2013年7月24日水曜日

祇園祭 還幸祭 (かんこうさい) ★★★



夏の京都と言えば、祇園祭。京都全体の祭りだとついつい思ってしまうが、八坂神社(祇園社)の祭礼の一つ。7月1日から1か月間にわたって行われる長い祭で、7月になると街に見られる浴衣姿の女性と合わせてまさに夏を代表する京都の風景となっている。

長い長い一日の行程を終了し、夜は折角だからと祇園周辺で京料理を食べさせてくれるところでちびちびやりたいということで、花見小路通近くのこじんまりとした小鍋屋の暖簾をくぐる。

最初はなかなか寡黙そうな大将だったが、あれやこれやと頼んでいるうちにいろいろと話すようになり、京都人らしいプライドをチラホラ感じさせてくれながらもいろいろと地元情報を教えてくれる。

なんでも今日は上記の祇園祭の再度のクライマックスである、還幸祭 (かんこうさい)という行事が行われる日であり、祇園祭の中頃に神霊が宿った神体をお神輿に移し、町内を巡っては四条寺町の御旅所に到着し、還幸祭が行われる本日まではそこに神様は滞在しており、今日の還幸祭で再度神輿に担がれながら、八坂神社へ戻って来る行事だという。

かなり遅くに神社に戻ってくるので、食事が終わったら丁度境内に戻って来るころあいなんじゃないかと教えてくれる。その他にも一年中どこかしらで何かの祭りをやっているこの街の様々なお祭り文化などを教えてくれてなかなか楽しく食事が進む。


還幸祭が終わったらお盆の送り火で、その後は子供が一生火事に遭わないようにと祈願する為に、京都で一番の高さを誇る標高924mの愛宕山頂にある愛宕神社に参拝する慣わしだと言う。こういうのは地元の人間じゃないと流石に知らないことだと思いながら、そんな地元の当たり前が沢山あるのもまた京都の魅力なのだと実感する。

八坂神社までは目と鼻の先だということで、せっかくだから妻と一緒にその還幸祭を見に行くことにする。祇園の裏の顔である歓楽街を横切って、鳥居の前につくと、神輿を届け終わった男集たちは、なかなか勇ましいふんどし姿で階段を下りていく。観光客のように最後まで見届けるのが祭りではなく、これが毎年の恒例行事として彼らの日常なんだとなんだか感心する。

時刻は既に夜の12時近く。辺りはすっかり暗くなり、提灯の灯りで何とか境内の様子が確認できる。境内に戻ってきた神輿が中央に集められ、係りの人が「これはとても神聖な神事ですので、写真は一切お断りとさせていただきます。これから境内の照明を全て落とし、真っ暗の中で神輿にのって戻ってきた神様を本殿の中にお戻しする神事を執り行いますので、くれぐれもカメラや携帯など光を出すものを使用しないでください」との注意が発せられる。

外国人観光客を含め多くの人が境内を埋め尽くすが、この厳かな雰囲気の中では流石に皆が声を潜め、家路に着こうとするものもいない。電機が消え、暗闇を照らす月灯りのみが頼りとなった境内。固唾を呑んで見守っていると、本殿の中から聞こえてくる「おおおおおおおおお」という何とも不思議な、古代の動物のような声。

何百年も続く神聖な行事という雰囲気が場を支配し始め、誰もが身体を動かすのをためらうかのような緊張感が生まれる。

「おおおおおおおおおおお」

ひたすらゆっくりと歩を進める神官。

「おおおおおおおおおおお」

何の説明もなく、月明かりの下でははっきりと何が行われているかも見えもせず、ただただ神様が神輿から大事に抱えられ住まいに戻っていくのを感じるのみ。

「おおおおおおおおおおお」

本殿の奥まで声が届いた後の静寂を切り裂くかのように照明がともされる境内。場に生まれていた緊張感が一気に解放される瞬間。時間の感覚も忘れただただ長く長くこの土地で流れてきた信仰の一部に触れた事を理解し硬くなった身体を伸ばす。

さっきまで感じていた身体の疲労が少しだけ軽くなった気がして、「ハレ」の場に居合わせて少しばかりテンションが上がった他の群衆と共になって階段を下り、妻と二人で夜の祇園の街を歩いてホテルまで帰ることにする。









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