2013年2月23日土曜日

「2005年のロケットボーイズ」 五十嵐貴久 ★★★


どうしてこんなところにいるのだろう。
胸のどこかで、小さな笑いが弾けた。
そうだ、あんなことがあったから、おれは今ここにいる。

おれたちはバカだったな。
本当に、おれたちはダメだった。
バカはバカなりに、ダメはダメなりに、よくやったじゃないか。
そうだ、俺達は間違ってなかった。


「僕らの7日間戦争」を思い出させる様な、なかなか憧れる様な回想シーンから始まる青春物語。全体的に現代らしい軽めのウィットが聞いていて、小気味のよいテンポで読みきれる。

新種子島宇宙センターから打ち上げられる日本初の友人探査機’のぞみ13’。それを見つける担当部長。17歳の夏に経験した仲間達との時間が彼を今この場所にいさせるのだが、近未来とされるその設定もまたなかなか洒落ており、エクサバイトばりに身体に埋め込む体内ユニットのおかげで、携帯電話を持ち歩くことが必要なくなり、部下は「SONYって何ですか?」何て聞いてくる、そんな未来。それでも持ち歩く、かつての折りたたみ式携帯電話。これも話といたるところにちりばめられる伏線の一つということか。

回想するかつての日本では、鳥人間コンテストで毎年優秀な成績を残す鳥人間部が支配的な地位を占める工業高校で彼は落ちぶれたダメ生徒として登場する。蒲田のつぶれそうな鉄工所だとか、ひきこもりになった親父、サヴァン症候群で他人とコミュニケーションができないレインマンなど、登場人物設定がなかなか凝っていて、話が展開していってもほつれが出てこない。

「どこかで一度くらい当事者になってみたいって思ってたんだ」

そんなのは17歳の夏だからゆるされる会話だ、と主人公が言うように、ほどよい具合に青春の青臭さが漂い、キューブサットの設計コンテストという理系の中でもかなり角の尖ったオタク・トピックにも関わらずサクサク読み進めること間違いなし。

「おれたちは少しずつ自分の居場所を見つけたような気になっていた。」

子供ができたらぜひとも読ませたいと思える一冊

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