2015年10月5日月曜日

「使える読書」 齋藤孝 2006 ★★

ネットと携帯の普及により、身の回りでも本を読む人とそうでない人の差がかなり極端に出始めて久しい。

「しっかりしているな」と思っていた人でも、「一年に本当に数冊」というぐらいしか読んでない人もいるように見受けられる。

「ネットで活字には触れているから、総量としては変わっていない」とか「知識を得る窓口が変わっただけだ」などと言う人もいるが、それでも今後は読書が日常の一部として、身体の一行為として身についている人と、そうでない人の差があらゆるところで出てくるのだろうと想像する。

大人になればなるほど、自分に許される自由な時間というのは限られてきて、その貴重な時間を共に過ごす相手というものやはりそれなりに慎重に選ぶことになる。そんな時間を過ごす相手とは、ぜひとも歳相応の対話を楽しみたいもので、そのためにはやはりその人の読書量がモノをいってくるだろう。

本を読み終え、「この本を読んだ」という行為だけを積み重ねていく人よりも、やはりその本から何か人生にとって、自分の日常にとって意味を抽出し、自分なりにそれを消化し、そして身体と知識の一部として吸収していくそんな人との対話の方が、より受け取る刺激も大きいのは重ねてきた時間の中で皆学んでくるものである。

そんな一つのモデルケースである著者が、自らがどんな本から何を吸収してきたかを包み隠さずさらけ出す一冊。

本書の中で語られる著者の読書に対する姿勢には、ほとほと頭が下がるばかり。
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それをなにかに応用できる形で自分に刻んでおく
日常生活の他の事象と連結することが、読書の大きな喜び
それを読んで「書く」ためにある、「話す」ためにある
一度、他の人(本の著者)の脳の動きに自分を寄り添わせる。寄り添わせてもらって、加速する
読む前と読んだ後であなたが変わったことは?
読書にもフォーマットが必要
世界や人生を知る手立てとして、読書ほど適しているものは無い
精度の高い「要約力」と「コメント力」が磨かれる
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この歳になっても読めない漢字に出くわして、それを調べて少しでも知識量を増やすのもまた読書の与えてくれることだと思いながら、「橡殻(とちがら)」や「鈍麻(どんま)」の読みを調べながら、挙げられた51冊の中で一体何冊読んだことがあるのだろうかと、情けなくなりながら次回ブックオフで見つけるタイトルが増えたことを少々喜ぶことにする。

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3 ブロー 黒衣の下の欲望
意思決定は苦痛だ。レストランに入ってオーダーを決めるのだってストレスだ。仕事とは高度な意思決定の連続だ。従うだけで良いという場を生活のどこかに持つことでバランスをとる。

9 山折哲雄 涙と日本人
そもそも人間の想像力の根っこは悲しみであると考えている
悲しみは、他者を理解して始めて生まれる感情だからである

12 畑村洋太郎 『直観でわかる数学』
微分というのは、「部分を見れば、全体が分かる」

13 夏木マリ カッコいい女!
インテリジェンスは身体への気づきと共にある。体に気づいていることがインテリジェンス。

16 山田昌弘 『希望格差社会』
日本社会は、将来に希望が持てる人と将来に絶望している人に分裂していくプロセスに入っているのではないか

20 西原理恵子 上京ものがたり
上京力。これがかつての日本を支えた。東京で生まれ育った人間が増えすぎちゃったのが問題。
いつまで都会にいられるか分からないから時間も大切。徹底的に勉強する。
勝負する緊張感が都会の活力
おかしなことに、実家に帰ると一冊も本が読めなくなる

21 我妻ひでお 失踪日記
失踪した先でなにをやるかというと、まずは見るはずの無かった景色が広がっているのを見る。会うはずの無かった人に会う。話すはずの無かった会話

22 藤原正彦/小川洋子 世にも美しい数学入門
知的と上機嫌の融合が軌跡のようなきらめきを見せている
「うまい言葉を発見しましたですな。僕は今日からストーカーになりました」

29 羽生善治 『決断力』
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」
空也上人の和歌で「山川の末(さき)に流るる橡殻(とちがら)も 身を捨ててこそ 浮かぶ瀬もあれ」

命を捨てる覚悟ができれば急流でも身体が浮かぶものだという意味で、一身を犠牲にする覚悟があって初めて、活路を見出し、ものごとを成し遂げることが出来る。 

32 テグジュペリ 倉橋由美子訳 新訳 星の王子さま
「あんたのバラがあんたにとって大切なものになるのは、そのバラのためにあんたがかけた時間のためだ」

36 岡田尊司 脳内汚染
でも退屈を過ごすことができない人は自主的に自分を支えることができなくなるんです。
「新たな刺激を際限なく求め続けることは、長期的にみれば、心をどんどん鈍麻させ、幸せを感じさえにくい心をつくりだしてしまう」
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