2015年12月5日土曜日

「いつか読書する日」 緒方明 2005 ★★★★

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スタッフ
監督 緒方明
脚本 青木研次
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大場美奈子:田中裕子
高梨槐多:岸部一徳
高梨容子:仁科亜季子
皆川敏子:渡辺美佐子
皆川真男:上田耕一
スーパー店長:香川照之
高梨陽次:杉本哲太
大場千代:鈴木砂羽
田畑牛乳店店主:左右田一平
児童相談所課長:柳ユーレイ
児童福祉司:堀部圭亮
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「坂のある街はやはり美しいな」

そう思わせてくれる映像に満ちた本当に美しい映画である。その坂の上り下りが日常の生活の中でどういう意味を持つかを強調するかのように、朝の出勤と夕方の帰宅のシーンが駆り返され、そして高低差のある地形に散らばる各家庭に住民でなくともアクセスする牛乳配達員を追うことにより、更に坂のある街の風景を明確に描き出す。

冒頭のシーン。ある一点から眺める、坂に沿いびっしりと立つ住宅群のあちらこちらに明かりが灯る風景であるが、坂のある街独特の風景であり、その坂を成り立たせる一段一段の階段、そしてその階段を毎朝踏みしめながら上り、牛乳瓶を届け回収し、そして下りてくる人がこの風景の中に隠れているのだと言わんとするようである。

この街で育ち、読書を愛する少女は、「できることならこの街の全ての人に牛乳を届けたい」とこの街を愛し、未婚のまま50歳を迎える。朝は牛乳配達をし、昼間はスーパーのレジ係。何ということもなく地味ではなるが、毎日をしっかりと確実に過ごしている。

そんな彼女の物語は、中学校時代に付き合っていた同級生との間に、自らの母親と、そして彼の父親が不倫関係にあるなかで事故死をすることになり、想いを寄せる相手と同じ街に住みながらも、決して想いを遂げることなく時間を重ねていくこと。

今でも想いを寄せる相手は市役所で児童課に務める何とも無い中年の男。彼の物語は、美しい妻が病床に伏せ、余命少ない中を淡々と介護に努めて毎日を過ごす。

その妻もまた同じ街に住まうものとして、夫の隠された想いと、毎朝牛乳を届けに来る女性が夫にとって特別な存在であること、そして自分の命が残り少ないことを理解し、牛乳瓶に手紙を潜め、夫に隠れて彼女との面会を求めることから中学校時代から長くすれ違ってきた二人の物語がまた音を立てて動き出す。

妻の最後をしっかりと看取り、送り出し、そして今まで抑えてきた自らの気持ちに少しずつ向き合い始める中年となった二人。そして堰が音を立てて崩れるかのように、失われた時間を取り戻すように求め合う。

夜の風景の中で、ポツリポツリと灯る明かりの一つ一つが、こうした濃密な時間を過ごしてきた人々の一生を反映していると思うと、なんて美しい風景なのだと涙が出てきそうになってしまう。

馴染みの無い街を訪れ、坂を上りながら見つけた居酒屋で、たまたま隣に座った自分と同じ様な中年のカップルにも、また同じ様なドラマが広がっているのかと想像を広げれば、同じ酒でもまた格別なものになり、明日の朝には久々に瓶で牛乳でも飲んでみたいと思うに違いない。

ロケが行われたという長崎の街。いつかゆっくりと街歩きをしてみたいと自らの地図にマッピングすることにする。それほど素晴らしい一作である。
















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