2004年11月16日火曜日

「ドリーマーズ」 ベルナルド・ベルトルッチ 2003 ★★★★★
















ロンドンに住んでいた頃、グリムショウのオフィスで働く友人の家で夕食をしたときに、アキムとイヴァがこの映画を評して「Lost in Translation」に比べたら、社会的、文化的な深さがより3次元的だといってたのを思い出した。

まさにそうである。イタリアの生んだ、フランスの育てた映画界の宝、ベルトリッチの存在に感謝せずに居られない。

革命前夜のフランス・パリに語学留学中のアメリカ人・マシューがシャム双生児のテオとイザベルというフランス人に出会うことから話は始まる。すべては映画という文化を軸として。フランスにおける映画という文化、シネチッタが如何に彼らの文化の基盤であるか。映画を愛する若者が、政府によって封鎖された表現の自由を取り戻すべく運動が始まる。映画を愛し、有名作家の子供として生まれ、自由に機知に飛んだ生き方をする二人。その二人に惹かれ、変貌していくマシュー。

映画の細部に渡って、ベルトリッチの映画に対する愛情が満ち溢れている。イザベルのパリとの遭遇は「勝手にしやがれ」の「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン!!」という掛け声であり、議論はキートンか無声映画の旗手かで。映画への愛情と、自由に今を生きること、双子の近親愛、あけっぴろげな性の表現、そして変動を続ける社会背景。すべてが共存してそこにある。

ベトナム戦争で、罪の無い小作を殺そうとするアメリカを非難し、そこに出向かないマシューをなじるテオと、平和を叫ぶのに決してストリートで起こる運動には参加しないテオを非難するマシュー。お互いの矛盾と理想。それを包み込む、イザベルの無邪気な姿。そしてテオに対する愛に苦しむ彼女の狂おしさ。

一場面でテオは言う。マオは凄い映画監督だとは思わないか?何十万という人間が、同じ制服を着、武器ではなく本を持って行進するんだ。これこそ新しい平和の姿だと。それに対しマシューは、そうではない。武器が本になることは確かにすばらしいが、問題はその本がすべて同じ本であるということだと。その矛盾だと。それは読むことを暗示する本ではなく、一種の象徴でしかないと。ならばヒトラーはどうであったのか?彼のドキュメンタリーフィルム「アーキテクチュアー オブ ドーム」を見てみないといけない。

最後は臨界点を越えた革命の始まりによって暴力へと均衡と傾けるテオと、そのテオへの愛に走るイザベル、そして最後に暴力こそ手段ではないと、3人から一人別の方向の歩き出すマシューの姿で物語りは幕を閉じる。

自分達の文化を守るために自分達で何かを始めた革命。

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68年、5月革命前夜のパリ。双生児のイザベルとテオは、両親が留守のアパルトマンにシネマテークで出会ったアメリカ人留学生マシューを招き、映画ゲームに興じていく。テオ役は異才監督フィリップ・ガレルの息子ルイ・ガレル。イザベル役は「雨の訪問者」の女優マルレーヌ・ジョベールの娘エバ・グリーン。グリーンは本作の後、オーランド・ブルーム共演、リドリー・スコット監督の「キングダム・オブ・ヘブン」に抜擢された。
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原題: The Dreamers
製作国: 2003年イギリス・フランス・イタリア合作映画
配給: 日本ヘラルド映画
上映時間: 117分
映倫区分: R15+オフィシャルサイト
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キャスト: マイケル・ピット、エバ・グリーン、ルイ・ガレル
監督: ベルナルド・ベルトルッチ
製作: ジェレミー・トーマス
原作・脚本: ギルバート・アデア
撮影: ファビオ・チャンチェッティ
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2004年11月12日金曜日

「パッション」 メル・ギブソン 2004 ★
















キリストの最後の数時間を映画化した作品。

ヨーロッパではキリストが現れるまでは、一体何を信じていたのだろうか?ユダヤ教とキリスト教。メシア=キリストを信じるか。新約聖書と旧約聖書。三位一体説。

それどころか、仏陀の生い立ちや仏教の成り立ちなどあまりに曖昧な知識しか持ちえていない。そんな国は日本だけではないだろうか。神道とはなんぞや。釈迦とはなんぞや。曼荼羅とは何ぞや。調べることは山ほどある。

2004/11/12

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人間イエス・キリストの死までの最後の12時間を写実的に描く問題作。メル・ギブソンが構想12年、製作費2500万ドルには私財を投じ、イタリアのチネチッタ・スタジオで撮影して完成。公開の可否を巡って長期に渡りキリスト教団体等との論争が繰り広げられたが、公開した途端に驚異の大ヒットを記録。観客には死者や警察に自首する犯罪者なども出現した。セリフはすべてラテン語とアラム語で語られ、全米でも英語字幕付きで公開。
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キャスト:ジム・カビーゼル、モニカ・ベルッチ、マヤ・モルゲンステルン
監督・脚本・製作:メル・ギブソン
撮影:キャレブ・デシャネル
編集:ジョン・ライト
音楽:ジョン・デブニー
作品データ
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原題:The Passion of The Christ
製作国:2004年アメリカ・イタリア合作映画
配給:日本ヘラルド映画上映時間:127分
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「39 刑法第三十九条」 森田芳光 1999 ★★★











昨年末に亡くなった森田芳光監督作品。

恐らくサカキバラセイトの事件に対するメッセージとしてつくられたのではないだろうか。刑法第39条、精神障害者の罪はそれを持って罰せず。精神に異常を来たしていると診断されたがために、妹を強姦し殺害し、手首を切り落とし、それをもって自慰行為にふけっていた当時15歳の少年が死刑にならないことから人生の狂い始めた男。彼が一生をかけて企てた殺人。

確かに精神鑑定というものは恐らく大きな落とし穴だらけだと確実に教えてくれる作品。

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都内で起きた夫婦惨殺事件。逮捕された劇団員の若者は、あっさり犯行を認めたが殺意を否定。やがて裁判が始まり、おとなしいはずの若者の人格は一変し、奇怪な言動を連発し始める。「心身喪失者の行為はこれを罰しない。心身耗弱者の行為はその刑を減刑する」と記された刑法第三十九条をモチーフにしたサイコ・サスペンス。
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キャスト: 鈴木京香、堤真一、岸部一徳、杉浦直樹、樹木希林、江守徹、吉田日出子、山本未來、勝村政信、國村隼
監督: 森田芳光
製作: 三沢和子、山本勉、田沢連二、鈴木光、幸甫
原作: 永井泰宇、鈴木光、大森寿美男
撮影: 高瀬比呂志
音楽: 佐藤俊彦、祐木陽
美術: 小澤秀高
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製作国: 1999年日本映画
上映時間: 133分
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2004年11月10日水曜日

「The Station Agent」 トーマス・マッカーシー 2003 ★★★★
















そういえば、日本であまり小人症の人を見かけた記憶がない気がするのは気のせいだろうか?ロンドンで友人の開いたパーティーに招かれたとき、小人症の彼等が颯爽とサーブをしている姿が妙にかっこよく見えたのを覚えている。彼等が社会の一部として認められているというよりも、日本に蔓延る「異型」=「奇形」と見なす兆候と、それに立ち向かうことのない日本人の気質みたいなものがそうさせるのか?

この映画はオープニングとエンディングが妙に印象的だ。オープニングは30台後半であろうと思われる中年男性のタバコをふかすアップから次第にカメラが引かれ、突然彼が小人症であるという事が晒される。彼の一種堂々とした振る舞いとその顔つき、そして肢体のアンマッチが差異として飛び込んでくる。それとは逆にエンディングでは、なんのとりとめも無く突如的に物語が終わってしまう。普通の映画のようなハッピーエンドや、デウス・エクス・マキナを期待するでもなく、ただ突然のように終わりを迎える。

小人症の主人公フィンは、自分が社会に置いて異形として見られる、興味の視線に対しての嫌気から社会に対してできるだけ接点を持たないようにする為、劇中殆ど口を開かない。恐らく今迄で見た映画の中で一番台詞の少ない主人公だろう。そんな彼がある時、数少ない友人から冷たくあしらわれ、普段行かないバーで泥酔し突然カウンターの上に上がり「Here I am. Look at me!」と叫ぶ。そんな彼に邪気の無い接し方をするジョーがある質問をする。「セックスをしたことがあるか?」と。続けざまに「それは普通の女だったのか?」。「同じような女としたいと思わないか?」と。そう聞くことが、ジョーがフィンを同じ人間だと扱ってるかのように。

子供を亡くした中年の絵画の好きな女。親父の病気のお陰でホットドッグ屋を代わりに営む、心優しいスペイン系移民。電車マニアの小人症の男。誰も来ないような図書館に勤め、妊娠しフィンにだけ心を許せる若い娘。家の裏の放置された電車を遊び場とする黒人娘。

どこにでもありそうなアメリカの田舎の風景で、ふとそれぞれの人生が交差する。ジョーの心のそこから人生を楽しもうと、誰にでもすっと入っていこうとするその姿勢がそれを生むのだが。友人とはその人が何者であるかよりも、こうしてふと交差するタイミングを誰かが引き寄せてくれるかなんだと言うことだ。

終わりが唐突だったが、なぜか心地よい感じを受けた。

2004年11月9日火曜日

「BROTHER」 北野武 2001 ★★
















武の映画だけあって、脚本はもの至極単純である。しかし間がいい。そういえば、映画中の武も凄く言葉数が少ない。それは間をつくるための沈黙であるかのように。

ヤクザの山本が日本に居れなくなり、アメリカにいる弟を頼りロサンゼルスに渡る。弟の真木蔵人が営む麻薬の売買のいざこざに突如武が現れ、冷たく圧倒的な暴力で組を拡大していく。最後はそのやりすぎからマフィアに壊滅させられるのだが、面白いのはアメリカでもヤクザをし、義理人情であるということ。アメリカ人にもそれを押し付けることだ。彼らは指をつめ、武を兄貴と呼び、あのヤクザスーツを着る。なんともカッコ悪い。

それ以外には真木蔵人が意外と英語が旨いくらいしか印象が無い。

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ヤクザの抗争の最中、組を追われ、ロサンゼルスに留学している弟・ケンを頼って渡米した山本。ケンは、黒人デニーたちとヤクの売人をしていた。そんな彼らが起こしたひとつの事件が、縄張り抗争に発展。ヒスパニックのチンピラからチャイニーズ、イタリアン・マフィアをも巻き込んだ、絶体絶命の戦争が始まった……。
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キャスト: ビートたけし、オマー・エップス、真木蔵人、加藤雅也、大杉漣、寺島進、石橋凌、ロイヤル・ワトキンズ、ロンバルド・ボイヤー、タティアナ・M・アリ、ジェームズ繁田、渡哲也
監督: 北野武
プロデューサー: 森昌行、ジェレミー・卜ーマス、吉田多喜男、ピーター・ワトソン
脚本: 北野武
撮影: 柳島克己
照明: 高尾齋
美術: 磯田典宏
録音: 堀内戦治
編集: 太田義則、北野武
音楽: 久石譲
衣装デザイン: 山本耀司
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2004年11月7日日曜日

「リプリーズ・ゲーム」 リリアーナ・カヴァーニ 2002 ★★



ジョン・マルコヴィッチ(John Malkovich)の一人舞台。
嬉しいのはパラーディオのテアトロ・オリンピコ(ビチェンツァ)が出てくることか。

話としては何でも屋のリプリーが知人から殺人の以来を受け、まるで素人の白血病に苛まれる英国人を推薦することから始まる。まったくの素人が残される家族を思うがために殺人を犯し、まるで彼の罪を軽くするかのように接するリプリーに罪を告白しながらもまた殺人の報酬のお金に走る。

感じとしては全体的にセンスのいい映画。

ミラノを舞台にしているが、リプリーの邸宅はいつか住みたいと思うほどの古典建築の名作。あの空間でなら中世のイタリア絵画が映えるのも納得できる。

ファサードがあり、シンメトリーがあり、ドーリア式の柱が並び、高い天井と石張りの床、そして骨董もののピアノ。

時間をかけ夕食を楽しみ、ワインを飲み、アートを堪能する。

そんな彼等が音楽を見に行くのがテアトロ・オリンピコ。

一人遅れてくるリプリーの足音が会場中に響き渡る高質の音響が印象的。

2004/11/07
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監督 リリアーナ・カヴァーニ(『愛の嵐』)
出演 ジョン・マルコヴィッチ、ダグレー・スコット
原作 パトリシア・ハイスミス
音楽 エンニオ・モリコーネ
原題 Ripley's Game
日本未公開作品
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