2013年7月15日月曜日

「弁護士探偵物語 天使の分け前」 法坂一広 2013 ★



このミステリーがすごい大賞受賞作というので購入したまま本棚でほっといていたと思われる一冊。

これもネットの普及による現象の一つかと思うが、最近どうも本職の物書きでなく、現役で他の専門職についている人が、その分野を舞台として描く小説が増えている。

まれに天から二分を与えられ、物書きとしても才能を発揮する作者もいるだろうが、どうも職能としての作家でない人が小説を書く時に陥る事態が目に余る。

素人である作家が取材を重ねて、その分野に深く踏み込んで行き紡いだ物語は、同じく素人である大部分の読者には専門世界の内部を案内する役割を持つ。しかし、もともとその世界のプロフェッショナルである人物が作家の役割を果たすと、どうしても説明的な文章が多くなり、物語を良くするためと言うよりも、こういう専門家しか知り得ない日常が、一般の読者の興味を引くだろうという思い込みの反映する文体として現れる。

物語にリアリティを与えるだろうという期待は、それを読まされる読者にとってはあなたがこの方面に対しての知識があるのは十分に理解できるが物語必要か?と思いながらページをめくる苦痛となる。

つまらない本は読むのに時間がかかる
それは建築の本も一緒
 
とりあえず渋さの代名詞かのように使われるジャズとウイスキー。村上春樹を読んで育った世代にとっては、これを如何に超えていくかが課題ということか。

ちりばめられる余計なウィットらしきもの。その台詞のせいで、話が物切れになり、会話を追っていくのにとても疲れる。海外のハードボイルド小説で英語のままなら成り立つ世界観を、日本語でダイレクトにやろうとしてもなかなかうまくいかないというのは同じく村上春樹を呼んできた世代は既に経験済みだろう。

ただし、物語に深みを与えるというよりも、そのようなウィットの応酬をやりたいが為に増やされるページ数。エコを叫ばれる昨今にこれほどの無駄を強要されるのもまた許容しがたい。

折りしも振り出した嵐のような雨。そのお陰で出発が3時間も遅れた飛行機の中。現代を一番物語る身体を拘束された密室空間にて、一度開いたからという理由で最後までとなんとか読みきった一冊。



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第10回(2011年) 『このミステリーがすごい!』大賞受賞
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