2013年6月9日日曜日

「スプートニクの恋人」 村上春樹 2001 ★★★★

恐らく大学時代に手にした一冊。久々に手にとって読んでみると、当時では分からなかった世界観の奥行きを感じる一冊。

世界初の人工衛星スプートニク1号
ライカ犬を乗せたスプートニク2号

その名前を冠された恋人とは・・・と思わせるタイトル。

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22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進むような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片っ端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。
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激しい導入の文句とともに幕を揚げる物語。


そのロシア語の独特の響きのよさからという安易な引用ではなくて、ジャック・ケルアックの小説『ロンサム・トラベラー』の話から、ケルアックらが分類されるアメリカの作家の世代ビート・ジェネレーション。それが「ビートニク」と呼ばれることから、それをうろ覚えしていて出てきたのが「スプートニク」。

主人公に小説家になりたくて、なりたくてしょうがない女性を持ってくるだけに、小説としてもかなり挑戦的な内容になるべくして、選ばれる言葉達も相当に情熱的であり、感傷的なものが多い。

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その無辺の宇宙的孤独の中に、犬はいったい何を見ていたのだろう。

〈記号〉と〈象徴〉の違いを200字以内で説明できる?

あたりがまだ真っ暗で、それはかつてスコット・フィッツジェラルドが「魂に暗闇」と呼んだ時刻に近いらしい。

春の大地を黒く湿らせ、その下に潜む名もなき生き物たちを静かに鼓舞する柔らかな雨だった。

わたしは本当のわたしの半分になってしまったの。

すみれは彼女にしかできないやり方で、僕をこの世界につなぎとめていたのだ。

人にはそれぞれ、ある特別な年代にしか手にすることのできない特別なものごとがある。

にもかかわらず僕はもう二度と、これまでの自分のは戻れないだろう。明日になれば僕は別の人間になっているだろう。
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そんな言葉の中でミュウの言葉を借りて語られる台詞は極めて現実的。

「どんなことでもそうだけど、結局いちばん役に立つことは、自分の体を動かして、自分のお金を払って覚えたことね。本から得た出来合いの知識でなくて。」

作者の好きなギリシャを舞台とするだけあって、相当な意欲作と呼べる一作。そしてその期待に決して裏切らない良質の恋愛小説。多感な大学時代に手にすべき一冊だろう。

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