2015年10月24日土曜日

「かぐや姫の物語」 高畑勲 2013 ★★★


--------------------------------------------------------
スタッフ
監督 高畑勲
原作 『竹取物語』 
--------------------------------------------------------
キャスト
かぐや姫(タケノコ):朝倉あき
捨丸:高良健吾
翁 :地井武男
媼 :宮本信子
相模:高畑淳子
女童:田畑智子
斎部秋田:立川志の輔
石作皇子:上川隆也
阿部右大臣:伊集院光
大伴大納言:宇崎竜童
車持皇子:橋爪功
北の方:朝丘雪路
--------------------------------------------------------
原作を、その成立時期や作者は不明であるが日本最古の物語と言われる「竹取物語」としている本作品。少なくとも平安時代初期の10世紀半ばまでには成立したとされており、その内容には現代とはまったく世界の捉え方の違い、人間というものの認識の違いがその奥底に見えるのが、文字として残り、時代を超えて読み注がれる物語の強さである。

そうして見ていくと、何かしらの罪を犯したために、月の世界から下界であるこの地球におとされたかぐや姫。しかしながら、生まれながらにして大量の黄金と、誰もが認める美貌を持ち合わせているという設定が、「金」と「美」というものが時代が変われど人間の根源にまとわりつくものであり、言葉を変えれば、人の欲望はどの時代でも同じであるという悲しき性を示している。

しかもその美しさを兼ね備えた娘には、「高貴な人」とされる裕福な貴族の妻になることが何よりの幸せだと考える翁と、それを当然の様に振舞う都の人々。つまり美しいということはそれだけで価値であり、更にその上に「教養」などを付け加え、その外見の美しさに相応しい内面を備え付けていく。人の力ではどうしようもない、生まれ持った美しさの前には、人は情けないがどうしてもひれ伏してしまう、どうしても魅かれてしまうというのは、まさに時代を超えた人類の原理原則であるかのように物語りは描かれる。

表現としては、CGではできないこと。
アニメーションである強みとは何か。

そんなことに固執して生み出したような表現が重ねられ、「見たこと無いな」と思わせるある強度を持っているかのようである。音楽では久石譲、そして声優陣には高良健吾、地井武男、宮本信子、高畑淳子、田畑智子、上川隆也などなど、「良くぞこれだけ」と思ってしまうほどの豪華なメンバーを揃え、制作側の気合の入れようと、予算のかけ方が感じられる。

満月の夜、かぐや姫を迎える月からの使者達のシーンは、この世の常識とは全く違った力が降りてきているという感情を湧かせるのに十分な演出と音楽で、相当な出来になっている。様々な宗教観すら超越した存在を作り出すために、「パプリカ」のそれを思い出させるような高揚感のある音楽。

それと対比を成すように、作品内で何度も繰り返されるのは長閑でありながら、美しく整っている日本の風景に重なる童謡の数々。子供達が楽しげに口ずさみ、田植えの疲れを紛らわせるように農民が謳うのは、四季の恵みを与えてくれる大地への賛美。そしてその自然に包まれたつつましい地上での生活の姿。

使い古された「竹取物語」に新たな命を吹き込むために何かが必要だとした時に、その役割をこの作品で託されたのは「音楽」であり、この物語が描かれた時も、そして現代においても、この日本という風景の中で響きあい、共鳴するそれらの歌に時間を越えた「日本」の姿をその音楽の中に写し出そうとしたのではと、勝手な想像を膨らませてしまう、そんな一作である。







0 件のコメント: