2013年5月13日月曜日

「小説 伊藤博文 幕末青春児 全一冊」 童門冬二 2004 ★★


大河ドラマの「八重の桜」の裏で起こっていた物語。八重の会津藩に敵対する幕末の反抗児・長州藩。旧国地図をみると今の山口県西部に当たる。下関、萩、山口、長門などを含み、瀬戸内海から日本海へでる要所を押さえることで重要な意味を持つ国である。

高杉晋作、久坂玄瑞、山縣有朋、時代を変えるべく疾走した若者を多く輩出した松下村塾。吉田松陰の薫陶を受け、江戸へ京へと駆け回る若き志士達。その中でも低い身分から侍に成りたい、力を持ちたいと、己の立身出世の欲にひきづられながらも、その人柄と類稀な調整能力にて外交の場で頭角を表すして行く伊藤俊輔、後の伊藤博文がいた。

誰からも愛され、憎まれず、荒波を泳ぎながら、時代を生き延びた俊輔。桂小五郎と高杉晋作という静と動の人物共から愛された人物。

イギリスにて世界を見たこと。自らの、そして日本の、そして藩の立ち位置を知ったこと。その距離感を理解し、冷静に判断し、今後どうすべきかを考えることができた幸運。

世界を知ることの重要性。自らが生きる世界の枠組みを決め、その中での目標を掲げ、そこからの距離を理解する。その後は距離を縮めるために何をすべきか考え、実行する。捉えた枠組みがしっかりとしていれば、ガムシャラに足元を見ながら一歩一歩足を前に進めても、大きくは目的地からは外れない。

しかし最初に枠組みも無く、立ち位置も理解せず、距離感も見据えずに出し続ける一歩達は何処にいってしまうのか。時が経つにつれて現れだすその違いは徐々ではあるが、確実に開き始める。

幕末。平穏な時代では決して歴史の表舞台に立つことがなかったであろう人物達が、活き活きと時代を走り回った時間。すべての人物にそれぞれが主人公の物語が存在し、「時代が変わった」ことに意識的に社会の中に浸透し、様々な「システム」もまた更新されていく。

270年続いた江戸時代。その硬直した時代を変革したのは、押し寄せる世界へ足を向け、現在の世界を見てきて、外から見えてくる「日本」という姿がどう変わるべきかを必死に考えた人々。

明治に時代が変わって既に145年。江戸時代の半分近くに差し掛かってきたが、再度この国は硬直化を迎えているようである。それは産業革命によってもたらされた当時の世界の変化同様に、グローバル化によってもたらされた構造の変化によってもたらされた世界情勢の変化が、再度外から押し寄せる外圧として日本に届き始めている。

変わることを選ぶのか、変わらないことを選ぶのか。まずはしっかりと自らの目で枠組みを見据えることが大事だと改めて思わずにいられない。

0 件のコメント: