藻谷浩介
報道ステーションなどでもコメンテーターとして登場する著者。全国の様々な自治体を歩き回り、その目で見たこの国の現状と地方格差。そしてそこから見えてくる今後の可能性。その著者によるこの本によって「里山資本主義」という言葉がかなり浸透し、グローバルを呑み込んでいくマッチョな資本主義に対して、日本の風景を作ってきたこの国ならではの経済のあり方、資源と自然との関わり方にもう一度目をむけ、現代のグローバリゼーションを否定するのではなく、その良さを活かしながら都市への一極集中から里山に寄り添うようにして成り立つ新しい経済活動のあり方を、様々な地方での実践を紹介しながら描いていく。
都会で朝早くから満員電車に揺られ、会社についたら様々な人間関係や厳しい市場競争からのストレスを抱えながら歯を食いしばりながら働き、自分の為の自由な時間などすべて犠牲にして夜遅く帰宅するのはただただ睡眠をむさぼり、明日の朝にまた同じ一日を繰り返すための体力を回復するため。
そんな風に必死に生きているのにも関わらず、決して豊かな暮らしになっているかといったらそうではない。それに引き換え、田舎では大家族で暮らし、時間に追われることなくゆったりとした時間の中で、多くのものを共有しながら、家族で過ごす時間を持つ余裕がある。
どちらか豊かであるのだろうか?と、都会であくせく生きる人々なら一度は考えた疑問であろう。今は我慢し、キャリアアップや能力を上げて将来への投資と思えるのならまだしも、明らかに大きな経済構造の一部として取り込まれ、ただただ労働力を提供し多くのものを吸い取られてしまっているこの感じ。
そのそのどうしようもない労感に対して別の道筋を描き出そうとする意欲作であるといえる。社会の構造変化のためにさまざまな場所で見えるようになってきた歪。あるところでは「格差」として、あるところでは「限界集落」として。
そんな風に、日本が世界経済の中で今後どのようなスタンスで立ち向かっていくのか、都市と地方、そして田舎ではどのような経済構造を再構築し、どのような生活のあり方を想定して人々が毎日を暮らしていくのか。そんな国としての大きなグランドプランを変革しなければいけない必要性に迫られている現代。盲目的に世界から押し寄せる波に飲まれて、海外からの輸入した労働の在り方を踏襲し、搾取され続け、疲弊した生き方を続けるのではなく、日本だからこそ可能な、そして以前には存在していたものを新しい形に蘇らせることで豊かな生き方を目指せるのではないかと声をあげる。
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経済成長には、金太郎飴の様にどこもかしこも画一的である方が効率的だったのであり、地域ごとの個性は不要だったのである。21世紀、ある程度の経済成長を果たし、ものが溢れる豊かな時代になって、全国どこに行っても同じような表情になってしまった日本の街を見て、違和感を覚え始めたのである
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というように、地方のどこの街に行っても同じものが手に入り、同じ風景の中を走るファスト風土が蔓延するなか、「効率」一辺倒ではない、価値観もあるのではという思いがあちこちからわきあがってきている。
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マネー資本主義に染まりきってしまった人の中には、自分の存在価値は稼いだ金銭の額で決まると思い込んでいる人がいる。それどころか、他人の価値までもを、その人の稼ぎで判断し始めたりする。違う、お金は他の何かを買うための手段であって、持ち手の価値を計る物差しではない
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誰もが紹介された例のように、創造的な価値の転換をできる訳もないが、それでもどうにかして今までの社会の常識や在り方を根本的に変革し、硬直した社会の利権構造、変化を望まない一部の既得権益にとどまろうとする人々を押しのけて、未来の日本にとって、本当に相応しい社会と生活の在り方を考えていかなければいけない。その為には多くの人が一時的な痛みを伴うが、それは将来のために必要な治療であるのだと理解しなければいけない。そんな切実なメッセージが聞こえてきそうな一冊である。
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■目次
はじめに─「里山資本主義」のススメ/3
/「経済一〇〇年の常識」を破る
/発想の原点は「マネー資本主義」
/「弱ってしまった国」がマネーの餌食になった
/「マッチョな経済」からの解放
/世の中の先端は、もはや田舎の方が走っている
第一章 世界経済の最先端、中国山地─原価ゼロ円からの経済再生、地域復活
/二一世紀の“エネルギー革命”は山里から始まる
/石油に代わる燃料がある
/エネルギーを外から買うとグローバル化の影響は免れない
/一九六〇年代まで、エネルギーはみんな山から来ていた
/山を中心に再びお金が回り、雇用と所得が生まれた
/二一世紀の新経済アイテム「エコストーブ」
/「里山を食い物にする」
/何もないとは、何でもやれる可能性があるということ
/過疎を逆手にとる
/「豊かな暮らし」をみせびらかす道具を手に入れた
第二章 二一世紀先進国はオーストリア─ユーロ危機と無縁だった国の秘密
/知られざる超優良国家
/林業が最先端の産業に生まれ変わっている
/里山資本主義を最新技術が支える
/合い言葉は「打倒! 化石燃料」
/独自技術は多くの雇用も生む
/林業は「持続可能な豊かさ」を守る術
/山に若者が殺到した
/林業の哲学は「利子で生活する」ということ
/里山資本主義は安全保障と地域経済の自立をもたらす
/極貧から奇跡の復活を果たした町
/エネルギー買い取り地域から自給地域へ転換する
/雇用と税収を増加させ、経済を住民の手に取り戻す
/ギュッシングモデルでつかむ「経済的安定」
/「開かれた地域主義」こそ里山資本主義だ
/鉄筋コンクリートから木造高層建築への移行が起きている
/ロンドン、イタリアでも進む、木造高層建築
/産業革命以来の革命が起きている
/日本でもCLT産業が国を動かし始めた
中間総括 「里山資本主義」の極意─マネーに依存しないサブシステム
/加工貿易立国モデルが、資源高によって逆ザヤ基調になってきている
/マネーに依存しないサブシステムを再構築しよう
/逆風が強かった中国山地
/地域振興三種の神器でも経済はまったく発展しなかった
/全国どこでも真似できる庄原モデル
/日本でも進む木材利用の技術革新
/オーストリアはエネルギーの地下資源から地上資源へのシフトを起こした
/二刀流を認めない極論の誤り
/「貨幣換算できない物々交換」の復権─マネー資本主義へのアンチテーゼ①
/規模の利益への抵抗─マネー資本主義へのアンチテーゼ②
/分業の原理への異議申し立て─マネー資本主義へのアンチテーゼ③
/里山資本主義は気楽に都会でできる
/あなたはお金では買えない
第三章 グローバル経済からの奴隷解放─費用と人手をかけた田舎の商売の成功
/過疎の島こそ二一世紀のフロンティアになっている
/大手電力会社から「島のジャム屋」さんへ
/自分も地域も利益をあげるジャム作り
/売れる秘密は「原料を高く買う」「人手をかける」
/島を目指す若者が増えている
/「ニューノーマル」が時代を変える
/五二%、一・五年、三九%の数字が語る事実
/田舎には田舎の発展の仕方がある!
/地域の赤字は「エネルギー」と「モノ」の購入代金
/真庭モデルが高知で始まる
/日本は「懐かしい未来」へ向かっている
/「シェア」の意味が無意識に変化した社会に気づけ
/「食料自給率三九%」の国に広がる「耕作放棄地」
/「毎日、牛乳の味が変わること」がブランドになっている
/「耕作放棄地」は希望の条件がすべて揃った理想的な環境
/耕作放棄地活用の肝は、楽しむことだ
/「市場で売らなければいけない」という幻想
/次々と収穫される市場“外”の「副産物」
第四章 “無縁社会”の克服─福祉先進国も学ぶ“過疎の町”の知恵
/「税と社会保障の一体改革頼み」への反旗
/「ハンデ」はマイナスではなく宝箱である
/「腐らせている野菜」こそ宝物だった
/「役立つ」「張り合い」が生き甲斐になる
/地域で豊かさを回す仕組み、地域通貨を作る
/地方でこそ作れる母子が暮らせる環境
/お年寄りもお母さんも子どもも輝く装置
/無縁社会の解決策、「お役立ち」のクロス
/里山暮らしの達人
/「手間返し」こそ里山の極意
/二一世紀の里山の知恵を福祉先進国が学んでいる
第五章 「マッチョな二〇世紀」から「しなやかな二一世紀」へ─課題先進国を救う里山モデル
/報道ディレクターとして見た日本の二〇年
/「都会の団地」と「里山」は相似形をしている
/「里山資本主義への違和感」こそ「つくられれた世論」
/次世代産業の最先端と里山資本主義の志向は「驚くほど一致」している
/里山資本主義が競争力をより強化する
/日本企業の強みはもともと「しなやかさ」と「きめ細かさ」
/スマートシティが目指す「コミュニティー復活」
/「都会のスマートシティ」と「地方の里山資本主義」が「車の両輪」になる
最終総括 「里山資本主義」で不安・不満・不信に決別を─日本の本当の危機・少子化への解決策
/繁栄するほど「日本経済衰退」への不安が心の奥底に溜まる
/マッチョな解決に走れば副作用が出る
/「日本経済衰退説」への冷静な疑念
/そう簡単には日本の経済的繁栄は終わらない
/ゼロ成長と衰退との混同─「日本経済ダメダメ論」の誤り①
/絶対数を見ていない「国際競争力低下」論者─「日本経済ダメダメ論」の誤り②
/「近経のマル経化」を象徴する「デフレ脱却」論─「日本経済ダメダメ論」の誤り③
/真の構造改革は「賃上げできるビジネスモデルを確立する」こと
/不安・不満・不信を乗り換え未来を生む「里山資本主義」
/天災は「マネー資本主義」を機能停止させる
/インフレになれば政府はさらなる借金の雪だるま状態となる
/「マネー資本主義」が生んだ「刹那的行動」蔓延の病理
/里山資本主義は保険。安心を買う別原理である
/刹那的な繁栄の希求と心の奥底の不安が生んだ著しい少子化
/里山資本主義こそ、少子化を食い止める解決策
/「社会が高齢化するから日本は衰える」は誤っている
/里山資本主義は「健康寿命」を延ばし、明るい高齢化社会を生み出す
/里山資本主義は「金銭換算できない価値」を生み、明るい高齢化社会を生み出す
おわりに─里山資本主義の爽やかな風が吹き抜ける、二〇六〇年の日本
/二〇六〇年の明るい未来
/国債残高も目に見えて減らしていくことが可能になる
/未来は、もう、里山の麓から始まっている
あとがき
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