2011年1月15日土曜日

「渇いた夏」 柴田哲孝 2008 ★★★★

1987年夏-。
男は、まだ少年といってもいい年頃だった。

と、子供時代の回想から始まる物語は、曖昧な少女への強姦の記憶へと続いていく。

私立探偵である神山健介は、無くなった伯父から届いた手紙を頼りに、生前に伯父が住んでいた家を相続し、その伯父の死の謎に迫っていくことになる。

作者の小説に必ず登場する「かっこいい男」は今回この伯父さん。家のあちこちに転がる品々は、どれもがこだわりの一品ばかり。消耗品として購入されたものではなく、嗜好品として一生使うものとして収集されたものばかり。男に生まれたい上、こういうモノたちを集めながら、時間を積み重ねて生きたいものだと改めて思わされることになる。

「書斎とは男の魂が宿る聖域」

そんな書斎をいつか持ってみたいものである。

「服、車、家電製品といった消耗品には全く金をかけない代わりに、道具や嗜好品には惜しげなく贅沢をする」

デフレの世の中に生きるにはとても耳の痛い言葉達。

「人間は、不思議だ。ちょっとした手の感触や、音、もしくは匂いで、数十年の時を超えて過去に戻ることができる。」

その為には、その感触を立ち上がらせてくれる手の感触が染み付いた良質なモノ達の存在が大前提ということか。

作者の趣味自慢もある域に達してきて、嫌味を感じることなくメインのストーリーとよきマッチングを醸し出す。主人公が色気のある大人の男に変わっていく過程と共に明らかにされる時間の真相と共に、十分にそのハードボイルドな世界観を楽しめる一冊。

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プロローグ
第1章 遺産
第2章 獣道
第3章 逆流
第4章 渇水
解説 新保寛久
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