2013年2月4日月曜日

MAD Annual Dinner


中華新年を間近に控えた年内最終週。スタッフが故郷へと帰っていく前に、すべてのスタッフで一年を労うためにとオフィスでのディナーを催す。

マネージャーと数人のスタッフが中心となって準備を進め、今年は現場が始まるパリで進めているマンションのプロジェクトのためという訳ではないが、北京で有名なフレンチ・レストランで、少し優雅な雰囲気の一夜を過ごすことにする。

Maison Boulud

天安門広場の脇に位置するこのレストランは、かつてアメリカ大使館だったということもあり、建物に風格もあり、年度末のオフィス・ディナーを過ごすのにはもってこいの雰囲気。せっかくということで、妻も誘い出し、一年の終わりを共に過ごすことにする。

スタッフや、アドミニ系の所員、そしてインターンなどを含めて総勢60人近い盛大なディナーに先立って、パートナーであるダン・チュンからスタッフに挨拶。一年のハードワークを労い、この一年がオフィスにとってどのような意義を持ったかを説明し、その後とても重要なアナウンスメントを行う。

まずは、この一年、オフィスにとってとても意義のあるパフォーマンスを発揮してくれた3名のスタッフの表彰。それぞれがどのような仕事でどのような意義を見出したか。上司のやるべき唯一の仕事は部下を公正に評価することだとかつて読んだことがあるが、このような発表は、きっと3名だけでなく、すべてのスタッフのモチベーションに良い影響を与えることだろうと想像する。

続いてはこの4月にMADとしても8年目を向かえ、次なるステップに向けて様々な形での構造改革を行ってきたが、その中でも極めて重要な意味を持つオフィスのストラクチャーの改革。

建築事務所として、建築家としてのスタッフが人生を過ごしていく上で、またキャリアを積み重ねていく上で、オフィスがどのように各スタッフの将来設計に関わることができるか?極めて個人事業主的な形態が主な設計事務所から、スタッフの数が増えて、徐々に組織内のシステムを整理し、会社へと変革していきながら、それでもデザインという個人に依るところの多い特殊性を許容しながら、より安定的、より効率的な姿へと変わっていく。

「シニア・アーキテクト」や「プロジェクト・アーキテクト」とういプロジェクトごとに変わるポジションから一歩進み、マ・ヤンソン、ダン・チュンと自分の3人のパートナーの下に位置し、パートナーと密に連携をとりながら、いくつかのプロジェクトを同時に「見る」ことをお願いする「アソシエイト」というポジションの導入。

オフィスのすべてのメンバーの特性を見極め、「デザインを生み出す」、「デザインを実現させる」、「チームを率いる」という極めて難しい業務の中で、それぞれの性格を活かしながら、今後のオフィスの発展に大きな意味をもつだろうと思われる「アソシエイト」となる3名のスタッフの発表。

やや恥ずかしげな表情をしながらも、それぞれが誇らしげにその発表を聞いている姿を見て、これからの自分のやるべきことに想いを馳せる。

堅い話を終えると、世界中から集まっているスタッフが準備した趣向を凝らしたゲームなどを楽しみながら、なかなか美味な食事に舌鼓を打ちながら時間を楽しむ。

東京にいる時には、行きたい場所は分かっているのだが、「今日を生きる」ことに時間とエネルギーを吸い取られ、グルグルグルグルと同じところを遠心状に巡っている気持ちで一杯だった気がする。しかしこの場所では力強いパートナーと一緒に確実に前に進んでいることを実感する。決して大きくなる必要はないが、確実に成長しているという実感。そしてその毎日を共に過ごすスタッフの存在に改めて想いを馳せることになる。

スタッフが準備してくれた過去、現在そしてこれからのMADのビデオ。その中で写された何年も前のオフィスでのパーティーの一枚。3人のパートナーが未来を疑うことが無いかのように笑顔で、皆若く痩せて写っている。あの時間が今に繋がっていて、より多くのメンバーと一緒にこの瞬間を迎えていることに、正直に感慨深くなる。

そんな気分にほだされて、余興の合間に、「では」と自分も一言皆に伝えることにする。

中国語で訳すとまどろっこしくなるので英語だけにとどめたが、どれだけ我々三人がスタッフ一人ひとりの頑張り、犠牲、苦しみ、ストレス、に感謝しているか。今日は一年の中でほんの数日だけ自分達がその感謝を堂々と表現できる一日であるということ。

恐らく10年後、誰もが毎日何に苦しんだかは覚えておらず、それよりもこういう記憶に残る一日に誰と過ごしていたか、そして自分達が魂をこめて設計をした建物で、オペラを観劇し、ふと横を見ると見ず知らずの観客が目を輝かせながら劇に没頭している姿を見て、それがその人にとって建築が記憶の中の空間へと昇華していく瞬間なのだと理解するだろうということ。

その瞬間が今、そこまでの多くの苦しみや辛さをペイオフしてくれること。
その瞬間をできるだけ多くの皆と一緒に共有したい。

そんなことを伝える。

デザートまでたっぷりと楽しみ、最後にマも挨拶をし、「良い正月を」ということで夕食が終わり、その流れで隣に先月にオープンしたというジョニー・ウォーカー・ハウス(Johnnie Walker House)へと店を移動する。渋いウィスキーを飲みながら、マーとチュンと数人のスタッフだけで建物を案内してもらう。一緒についてきている妻も、とても興味深そうに説明をしてくれているスタッフの方の話に聞き入っている。

明日からの上海へのプレゼンの為に、足早に帰っている二人のパートナーを見送り、残っている残りの仕事量を想いながらグラスを傾け、来るべき新年に想いを馳せる。












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