二年に一度アートと建築で交互に開催されるビエンナーレ。その建築ビエンナーレに参加するために向かうイタリア北部の都市ベニス。
日本ではどちらかといえばヴェネチアの呼び名の方が一般的であるが、これは何の違いかといえば、イタリア語ではヴェネツィア(Venezia)と呼ばれるが、英語ではベニス(Venice)と呼ぶために、人によって呼び方が違うということらしい。
アドリア海に浮かぶ群島の街。夜の闇に浮かぶ怪しい仮面を纏った人々。キューブリックの遺作となった「アイズ・ワイド・シャット」で描かれるような、仮面を被った怪しげな儀式が本当にどこかの館で行われているのではと思ってしまうくらいの中世の雰囲気を現代に残す街。
イタリアといえば、ローマ、フローレンス、ミランにこのベニス。どの都市も建築を志すものとしては一生に一度は体験して見たい魅惑の都市たち。その中でもこのベニスは、中世からの都市構造をそのまま現代に残し、近代都市とはまったく違った空間のスケールと体験を与えてくれる。
大学院時代に敢行したグランドツアーで訪れた、短い滞在時間でできるだけ街中を歩き回った時から既に10年以上の月日が流れ、その間にまた何度も訪れる機会を与えてくれたのは、この街で開催される世界最大規模の建築展覧会であるベニス・ビエンナーレ。
日本人にとってベニスと言えば、須賀敦子になってしまうが、建築の世界で生きるものとしてはどうしてもビエンナーレが先に来る。一年ごとにアートと建築とで行われるベニス・ビエンナーレは世界中に溢れるビエンナーレの中でも圧倒的な歴史と知名度を持つ。
建築においては、2年後とに行われる展覧会のために、全体のコンセプトを決定するキュレーターが指名され、そのキュレーターのコンセプトに添って、各国のパヴィリオンを率いる各国のキュレーターと、テーマにそって展示がされる会場に参加する建築家などが、二年という歳月を掛けて掲げられたテーマを追求していくことになる。
新しい建築作品が次々と生まれるような背景にはない現在のイタリアだが、こうして建築界の進む方向に大きな影響を与えるアカデミカルなイベントを内に抱えることで、建築の歴史の中で重要な位置を確保し続けている。
そんなベニスの中心はもちろん観光客で賑わうサン・マルコ広場。しかしビエンナーレでこの街にやってくる多くの建築家にとっての中心は、街のはるか東の突端に位置するジャルディーニとその西側に位置するかつての海軍拠点であるアーセナル。
このビエンナーレに関わることで、幸福なことに満潮で海水に沈むサン・マルコ広場を体験することができたり、パラーディオとスカルパという時代を超えたイタリア出身の建築家の残した建築作品をじっくり堪能させてもらった。
そして展覧会期間中に街中をあるいていると、「久しぶり!」とかつての友人にばったり出くわすことができるのも、世界規模での展覧会が定期的に同じ場所で開かれることの利点であろう。
そして日本人で建築に携わるものとして、ベニスと言えばやはり陣内秀信氏。その著書である「ヴェネツィア 水上の迷宮都市」 から、古からの時間が流れ続ける魅惑の都市の魅力を十分に理解して街のあちこちに残る生きた歴史の遺産を散策しながら、迷宮の様に入り組む街を歩きながら、徐々に自分の身体を街に流れる時間と空気に同化していく。
そんな時代を超える空間体験の醍醐味も最も直接的に楽しむことができる都市である。今回も展覧会中心のスケジュールとなるであろうが、その合間に宝探しの様に街の彼方此方に足を伸ばすことを期待して空港からの水上タクシーに乗り込むことにする。
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