先日こんな報道が流れた。
「ガーナ大使「公邸」で闇カジノ」
それで思い出すのがこの映画。ビートたけし演じるヤクザ・大友が率いる山王会大友組。その組員が外交官の外交特権、つまり治外法権で外交官は国内法では検挙できないことを利用し、彼らに契約させた物件の中で違法な闇カジノを運営するというもの。
恐らくその話の元となったのは、もっと以前に摘発されたコートジボワール大使館員の契約した物件の事件だと思われるが、しかし本当にその様な事がまだ横行しているとは、恐らく事件の裏で同じように暗躍していたヤクザが法の網を掻い潜りなんとか人の欲望を刺激しそれを金に買える手段を何ともよく考えるものだと感心せずにいられない。
たけし映画の代名詞となっているその暴力表現。
「まいっちゃったよ。お前のせいで俺が指詰めなきゃいけないんだよ。」
という飄々とした雰囲気から一気に圧倒的な痛みを伴う暴力へと変化する。通常なら暴力を与える方がその「痛み」を理解しながら、同じ人間としてその「痛み」に嫌悪感を感じながらも暴力を振るい続けるという場合がほとんどだが、それをまるで人が血を吸う蚊を払い落とすように、何の感情も、何の痛みも感じてないかのように「暴力」を行使する。そのギャップの冷たさ。
たんたんと業務をこなす様に、冷淡に人を痛め続ける。一般社会での、「人を殺したら法律によって裁かれ刑務所に入れられる。同時に社会的信用も失い人生を棒に振る」という倫理的なブレーキは一切利かず、まったく常識の異なった世界に住む人間の姿にゾットする。
そのパラレルワールドの手法が新鮮であったのは良く分かるが、これほど繰り返し使われてもまだ、欧米の映画祭などで評価を受け続けているのは何の理由なのかと思わずにいられない。
このようなパラレルワールドの住民が、同じ社会を舞台として生きている事。ほんのギリギリの境界を持ったすぐ隣には、まったく常識の通用しないあちらの世界がパックリと口を開けて待っている。夜の繁華街はその世界が同化してしまうその恐ろしさ。
そしてその世界では権力を得る為には、親も子も関係ない、兄弟の絆も関係なく、ただひたすらに騙し、利用し、賢く強いものだけが最後に生き残り、そしてその力もまた新しい力によって奪われる、終わり無き権力闘争。どんなに勝ちを続けようと、勝ったまま終わることは無理な設定。それでも誰もが終わりを見ずに一歩先だけを目指して突き進む。
巨大なピラミッドを形成する組織の頂点に立つ人間は、古代の王族のような生活を送る。それぞれの階層で誰もが「少しでも楽をして、少しでも多くの金を稼ぐ」と願い、自分より上の階層に諂い、下の階層をこき使う。そしてその最下層に属すると、更にその下に一般社会のはぐれ者まで手を伸ばし、薬物や風俗などモラルを破壊してでも自分と組織の利益を求める構図となる。
組長の集まりの様子などを見ていると、一体この世界では全体としてどれだけの経済規模を持っているのだろうかと想像を膨らませずにいられない。
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スタッフ
監督・脚本・編集 北野武
プロデューサー 森昌行
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キャスト
ビートたけし 山王会大友組組長 大友
椎名桔平 山王会大友組若頭 水野
加瀬亮 山王会大友組組員 石原
三浦友和 山王会本家若頭 加藤
國村隼 山王会池元組組長 池元
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作品データ
製作年 2010年
製作国 日本
配給 ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野
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