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所在地 島根県浜田市野原町
設計 高松伸
竣工 1996
機能 美術館
構造 鉄骨造
敷地面積 7,100㎡
建築面積 1,178㎡
延床面積 3,609㎡
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竣工が1996年なので、一体どれだけのビッグプロジェクトがオフィスの中で同時進行し、それをどうやって設計がバラバラにならないようにマネージメントしていたのかと考えずにいられないほどのプロジェクト数。
今で言ったら世界規模で大量のプロジェクトを同時進行させる隈研吾事務所のような勢いがあったのだろうと想像する。
次第に振り出した雨が酷くなってきて、到着した高台の広大な駐車場には隣に位置する福祉センターで働く職員の車と思われるものだけで、ガランとした雰囲気。吹き付ける横風で傘を飛ばされないように気をつけながら、入れるところまでいって観察する。
先ほどまでの作品のような、外に向かっての過剰なシンボリズムが影を潜めたのは、バブル崩壊という時代の流れなのか、それとも建築家の作風の変化なのかは分かりかねるが、外形はシンプルな矩形。その中に特徴的な円弧を描いた空間が挿入されている。
平面的には細長い矩形の建物前にやはり求心性をもった真円の広場が設けられ、その壁沿いに高低差を下りていくことになる。雨の処理など、振り出した雨のお陰で普段なら目に入らないようなところまで良く見えて、自分で設計するときにどうすればいいのかの参考になる。
少し下がった南側の敷地に、少し気になるリニアな配置計画を持ったキャンパスがあるので見にいくと、なんでも島根県立大学キャンパスだという。このキャンパス計画もなかなか良さそうであるが、何と言っても美術館とキャンパスの間のランドスケープのデザインが抜群にいい。
古代の宗教施設を思わせるような直線の軸線を強調したデザイン。低く水平に伸びていきながら、シンメトリーで中心軸を意識させ、それでいて周囲の自然と地形に適応している。真ん中に雨水用の排水溝を設ける事で、中心軸に動きを持たせ、地形を顕在化させる。
そうなると、いきなり切り取られたように先が見えなくなっている端っこの処理はどうなっているのか気になってしょうがなく、雨が降り気温が下がってきたにも拘らず、傘を抱えて誰もいない広場の先を進む。
気分的にはこの先で100mくらい地形が下がって、そこに流れ込んだ排水溝からの水が一本の糸の様に落ちていて欲しいと思いながら歩を進めるが、流石にそれは無理らしく、地形に馴染むように段上に階段がつけられている。
それでも、雨と言うよりも霧に近くなり、靄がかかったような周辺空気の中、先が見渡せない強い儀式性の空間の崖の先に一人立つと、なんだか「フラリ」と飛び降りてしまう姿をイメージしてしまう。「怖い怖い」と思いながら戻ってみるが、今度は緩やかな勾配がつけられているのを身体で見つける。
「秀逸だな・・・」と思いながら目を先にやると、なんだか足元のタイルの間に緑のパターンが見出せる。「?」と思って近づくとどうやら舗装材の間の土に苔が生えて、それがある種のパターンを作っているようである。これを設計段階から想定していたとは考えにくいので、想像するに、山陰という湿度の高い場所で変化しやすい気候の為に苔か草が生育しやすい環境を作り出し、さらに少し小高い山の上に位置しているので、風が一定方向から吹く為に苔が風のパターンに沿って育ち、それが何とも不思議なパターンを作っているのだろう。
これは凄い自然のデザインで、それを可能にしたランドスケープ・デザイナーの手腕だろうと勝手に理解する。ネットで調べても、誰がここのデザインをしたのか見つからないが、いつかこんな自然の力を借りたデザインを自分達のプロジェクトの中で実現したいものだと唸りながら車へ戻ることにする。
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