる非自己はES細胞によって生み出されるクローンの身体。

遺伝子文字のDNAの主役、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種類の化学物質によってなずけられた映画『GATTACA』。ヒトゲノム計画終了とES細胞の発見によって、「近未来」の意味すら組み替えられてしまうのだろう。

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目次
第1章 ES細胞の前史―ひっぱりだこの胎児細胞
第2章 ES細胞の発見―あらゆる器官をつくる始原細胞
第3章 ES細胞の利用―トランスジェニック・マウス
第4章 ヒトES細胞の発見―競争・規制・促進
第5章 事業化への発想―クローン動物とES細胞技術
第6章 人工臓器―器官のオーダーメイド承ります
第7章 ヒトゲノム計画の展開とES細胞―悪夢か福音か
終章 危機感と倫理観と―あとがきにかえて
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2007年3月25日日曜日

暑さ寒さも彼岸まで


「暑さ寒さも彼岸まで」とはよくいったもので、春分を境に朗らかな日が続いている。その中日に季節っぽいことでもしようかなと、思いをめぐらせていると、街中からピーヒャラピーヒャラ祭囃子が耳に入ってくる。なんでも、麻布十番商会で十番寄席なるものが開催されると言う。

チラシを手にとってみると、尺八漫談、演芸、漫才と演目の横に1000円でワイン一杯ついてきますと謳い文句に即決で、そんな渋い休日の過ごし方を共有してくれそうな人に電話。寄席イコール落語と少々の勘違いはあったようだが、二人で会場へと足を運ぶ。

商店街からわき道に入った雑居ビルの二階に会場はあり、20帖程の畳の会場に座布団が敷いてあり、その前に簡単な舞台が用意されている。入り口脇で紙カップに美味くもないワインをつがれて、寄席体験開始。

「フラガール」の地方興行のような味のある会場だけに、演目も非常に渋いものが続く。口にピアニカ、手にギター、足にカスタネットで民謡を奏でる音楽漫談。学生かなと思うような若い芸人の漫才。フラガールでも出てこないかなと少々期待していたのだが、最後にでてきたのは、「戦時中南方に出兵してましてね」という86歳のおじいさんの演芸。これがよかった。なんでも江戸ゴマというものをするのだが、綺麗に漆塗りされ、鉛を入れられたコマは軽く手で触れただけで、ずっと回り続ける。

今日はめでたいので、とどこかの師匠のようなフリで、では末八をやりますと、コマを扇子の上に載せ、それを広げていく。会場から思わず「おおっ」と感嘆の声。続いて風見どりといって、棒の先に乗せたコマがぐらりと角度をつけ、まるで接着剤でもついてるかのようにグルグルグルグル。会場からは思わず拍手。そして最後に綱渡り。昔正月番組で見たような舞台の袖から細い糸の上をコマがケーブルカーのようにつらつらと渡っていき、最後はポンと机に着地。いやー、歳の功と、思わず感心。どこで購入できるのか気になってしょうがない。

途中からでしたので、と半額返してもらってさらにお得気分に浸り、殺生禁断により肉は食べまいと、ならばおでんと十番の黒澤に足を運ぶ。あっさりの京風おでんに舌鼓をうち、気持ちを春モードに切り替える。