タイム・トラベルという言葉が刺激する人類の想像力。何度も何度も描かれきた物語の中で、それでもまだ手付かずだったスペースがあったのかとまずは驚愕するこの作家の想像力。
人が過去に戻れるようになれば、現在の自分達に有利なように過去の歴史に手を加える。それは容易に想像がつく。では、今度はそれを防止する側、監視する側が現れる。国家レベルを超えて、人類全体としての組織がそれに当たる。まさに国連のような組織。
そして過去に戻って歪められた歴史を修正することになるだろうが、完全に一致させずとも、押し寄せる波のように、歴史も長い年月をかけて自分自身を修正するように振舞うという過程を作り出す。これは斬新。
しかし、その上を行くのは、過去に戻って歴史に手を入れるのはオリジナルの歴史を歪めることになるのだが、ではどこまでをオリジナルの歴史を定義するのか?つまりは、こうして人類が過去に戻って歴史に手を加えることすれ、それはオリジナルの歴史の一部なのではないかというクラインの壷の様な設問。まさに禅問答。
こうして設定されたタイム・トラベルの新たなる地平線に絶対の自信があるために、物語の最初の3分の1は、2.26事件というかなり思い昭和の歴史をただ淡々と描き、一体何が行われているのかといういかにも説明的な文章は一切書かないその潔さ。
タイム・トラベル小説に新たなる一石を投じることになる名作ではないだろうか。
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