2014年6月26日木曜日

「商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道」 新雅史 2012 ★★★

1973年生まれというから、まだ40歳前後の社会学者ということになる作者。社会の構造的に利権が隠れているところで、なかなか皆思っていても気を遣っていえないところにバッサリ切り込んでいく感じはなかなか好感を持てる。

街を歩いているとこんな閑散とした商店街でも、なんだか普通に店を営業しているお店を良く見かける。とてもグローバル化した現在の競争と更新の激しい経済活動で勝ち残っていくような営業努力をしているとも、またそれができるともとてもじゃないが思えないような店構え。

車を走らせれば、電車で二駅行けば、すぐにたどり着ける郊外型の大型ショッピングモール。デフレスパライラルに嵌まり込んでいるうちに、低価格競争はそれを支える非正規労働者の待遇を犠牲にしても、他店よりも少しでもコストカットでプライスダウンというスローガンの下に、かつて無いほどの低価格競争で競合相手を振り落としていった。

世界の地図を見ながら、どこで原料を仕入れ、どこで生産し、どこで加工し、どうすれば輸送コストを削れて消費者に届けられるか。そんなミリ単位の競争を勝ち残っていけるだけの体力を身につけた超巨大企業体が市場を独占していくことがすぐ視界の脇で行われいるにも関わらず、そこだけ昭和の時間が流れているかのようなのどかな商店街の風景。

どう考えてもおかしい。

サービスに付加価値をつけて、少しでも差異化をはかり、消費者がどんなことを求めているのか普段の分析を続けながら、商品の質を高める開発も続け、サービスから報酬を得る職能人として能力の向上に努めながら、それでいながら地元に密着する活動にも参加する。

そういう真面目に、危機感を感じながら、自己革新を行っている自営業者はもちろんいるはずである。しかし、世の中全部が全部、そんなにがんばりもののはずも無い。がんばりモノのであれば、あのような店構えになっているはずもない・・・

都会で生きていくならば、家賃を支払うのだけでも大変である。従業員を雇えば、彼らの給与や社会保障などの負担も大変である。事業をまわしていくには、相当な資金も必要になるだろうし、内装を少しいじるだけでも相当な経費が飛んでいく。通常の感覚で言ったら、やはり商売として回っていないのではと思わずにいられない。

やはり何かがおかしい。

ということは、何かのカラクリがあるという訳だ。そこには何かの利権構造が出来上がっており、何かしらの優遇制度が適応されているはずだと。

今でこそ資本主義を背景とした郊外の大型ショッピングセンターの強力な波に押され、地元の付き合いよりも、自分のメリットを価格で図るドライな世代の顧客を奪われる形になり、続々とシャッター街となっている地方の商店街。

しかし、それはそんなショッピングセンターの登場というきっかけがあったらか顕在化しただけで、根本的な問題は常にそこに横たわっていたはずである。既得権益に安穏とし、自らイノベーションを起こして価値の更新をしてこなかった商店街という場所の居心地の良さ。

それがいったい何だったのか?現在では大多数を占めるようになった、勤め人からでは決して見ることができない、中小小売商に対する優遇策とはどんなものだったのか、国策としてどうやって創り出されていったのか、そしてその利権の中で、彼らがどうやって外から閉じ、家族という単位で利権を囲い込んでいったのか。

新書と言うのは本来、こうして社会が抱える構造的な問題が、結局は誰かの利権に繋がっているからであるということを専門以外の人にも分かりやすく描き出し、その利権を守ることが一部の人を保護することであっても、社会として硬直化がどんな悪影響を後世に残していくのか、その中でいったいどんな建設的な提案が可能なのか。そういうことを、「それは言って喋って欲しくなかった」と言う人がどれだけ多くても、学者と言う立場を利用して世間に発することが必要なのだと思わずにいられない。

以下、本文よりいくつか抜粋。
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序 章 商店街の可能性
外部の人を引き寄せる「余地」 人々の生活への意思があふれている場所

第1章 「両翼の安定」と商店街
/「抜け道」のない日本社会
村上春樹 「金は無いけれど就職もしたくないなどという人間にも、アイデア次第ではなんとか自分で商売を始めることができる時代だったのだ」
チャレンジをおこなうことが徐々に難しくなった
土地・建設費が、猛烈な勢いで上昇してしまったから
抜け道の数が多ければ多いほどその社会は良い社会であると僕は思っている

/「雇用の安定」と「自営業の安定」
雇用の流動化
商店街の経営主、豊かな自営業 自営業の安定
小売業の距離制限やゾーニング(土地利用規制)の緩和
・自営業の安定に対する誤解
「旧中間層」と「新中間層」 旧中間層は土地を自己所有する豊かな自営業層、新中間層は豊かな雇用者層

/商店街は伝統的なのか
商店街は20世紀になって人為的に創られたもの
20世紀前半に生じた最大の社会変動は、農民層の減少と都市人口の急増

/近代家族と商店街
家族 家族経営 近代家族
家族の集団性の強化 社交の衰退 非親族の排除
地域に開かれている存在であるはずなのに、それぞれの店舗は「家族」という枠に閉じていたわけ

第2章 商店街の胎動期(一九二〇~一九四五)――「商店街」という理念の成立
/発明された商店街
商店同士の連携 地域社会のシンボルとみなされている

/都市の拡大と零細小売商
第一次世界大戦移行の社会変動
零細小売商が大きく増えた
農業をやめて都市に出てきた
第一次大戦後、不景気により中小企業が没落し、財閥に吸収される
工場の大規模化
企業による直接雇用に置き換わる
・物価不安と協同組合
急速な都市人口の増加
・百貨店の登場
百貨店と言う新しい小売業態の存在感が増した
日本の百貨店が大衆の消費空間として花開いた 初田亨
陳列販売方式へと変化

/「商店街」という理念
・組織としての商店街
小売商の組織化
異業種同士の連帯であった。それこそが商店街
横に地を這う百貨店
繁華街以外の手近な場所
10分か15分で到着できるところ
・地元商店街を制度的に支えた距離制限
「繁華街」と「地元」
生活インフラとしての商店街

/燗熟する商店街
流通革命 レジスター スーパーマーケットと言う新たな業態が生まれた
/経済成長と完全雇用の矛盾
・零細小売商のスーパー出店反対運動
1973年には大規模小売店舗法(大店法)
コスト主義 消費者は無視 バリュー主義
販売者の所得を引き下げても仕方が無い
・消費者運動
生産活動がすべてに優先されている 生産されたものを、如何に消費させるかが考えられる

第4章 商店街の崩壊期(一九七四~)――「両翼の安定」の奈落
/コンビニと商店街の凋落
コンビニほど日本のランドスケープを変えた存在はない
なぜこれほどにコンビニが増えたのだろうか
「便利」を追求
元零細小売店によって経営された
なぜ小売店主が、コンビニに手を出したのか
跡継ぎ問題
事業の継承性
商店街を内部から壊すもの コンビニ
専門店同士の連帯を無視して成り立つ業態であるから

/日本型福祉社会論と企業中心主義
企業福祉と家族福祉を機軸とした「日本型福祉社会」
企業と家族
そこに自営業や地域は含まれていない
サラリーマン家庭以外の人々は、日本における例外的な層と位置づけられたのである
日本型福祉社会論 「家族だのみ」「大企業本位」「男性本位」の社会政策
1985年の年金改革
第三号被保険者が創設された 厚生年金や共済年金の加入者(第二号被保険者)に扶養される配偶者
第三号被保険者が、保険料を自分で払わなくても、老後に基礎年金を受け取れることを可能にした
男性サラリーマンと専業主婦というカップリングは、多くの恩恵を受けていた
・日本型福祉社会における家族像
年収130万円以上稼ぐことを避ける
年金保険料まで支払う必要が出てくる
男性サラリーマンと専業主婦のカップリングを「理想的な標準世帯」としていたからだえある
・前川リポート
製造企業には、生産拠点を海外に移転するように求める

/財政投融資と「地域」の崩壊
・加速する郊外化
消費空間のあり方が、1980年代に大きく変化した
流通に関する規制緩和
大規模な小売チェーンが、地方に進出しやすくなった
地方都市の郊外化
公共事業の拡大によって地方の道路事業がすすんだ
市街地の道路整備 時間がかかるし、資金もかかる
地方都市間のアクセス道路は、市街地ではないために整備がスムーズに進む
商業用地に変換
地方都市の郊外-国道のバイパス沿い-に、商業用との土地が大量に発生
バブル崩壊以降の野放図な国土開発は、塩漬け状態の土地を大量に生み出し、区尾外の商業化を加速させた
ショッピングモールが建設
自動車での消費活動を前提としていた

/商店街の内部崩壊とコンビニ
コンビニ化という生き残り戦略が、商店街を内側から崩壊させた
スーパーマーケットを経営していた大規模小売資本
零細小売商そのものをスーパーマーケットの理論に染め上げると言う戦略
零細小売業種は、その権益を、地域のためと言うよりも、家族のために使うことを考えた
権益を引き継ぐ先は子供に限られていた

第5章 「両翼の安定」を超えて――商店街の何を引き継げばよいか
/近代家族と日本型政治システムに支えられた商店街
商店街が、恥知らずの圧力集団になった
保守政党と政治的な結託を見せた
免許などの権益は親族の間で移譲された 権益の私物化
親族間での経営以上は小売店のイノベーションを妨げた 閉ざされた権益
ジリ貧の状況から抜け出すため、コンビニ経営へ乗り出した
1980年代以降の日本は、本来ならば個人化に即して、家族ではなく個人を支援する政策を行うべきだった。日本は、企業福祉、家族福祉にたよった社会保障政策を以前よりも重視すると言う欧米社会の基準からみれば時代錯誤の選択をおこなった。
自営業が握り崩される中、人々は正社員に安定を求めるようになった
/規制と給与のバランスをめぐって
1990年代に入ってからもゾーニングの緩和が実施 ショッピングモールが地方の郊外に増加した
今の若者たちは新卒採用という選択にしか目が行かず、ほかにどのような選択があるのか分からない状態
・新しい商店街理念とは
地域単位で協同組合が商店街の土地を所有し、意欲ある若者に土地を貸し出すとともに、金融面でもバックアップする
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■目次  
序 章 商店街の可能性
第1章 「両翼の安定」と商店街
/「抜け道」のない日本社会
/「雇用の安定」と「自営業の安定」
/商店街は伝統的なのか
/近代家族と商店街
/社会理論と商店街
/本書の構成

第2章 商店街の胎動期(一九二〇~一九四五)――「商店街」という理念の成立
/発明された商店街
/都市の拡大と零細小売商
/「商店街」という理念
/二つの商店街-「繁華街」の商店街と「地元」の商店街

第3章 商店街の安定期(一九四六~一九七三)――「両翼の安定」の成立
/成熟する商店街
/経済成長と完全雇用の矛盾
/小売商の保護施策
/価格破壊と商店街

第4章 商店街の崩壊期(一九七四~)――「両翼の安定」の奈落
/コンビニと商店街の凋落
/日本型福祉社会論と企業中心主義
/日本問題と構造改革
/財政投融資と「地域」の崩壊
/商店街の内部崩壊とコンビニ

第5章 「両翼の安定」を超えて――商店街の何を引き継げばよいか
/近代家族と日本型政治システムに支えられた商店街
/規制と給与のバランスをめぐって

あとがき
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