男なら一度は憧れる職業というものがある。
その一つが私立探偵。東京のような狭苦しい場所に留まらなければいけないのは、そこにしか仕事が無く、そこでしか人に出会えず、そこでしか楽しいと思える刺激がないからだとしたら、生きるに困らないだけの仕事の依頼が入ってきて、興味深くかつ若くて美人なクライアントがわざわざ訪ねてきてくれて、時に友人達とBBQをし、時に鳥のさえずりを聞きながら物思いに耽ることが出来る自然の中のテラスがあり、適度な距離を保ちながら彩りを与える友人達がいる。そんなおおらかな生活を可能にする広さ。それを所有する事が可能でかつ東京にも繋がれる場所として福島が舞台。
都会の雑踏の中でしか生きる喜びを見つけられないというような青臭い時代を終え、ある年代で経験すべき事をしっかりとこなして大人になった男が、自分の時間の過ごし方を知り、ダッチオーブンやローマイヤのハムなどこだわりをもったモノ達に囲まれる生活。社会や世間というものから距離を取ること、その中で評価される事に囚われない身。漂う清々しさ。今の自分の姿と比べてみては、間に横たわる距離に歯ぎしりすることになる。
そんな訳で叔父の死により相続したこの家を拠点に活動する事になった神山健介シリーズ第2弾。前作の夏から季節は巡り今度は春。土の中から様々な生命が息吹出す季節にその土の中から死んだはずの姉の声が聞こえるという双子の妹からの依頼。有名なモデルでしかも相当な資産家の娘。なんとも羨ましいがありがちな展開にもれず、どうも男性に依存するタイプの女性な様子であっという間に身体を重ねる事になる。どうにも最近はワイルドなタイプはモテるという設定のようである。
何世代にも渡る歴史の中にミステリーの答えを持って行くのは他の作品でも見受けられるが、そのワイルドな風貌か想像出来るワイルドな私生活と交友関係からの真実味のありそうな歓楽街での人探し。そのやり取りはなかなかスリリングで物語に緊張感を与える。
通底するハードボイルドとしっかりと練られたミステリーの絡み合う糸。ストーリーが比較的明確なのであっさり読みきれてしまうが十分楽しめる娯楽作。次の季節の秋を楽しみに待つことにしながら、それまでに自分もローマイヤのハムで・・・というように、「○○の何とか」と身の回りのものに対してのこだわりレベルを少しでも向上しておくようにする。
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