2013年5月5日日曜日

「鉄コン筋クリート」マイケル・アリアス 2006 ★★★★★


オシャレ漫画の代名詞のようなものだと思っていたこの「鉄コン筋クリート」。頭の片すみにちょっと引っかかっていた程度なので、松本大洋の名と「鉄筋コンクリート」として記憶されていたが、よくよく見ると「鉄コン筋クリート」なのだと改めて認識。

恐らく原作の完成度がとにかく高いのだろうが、鉄筋コンクリートを扱う建築の世界に身をおいているとよく分かるが、ある場面を想像した時にその角度からだけ成立するのなら、比較的簡単に素晴らしい建築は構想できるだろうが、それが空間を自由に動き回る現実の世界においても成立させるためには、何十倍もの気を遣って立体物としての建築を構築していくことになる。それを街というレベルで行うのは、相当な想像力と破綻を起こさない緻密さが要求される。

それが原作のレベルで成し遂げられていたのか、それともあくまでも2次元の漫画の世界から3次元のアニメの世界へと飛躍させるときの制作チームによってなのかは分からないが、とにもかくにも舞台となる街、その街を自由に「飛びまわる」クロとシロ。それを追いかけるカメラワーク。どこから見ても、その舞台に破綻が見えない。これは凄いことだと思う。

しかもその街並みが、どこかの風景の綺麗な田舎で写真を撮ってはパソコンで再現したようなヌルイものではなく、アヤソフィアがど真ん中に鎮座して、アジア中の神様のモチーフが散りばめられつつも、日本の路地が入り組んで、昭和の香りのする商店街が連なって、とにかくごちゃごちゃしているが成立しているということ。それを成立させるための執念のようなディテールの描き込み。

パプリカ」の映像でも、これだけ不思議なものを統一感をもって映像化するのはものすごい想像力と技術力だと思ったが、「パプリカ」に無かったのは総体としての枠組み。それがこの「鉄コン筋クリート」では、「宝町」として総体を持つ街として存在し、境界線を持つ実体として描かれる必要があるということ。

「街」というのは、どんなにその創成期に都市計画として神からの視点で描かれたとしても、「生活の場」として使われるうちに、様々な人が、様々な使い方をして、青図とはまったく違う姿を見せていくものである。トップダウンからボトムアップに変わる瞬間が間違いなく存在し、その瞬間から一つの生命体の様に日々姿を変えていく。

その人々の息吹とでもいうべき、足元で繰り広げられる様々な事象が、「街」を生活の舞台へと変換し、それがその場の豊かさ、魅力へと変わっていく。そしてそれは決して最初からは設計できないということを、世界中の建築家が既に知っている。

そんな存在しない「街」を想像し、生活の雰囲気までも創造していくその能力はまさに圧巻。様々な要素が盛り込まれているのだけども、通常そういうものはすぐに何人もの別のデザイナーが関与した取りとめの無い、曖昧なとってもつまらないものになってしまうのだけれど、様々なアイデアを盛り込むのをギリギリのラインで止めておいて、あくまでの一人のクリエイターの見た夢として統一感を与える。

「こちら地球星日本国白隊員。応答どーぞ」

目の離れたシロが、確かな人格をもった人物として徐々に認識してしまうように、その声優である蒼井優の演技もまた素晴らしい。

漫画原作というのは、どうにも好きになれないものだが、ここまで突っ走られると文句のつけようも無いというもの。明らかに00年代のトップに君臨するジャパニメーションであると思われる。

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監督 マイケル・アリアス

キャスト
二宮和也クロ
蒼井優シロ
伊勢谷友介
宮藤官九郎
田中泯
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作品データ
製作年 2006年
製作国 日本
配給 アスミック・エース
上映時間 111分
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